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第三部第一章:英雄の子と灰色の少女
第七話:素振り21万回
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「184745、184746、184747、くそー、いつになったら終わるんだーはち!」
クラウスは、ひたすら素振りをしていた。ジャングルの入口、木を斬り分けつつ、ただひたすらに素振りを続ける。
油断一度につき素振り7万回。エリーから課された絶対の指令。
デーモンに会った翌日、その日油断した回数は三回に増えていた。
「結局僕は、50、温室育ちの、51、御坊ちゃまだったって、52、ことか、53」
油断していたつもりは、無いはずだった。しかし、旅を始めて蓋を開ければ、魔物の奇襲を受けること既に本日三回。
それが一般人の母なら絶対に受けない奇襲を受けたのだから、油断して受けた奇襲だと言っても過言ではない。
「なるほど、56、サラを僕に、57、同伴させらない理由は、58、僕が頼りないからってのも、59、あるのかもな、60」
そんなことを考えながらも、改めて母とエリーの凄まじさを思い返す。
母は一度として魔物の奇襲を受けること無く、危険な魔物がいそうな所は避けて通り、戦わなければならない時には常に先制をとっていた。
エリーに至っては意味不明で、「500m先にゴブリンに襲われそうな馬車がいるから助けてくる」と見えもしない弱小の魔物すら察知して逆に奇襲を仕掛けていた。
戦闘面をそんな二人に過保護気味に育てられたクラウスの感覚が鈍くなるのは、むしろ仕方のないことかもしれない。
二人共が、子どもの頃から今までずっと、戦闘訓練の時はべったりと張り付いていたのだ。
それが急に一人で旅に出れば、それなりに強いことが分かってしまっているのも相まって、周囲への警戒をついつい怠ってしまう。
そんなつもりじゃない。油断してるつもりは無かった。と自分に言い聞かせるのは簡単でも、エリーならばそれを簡単に見抜いてしまう。
「今一瞬、その花綺麗だなとか思ったよね?」
とか、心を見抜かれた様な発言をするエリーを思い返せば、クラウスにはちゃんとしてるつもり、と言う逃げ道を作ることは出来ない。
だから、避けようと思えば避けられたはずの魔物の奇襲は、クラウスにとって全て油断だった。
それは少なくとも、母なら簡単に回避出来ることだったから。
全く、危機感が薄いのは母さんが自分を好きすぎるせいで、過保護も困りものだ、なんてことを思いながらも、実際に油断したのは自分なので仕方がない。
それに、大切な人を多く亡くした母が過保護になるのも仕方がないと言えば仕方がないことなのだ。
何せ、一般人の母にはデーモンを超える魔物への対処そのものが難しいのだから……。
だから母は逆にこの旅には付いてこなかったのだろう。来れば、いつかは足手まといになってしまうのだから。
「全く、子離れ出来ない母とマザコンの息子だって言われても仕方ないな、76、と言うか、エリー叔母さんも何だかんだで過保護だし、77」
でも、と考える。
ここまで計4回の油断をしながらも、未だに一つの傷も受けていない。こと戦闘状態にさえ入ってしまえば、クラウスに傷を付けることそのものが、ただの魔物には難しいことだった。
「そこだけは、叔母さんの地獄の特訓に感謝だ、80」
少なくとも、勇者の一流と呼ばれるデーモン殺しはこんなにもすぐに成し遂げることが出来たのだから。
「私はドラゴンでも倒せるけどね」と豪語する叔母さんに言ったら怒られそうな低いレベルの達成感ではあるものの、初めての一人での戦いを無事無傷で済ませられたことは、ほんの少しだけ自信になった。
……結果が、本日三回の油断である。
過去に油断が原因で仲間に気絶させられたことがある、とチラッとルークを見ていた叔母さんが印象的で、油断はしないと決めていたにも関わらず。
「英雄レインなんかは60km先のドラゴンに気づいたって言うし、83。聖女サニィなんかは世界の何処だって分かったらしい、84。それに比べたら僕は、85、ただの一般人に等しいな、86」
だからこそ、戒めは大切だ。
今は油断しても対処出来ているかもしれないが、いつ油断が命取りになるかは分からない。
上には上がいることを、常に自覚していなければならない。
幸いにも、身近に英雄やエリー叔母さんがいる環境は、クラウスにとって良い方向に働いていたと言える。
魔物がこちらに来るのが分かったのだ。
本日三回の戒めを受けてようやく。
だからクラウスは、その魔物を一切の容赦なく切り刻んだ。
敵ジャガーノートと言う肉食獣型の魔物だった。巨体と凶悪な姿に似合わぬ子煩悩な魔物。
「子煩悩な魔物か……、100、ごめんな、お前も子を守ろうとしただけかもしれないのに、101」
勇者と魔物は殺し合う関係。会えばどちらも殺意を抱いてしまう。
それは仕方ないとは言え、たった一匹の例外を除いては、過去全ての魔物が人間を滅ぼそうとしてきた。
だからこそ、クラウスはある種の優しさとして、ジャガーノートの子どもにも止めを刺しておかなければと思い、やって来た道を辿ることにした。
憂いは完全に断たなければ、復讐が復讐を呼ぶ。特に子煩悩なジャガーノートはそれが顕著だ。
一匹を見つけたら、周囲の全てのジャガーノートを殺し尽くさなければ危険とされている。
確か、サラの魔法道具を手に入れる時にレインとサニィがこのジャングルで一度魔法でぱぱっと全滅させたと聞いたが、もうあれから20年以上。再び生まれているのだろう。
それならば、このジャングルのジャガーノートをもう一度掃討というのが、今クラウスに課せられた使命となる。
英雄への第一歩と言えば聞こえは良いかもしれないが、やることはただの殺戮。
「レインは殺しに抵抗感が無かったらしいし、115、サニィも故郷を滅ぼされてる。良い気はしないってのは僕が温い環境で育ちすぎなんだろうな……、116」
相手が子煩悩の魔物でさえなければそんなことすら考えなかったかもしれないのにと思いつつ、あまり良い気はしないながら、その巣へと向かうのだった。
クラウスは、ひたすら素振りをしていた。ジャングルの入口、木を斬り分けつつ、ただひたすらに素振りを続ける。
油断一度につき素振り7万回。エリーから課された絶対の指令。
デーモンに会った翌日、その日油断した回数は三回に増えていた。
「結局僕は、50、温室育ちの、51、御坊ちゃまだったって、52、ことか、53」
油断していたつもりは、無いはずだった。しかし、旅を始めて蓋を開ければ、魔物の奇襲を受けること既に本日三回。
それが一般人の母なら絶対に受けない奇襲を受けたのだから、油断して受けた奇襲だと言っても過言ではない。
「なるほど、56、サラを僕に、57、同伴させらない理由は、58、僕が頼りないからってのも、59、あるのかもな、60」
そんなことを考えながらも、改めて母とエリーの凄まじさを思い返す。
母は一度として魔物の奇襲を受けること無く、危険な魔物がいそうな所は避けて通り、戦わなければならない時には常に先制をとっていた。
エリーに至っては意味不明で、「500m先にゴブリンに襲われそうな馬車がいるから助けてくる」と見えもしない弱小の魔物すら察知して逆に奇襲を仕掛けていた。
戦闘面をそんな二人に過保護気味に育てられたクラウスの感覚が鈍くなるのは、むしろ仕方のないことかもしれない。
二人共が、子どもの頃から今までずっと、戦闘訓練の時はべったりと張り付いていたのだ。
それが急に一人で旅に出れば、それなりに強いことが分かってしまっているのも相まって、周囲への警戒をついつい怠ってしまう。
そんなつもりじゃない。油断してるつもりは無かった。と自分に言い聞かせるのは簡単でも、エリーならばそれを簡単に見抜いてしまう。
「今一瞬、その花綺麗だなとか思ったよね?」
とか、心を見抜かれた様な発言をするエリーを思い返せば、クラウスにはちゃんとしてるつもり、と言う逃げ道を作ることは出来ない。
だから、避けようと思えば避けられたはずの魔物の奇襲は、クラウスにとって全て油断だった。
それは少なくとも、母なら簡単に回避出来ることだったから。
全く、危機感が薄いのは母さんが自分を好きすぎるせいで、過保護も困りものだ、なんてことを思いながらも、実際に油断したのは自分なので仕方がない。
それに、大切な人を多く亡くした母が過保護になるのも仕方がないと言えば仕方がないことなのだ。
何せ、一般人の母にはデーモンを超える魔物への対処そのものが難しいのだから……。
だから母は逆にこの旅には付いてこなかったのだろう。来れば、いつかは足手まといになってしまうのだから。
「全く、子離れ出来ない母とマザコンの息子だって言われても仕方ないな、76、と言うか、エリー叔母さんも何だかんだで過保護だし、77」
でも、と考える。
ここまで計4回の油断をしながらも、未だに一つの傷も受けていない。こと戦闘状態にさえ入ってしまえば、クラウスに傷を付けることそのものが、ただの魔物には難しいことだった。
「そこだけは、叔母さんの地獄の特訓に感謝だ、80」
少なくとも、勇者の一流と呼ばれるデーモン殺しはこんなにもすぐに成し遂げることが出来たのだから。
「私はドラゴンでも倒せるけどね」と豪語する叔母さんに言ったら怒られそうな低いレベルの達成感ではあるものの、初めての一人での戦いを無事無傷で済ませられたことは、ほんの少しだけ自信になった。
……結果が、本日三回の油断である。
過去に油断が原因で仲間に気絶させられたことがある、とチラッとルークを見ていた叔母さんが印象的で、油断はしないと決めていたにも関わらず。
「英雄レインなんかは60km先のドラゴンに気づいたって言うし、83。聖女サニィなんかは世界の何処だって分かったらしい、84。それに比べたら僕は、85、ただの一般人に等しいな、86」
だからこそ、戒めは大切だ。
今は油断しても対処出来ているかもしれないが、いつ油断が命取りになるかは分からない。
上には上がいることを、常に自覚していなければならない。
幸いにも、身近に英雄やエリー叔母さんがいる環境は、クラウスにとって良い方向に働いていたと言える。
魔物がこちらに来るのが分かったのだ。
本日三回の戒めを受けてようやく。
だからクラウスは、その魔物を一切の容赦なく切り刻んだ。
敵ジャガーノートと言う肉食獣型の魔物だった。巨体と凶悪な姿に似合わぬ子煩悩な魔物。
「子煩悩な魔物か……、100、ごめんな、お前も子を守ろうとしただけかもしれないのに、101」
勇者と魔物は殺し合う関係。会えばどちらも殺意を抱いてしまう。
それは仕方ないとは言え、たった一匹の例外を除いては、過去全ての魔物が人間を滅ぼそうとしてきた。
だからこそ、クラウスはある種の優しさとして、ジャガーノートの子どもにも止めを刺しておかなければと思い、やって来た道を辿ることにした。
憂いは完全に断たなければ、復讐が復讐を呼ぶ。特に子煩悩なジャガーノートはそれが顕著だ。
一匹を見つけたら、周囲の全てのジャガーノートを殺し尽くさなければ危険とされている。
確か、サラの魔法道具を手に入れる時にレインとサニィがこのジャングルで一度魔法でぱぱっと全滅させたと聞いたが、もうあれから20年以上。再び生まれているのだろう。
それならば、このジャングルのジャガーノートをもう一度掃討というのが、今クラウスに課せられた使命となる。
英雄への第一歩と言えば聞こえは良いかもしれないが、やることはただの殺戮。
「レインは殺しに抵抗感が無かったらしいし、115、サニィも故郷を滅ぼされてる。良い気はしないってのは僕が温い環境で育ちすぎなんだろうな……、116」
相手が子煩悩の魔物でさえなければそんなことすら考えなかったかもしれないのにと思いつつ、あまり良い気はしないながら、その巣へと向かうのだった。
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