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第四章:三人の旅
第七十九話:枷を外す
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「うーん、やっぱり魔物達は遠くから私達を伺ってるね」
マナが居ると、やはり起きている間には魔物は襲ってこない。
サラと合流する前には常に警戒していたクラウスだったが、森の中でも探知が使えるサラが居るというだけで随分と気楽なものになる。
一人なら襲いかかってきてからなぎ倒せば済む話なものを、マナを守るとなると勝手が違ってくる。
その為サラが事前に周囲を見回していてくれているのなら、クラウスはいつもと同じで居られる。
サラもサラで、探知の魔法は特に集中や警戒して使うものでも無いらしいので疲れることもないらしい。
「私が行ってくるよ」
と、両手を組んで伸びをする。
「いや、僕が行く。戦闘は任せた、なんて言ってみたけどさ、やっぱり魔法使いに個人戦をさせるのは怖いからね」
周囲が見渡せるサラが後ろに居てくれれば、例え魔物が抜けてしまったとしても心強い。
しっかりと準備をした上で迎え撃ってくれるだろう。
逆に魔法使いが前に出て逃した場合はどうしても例え来るかもしれないと警戒していたとしても多少の隙は出来る。
更には抜けてしまった場合は前に出た魔法使い自身も挟まれる可能性がある為に危険となる。
「そこは女の子に、って言いなさいよ。まあ、良いけどさ」
それにサラは別の意味で不満を持ったらしい。
つまり、それはサラでも警戒には及ばないレベルの魔物しか居ないという意味だ。
これが新入りの軍人なんかなら魔物相手に寝言を言うなと叱る所なのかもしれないが、サラは新入りの軍人でも、自分の力に酔っているわけでもなんでもない。
文字通り、デーモン程度相手にならない魔法使いだからこんなことが言えるわけで。
「魔法使いの女の子に個人戦をさせたくないからね、勇者の男として」
クラウスも同じく手を広げておどけてみせた。
「……まあ、うん。台無しだけど」
そう言うサラの顔はなんだかまんざらでも無い様で、ほんのりと頬を染めている。
今まで散々からかわれてきた幼馴染のそんな姿は新鮮で、悪くない。
すると、クラウスに抱かれて揺られながらうとうととし始めていたマナがぼんやりと問う。
「くらうす行くの?」
どっちにしろマナが眠れば魔物達は襲いかかってくる。
その時に先手を取られるか、サラのおかげで先手を取れるかで随分と楽さは違うもの。
戦闘そのものはどちらにしろ大差は無いにしても、マナを守れるかどうかとなると随分とかかるプレッシャーは変わって来る。
「ああ、すぐ戻ってくるよ。敵は?」
一応、戦力を確認しておく。
サラがのんびりとしている時点で大した戦力では無いのだろうけれど、マナを安心させるためには予定を告げた方が良い。
「デーモンクラスが一匹に雑魚が20って所かな。南西から南東にかけて」
「じゃ1分以内かな」
マナを抱えて片手で負担をかけない様に戦うのと、全力と戦って良いのとでは、かかる時間はまるで違う。
見えない場所な上、気配すら分からないクラウスだとは言え、好き勝手やって良いのなら往復にかかる時間を考えてもその位で十分だろう。
「そっか、がんばってね」
そう言うマナをサラに預け「ああ、任せて」と微笑んでみせると、マナはサラの服をぎゅっと握る。
それを見て、クラウスは森の中へと直進した。
「いっちゃったね」
「そんな寂しそうな顔しなくても大丈夫だよ。クラウスが無事なの、すぐ分かるよ」
「ほんと?」
直後、バキバキドスンと轟音を立てて森の木々がなぎ倒されていくのが見える。
クラウスは、木も魔物も関係なく真っ直ぐに森の中を突き進んでいる。
「ね、クラウスは強いから」
「あれぜんぶ?」
「そうそう。ほら、魔物の叫び声が聞こえるよ」
ギャーだったりゴアーだったり、聞き慣れない雄叫びや絶叫が木々がなぎ倒されるのと同時に森の中から聞こえてくる。
悪鬼と呼ばれるクラウスは、勇者として理想の肉体を持っていると言われている。
森に生えている木々は、サラが大会で造り出したジャングルと同程度の強度だ。
それの大部分を回避しながら追いかけていたエリスとクラウスの、それが絶対的な差。
クラウスは時に剣の頑丈さに任せて力づくで木を叩き切り、時に手で幹を掴み引っこ抜き、時に何も無かったかの様に突撃する。
圧倒的な肉体強度を持つクラウスが、マナという枷を取り除き、殺生を解禁すればどうなるか。
それをマナは、初めて見た形だ。
「かーりーよりすごいね」
大会に居た怪力と言えば、マナが格好良いと目を輝かせていたウアカリのカーリーが一番だろう。
20年前までならライラという規格外も居たけれど、怪物と呼ばれていた彼女はもう居ない。
しかし凄いと言いながら眠さも消し飛ばして目を輝かせ始めたマナはどうやら、力押しの戦い方が好きらしい。
「エリスさんと戦った時には綺麗に勝ったって言ってたもんね。でもあれがクラウスの本当だよ」
「そうなんだ。くらうすもたいかい出れればよかったね」
クラウスが出られない理由を知らないマナはそんな風に感想を言うけれど、一方で理由を知っているサラはその言い訳を考えていた。
「英雄達と違って、クラウスはちょっと手加減とか苦手だからね。強すぎるのも困りものなんだ」
真実とは全く違う理由を話しながらマナの頭を撫でると、マナはそれに納得したらしい。
「そっかあ。サラもああやって木、たおされちゃったの?」
と、無垢な顔で問うものだから、サラも少しの罪悪感を感じながら、「うん。私もクラウスに負けた時には泣いちゃって」と本当のことを交えながら誤魔化すのだった。
マナが居ると、やはり起きている間には魔物は襲ってこない。
サラと合流する前には常に警戒していたクラウスだったが、森の中でも探知が使えるサラが居るというだけで随分と気楽なものになる。
一人なら襲いかかってきてからなぎ倒せば済む話なものを、マナを守るとなると勝手が違ってくる。
その為サラが事前に周囲を見回していてくれているのなら、クラウスはいつもと同じで居られる。
サラもサラで、探知の魔法は特に集中や警戒して使うものでも無いらしいので疲れることもないらしい。
「私が行ってくるよ」
と、両手を組んで伸びをする。
「いや、僕が行く。戦闘は任せた、なんて言ってみたけどさ、やっぱり魔法使いに個人戦をさせるのは怖いからね」
周囲が見渡せるサラが後ろに居てくれれば、例え魔物が抜けてしまったとしても心強い。
しっかりと準備をした上で迎え撃ってくれるだろう。
逆に魔法使いが前に出て逃した場合はどうしても例え来るかもしれないと警戒していたとしても多少の隙は出来る。
更には抜けてしまった場合は前に出た魔法使い自身も挟まれる可能性がある為に危険となる。
「そこは女の子に、って言いなさいよ。まあ、良いけどさ」
それにサラは別の意味で不満を持ったらしい。
つまり、それはサラでも警戒には及ばないレベルの魔物しか居ないという意味だ。
これが新入りの軍人なんかなら魔物相手に寝言を言うなと叱る所なのかもしれないが、サラは新入りの軍人でも、自分の力に酔っているわけでもなんでもない。
文字通り、デーモン程度相手にならない魔法使いだからこんなことが言えるわけで。
「魔法使いの女の子に個人戦をさせたくないからね、勇者の男として」
クラウスも同じく手を広げておどけてみせた。
「……まあ、うん。台無しだけど」
そう言うサラの顔はなんだかまんざらでも無い様で、ほんのりと頬を染めている。
今まで散々からかわれてきた幼馴染のそんな姿は新鮮で、悪くない。
すると、クラウスに抱かれて揺られながらうとうととし始めていたマナがぼんやりと問う。
「くらうす行くの?」
どっちにしろマナが眠れば魔物達は襲いかかってくる。
その時に先手を取られるか、サラのおかげで先手を取れるかで随分と楽さは違うもの。
戦闘そのものはどちらにしろ大差は無いにしても、マナを守れるかどうかとなると随分とかかるプレッシャーは変わって来る。
「ああ、すぐ戻ってくるよ。敵は?」
一応、戦力を確認しておく。
サラがのんびりとしている時点で大した戦力では無いのだろうけれど、マナを安心させるためには予定を告げた方が良い。
「デーモンクラスが一匹に雑魚が20って所かな。南西から南東にかけて」
「じゃ1分以内かな」
マナを抱えて片手で負担をかけない様に戦うのと、全力と戦って良いのとでは、かかる時間はまるで違う。
見えない場所な上、気配すら分からないクラウスだとは言え、好き勝手やって良いのなら往復にかかる時間を考えてもその位で十分だろう。
「そっか、がんばってね」
そう言うマナをサラに預け「ああ、任せて」と微笑んでみせると、マナはサラの服をぎゅっと握る。
それを見て、クラウスは森の中へと直進した。
「いっちゃったね」
「そんな寂しそうな顔しなくても大丈夫だよ。クラウスが無事なの、すぐ分かるよ」
「ほんと?」
直後、バキバキドスンと轟音を立てて森の木々がなぎ倒されていくのが見える。
クラウスは、木も魔物も関係なく真っ直ぐに森の中を突き進んでいる。
「ね、クラウスは強いから」
「あれぜんぶ?」
「そうそう。ほら、魔物の叫び声が聞こえるよ」
ギャーだったりゴアーだったり、聞き慣れない雄叫びや絶叫が木々がなぎ倒されるのと同時に森の中から聞こえてくる。
悪鬼と呼ばれるクラウスは、勇者として理想の肉体を持っていると言われている。
森に生えている木々は、サラが大会で造り出したジャングルと同程度の強度だ。
それの大部分を回避しながら追いかけていたエリスとクラウスの、それが絶対的な差。
クラウスは時に剣の頑丈さに任せて力づくで木を叩き切り、時に手で幹を掴み引っこ抜き、時に何も無かったかの様に突撃する。
圧倒的な肉体強度を持つクラウスが、マナという枷を取り除き、殺生を解禁すればどうなるか。
それをマナは、初めて見た形だ。
「かーりーよりすごいね」
大会に居た怪力と言えば、マナが格好良いと目を輝かせていたウアカリのカーリーが一番だろう。
20年前までならライラという規格外も居たけれど、怪物と呼ばれていた彼女はもう居ない。
しかし凄いと言いながら眠さも消し飛ばして目を輝かせ始めたマナはどうやら、力押しの戦い方が好きらしい。
「エリスさんと戦った時には綺麗に勝ったって言ってたもんね。でもあれがクラウスの本当だよ」
「そうなんだ。くらうすもたいかい出れればよかったね」
クラウスが出られない理由を知らないマナはそんな風に感想を言うけれど、一方で理由を知っているサラはその言い訳を考えていた。
「英雄達と違って、クラウスはちょっと手加減とか苦手だからね。強すぎるのも困りものなんだ」
真実とは全く違う理由を話しながらマナの頭を撫でると、マナはそれに納得したらしい。
「そっかあ。サラもああやって木、たおされちゃったの?」
と、無垢な顔で問うものだから、サラも少しの罪悪感を感じながら、「うん。私もクラウスに負けた時には泣いちゃって」と本当のことを交えながら誤魔化すのだった。
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