雨の世界の終わりまで

七つ目の子

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第四章:三人の旅

第八十六話:村までの道中

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 ミラの村の青年ボドワンの依頼を受け、二人は現在全速力でミラの村へと向かって走っている。
 村の場所はクラウスが把握している為、森を突っ切っての全力走行。
 本来は森は視界も悪く、迂回した方が早く着くパターンが多いはずだが、この二人に限っては別だった。

「うゎあ、はゃーい!」
「うわああああ! ちょ、落ちる、落ちるぅう!!」

 森はサラにとってのホームの様なもので、自由自在にブリンクを扱うことが出来るし、クラウスは障害になるものは意にも介せずなぎ払いながら進んでいる。
 全力で走るクラウスは、すぐ近くを走るサラにおぶられたマナが楽しそうにしながら近くなったり遠くなったりとする声と、肩に担いだ男の絶叫を聞きながら考えていた。

「難しい依頼だな。どう思う、サラ?」

 殺して良いのなら、簡単な仕事だ。
 真正面から突撃して最速で有無を言わせず制圧してしまえば、パニックになって人質を囮にしようとする暇さえ与えず攻略出来るだろう。
 ただしその際、行動の速い者が巻き添えにと人質を殺すかもしれないが、それでも最低限と言えば最低限。
 盗賊に連れ去られた者は把握こそ出来ていないものの、若い女、子どもを合わせれば村には22人居た言う。
 盗賊という時点で負ければ死ぬことは確定していると思っているはずなので、時間をかければかけただけ、人質は見せしめ代わりに殺されていくだろう。

「私に任せてくれれば間違い無く楽勝。今のご時世、私の魔法を突破出来る力があるなら盗賊に身を落とす必要なんてまるで無いもの」

 勇者不足の昨今、力さえあれば活躍が出来る。サラは言う。
 クラウスにとっては最近知ったばかりの事実であっても、レインの頃とは時代が違う。
 魔物の驚異は変わらなくとも、それに対する戦力が落ちている状態だ。
 本当に強いのなら、それこそエリスの様に王侯貴族に目を付けられて婿養子に迎えられることも、ここ10年程は普通になってきたのだという。
 つまり、盗賊に身を落とす者は力無き者。
 サラの力があれば、無条件で勝利をもぎ取れるはずだ。

「でも、クラウスは嫌なんでしょ?」

 難しいと言い始めた時点で分かっていた。
 クラウスの突撃は追加の犠牲者が出る可能性がある。
 逆にサラが一人で出れば、きっと誰一人余分な犠牲は出ずに制圧出来るはずだ。
 それでも、クラウスは難しいと言った。
 それはつまり、理由は一つだ。

「そうだね。出来れば僕は、サラには前線に出て欲しくない。もちろん、サラを信じていない訳じゃない。でもこう考えてしまうのはサラが悪いんだからな」

 クラウスはその戦いの状況を、結局は詳しくエレナから聞いていた。
 あえて腕を落としてエリスの動揺を誘い、それで生じた一瞬の隙を逃さず勝利した。
 それが分かっているサラは、むー、と少しだけ反省した様に言う。

「まあ、エリスさんにはああしなければ勝てなかったからさ……」
「それは逆に言えば、サラは自分の身を犠牲にすれば勝てる場合、戸惑いがないってことだ。……僕はそういう場合、押し付けてでも頼って欲しいんだ。大切だからさ」

 クラウスは覚悟を決める様に言った。
 治せるとは言え、痛みを消すことは出来ない。体が本来危機を伝える為に備わっている機能は、無意識下で却下してしまうらしい。
 いや、仮に痛みを消せたとしても、意味はない。
 自分を犠牲にすれば倒せる時に一人で犠牲になって欲しくないというのが、クラウスの今の考えだった。
 少し苦手なサラだけれど、その努力を見て美しいと感じたことだけは本物だった。
 それに、憎からず思ってしまう感情もまた、認め始めている。
 何より、ずっと好意を持ってくれていることが分かっていて、それを邪険にするのは難しかった。
 流されていると言うよりも、見つめ直していると言い訳をしながら。
 それを聞いてサラは一瞬あっけに取られた様な顔をしてから頬を染める。

「う……うん。いきなりそういうこと言わないでよね。調子狂っちゃうな」

 付いてくる時には戦えって言ったのにずるいな、と呟きながら若干速度を落とすサラを見て、マナが提案する。
 既にぐったりし始めているクラウスの肩の男と違い、サラの背中は快適らしく元気な様だ。

「なら、ふたりでやるのは? わたしまってるよ?」

 いつか大暴れした過去があるマナのことを考えて、どちらかはマナを連れたまま遠くからサポートする予定だった。
 最善はサラが敵地の地形を把握してからクラウスが突撃、人質が生きているのならその周囲のカバーだけ、サラが遠くから行えば余計な被害は抑えられると考えていた。
 ただ、その方法はどちらかが一人で制圧するのに比べて時間がかかる上に、距離が開くためサラの魔法が正確な威力を発揮出来ない可能性が高かった。
 でも、マナからそう言うのならば、取れる方法はもう一つ増える。

「そうだな、それなら敵が何人いようが関係無いか」
「敵がどれだけ強くても、どんな行動をとってもね。そうしましょうか」

 世界の為には村を救うよりも、マナを守る方が大切だと分かっているサラと、理由は分からないがあまり離れるのは得策ではないと肌で感じているクラウスは、互いに頷いて作戦を練りながら走り続けた。
 村に着く頃には、再びボドワンは瀕死だったのだが、男は担いで走るだけで人を殺しかけるクラウスと、それに平然と付いていくサラに対して希望を新たにしたのだった。
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