雨の世界の終わりまで

七つ目の子

文字の大きさ
上 下
488 / 592
第四章:三人の旅

第八十九話:信頼

しおりを挟む
「村の広さは約180m四方。一見小さな集落ね。でも、人の数は……57人で、内18人が地面より下に居る」

 二人は村近くの木陰に身を隠し、村の様子を探ることにした。
 村ぐるみの陰謀ということで、ただの盗賊団相手よりも慎重に調査を進める。

「地下に空間があるのか」

 それならば、以前泊まった時にあまりうろうろするなと言っていたことも頷ける。
 見た端から問答無用で瞬殺していくだろうレインや、マナを把握出来る聖女なら、こんな遠回りをしなくても済むのだろうと思いながらも、サラと情報を共有する為にあえて細かく訪ねていく。
 その意図を汲んだサラもまた、事細かに状況説明を始めた。

「うん。……ダメだ。地下は魔法阻害のイメージがあるのか、いまいち把握しきれない。でも地上は私にとって丸裸。49人の内、村人……いや、盗賊は47人。2人は連れてこられた人だと思う。両方女の人。縛られて、お香の様なものが焚かれた部屋に裸でいる。意識はある様だけど抵抗する素振りがないから、お香には何か催眠効果のあるものが使われてるんだと思う。
 47人中男は41人。もしかしたらウアカリの様にとは言いたく無いけれど、男の割合が極端に多い村なのかも知れない」

 建物がサラの得意な木造ということもあるのだろう。丸裸と言った通り、詳細な状況が伝えられると、クラウスには再び怒りがこみ上げて来ているのが分かる。

「……なるほど」
「怒るのは分かるけど、先走らないでね。虚脱状態にある人達も、きっとママなら治せるから」

 女が少ないからと言って、他の村を滅ぼし女を奪うのは、魔物と全く変わらない。
 これまでどの様に隠れのびて来たのかは知らないが、それもここまでだ。
 クラウスはあえてそう考える。怒りのままに身を任せるのではなく、敢えて正義を語る。
 隠れている今素振りはできない。英雄に憧れるクラウスならではの心の落ち着かせ方をして、再びサラを見る。

「ああ、分かってる。戦力は分かるか?」

「マナの感知は出来ないから分からないけど、地下室の入り口に居るのは魔法使いだね。地下室を覗かれない為の呪文を使ってる。一人でずっとやるのは無理だろうから、2人以上いると思った方が良いかな。うーん、妙にしっかりとした指輪を付けてるのが居るな。これは魔法使いっぽい。武器は各家に何本もあるから、どれが勇者かは分からない」

 地面に俯瞰図を描きながら、ポイントを記していく。いくつも付けられた点の一つ一つが盗賊で、そこに印を重ねて行く。
 配置を見て、ウアカリの逆だと想定すれば、割合は恐らく勇者の方が多い。

「なら、少なくとも魔法使いが5人と、残り全員デーモン級の勇者の想定で行こう」

 今のクラウスならば、ドラゴン級でもいない限り負けることはあり得ない。
 クラウスの言葉を聞いて、サラは少し前のことを思い出した。
 地元の男の子に告白された時。
 なら戦おうと答えて、ちょっと不意打ちしてみたら直ぐに膝を付いて怒って来たから、私の好きな幼馴染は油断していても負けない様に育てられた、と答えた。
 そうしたら、そんなことはあり得ないと言われた時のこと。

「それはちょっと死人が出そうだね……」

 実際にどの位なのかは分からない。
 分からないけれど、デーモン級よりも強い勇者なら問題は無いが、デーモン級よりも弱ければ殺してしまうかもしれないという矛盾した不安。
 油断していても負けないクラウスは、逆に言えば手加減が下手くそだ。
 相手の強さは見極められても、相手の弱さは見極められない。
 生まれた時から強者となることが決まっていたクラウスの、変えられない才能。

「地下を隠蔽してる魔法使いも、それほど大したことはないよ。呪文まで唱えっぱなしなのに私に人数だけは筒抜けなんだから、デーモンより遥かに弱い」

 魔法は呪文を使ったものが最も効果が高い。
 それにも関わらず一部サラに見抜けるということは、その力は強くは無いということ。
 恐らく、地下に囚われている人達の洗脳か何かが完了するまでは誰にも悟られない様にと隠蔽しようとしているのだろう。
 地上に連れ出されている二人は、その前に捕まった者達か、つまみ食いのつもりか。
 どちらにせよ、魔法使いはその程度。

「英雄級には対抗しようも無いレベルってことか。なら逆に殺さず無力化は、僕には難しいな……」

 強いなら問題無いが、弱いなら手加減が難しい。クラウスはそれを自分で自覚していた。
 いくら正確な剣も、手加減が出来なければ正確に仕留めてしまうだけ。
 つい相手の回避距離を想定して踏み込んでしまう。
 そんな癖が付いているクラウスは頭を悩ませた。

 すると、サラはふと何か思い付いた様に提案した。

「それなら、私が種を植えよう」
「種?」
「そうそう。ママが開発した唯一の魔法でね、指定した条件と一致すると強度を増すってのがあるの。世間には発表してないし、ママもそれを広めることには興味無いから私の家族しか使えない魔法なんだけど」

 そもそも、その魔法が作られた理由はたった一人の為で、今更新しい魔法を発表したところでそれほど意味は無いのだけれど。
 そんな内心は隠しつつ、サラは人差し指を立てて解説する。
 理論も何もすっとばして、いきなりイメージ出来るエレナだからこそ作れた魔法。現代の理論重視の人達では恐らく習得に年月がかかる割に、使うのに随分と手間がかかる魔法だ。

「それは興味深いな……」
「一番上手く使えるのはママで、私もパパより上手いんだよ。唯一パパに勝てる魔法かもね」

 勝利の魔法はサラのオリジナルだけれど、それには元になったルールがある。
 そしてそのルールに、勝利の魔法は一切の効果が無い。
 幸いにも、クラウスは先の言葉に対して、「おお、凄いなサラ」と嬉しそうに微笑んだだけだった。

「さて、今回は逃げ出したり人質に危害を加えようとしたら急速に成長してその人を捕縛する植物の種を全員に植え付ける。気づかれない様にするにはデーモンレベルは少ししか動きを封じられないけど、それより少し弱い程度なら一切身動き取れない様な奴ね」

 サラの人差し指を立てた自慢げな様子で説明すると、クラウスは一瞬考えた後、はっとして納得する。

「……ああ、なるほど。手加減が難しいなら、いっそのこと一切の手加減をしないで良いってことか。本当、サラが居てくれて助かるよ」

 クラウス一人では、なるべく早く突撃して制圧するのが最良の選択肢。
 ひっそりと侵入するなら騒がれない様皆殺しにしなければいけないし、とてもでは無いが誰も殺さずに制圧は難しい。
 それが、優秀な魔法使いが一人いるだけで、全く違う戦法が取れる。
 しかもクラウスがやる事は、何よりもシンプルだ。

「ふふふ、私とクラウスなら絶対大丈夫って言ったでしょ。だからクラウスは、想定よりも強い奴が居たらそいつだけお願いね。地下の人達は私がなんとかするから」

 そして優秀な戦士が居れば、魔法使いもまたその力を存分に発揮出来る。
 サラもまた、自分の仕事以外は全てクラウスに任せておけば安心だ。

「了解」
「それじゃ、早速準備に取り掛かるから少しだけ待ってて」

 二人で大きく頷き合って、サラは早速全ての村人に種を植え付ける準備を始めた。
しおりを挟む
ツギクルバナー
感想 9

あなたにおすすめの小説

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第三章フェレスト王国エルフ編

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る

早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」 解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。 そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。 彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。 (1話2500字程度、1章まで完結保証です)

お願いだから俺に構わないで下さい

大味貞世氏
ファンタジー
高校2年の9月。 17歳の誕生日に甲殻類アレルギーショックで死去してしまった燻木智哉。 高校1年から始まったハブりイジメが原因で自室に引き籠もるようになっていた彼は。 本来の明るい楽観的な性格を失い、自棄から自滅願望が芽生え。 折角貰った転生のチャンスを不意に捨て去り、転生ではなく自滅を望んだ。 それは出来ないと天使は言い、人間以外の道を示した。 これは転生後の彼の魂が辿る再生の物語。 有り触れた異世界で迎えた新たな第一歩。その姿は一匹の…

異世界でリサイクルショップ!俺の高価買取り!

理太郎
ファンタジー
坂木 新はリサイクルショップの店員だ。 ある日、買い取りで査定に不満を持った客に恨みを持たれてしまう。 仕事帰りに襲われて、気が付くと見知らぬ世界のベッドの上だった。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

処理中です...