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第四章:三人の旅
第七十八話:ナディア・ウアカリ
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「お前から見て、今の強さはどうだった?」
ついでだから、とクーリアは尋ねる。
強さを測るのなら、ナディアの右に出る者は存在しない。
「数値だけで言えばサンダルを超えてますよ。あの人は決して強くはないですから」
「サンダルを強くないなんて言えるのはお前とレインくらいだよ……。しかし、そうか。もうそんなにか……」
クーリアから見れば、サンダルは途轍もなく強い。
最初に会った時から既にクーリアは超えていたが、今はもうかつての壁すら超えて、脚を止めての戦闘ですらかつてのライラと並ぶ勢いだ。
とは言え、やはりそれでもサンダルとレインを重ねてしまうのだろう。
ナディアだけは、世界で一番強かった人物の強さの、その全てを知っている。
「まあ、あの位ならまだサンダルには勝てないでしょうけど」
そうは言いながらも、「ま、すぐでしょうね」とあまり興味も無さそうに呟くと、アリーナの方向へと目を向ける。
今はちょうどサンダルがウアカリの新人、カーリーとの試合をしている時間だ。
「最終的にどこまで行くと踏む?」
ナディアの視線には気づかないふりをしながらクーリアは尋ねると、ナディアは視線をアリーナに向けたまま答える。
「それは当然、魔王を一捻りする程度には行きますよ。上限なんて私達が想像出来る範囲に無いと思いますけどね」
クーリアも分かっていたのか、魔王を一捻りという言葉には動じない。
「そうだよな。片割れも手に入れたわけだし、大人しくしていてくれれば解決なんだが……、どうなることやら」
「彼が生きてる限りは魔王は現れないのでしょう? それなら私はどうなっても構いません」
ナディアもまた、動じない。
最後に動揺したのは、ライラが死んだと聞いた時くらいだろうか。
「あくまで、予想でしかないけどな。エリーもイリスもルークも、なんでも分かるわけじゃない。と言うよりもな、どうなっても構わないって、最悪魔王が産まれるより酷いことになるぞ?」
予想通りなら、魔王は世界を滅ぼす気なんか微塵もない。
それに比べて、アレはどういう理屈で動いているのか全く分からない。
抑えられる状況にある今なら良いけれど、それもいつまで続くことか分からない。
しかしナディアは首を振る。
「それは私の大切な人が魔王になるよりも、大切な人が大切な人を殺すよりも、ですか?」
「……あー、お前は、そうだもんな。撤回する。最悪、人類が滅びるぞ?」
ナディアにとって最悪の恐怖はそれだ。
あの地獄に比べれば、
「それこそどうでも良いですよ。人類はちょっと勝手過ぎですから。勝手な行動を取った私を英雄扱いして、人類の為に死力を尽くしたはずのレインさんを悪魔扱いって。しかもなんですか、最弱の魔王って。人類なんか一旦滅びるくらいで丁度いいです」
人類の滅亡位は地獄ですらない。
「ったく、レインが守った世界だってのにそういうことを言うなよな……」
「私はエリーみたいにそれでやる気を維持できる程人格が出来てません。結局今は、たった二人だけ守れればそれで良いんですから」
呆れ顔を見せるクーリアに、かつての様に反省の色も見せないナディア。
その二人が夫と娘を指しているのが分かるのだから、クーリアもそれを追求はしない。
「昔のエリーみたいなことを言っちゃってまあ……。滅亡するってんのに……。はあ、アタシはそれを喜んでおくことにするよ。どちらにせよ、お前がそうやって減らず口を叩けることが奇跡らしいじゃないか」
一生戻らないかもしれないと言われていた意識が戻ってから、そろそろ14年が経つ。
その後は脚こそ動かなくなったものの、多少の時間こそかかりはしたがそれ以外の全ては元通り。
かつて世界三位と言われた強さも取り戻して、時折イリスの修行に付き合っている。
サンダルに対しての接し方も相変わらずの様だけれど、娘が出来たり行動を見ていれば、それは一応、歪ながら円満にいっている様だった。
「まあ、ライラの分位は頑張ってみせますよ。最初から諦めてたアレと違って私はしぶといんですから」
「いや、流石に子どもも居るんだから諦めろよ……。可哀想だろサンダル」
言った側からこれかよ、と呆れつつ、相変わらず元気そうだと安心もする。
相変わらずこの幼馴染は本気なのか冗談なのかすら分かりづらい。
「無駄にモテるあの人は放っておいても大丈夫ですよ。まあ、クラウスに手を出すつもりはありませんから安心して下さい」
「流石に、もし手ぇ出したら英雄全員でボコボコにするからな?」
一応サンダルに同情しておきながら言えば、
「私、一児の母ですよ?」
と相変わらずなんの反省も無く答える。
「こんな信用の出来ない一児の母っているんだな……」
「ウアカリにそれを言われるとは世も末ですね」
「お前……」
「まあ、ウアカリを出たせいで娘はなんの力も無い一般人ですからね。少なくともあの子が成長するまでは私が守りますよ」
結局、ナディアが守っているのは家だけらしい。
普通に家事をして、普通に近所付きあいをして、普通に主婦の様に暮らしているらしい。
娘もそろそろ大きくなってきたので、最近は手伝いも板に付いてきたのだとか、観客席を抜け出す前に話していた所だった。
「そろそろ12歳だっけか。タラリアは元気か?」
「あの子、相変わらず人見知りですよ。誰に似たんでしょうね」
そりゃ、お前だろ。とはクーリアは言わなかった。
レインに出会うまでは、ウアカリの呪いさえ無ければ、ナディアは割と引っ込み思案だったものだった。
結局レインに出会ってからの傍若無人な振る舞いに本人も慣れきっているのか、本気で思案顔をしている。
何を考えているにしろ、クーリアにとってはかつてのライバルで幼馴染のナディアが元気でいることが喜ばしい。
父の応援として選手の控え室やアリーナ入口まで付いていっている二人の娘のことを話しつつ、クーリアはナディアの元気を再確認するのだった。
ついでだから、とクーリアは尋ねる。
強さを測るのなら、ナディアの右に出る者は存在しない。
「数値だけで言えばサンダルを超えてますよ。あの人は決して強くはないですから」
「サンダルを強くないなんて言えるのはお前とレインくらいだよ……。しかし、そうか。もうそんなにか……」
クーリアから見れば、サンダルは途轍もなく強い。
最初に会った時から既にクーリアは超えていたが、今はもうかつての壁すら超えて、脚を止めての戦闘ですらかつてのライラと並ぶ勢いだ。
とは言え、やはりそれでもサンダルとレインを重ねてしまうのだろう。
ナディアだけは、世界で一番強かった人物の強さの、その全てを知っている。
「まあ、あの位ならまだサンダルには勝てないでしょうけど」
そうは言いながらも、「ま、すぐでしょうね」とあまり興味も無さそうに呟くと、アリーナの方向へと目を向ける。
今はちょうどサンダルがウアカリの新人、カーリーとの試合をしている時間だ。
「最終的にどこまで行くと踏む?」
ナディアの視線には気づかないふりをしながらクーリアは尋ねると、ナディアは視線をアリーナに向けたまま答える。
「それは当然、魔王を一捻りする程度には行きますよ。上限なんて私達が想像出来る範囲に無いと思いますけどね」
クーリアも分かっていたのか、魔王を一捻りという言葉には動じない。
「そうだよな。片割れも手に入れたわけだし、大人しくしていてくれれば解決なんだが……、どうなることやら」
「彼が生きてる限りは魔王は現れないのでしょう? それなら私はどうなっても構いません」
ナディアもまた、動じない。
最後に動揺したのは、ライラが死んだと聞いた時くらいだろうか。
「あくまで、予想でしかないけどな。エリーもイリスもルークも、なんでも分かるわけじゃない。と言うよりもな、どうなっても構わないって、最悪魔王が産まれるより酷いことになるぞ?」
予想通りなら、魔王は世界を滅ぼす気なんか微塵もない。
それに比べて、アレはどういう理屈で動いているのか全く分からない。
抑えられる状況にある今なら良いけれど、それもいつまで続くことか分からない。
しかしナディアは首を振る。
「それは私の大切な人が魔王になるよりも、大切な人が大切な人を殺すよりも、ですか?」
「……あー、お前は、そうだもんな。撤回する。最悪、人類が滅びるぞ?」
ナディアにとって最悪の恐怖はそれだ。
あの地獄に比べれば、
「それこそどうでも良いですよ。人類はちょっと勝手過ぎですから。勝手な行動を取った私を英雄扱いして、人類の為に死力を尽くしたはずのレインさんを悪魔扱いって。しかもなんですか、最弱の魔王って。人類なんか一旦滅びるくらいで丁度いいです」
人類の滅亡位は地獄ですらない。
「ったく、レインが守った世界だってのにそういうことを言うなよな……」
「私はエリーみたいにそれでやる気を維持できる程人格が出来てません。結局今は、たった二人だけ守れればそれで良いんですから」
呆れ顔を見せるクーリアに、かつての様に反省の色も見せないナディア。
その二人が夫と娘を指しているのが分かるのだから、クーリアもそれを追求はしない。
「昔のエリーみたいなことを言っちゃってまあ……。滅亡するってんのに……。はあ、アタシはそれを喜んでおくことにするよ。どちらにせよ、お前がそうやって減らず口を叩けることが奇跡らしいじゃないか」
一生戻らないかもしれないと言われていた意識が戻ってから、そろそろ14年が経つ。
その後は脚こそ動かなくなったものの、多少の時間こそかかりはしたがそれ以外の全ては元通り。
かつて世界三位と言われた強さも取り戻して、時折イリスの修行に付き合っている。
サンダルに対しての接し方も相変わらずの様だけれど、娘が出来たり行動を見ていれば、それは一応、歪ながら円満にいっている様だった。
「まあ、ライラの分位は頑張ってみせますよ。最初から諦めてたアレと違って私はしぶといんですから」
「いや、流石に子どもも居るんだから諦めろよ……。可哀想だろサンダル」
言った側からこれかよ、と呆れつつ、相変わらず元気そうだと安心もする。
相変わらずこの幼馴染は本気なのか冗談なのかすら分かりづらい。
「無駄にモテるあの人は放っておいても大丈夫ですよ。まあ、クラウスに手を出すつもりはありませんから安心して下さい」
「流石に、もし手ぇ出したら英雄全員でボコボコにするからな?」
一応サンダルに同情しておきながら言えば、
「私、一児の母ですよ?」
と相変わらずなんの反省も無く答える。
「こんな信用の出来ない一児の母っているんだな……」
「ウアカリにそれを言われるとは世も末ですね」
「お前……」
「まあ、ウアカリを出たせいで娘はなんの力も無い一般人ですからね。少なくともあの子が成長するまでは私が守りますよ」
結局、ナディアが守っているのは家だけらしい。
普通に家事をして、普通に近所付きあいをして、普通に主婦の様に暮らしているらしい。
娘もそろそろ大きくなってきたので、最近は手伝いも板に付いてきたのだとか、観客席を抜け出す前に話していた所だった。
「そろそろ12歳だっけか。タラリアは元気か?」
「あの子、相変わらず人見知りですよ。誰に似たんでしょうね」
そりゃ、お前だろ。とはクーリアは言わなかった。
レインに出会うまでは、ウアカリの呪いさえ無ければ、ナディアは割と引っ込み思案だったものだった。
結局レインに出会ってからの傍若無人な振る舞いに本人も慣れきっているのか、本気で思案顔をしている。
何を考えているにしろ、クーリアにとってはかつてのライバルで幼馴染のナディアが元気でいることが喜ばしい。
父の応援として選手の控え室やアリーナ入口まで付いていっている二人の娘のことを話しつつ、クーリアはナディアの元気を再確認するのだった。
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