427 / 592
第二章:恐怖を煽る二人
第二十八話:捕食者なら
しおりを挟む
焦る気持ちを抑え、マナに対してどう伝えるべきかを考える。
「魔物は毒だから食べてはいけないんだ」
スライムの時にはその一言で済んだ。
確かにスライムは魔物であることさえ除くのであればゼリーに似ていて、見方次第では美味しそうに見えなくもない。
ジャガーノートも見た目は肉食獣の一つで、猛獣達が食べられるとすれば、あれも食べられると感じてもおかしいものではないのかもしれない。
魔物を食べられないと知っている人間であるという前提さえ除けば、それくらいの勘違いはしてもおかしくはない。
しかし今回はまるで違う。
ゴブリンキングという醜悪な魔物を前にして、マナはスライムを前にした時とまるで同じことを言い放ったのだ。
ゴブリンキングは完全な人型で筋肉質。更には悪臭に醜悪な見た目。
何をどう勘違いしたところで、美味しそうには見えない。
あの魔物の不快さは強烈で、勇者であれば率先して殺したい魔物の一つだ。
少なくともクラウスはそう聞いていた。
しかしそれも、人間からの観点でしか無いとしたら。
もしもヒョウがゴリラを食す様に、マナにとっては魔物がただの餌にしか見えないとしたら?
だとしたら、マナになんと伝えれば良いのか。
今は顔を胸に押し付けて周囲を見えない様に処理しているが、周りで魔物を殺していると分かっているにも関わらず、マナに動揺の素振りは微塵もない。
人間に対してあれだけ怯えるマナが、魔物に対しては本当に、ただの餌以上の感情が無いのだとしたら。
そうだとすれば、魔物がマナを恐る理由すら説明がついてしまう。
クラウスはどう伝えれば良いのか分からなかった。
だからだろう。
ひとまず、いい加減なことを言って誤魔化す他無かった。
「マナ、魔物は毒だし、あれは硬くて臭いし、不味いよ」
「そうなの? うーん」
頭を胸板に押し付けられたまま、マナは悩む。
もしかしたらそのせいでゴブリンキングの悪臭が嗅げなかった可能性もある。
それを試せれば良かったが、流石にそれを試す勇気はない。
もしもマナがその臭いを嗅いでも悪臭だと感じないのであれば、流石にフォローのしようが無い。
角を始め色のない不思議な少女を既に本当に、娘の様に思い始めているクラウスにとって、マナを殺めることだけは、既にどうしようもなく避けたくなっていることだった。
だからこそ、クラウスは現状、問題を先延ばしにする以外の方法が思い浮かばなかった。
「マナ、臭いがうつる前にここを離れよう。王都はもうすぐだ」
本当はまだまだ長い距離がある王都までは、マナが眠った隙に大きく移動することで時間を短縮する。
王都まで行けば、世界で最も頼りになる人に手紙を出せる。
一先ず、それで判断を仰ごう。そう考えた。
「うん。我慢する」
頭を押し付けられながらもぞもぞと頷くマナを見て、言ってやれることは、一つだけだった。
「偉いぞマナ。王都まで着いたら好きなもの食べさせてやるからな」
そう言って頭を撫でる。
そのままその場をすぐに離脱してしばらく経つと、マナはそのまま眠りについてしまった。
ほっと安堵の息を漏らすと王都へ急ぐべく、足を早める。
(結局サウザンソーサリスでは返事が来なかったけど、母さんはマナに対してどう思ってるんだろう)
そんなことを考えながら、マナを起こさないギリギリの速度で森の中を走り、森を抜ける。
そこから更に少し進むと、どうしても行きたい場所があったことを思い出した。
アルカナウィンドからの帰りでも良いかなと思っていながら、せっかく近くに寄ったのなら、行っておくべき場所。
母曰く、オリヴィアに続く物語の全てが始まった場所。
そしてクラウス自身の最も好きな英雄の物語が始まった悲しい地にして、最も重要な聖地。
花の町フィオーレ共同墓地。
かつての町民達と一人の聖女、そして一人の抹消された英雄の墓がある場所。
聖女サニィが眠る場所とは違いながらも世界で唯一、聖女の声が聞こえることがあると噂される場所。
世界に満ちるマナを感じ取ることが出来た聖女の眠る聖地にこの不思議な少女を連れていけば、もしかしたら何かが分かるかもしれない。
そんな、少しの期待を込めて。
ついでながら、焦っている気持ちを落ち着かせる為という理由も含めて。
それを思い出したことで、クラウスはゴブリンキングを倒してからペナルティの素振りを忘れていたことも思い出す。
そのままではきっと、冷静な判断すら出来なくなってしまう。
人によって最高の能力を発揮させる状況はまるで違う。そんなエリー叔母さんの言葉を思い出す。
少なくともクラウスにとっては冷静ではないということは、最悪に近いコンディションだということを、ようやく思い出した。
今はマナもいるのだから尚のこと。
幸いにも、墓地に寄った所で、クラウスの静かな全力で王都までは一時間程のロスにしかならない位置にそれはあった。
だからこそ少しの寄り道が、今はきっとベストに働くと信じて。
そしてそれは正解だったと知るのは、王との面会を果たしてからだった。
「魔物は毒だから食べてはいけないんだ」
スライムの時にはその一言で済んだ。
確かにスライムは魔物であることさえ除くのであればゼリーに似ていて、見方次第では美味しそうに見えなくもない。
ジャガーノートも見た目は肉食獣の一つで、猛獣達が食べられるとすれば、あれも食べられると感じてもおかしいものではないのかもしれない。
魔物を食べられないと知っている人間であるという前提さえ除けば、それくらいの勘違いはしてもおかしくはない。
しかし今回はまるで違う。
ゴブリンキングという醜悪な魔物を前にして、マナはスライムを前にした時とまるで同じことを言い放ったのだ。
ゴブリンキングは完全な人型で筋肉質。更には悪臭に醜悪な見た目。
何をどう勘違いしたところで、美味しそうには見えない。
あの魔物の不快さは強烈で、勇者であれば率先して殺したい魔物の一つだ。
少なくともクラウスはそう聞いていた。
しかしそれも、人間からの観点でしか無いとしたら。
もしもヒョウがゴリラを食す様に、マナにとっては魔物がただの餌にしか見えないとしたら?
だとしたら、マナになんと伝えれば良いのか。
今は顔を胸に押し付けて周囲を見えない様に処理しているが、周りで魔物を殺していると分かっているにも関わらず、マナに動揺の素振りは微塵もない。
人間に対してあれだけ怯えるマナが、魔物に対しては本当に、ただの餌以上の感情が無いのだとしたら。
そうだとすれば、魔物がマナを恐る理由すら説明がついてしまう。
クラウスはどう伝えれば良いのか分からなかった。
だからだろう。
ひとまず、いい加減なことを言って誤魔化す他無かった。
「マナ、魔物は毒だし、あれは硬くて臭いし、不味いよ」
「そうなの? うーん」
頭を胸板に押し付けられたまま、マナは悩む。
もしかしたらそのせいでゴブリンキングの悪臭が嗅げなかった可能性もある。
それを試せれば良かったが、流石にそれを試す勇気はない。
もしもマナがその臭いを嗅いでも悪臭だと感じないのであれば、流石にフォローのしようが無い。
角を始め色のない不思議な少女を既に本当に、娘の様に思い始めているクラウスにとって、マナを殺めることだけは、既にどうしようもなく避けたくなっていることだった。
だからこそ、クラウスは現状、問題を先延ばしにする以外の方法が思い浮かばなかった。
「マナ、臭いがうつる前にここを離れよう。王都はもうすぐだ」
本当はまだまだ長い距離がある王都までは、マナが眠った隙に大きく移動することで時間を短縮する。
王都まで行けば、世界で最も頼りになる人に手紙を出せる。
一先ず、それで判断を仰ごう。そう考えた。
「うん。我慢する」
頭を押し付けられながらもぞもぞと頷くマナを見て、言ってやれることは、一つだけだった。
「偉いぞマナ。王都まで着いたら好きなもの食べさせてやるからな」
そう言って頭を撫でる。
そのままその場をすぐに離脱してしばらく経つと、マナはそのまま眠りについてしまった。
ほっと安堵の息を漏らすと王都へ急ぐべく、足を早める。
(結局サウザンソーサリスでは返事が来なかったけど、母さんはマナに対してどう思ってるんだろう)
そんなことを考えながら、マナを起こさないギリギリの速度で森の中を走り、森を抜ける。
そこから更に少し進むと、どうしても行きたい場所があったことを思い出した。
アルカナウィンドからの帰りでも良いかなと思っていながら、せっかく近くに寄ったのなら、行っておくべき場所。
母曰く、オリヴィアに続く物語の全てが始まった場所。
そしてクラウス自身の最も好きな英雄の物語が始まった悲しい地にして、最も重要な聖地。
花の町フィオーレ共同墓地。
かつての町民達と一人の聖女、そして一人の抹消された英雄の墓がある場所。
聖女サニィが眠る場所とは違いながらも世界で唯一、聖女の声が聞こえることがあると噂される場所。
世界に満ちるマナを感じ取ることが出来た聖女の眠る聖地にこの不思議な少女を連れていけば、もしかしたら何かが分かるかもしれない。
そんな、少しの期待を込めて。
ついでながら、焦っている気持ちを落ち着かせる為という理由も含めて。
それを思い出したことで、クラウスはゴブリンキングを倒してからペナルティの素振りを忘れていたことも思い出す。
そのままではきっと、冷静な判断すら出来なくなってしまう。
人によって最高の能力を発揮させる状況はまるで違う。そんなエリー叔母さんの言葉を思い出す。
少なくともクラウスにとっては冷静ではないということは、最悪に近いコンディションだということを、ようやく思い出した。
今はマナもいるのだから尚のこと。
幸いにも、墓地に寄った所で、クラウスの静かな全力で王都までは一時間程のロスにしかならない位置にそれはあった。
だからこそ少しの寄り道が、今はきっとベストに働くと信じて。
そしてそれは正解だったと知るのは、王との面会を果たしてからだった。
0
お気に入りに追加
402
あなたにおすすめの小説
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします
Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。
相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。
現在、第三章フェレスト王国エルフ編
転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】
ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします
ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった
【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。
累計400万ポイント突破しました。
応援ありがとうございます。】
ツイッター始めました→ゼクト @VEUu26CiB0OpjtL
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る
早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」
解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。
そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。
彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。
(1話2500字程度、1章まで完結保証です)
お願いだから俺に構わないで下さい
大味貞世氏
ファンタジー
高校2年の9月。
17歳の誕生日に甲殻類アレルギーショックで死去してしまった燻木智哉。
高校1年から始まったハブりイジメが原因で自室に引き籠もるようになっていた彼は。
本来の明るい楽観的な性格を失い、自棄から自滅願望が芽生え。
折角貰った転生のチャンスを不意に捨て去り、転生ではなく自滅を望んだ。
それは出来ないと天使は言い、人間以外の道を示した。
これは転生後の彼の魂が辿る再生の物語。
有り触れた異世界で迎えた新たな第一歩。その姿は一匹の…
異世界でリサイクルショップ!俺の高価買取り!
理太郎
ファンタジー
坂木 新はリサイクルショップの店員だ。
ある日、買い取りで査定に不満を持った客に恨みを持たれてしまう。
仕事帰りに襲われて、気が付くと見知らぬ世界のベッドの上だった。
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる