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Spiritualist's tag.  亡霊と霊媒魔導士

 第三話  全てを託して

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「はあ……勇者パーティーって……なんでこんなに大変なのかなあ……」

 そう言って、自分の自室の机にうつ伏せになる。

 私こと、カミラ・フォン・カテドラルは、最近、半ば強制的に勇者パーティーに加入され、主な戦闘ではサポート役をこなし、霊との戦闘では前線を勤めている。そんな私の役職は世界に両手で数えられる数しか存在しない存在、霊媒魔導士だ。

 パーティーの人達は皆とても優しくて頼もしい存在なんだけど…………世界を救うだけあってとても忙しい。

 寝て歩いては戦闘、寝て歩いては戦闘の繰り返しの日々である。

 でも、今は王都のホテルで多少の休暇を取っている。

 だが、勇者パーティーの一員ということだけで計り知れないメリットも多数存在する。

 勇者パーティーの仲間というだけで、結構なまで融通も利くし、多少の権力も得られる。

 ”勇者“というのはそれ程までの信頼があった。

 なにせ、過去に人類を怯えさせていた魔王を討ち破ったという多大なる功績があるのだ。

 ここまで融通が利くのも納得ができる。

 だが、勇者はまたもや立ち上がった。魔王を討ち破った後、次に世界を支配したのは“七代神霊”という死んだ命が残した強力な霊達だ。

 たくさんの憎しみ、怒り、苦しみの感情を秘めた魂が一つになり、七匹の霊へと変化した。

 それが七代神霊だ。勿論、その中にはたくさんの魔族や魔物の魂だって混入しているだろう。

 言ってしまえば、キメラのようなものだ。

 そんなキメラ達の討伐の協力の為、私は勇者パーティーに国王と勇者達から直々に頼まれてしまった。

 そんな最高権力を持つ人達のお誘いを断れるわけがなく、それを飲んでしまったのが今の私の現状である。


 ……不思議なことに、人間は”霊力“を持たない。霊力というのは現世に霊が干渉するために必須な魔力に似たようなものだ。

 それを持たない人間は、死んで霊になったとしても現実世界に干渉もできないし、視認することも不可能だ。

 “基本”は……だけど。

 強い強い怨念、憎しみ、恨み、怒り、悲しみが一定の数値を超えると、その”不の力“が現実と霊界の境界線を捻じ曲げることがたまにある。

 そうすると、その霊は“悪霊”として人々に害をもたらす。

 だが、幸いなことに視認は可能になる。

 視認が可能な霊は、悪霊以外の何者でもない。

 霊の気配は明らかに人間とは違う。視認ができ、かつ、人間とは違う気配をしていたら、ソイツは悪霊か魔族だ。

 死んだことに気づかずに現世を彷徨う地縛霊って種類の霊もいるけど…………人間と同じ気配をしてるから気づくことが大変困難。悪さをするのは極稀だから、基本、放置している。

 そんな霊達を魔法を使って除霊するのがこの私、霊媒魔導士だ。

 そんなこんなで、肩の力を抜こうと、熱々のコーヒーをコップに注いでいると…………

「カミラァァァァァァァァーーー!!!!!」

「ひゃい!?__っ__!?、熱っっつ!!」

 ドアがノックも無しに、鍵を掛けていたはずのドアが無理矢理こじ開かれる。

 金具が壊れた音を掻き消すほどの大声に驚き、コーヒーを注いでいたコップを倒してしまい、それが手に溢れた。とても熱い。反応せずにはいられなかった。

「うぅ……熱い……。いきなりなんですか。女子部屋なのでノックぐらいしてください!それに鍵の意味ありませんよね!?……はあ…………で、要はなんです?」

 目の前にいたのは、ガタイが良く、強面のスキンヘッドのおじさん。一応、れっきとした私と同じ勇者パーティーの一員のヘルドさんだ。

「どうもこうもねぇよ、ホワイトドラゴンがこの王都に向かって接近しているんだ。やつはいとも簡単に都市一つ滅ぼす龍族だ。俺達も戦うぞ!」

「……私……休暇中……動きたくない……」

「頼む!回復魔法を使える人間が少ないんだ!頼むよ!」

「い、いやだあああーー!!!ずっとベットで寝そべってたいぃぃぃーー!!!」

「ホワイトドラゴンの牙と爪はお前の私有物にしていいからさ!」

「たった今休暇終わりました。じゃんじゃん働きます」

 ドラゴンの牙と爪…………強力な除霊剤の材料だ。貰わないわけにはいかない。 

「目が輝いているな……まあいい。俺は先に下で待ってるから十秒で準備して下へ降りて来いよ」

「了解です」

 言われた通りに、十秒で支度をし、身だしなみを整える。

 背丈くらいある魔法の杖を抱え、ヘルドを追いかけるようにその場を走り去るのだった。



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「進めーッ!!臆すな!この国に忠誠を捧げよぉぉぉッッッ!!!!」

「「「おーーーーっっ!!!!!」」」

 その後、私は大斧を背負うヘルドの乗馬する馬の後ろに跨り、現れたホワイトドラゴンの下へと足を運んでいた。

 騎士団の隊長と勇者パーティーのリーダーこと私達のリーダー勇者レインが大きな声で皆の指揮をまとめている。

 その声からは恐怖や不安が感じ取れないほどであった。

「ねぇ、ヘルド……ホワイトドラゴンって頑丈な鱗を持つ物理要塞よね?それ相手に九割物理で攻めるのは悪手だと思うんだけど…………」

「生憎と、王都の魔法使いのほとんどは他国へ派遣されている。今いる者達は寄せ集めだ」

「寄せ集めで勝てるような相手じゃないような……」

 まあでも、こちらには五人の勇者パーティーがいる。勇者パーティーでの魔法使いは私と上級魔法使いのフレイさんと同じく上級魔法使いのレイさんがいる。相手が物理要塞と言えど、こちらには人類最終生物兵器の勇者だっているのだ。

 絶対に勝てないわけではない。____と、言い切りたいが、龍族は神獣と呼ばれていて、千年間の眠りについている。

 本当にレアな存在であり、それだけあって魔王と互角かそれ以上の強さを誇る。

 七代霊神ほどではないが…………魔王との戦いはかなりギリギリの戦いであったらしい。

 力がそれ以上となると…………いくら騎士が集っても勝てる気がしない。

 勇者との攻撃の相性も悪いとなれば、勝機は薄いかもしれない。

 だが、逃げるわけにもいかない。王都を守りたい以前に恐らくだが逃げ切れない。

 戦う他なかった。

 そんなこんなで、門をくぐり抜けようとしたその時…………

 ”異様“な気配を……感じ取った。

「!?!?!?」

 これは……“霊”の気配……それも……人間のだ。

 ……人形の”悪霊“だ。こんな緊急事態の時に来るなんて…………。

 その気配を辿り、真横を振り向く。するとそこには、

 ……そこには黒い髪と赤い目が特徴の男が立ち尽くしていた。

 すると、男と目が合う。刹那、背筋が凍てつき、自然と口から、

「あ……」

 そんな素っ頓狂な声が出た。

 だが、それは刹那の一瞬。そのまま私は門をくぐり抜けてしまい、男が見えなくなってしまった。

 すると、前で馬を操作していたヘルドが私の『あ』の一言が気になったのか「どうした?」と聞いてきたが、何でもないと誤魔化しておいた。

 悪霊が出たことを知らせて不安で指揮が下がったら元も子もないからだ。

 この選択が善と出ることを祈るばかりだった。




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 俺はその後、馬で走り去って行く騎士団たちを堂々と尾行し、百メートルくらい離れた場所でホワイトドラゴンとの戦闘を傍観していた。

「ぐあぁっっーー!!!!」

 騎士は次々と焼き払われたり食われたりと、次第に人数は減って行く。

 物理攻撃にかなりの耐性があるように思えた。

 だが、防戦一方というわけでもなかった。

 その中でも、さっきの五人組。こいつらがトップレベルの強さを誇っていた。

 さっき勇者のように見えた人間が、他の人から勇者と呼ばれていることに気づき、確信した。

 この五人組は勇者パーティーだった。

 勇者と物理要塞のドラゴンは相性が最悪なものの、単に攻撃力が高いのか、或いは何かのスキルなのかはわからないが、物理要塞相手に物理で押し込んでいる。

 後続の魔法使いらしき三人組、そのうち一人はさっきの白髪の少女達は前衛のサポート、負傷者の回復に特化していた。

 大斧を持った男が、ドラゴンの攻撃を受け止め、その隙に勇者が攻撃を入れる。隙があれば後続の魔法使い達が勇者に害をなさない程度に攻撃魔法を加える。

 素晴らしい連携だ。

 だが、ドラゴンも戦いの中で学習しないわけではなかった。

 長い尻尾で前衛達を一気に弾き飛ばす。

 勇者も大斧男も例外なく弾き飛ばされてしまった。

 すると、見えてくるのが後方の魔法使い達。

 サポート役を先に倒し、回復や魔法攻撃を封じたいのだろう。

 そして、魔法使い達に向けて口から炎を吐き出す。

「おっと……これは……死んだか?」

 その炎は勢いを緩めず、そのまま魔法使い達を焼き払ったと、思いきや…………

「おお。あんなスキルがあるのか」

 彼女たちはバリヤのようなもので身を守っていた。

 だが、長くは保たなそうだ。勇者が起き上がるまで耐えきれないと彼女たちは燃えカスになるだろう。

 俺は尻尾で弾き飛ばされた勇者の下へと駆け寄った。

 だが、倒れた勇者は一向に起きる気配がなかった。

 これは_______軽い気絶か?

「おいコラ起きろ!いつまで昼寝してんだ仕事しろクソ勇者!戦うのがお前の仕事だろうが!あんたの仲間が死んでもいいのか!?」

「…………………」

 まあ……聞こえるはずねぇよなあ…………。

 俺は勇者の近くに倒されている大斧男にも近づき、先程と同じ言葉を言った。

 だが、こちらも当たりどころが悪くて軽い気絶をしているようだった。

 騎士団長は至ってまだ動いてはいるが、ドラゴンに見向きもされていない。

 おいおい、マジかよ……全滅エンドって……。

 ……いや、まだ俺に何かできることがあるはずだ。

 スキル【隠蔽工作】は使う機会がない、【ポルターガイスト】も持ち主に襲い掛かる効果なので使えない、【筋力強化、ナイフ技術】は論外…………。だとすると……残るはスキル【憑依】と【金縛り】だけ……か。

 金縛りで動きを五秒拘束。その後、彼女たちが一旦、避難する。そして、あの白髪の少女に話しかける…………それ以外の道は無いよな……。

「よし、少しは手を貸してやろう」

 俺は倒れた勇者たちをそのままにし、ドラゴンの下へとダッシュで向かった。



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「流石に……もう……無理……っ……!!」

 結界は魔力の消費量がとても激しい。三人で結界を張ったとしても一分持たない。

 流石に上級魔法使いのプレイさんもレイさんも限界が近そうだ。

 レインが前線に戻るまで耐え切らなければ私達は燃えカスになるだろう。

 少しでも気を緩ませば結界が壊れてしまいそうだ。

 なんとか耐え抜かなければ……!!!!

 だが、思いとは裏腹に、『もう無理だよ、諦めて死を認めようよ』と楽になる方に心が誘われる。

 だが、ついに…………私の魔力が切れる時が来た。

 そして、結界が形を保てなくなって行く。

 結界が保てなくなり、その炎が私達に______


 _____届くことはなかった。

 時間が止まったように感じた。ドラゴンは何故か動かなかった。

 だが、その理由は、思いのほか早く知ることができた。

「あれは……」

 さっきの……人形の悪霊……。

 そこにはホワイトドラゴンの足下に立ち尽くすさっきの悪霊の姿があった。

 まさか、彼が助けてくれたのだろうか?

 そんなことを考えていると、

「ググアアアアッ……!?」

「!」

 ホワイトドラゴンが急に動き出した。

 だが、少し様子が変だった。

 何かを探しているように思えた。彼のことだろうか?

「うっせぇな黙れ!」

 すると、足下にいた彼がそんな言葉を吐き出しながらホワイトドラゴンに向けて拳を放った。

 そんな攻撃、通じるはずがない。だが____

 ……またもや、ドラゴンの動きが止まった。

 静止画のようだ。

 動きが止まっただけで、外傷を与えられたようには見えない。

「な、何が起きてるの……?」

「止まってる……?のか……?」

 すると、隣にいたレイさんとフレイが思うがままの疑問を口にした。

 私は……彼の意図が少しわかったような気がした。

「二人共、ホワイトドラゴンが止まっている内に、一旦避難しよう」

 そう言うと、二人はこくりと頷いた。異論はないようだ。

「……先に行ってて。私はレインとヘルドを起こしてくるから」

「え?でも……」

「お願い」

「っ…………」

 そう懇願すると、苦虫を噛み潰したような表情をしながらも二人は走り去って行った。

「……急いでレインとヘルドを起こさないと……」

 そして、今もなお動きを封じ続けている彼の援軍を_____

 そんなことを考えていると、

「オラァァッッ!!!」

 私が起こすことなく、さっきまで寝転がっていたレインが再び剣を持って自力で立ち上がり、再度ホワイトドラゴンに立ち向かった。

 その剣撃は見事、ドラゴンの目に突き刺さった。

「グガアアアアアアアアッッッーー!!!!」

 すると、さっきまで硬直していたドラゴンがあまりの痛さに暴れ始めた。

 足元にいた彼はもうそこにはいない。

 一体、何処へ……

「お前さ、俺のこと見えてたりする?」

「へ?あ、うわあああ!?」

 急に背後から声がしたと思ったら、そこには彼の姿があった。

 心臓が一瞬、止まった気がする。

「おお!その反応は見えてるんだな!こんなに早くお目当ての人物に会えるなんて、ドラゴン様々だなあ」

 これが……悪霊?目の前で対峙して最初に思ったことはそれだった。

 悪意や殺意はないようなので、私はそれを聞いてみることにした。

「あなたは…………本当に“悪霊”?」

「”悪霊“……ねぇ。まあ確かにそうなのかもしれないな。話せば長くなるから今は話せんが。それより、あの勇者放っておいていいのか?」

 彼が指を指した先には、血眼になりながらもドラゴンに向けて剣を振り続けるレインの姿があった。

 私も……できることなら助けたい。でも、魔力は底を尽き、県を握りしめて戦おうにも、私の身体能力じゃあのドラゴンの動きについて行けるはずがない。なんならレインの足手まといになってしまう。

 私にできることは……もう___________


___「なら……手を貸してやる」

 その言葉に私は反応した。

「手を……貸す?」

「言葉の通りだ。俺が“お前に”手を貸してやる」

「手を貸すの内容は……?」

「悠長に説明してる時間は多分ないぞ。あの勇者、そろそろぶっ倒れるぞ。俺を悪霊と見てるお前は俺の言葉を信用できないかもだが…………勇者を救いたいなら……俺の手を取れ。絶対に救ってやる。俺と”お前“がな」

 そうして、彼は手を差し出す。

 レインはもう限界、ヘルドはまだ知識を失っていて、騎士団は壊滅…………レインを……皆を……王都を救える手段はもうこれしかない。

 ……後悔しない為にも……私は________


____その手を取った。

 彼はニヤリと笑い、こう言った。


「お前の“全て”を……俺に託せ……!!」

 そうして、彼は私の握った手を一度、振り払い、そして___________


____パチン……、と。私の手の平を彼は自身の手の平で弾いた。

 その刹那、私の意識は……深い深い闇の中へ落ちて行く。


「後は……任せとけ」

 そんな表面上は頼もしい一言を最後に聞き、私は意識を落とすのだった。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


 俺は彼女の手を弾いた。そして、スキル【憑依】が発動し、俺は彼女の意識を奪うことに成功した。

「……おお。これは凄い。自分の体とはまた違った何かを感じる……」
  
 男女じゃ体の作りが全然違うということがよくわかった。

 俺はステータスを確認しようと今一度、その言葉を呟き、ステータスウィンドを見る。

 するとそこには彼女のステータスらしき情報が掲載されていた。
 
 役職・【霊媒魔導士】

 魔力SS 30000/259

 体力B+

 俊敏B+

 耐久C+

 スキル・【魔法術式型カノン砲】【白炎】【炎幕】【蒼炎】【爆炎】【消炎】【獄炎】【除霊術LevelMAX】【異国言語理解Level5】【治癒魔法】【魔宝結界】【アイテムボックス】




 ふむふむ……。使えそうなスキルはたくさんある。

 だが、肝心の魔力がさっきの結界でほとんど消費している。
  
 魔法系のスキルでの戦闘は無理そうだ。

 それよりも、俺には”気になること”がある。

 その”気になること”を解明するためにステータスウインドをいじくり回す。

 ……すると、一つのコマンドを発見した。

「……これか?」

 そのコマンドの名前は『共有』。見つけた刹那に俺はそのコマンドを選択する。

 すると、違うページに飛んだ。そのページに記載されているのは………………

「……予想通りだな。……【憑依】……このスキルは______」

 スキルを……”共有”することができる……!!!!

 そこに記載されていたのは俺のスキル一覧。

 僅かな希望が見え始めた瞬間だった。

 

 




 

 








 



 


 

 

 



 

 

 

 

 



 

 

 






  
 



 

 

 

 




 



 

 



 

 








 



 



 


 

 

 
 

 
 

 

 

 

 
 

 



 

 

 

 
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