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第十一章:血染めの鬼姫と妖狐と
第百四十七話:しかし
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「そういうわけで、私は魔王となったレイン様と生きることにしたの。その人が死んでしまったのは申し訳ないけれど、レイン様はきっと全力のあなた達に倒して欲しいと望んでいたから、だから私も敵の姿勢を貫くことにしたわ」
ライラを指さして、レインを膝枕したたまきは言う。
杖を手に入れて以来、微かにマナを感じ取ることが出来る様になったたまきは、世界に眠るレインのマナを探し当てる為に数ヶ月を費やした。それが存在することを探し当てた時の喜びと言ったら無かった。
しかし、その場所が何処なのか、どの程度の量が残っているのかは魔物化までいていないと明確には分からない。少なくとも、それは多くはないはずだった。
強くてもデーモン程度。弱ければゴブリン以下なのではないか。そんな予想だった。
だからたまきは、レインのマナを集めて魔物を作ることにした。それが仮に低級なものであっても、生涯を共にしようと考えていた。
レインが魔王になったのは、たまきにとっても大誤算だった。
その為、チャームで魔王の世界破壊衝動を抑えていたのだと。
抑えられる期間は約半年。だから、出来ればその後に来てくれると嬉しかったのだと言う。
たまきが話したのは、そんな内容。
ところどころぼやけてはいるものの、それが嘘ではないとエリーとイリスも断言する。
「確かにそう言われてみれば、僕達がほぼ無傷なのはおかしいな。あなたは先生に匹敵する強さだ」
次いでルークもたまきの言葉に納得し、エレナもサンダルも頷く。
「しかし」
たまきが魔王側に付いていたというのは間違いが無い。
それどころか、魔王を召喚した人物がたまきなのだ。
「もしも僕達が負けていたらどうしてたんだ?」
「それは、……あと三ヶ月位で世界を滅ぼすことになっていたでしょうね」
「あと三ヶ月? 半年だったらあと五ヶ月ほどあるんじゃないのか?」
「いいえ、あと87日ね」
どういうことだと首を傾げるルークに、たまきは問う。
「私はこのまま殺されてしまうのかしら?」
「……そうだね。あなたを殺さなければ、仮にここで皆が納得したとしても、世界が納得しないだろう」
「…………世界、ね」
レインが死んだ今、流石にたまきも命に執着は無いらしく、しかし世界と言う言葉に苛立ちを覚える様に顔を暗くする。
今回の件は完全にたまきが悪いわけではないということは、冷静になった頭で考えれば理解が出来る。
しかしながら、最早たまきは魔王を影で止めていた存在等ではなく、魔王の眷属というのが世界の認識。
それを変えることなど、たまきが魔物である以上は変えようがない。
すると、周囲がやけに静かなことを察してか、アリエルが目を覚ます。
きょろきょろと辺りを見回して、自分の手の中に冷たくなったライラが居ることを見て、更にアリエル自身の力が何かを示したのだろう。涙を堪えて言う。
「たまき、お主は放っておいて良いみたいなんだが、それはなんで?」
そんな、純粋過ぎる疑問を発する。
ライラを殺したレインは目の前で倒れて動かない。
恐らく魔王は倒されたことを理解しているのだろう。そして、何故かたまきが皆と話している。
その状況で、たまきを殺す必要はないと自身の力が示せば、その理由を知りたくなるのも当然というもの。
その問いに、たまきは自嘲気味に答えた。
「……私は後87日で死ぬからよ」
答えはそんな、明確な理由。
あっけに取られる面々に、意を決した様に話しだす。
「マナを感じ取るサニィの力は勇者の力。それを魔物の私が扱えるわけ無いじゃない。黒の小娘の使った呪いの応用で、私は命と引き換えにサニィの力を貰ったの」
魔物は陰のマナで構成されている。それに陽のマナである勇者の力を組み込めば、身体は消滅し始める。
魔法はマナタンクと呼ばれる非物理器官に貯蔵される為に魔物でも扱うことが出来るものの、勇者の力を魔物が使うことなど当然出来はしない。
だからたまきは、自分の命と引き換えに時間制限付きで混ざり合わない様、サニィのマナを体内に固定したのだと言う。
「今回の戦闘は激しかったものだから、寿命も少し縮まった。まあ、どっちにしろレイン様を残して死ぬことで満足する私は、人間にはなれないのかもね」
そう呟くたまきを責められる者は、流石に居なかった。
「たまちゃん、お母さんはたまちゃん元気かなって心配してたよ」
「愛しい人と共に過ごせて、私は幸せよ。だから、元気だって伝えてくれるかしら」
「……気が向いたらね」
素っ気なく答えるエリーに微笑む。
心を読めるが故に、エリーはたまきに強く当たることが出来なかった。
たまきの心はいつも側に居た、今は意識を失っている姉の様な人にそっくりだ。
出される結論はまるで違う。
しかし大切な人を想って心を痛める様は、人間と殆ど同じなのだと、どうしても同情してしまう。
むしろ、魔王になってしまった師匠が一人にならなくて良かったとすら、思えてしまう。
「取り敢えず、今後のことについて話そう。たまちゃんは今死んだことにしないといけないけど。取り敢えず、オリ姉が目を覚ますまで待とう。きっとオリ姉は懺悔の念で一杯だろうから、何とかしてあげないと」
言って、エリーはアリエルの方を向く。
同調してしまったのだろう。
涙を堪えきれずに、その勇敢な最期を語った。
「アリエルちゃん、ライラさんはね、満足の行く最期だったみたい。まるで手が届かないと思っていた師匠に一撃入れられたこと、アリエルちゃんをちゃんと守れたこと、そして相手が知らない魔王じゃなくて師匠だったことが、幸せだったみたいだよ。ライラさんが居たから魔王を倒すことが出来たんだよ。そして……ううん」
思い返せば、余りに大きな被害だ。
死者の総数は47名。今だ意識不明のナディアを含めた、重傷者28名。
それは過去最少の被害だったマルスの時の半分程度の被害ではあるけれど、死者ゼロには程遠い。
むしろ、狛の村の事件を含めれば死者115名。
何年も前から魔王が予見され、その為にと必死に準備をしてきたにも関わらず、史上最強の英雄の指導を受けたにも関わらず、こんな結果となってしまった。
今は最前線で戦った者達同士が、互いを慰め合うしかないのだった。
ライラを指さして、レインを膝枕したたまきは言う。
杖を手に入れて以来、微かにマナを感じ取ることが出来る様になったたまきは、世界に眠るレインのマナを探し当てる為に数ヶ月を費やした。それが存在することを探し当てた時の喜びと言ったら無かった。
しかし、その場所が何処なのか、どの程度の量が残っているのかは魔物化までいていないと明確には分からない。少なくとも、それは多くはないはずだった。
強くてもデーモン程度。弱ければゴブリン以下なのではないか。そんな予想だった。
だからたまきは、レインのマナを集めて魔物を作ることにした。それが仮に低級なものであっても、生涯を共にしようと考えていた。
レインが魔王になったのは、たまきにとっても大誤算だった。
その為、チャームで魔王の世界破壊衝動を抑えていたのだと。
抑えられる期間は約半年。だから、出来ればその後に来てくれると嬉しかったのだと言う。
たまきが話したのは、そんな内容。
ところどころぼやけてはいるものの、それが嘘ではないとエリーとイリスも断言する。
「確かにそう言われてみれば、僕達がほぼ無傷なのはおかしいな。あなたは先生に匹敵する強さだ」
次いでルークもたまきの言葉に納得し、エレナもサンダルも頷く。
「しかし」
たまきが魔王側に付いていたというのは間違いが無い。
それどころか、魔王を召喚した人物がたまきなのだ。
「もしも僕達が負けていたらどうしてたんだ?」
「それは、……あと三ヶ月位で世界を滅ぼすことになっていたでしょうね」
「あと三ヶ月? 半年だったらあと五ヶ月ほどあるんじゃないのか?」
「いいえ、あと87日ね」
どういうことだと首を傾げるルークに、たまきは問う。
「私はこのまま殺されてしまうのかしら?」
「……そうだね。あなたを殺さなければ、仮にここで皆が納得したとしても、世界が納得しないだろう」
「…………世界、ね」
レインが死んだ今、流石にたまきも命に執着は無いらしく、しかし世界と言う言葉に苛立ちを覚える様に顔を暗くする。
今回の件は完全にたまきが悪いわけではないということは、冷静になった頭で考えれば理解が出来る。
しかしながら、最早たまきは魔王を影で止めていた存在等ではなく、魔王の眷属というのが世界の認識。
それを変えることなど、たまきが魔物である以上は変えようがない。
すると、周囲がやけに静かなことを察してか、アリエルが目を覚ます。
きょろきょろと辺りを見回して、自分の手の中に冷たくなったライラが居ることを見て、更にアリエル自身の力が何かを示したのだろう。涙を堪えて言う。
「たまき、お主は放っておいて良いみたいなんだが、それはなんで?」
そんな、純粋過ぎる疑問を発する。
ライラを殺したレインは目の前で倒れて動かない。
恐らく魔王は倒されたことを理解しているのだろう。そして、何故かたまきが皆と話している。
その状況で、たまきを殺す必要はないと自身の力が示せば、その理由を知りたくなるのも当然というもの。
その問いに、たまきは自嘲気味に答えた。
「……私は後87日で死ぬからよ」
答えはそんな、明確な理由。
あっけに取られる面々に、意を決した様に話しだす。
「マナを感じ取るサニィの力は勇者の力。それを魔物の私が扱えるわけ無いじゃない。黒の小娘の使った呪いの応用で、私は命と引き換えにサニィの力を貰ったの」
魔物は陰のマナで構成されている。それに陽のマナである勇者の力を組み込めば、身体は消滅し始める。
魔法はマナタンクと呼ばれる非物理器官に貯蔵される為に魔物でも扱うことが出来るものの、勇者の力を魔物が使うことなど当然出来はしない。
だからたまきは、自分の命と引き換えに時間制限付きで混ざり合わない様、サニィのマナを体内に固定したのだと言う。
「今回の戦闘は激しかったものだから、寿命も少し縮まった。まあ、どっちにしろレイン様を残して死ぬことで満足する私は、人間にはなれないのかもね」
そう呟くたまきを責められる者は、流石に居なかった。
「たまちゃん、お母さんはたまちゃん元気かなって心配してたよ」
「愛しい人と共に過ごせて、私は幸せよ。だから、元気だって伝えてくれるかしら」
「……気が向いたらね」
素っ気なく答えるエリーに微笑む。
心を読めるが故に、エリーはたまきに強く当たることが出来なかった。
たまきの心はいつも側に居た、今は意識を失っている姉の様な人にそっくりだ。
出される結論はまるで違う。
しかし大切な人を想って心を痛める様は、人間と殆ど同じなのだと、どうしても同情してしまう。
むしろ、魔王になってしまった師匠が一人にならなくて良かったとすら、思えてしまう。
「取り敢えず、今後のことについて話そう。たまちゃんは今死んだことにしないといけないけど。取り敢えず、オリ姉が目を覚ますまで待とう。きっとオリ姉は懺悔の念で一杯だろうから、何とかしてあげないと」
言って、エリーはアリエルの方を向く。
同調してしまったのだろう。
涙を堪えきれずに、その勇敢な最期を語った。
「アリエルちゃん、ライラさんはね、満足の行く最期だったみたい。まるで手が届かないと思っていた師匠に一撃入れられたこと、アリエルちゃんをちゃんと守れたこと、そして相手が知らない魔王じゃなくて師匠だったことが、幸せだったみたいだよ。ライラさんが居たから魔王を倒すことが出来たんだよ。そして……ううん」
思い返せば、余りに大きな被害だ。
死者の総数は47名。今だ意識不明のナディアを含めた、重傷者28名。
それは過去最少の被害だったマルスの時の半分程度の被害ではあるけれど、死者ゼロには程遠い。
むしろ、狛の村の事件を含めれば死者115名。
何年も前から魔王が予見され、その為にと必死に準備をしてきたにも関わらず、史上最強の英雄の指導を受けたにも関わらず、こんな結果となってしまった。
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