雨の世界の終わりまで

七つ目の子

文字の大きさ
上 下
442 / 592
第三章:王妃と幼馴染

第四十三話:マナへの対応

しおりを挟む
 グレーズとベラトゥーラの間には山脈が連なっている。
 3000mを超える山々には凶悪なグリフォンが巣くい、ただ山を越えるだけでも訓練になる。
 その為国交のあるベラトゥーラにある魔法使いの訓練場、マナスルという山に軍の魔法使いが修行に行く際には、転移を魔法を使わずこの山脈を越えることがグレーズ軍恒例の行事となっている。
 グリフォンの強さは一体ずつはデーモンに劣るものの、上空というアドバンテージを生かしてくる強敵だ。
 しかもそれらは群れを作り、連携をとった攻撃を仕掛けてくる。

「んー、グリフォンは結構訓練に良いって言ってたんだけど出てこないな」

 しかし、それが出てこないことに不満を漏らす青年が居た。

「ぐりふぉんって?」
「獅子の体に鳥の顔や翼を持った魔物だよ。この山脈を通れば00%出るって話なんだけど」

 マナがいる為に戦わない方が良いと分かっていながらも、どうしても疼いてしまうクラウスだ。

 ここしばらくは素振りばかりで、戦ったのはエリスとの一戦だけ。
 正確にはゴブリンキングなんかも居たのだが取るに足らない。
 やはりある程度強力な魔物であっても、マナが起きているというだけで来ないのかもしれない。
 安心する様な、どことなく不満な様な、そんな微妙な感覚がクラウスを襲っていた。

 マナは地上に降りて歩いてみたり、すぐ歩き疲れて抱っこをせがんだりと色々だけれど、今のところは高山病の様子すらなく、これまで通ってきた熱帯林や森林とはまるで違う景色に目を輝かせている。

「グリフォンもたべれない?」
「うーん、グリフォンも普通は食べられないな。魔物って普通は食べ物じゃないんだよ」

 マナを絶対に守れとの伝言を聞いて以来、マナへの対応をどうしたものかと考え続けている。
 一応母への手紙には『マナがスライムやゴブリンキングを美味しそうだと言った』ことや、『マナが起きていると魔物が出ない』ことを書いてある。
 母の対応を考えれば、恐らくそれすらも分かっていて、絶対に守れと伝えてきたのだろう。

(だったら詳細を教えてくれても良いと思うんだけどな……)

 そんな不満を覚えながらも、何があってもという言葉の意味を考えてみれば、マナの言葉をただ否定するだけでは間違いだと感じてしまう。
 そして母やエリー叔母さんの性格を考えれば、それは間違いなくそうだろう。
 あの二人は、絶対に無意味な隠し事はしない。
 特に母の溺愛具合を考えてみれば、本当は隠し事をすることすら大変なはずだ。

 もしもマナに魔物を食べさせたらどうなるのか、それも気にならないわけではない。
 それでも、やっぱり全ての人間が取り込んではいけないのだから今は【魔素】と呼ばれているのだ。
 そう考えると、今のところは食べさせるわけにはいかないというのが常識的な正解ということになってしまう。

 勇者が魔物を食えば体内の魔素、陰のマナと混ざり合って力を落とし、魔法使いや一般人が魔物を食えば狛の村の人々の末路や、狛の村で生まれた子ども達の様に凶暴化してしまう。
 それは月光が周囲に与える影響を失ったと言われる現在では、人間であれば100%間違い無く。
 そもそも人間が魔物を美味しそうだと思うことすら無いのは、それが理由。

 そっかーと残念そうなマナを眺めていると何が正解か分からなくなりそうだけれど、そう考えるとグリフォンが出てこないのは正解だと改めて思う。

「じゃあ、山を越えたら何処かで美味しいもの食べようか。なんでも良いよ」
「うん! じゃあハンバーグ!」

 相変わらず笑顔で肉食系なマナを抱きかかえ、クラウスは山脈の先を目指すことにした。
 ベラトゥーラで大会が行われるまでは三ヶ月程の期間がある。
 それだけの期間があれば、クラウスの脚なら随分と余裕だ。
 となれば、行く場所は決まっている。

 行き先は、きっと今頃修行している幼馴染が居るだろう、霊峰。
 クラウスの出発時に付いてこようと幼馴染は恐らく最速で修行を積む為、今頃は霊峰10倍コースなんかをやっているのだろう。
 マナに会った時の言い訳も、なるべく早い方が良い。
 そんな浮気の言い訳を考える夫の様なことを思いつつ、しばらくぶりの幼馴染に会いに行くことにするのだった。

 負けず嫌いのサラは10倍どころか、100倍コースで修行していることなど思いもよらずに。
しおりを挟む
ツギクルバナー
感想 9

あなたにおすすめの小説

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第三章フェレスト王国エルフ編

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る

早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」 解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。 そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。 彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。 (1話2500字程度、1章まで完結保証です)

お願いだから俺に構わないで下さい

大味貞世氏
ファンタジー
高校2年の9月。 17歳の誕生日に甲殻類アレルギーショックで死去してしまった燻木智哉。 高校1年から始まったハブりイジメが原因で自室に引き籠もるようになっていた彼は。 本来の明るい楽観的な性格を失い、自棄から自滅願望が芽生え。 折角貰った転生のチャンスを不意に捨て去り、転生ではなく自滅を望んだ。 それは出来ないと天使は言い、人間以外の道を示した。 これは転生後の彼の魂が辿る再生の物語。 有り触れた異世界で迎えた新たな第一歩。その姿は一匹の…

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

30年待たされた異世界転移

明之 想
ファンタジー
 気づけば異世界にいた10歳のぼく。 「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」  こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。  右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。  でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。  あの日見た夢の続きを信じて。  ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!  くじけそうになっても努力を続け。  そうして、30年が経過。  ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。  しかも、20歳も若返った姿で。  異世界と日本の2つの世界で、  20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。

処理中です...