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第十一章:血染めの鬼姫と妖狐と
第百四十四話:……やっぱり
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グレーズの王城は現在混乱の最中にあった。
最強の騎士であったディエゴの死はともかく、王が魔王戦に向かったという事実を国民にどう説明すべきか。
一応、王の遺書は残っている。
それは身勝手な突撃に対する謝罪、レインに対する怒り、オリヴィアに対する愛情。そして、アーツを次期国王として指名するという旨の文章で構成された遺書だった。
その中には当然狛の村事件の因果からレインが完全に悪いわけではないと分かっていながらも、魔王よりも遥かに強いのならば何故魔王に堕ちてしまったのかという遺憾の念も含まれている。
城内の意見は、真っ二つに割れた。
オリヴィアへの愛情のみならず、アーツの優秀さを謳った文も書かれたその遺書を読んで、王妃シルヴィアは、無謀な突撃をした王ピーテルを称えた。
「アーツ、あの人は王としてではなく、父としての最期を選びました。王としては確かに失格かもしれません。でも、この国に於いて、個を重んじることは非常に大切なことです。あの人は国王ピーテル・G・グレージアではなく、貴方とオリヴィアの父、ピーテル・グリューネヴァルトとして命を懸けて戦ったのです。決して勝てない相手であろうと、家族を守る為に戦う。それはまさしく父として正しい姿ではないでしょうか」
自分はぬくぬくと訓練を続け、オリヴィアを死地に向かわせることに非常な無念さを感じていることを、王妃もアーツもずっと見てきていた。
例え王としては失格であっても、この国では父として死ぬことは栄誉なことである。
そんな考え方をしたのが、誰よりも身近に居た、純潔な王の血族である王妃シルヴィアだった。
だから、指名を受けたアーツはそんなことにならなくても良い様、平和な国を作りましょう。
そういった考えのシルヴィア、アーツ派。
それに対して、大臣の一部はそれに異を唱えた。
王は結論から言えば、ただの無駄死にだ。
ディエゴが勝てない相手に無謀にも挑むという行為は愚かな行為である。
更には、現在では騎士団員と比べてもディエゴに次いだ実力者となっていた王が居なくなるということは、大きな武力的損失だ。
それを分からずに無駄死にした王が指名した凡人のアーツは王には相応しくない。
1位と言われているオリヴィアが王位を継ぎ、初の女王を認めろという意見。
世界最高の美女という宣伝効果も相まって、国の活性化には役立つだろうというのが一部の大臣の考えだった。
幸いにも、現在急激に力を伸ばしているエリーもグレーズ出身だ。彼女を近衛騎士団長に据えれば、今まで通りの、いや、今まで以上のグレーズで居られるのだ。
そんな風に強く反発した。
きっとその思惑は、現在落ち込んでいるのならば丁度良い、傀儡にしてやろうという意図があるのだろうと誰しもが察するものの、言っていることそのものはおかしいことではない。
収集の付かない中、アーツの元には一通の手紙が届いていた。
それを何度も何度も読み返す。
そこには、この展開を全て分かっていたオリヴィアの言葉が綴られていた。
父がそういう行動に出るだろうという予想。メンバーは必死に気を使っていたけれど、世話をする侍女を問い詰めた所、その反応で確信に変わったということ。
そうなれば国がどう動くかまでを分かっていたという予想が綴られていた。
手紙の最後、オリヴィアと言う名前が二重線で消されている。そして、思い出したかの様な追記。
何度も繰り返し読んで、オリヴィアが何をするのかを、アーツは理解した。
その手紙を受け取ってから半日程経った頃だろうか。
オリヴィアの世話をしていた侍女の一人が、報告があるとアーツとシルヴィアの居る会議室を訪れた。
現在ここには、国内の重鎮達が一堂に会している。
「魔王との決戦にて、オリヴィア様は魔王に腹部を貫かれ、……必死の治療も虚しく、戦死致しました。…………オリヴィア様の最後の言葉は、これで魔王は倒せた。全て予定通り、と……」
そんな無情な報告。
それに、その場の皆が頭を抱えた。
その場の内三名が、見えない様に口の端を釣り上げたことを悟られない様に、誰しもが頭を抱えて俯いた。
――。
時は戻り、胸を貫かれた魔王レインは、一瞬はっとした顔をする。
周囲を見回し、無くなった右腕と血に濡れた左腕。そこから嫌な音を立てて落ちるオリヴィアと、足元に倒れこちらを見ているエリーを見て、叫んだ。
「たまきぃぃい!!」
その叫びは必死そのもので、刺さった月光の端から血が吹き出る。
そして、ごぼっと血を吐いたかと思うと、そのまま膝から崩れ落ちた。
魔王の最後の言葉は、それだった。
その叫びを聞いたたまきはビクッと体を震わせると、その場で魔法を唱え始めた。
それに気づいたルークが即座に攻撃するが、たまきはあろうことかそれを殆ど生身で受け止める。
ぼたぼたと血を流しながらも、魔法を止めることは出来なかった。
たまきは魔王討伐隊のメンバーだけを隔離する結界を張ると、オリヴィアを治療していく。
あっけにとられる人々を置いて、腹部を貫通し、痛みに転げるオリヴィアの痛覚を一時遮断すると、その体組織を丁寧に蘇生する。
途中、距離的に見えづらかったのだろう、オリヴィアの所まで五秒ほどの詠唱で転移すると、手を触れて愛しそうに。
ルークは、いや、魔王討伐隊の全ての者達は、その光景を見た覚えがある。
「……やっぱり、聖女様なのか?」
サンダルの呟きに、たまきは曖昧に首を振った。
最強の騎士であったディエゴの死はともかく、王が魔王戦に向かったという事実を国民にどう説明すべきか。
一応、王の遺書は残っている。
それは身勝手な突撃に対する謝罪、レインに対する怒り、オリヴィアに対する愛情。そして、アーツを次期国王として指名するという旨の文章で構成された遺書だった。
その中には当然狛の村事件の因果からレインが完全に悪いわけではないと分かっていながらも、魔王よりも遥かに強いのならば何故魔王に堕ちてしまったのかという遺憾の念も含まれている。
城内の意見は、真っ二つに割れた。
オリヴィアへの愛情のみならず、アーツの優秀さを謳った文も書かれたその遺書を読んで、王妃シルヴィアは、無謀な突撃をした王ピーテルを称えた。
「アーツ、あの人は王としてではなく、父としての最期を選びました。王としては確かに失格かもしれません。でも、この国に於いて、個を重んじることは非常に大切なことです。あの人は国王ピーテル・G・グレージアではなく、貴方とオリヴィアの父、ピーテル・グリューネヴァルトとして命を懸けて戦ったのです。決して勝てない相手であろうと、家族を守る為に戦う。それはまさしく父として正しい姿ではないでしょうか」
自分はぬくぬくと訓練を続け、オリヴィアを死地に向かわせることに非常な無念さを感じていることを、王妃もアーツもずっと見てきていた。
例え王としては失格であっても、この国では父として死ぬことは栄誉なことである。
そんな考え方をしたのが、誰よりも身近に居た、純潔な王の血族である王妃シルヴィアだった。
だから、指名を受けたアーツはそんなことにならなくても良い様、平和な国を作りましょう。
そういった考えのシルヴィア、アーツ派。
それに対して、大臣の一部はそれに異を唱えた。
王は結論から言えば、ただの無駄死にだ。
ディエゴが勝てない相手に無謀にも挑むという行為は愚かな行為である。
更には、現在では騎士団員と比べてもディエゴに次いだ実力者となっていた王が居なくなるということは、大きな武力的損失だ。
それを分からずに無駄死にした王が指名した凡人のアーツは王には相応しくない。
1位と言われているオリヴィアが王位を継ぎ、初の女王を認めろという意見。
世界最高の美女という宣伝効果も相まって、国の活性化には役立つだろうというのが一部の大臣の考えだった。
幸いにも、現在急激に力を伸ばしているエリーもグレーズ出身だ。彼女を近衛騎士団長に据えれば、今まで通りの、いや、今まで以上のグレーズで居られるのだ。
そんな風に強く反発した。
きっとその思惑は、現在落ち込んでいるのならば丁度良い、傀儡にしてやろうという意図があるのだろうと誰しもが察するものの、言っていることそのものはおかしいことではない。
収集の付かない中、アーツの元には一通の手紙が届いていた。
それを何度も何度も読み返す。
そこには、この展開を全て分かっていたオリヴィアの言葉が綴られていた。
父がそういう行動に出るだろうという予想。メンバーは必死に気を使っていたけれど、世話をする侍女を問い詰めた所、その反応で確信に変わったということ。
そうなれば国がどう動くかまでを分かっていたという予想が綴られていた。
手紙の最後、オリヴィアと言う名前が二重線で消されている。そして、思い出したかの様な追記。
何度も繰り返し読んで、オリヴィアが何をするのかを、アーツは理解した。
その手紙を受け取ってから半日程経った頃だろうか。
オリヴィアの世話をしていた侍女の一人が、報告があるとアーツとシルヴィアの居る会議室を訪れた。
現在ここには、国内の重鎮達が一堂に会している。
「魔王との決戦にて、オリヴィア様は魔王に腹部を貫かれ、……必死の治療も虚しく、戦死致しました。…………オリヴィア様の最後の言葉は、これで魔王は倒せた。全て予定通り、と……」
そんな無情な報告。
それに、その場の皆が頭を抱えた。
その場の内三名が、見えない様に口の端を釣り上げたことを悟られない様に、誰しもが頭を抱えて俯いた。
――。
時は戻り、胸を貫かれた魔王レインは、一瞬はっとした顔をする。
周囲を見回し、無くなった右腕と血に濡れた左腕。そこから嫌な音を立てて落ちるオリヴィアと、足元に倒れこちらを見ているエリーを見て、叫んだ。
「たまきぃぃい!!」
その叫びは必死そのもので、刺さった月光の端から血が吹き出る。
そして、ごぼっと血を吐いたかと思うと、そのまま膝から崩れ落ちた。
魔王の最後の言葉は、それだった。
その叫びを聞いたたまきはビクッと体を震わせると、その場で魔法を唱え始めた。
それに気づいたルークが即座に攻撃するが、たまきはあろうことかそれを殆ど生身で受け止める。
ぼたぼたと血を流しながらも、魔法を止めることは出来なかった。
たまきは魔王討伐隊のメンバーだけを隔離する結界を張ると、オリヴィアを治療していく。
あっけにとられる人々を置いて、腹部を貫通し、痛みに転げるオリヴィアの痛覚を一時遮断すると、その体組織を丁寧に蘇生する。
途中、距離的に見えづらかったのだろう、オリヴィアの所まで五秒ほどの詠唱で転移すると、手を触れて愛しそうに。
ルークは、いや、魔王討伐隊の全ての者達は、その光景を見た覚えがある。
「……やっぱり、聖女様なのか?」
サンダルの呟きに、たまきは曖昧に首を振った。
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