雨の世界の終わりまで

七つ目の子

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第十一章:血染めの鬼姫と妖狐と

第百四十八話:ねえ、一つ聞いてよ

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 魔王との決着から2週間、グレーズ王国では本日新国王の戴冠式が行われる。
 魔王戦で戦死したピーテル前国王と王女オリヴィアの葬儀は速やかに行われた。もちろん、ディエゴを含めた騎士団と魔法師団の面々の葬儀も大々的に。
 今日はそこから前に進むための、明るい式典だ。
 王城の見える広場には、多くの人が集まっていた。

 ――。

 あの後目を覚ましたオリヴィアは、皆の予想通りに深々と謝罪をした。
 しかし、オリヴィアが居れば誰も死ななかった等と言える訳もない。
 誰しもが死を覚悟して魔王戦に赴いていたことが、まず大前提。
 そして、結局のところオリヴィアが間に合ったおかげで勝てたのだ。
 ライラの件は残念にしろ、彼女もまた自らを顧みずに立ち向かった。

 結論はむしろ、最初から決まっていた。
 オリヴィア程に限界を超えて魔王討伐に向けた鍛錬をしていた者は居ない。誰しもがそれを知っていた。
 身も心も削りながら1位の座に有り続けた彼女は、魔王を倒す分の力しか最初から残していなかった。
 誰しもが、それを知っていた。

「オリヴィア、お前のおかげでなんとか魔王を倒せた。礼を言う」

 アリエルのその言葉でこれ以上の話は野暮だという結論に至ると、今後について語り合った。

 ……。 

 そうして結界外の周囲から見れば、魔王を倒され怒り狂った眷属であるたまきとの死闘の末、たまきは無事に討伐され、オリヴィアは懸命な治療叶わず戦死という結果となったのだ。

 エレナによって作り出された完全な幻術が死体を作り出し、オリヴィアの侍女だけが王女が生きている事実を知りアーツに報告した。
 彼らが緊急の報告で聞いた予定通りの死とはつまり、彼女が無事生存を続けているということ。
 それを聞いたアーツと王妃シルヴィアは、侍女と共につい生存を喜び口元を緩めてしまったという訳である。

 ――。

「これでアーツも王様かー。頑張って欲しいものだね」
「そうですわね。でも、アーツなら大丈夫ですわ。わたくしも最大限の補助をしますもの」

 新王の戴冠式を前にして、エリーはオリーブと名を変えたオリヴィアと共に会場で待っている。
 髪をルークの魔法で金色に変えたオリヴィアは、さながらエリーの超美人の姉の様な風貌となっている。それをエリーの力で目立たなくすれば、誰も彼女が死んだ王女だとは気づかない。
 エリー自身も目立たない様に民衆と同化すれば、新王アーツの誕生を心待ちにしている一冒険者さながらだ。
 戴冠式が始まるまで、まだ時間がある。丁度良いと、エリーはレインの走馬灯について語りだす。

「そうそう。忙しくて話せなかったけど、ちょっと師匠の話して良い?」
「う、ちょっと怖いですけれど……」
「怖がることなんかないよ。師匠はオリ姉を凄く評価してた。ちょっと無理をさせたみたいだって、むしろ師匠が申し訳なさそうにしてたくらい」
「あの特攻はお師匠様には怒られそうなものだと思いましたけれど、そうなんですの?」
「うん。まあ、私が意識を集中させてたからこそなんだけどね」
「むっ、それは確かにそうですけれど、エリーさんに言われるとむっとしてしまうのはなんででしょう」
「ま、私達はライバルだものね、オリ姉」
「そう言われると……何も言えませんわ」
「ははは。たまちゃんが抑えてくれてたおかげで余り殺さずに済んだんだって、私達が倒してくれたおかげで成長を見れて嬉しかったんだって、師匠はそう言ってたかな」

 魔王となったレインは、何処から漏れたのだろうか、誰かの力でバレたのだろうか。今や世界中の人がそれを知っている。世界最強の英雄が一転、世界最悪の犯罪者扱いだ。
 聖女を殺したのが元から魔王だったレインだという話すら出ている。
 今は名前を出していない為に周囲の人々は訝しげな顔をするだけで済んでいるものの、もしもレインという名前を出せばどうなるか……。

「お師匠様は、本当なら被害者なはずですものね……」
「うん。だから、私だけはそれを忘れない。オリ姉は国のことを考えないといけないけれど、私は――」
「あ、それなんですけれど、わたくしは両立することにしますわ」

 言って、オリヴィアは懐から小瓶を取り出す。

「あぁ、オリ姉の秘密兵器ね。うん、良いんじゃないかな」

 それを見て、面白そうに笑う。
 魔王との決着の日以来、オリヴィアの体には少しばかりの変化が起きていた。 
 それはレインに腹部を貫かれたことが理由だろうか、たまきの治療が原因だろうか、理由は分からないものの、それがオリヴィアにとっては天啓の様に感じたのかもしれない。

「わたくしはまた今までの様に、ブロンセンと王都を往復する生活をすることになりますわね」
「おぉ、オリ姉がブロンセンに居るなら安心だ。ねえ、一つ聞いてよ」

 あのね、とエリーが話し出す。
 ちょうどそのタイミングで、戴冠式が始まる。
 大音量で鳴り響く音楽と民衆の大歓声の中、なんとなく分かっていたその話に、オリヴィアは一言。

「それが良いですわね」

 そう返すのだった。
 全く、自分の父親ながらピーテル前王は少しだけ余計なことをしたと、そう思う。
 いや、彼女の性格からして、大切なことは決まりきっているのだ。
 きっと王が何をしていようが、この結末に変化は無かったのだろう。
 だからこそ、オリヴィアは続けて言う。

「ただし、わたくしが勝ったら話は別ですわ。戴冠式の後、決闘しましょう」
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