雨の世界の終わりまで

七つ目の子

文字の大きさ
上 下
364 / 592
第九章:最後の魔王

第百二十七話:こいつはもう

しおりを挟む
 アリエルの力は一切の感情を考慮しない。
 今までの幾度ものデータから、それは完全に分かっていた。
 それでも尚、魔王討伐隊の面々はそれに従い続けている。
 理由は簡単だ。

 単純に今の場面で犠牲が少なくなる方法ならばルークが作戦を立てるのが最善だろう。
 最も冷静に場を把握し、最も鋭い洞察力と、頭の回転。それら全ての面に於いて、ルークは図抜けている。
 ルークの指示通りに完璧に動くことさえできれば、少しずつ追い詰める様に連携を取り魔王を討伐することが出来るだろう。
 しかし、それはあくまで現状が維持され続けるのであれば、全ての人員が正確な駒であればに限り。
 今回の様にたまきが合流することを予測することなど不可能に近いし、魔王がレインだったことでオリヴィアがどれほど動けなくなるのかも想像出来ない。

 つまり、アリエルに従わなければいつ魔王相手に全滅してしまってもおかしくないのだ。
 今回もそうだった。
 ディエゴ達三人の加勢に加わり善戦するだけならばさほど難しい話ではない。
 しかし、それで勝てるかどうかと言われれば、まるで別の話。
 相手が全盛期のレインであるのならば、中途半端な加勢は逆効果。助けに来たことでほんの一瞬でも緩むディエゴの、隙とも言えない隙を突かれて崩されることなど容易に想像出来る。
 少なくとも、魔王でないレインはそれほどの強さを持っていた。
 ここに居る創設メンバーは、誰しもがそれを知っている。

【犠牲者が出てしまった以上、スローガンは叶わない。ならば次は、如何に少ない犠牲で倒せるか、それを考えるしかない】

 エリーとオリヴィアの居る隣の部屋から、そんな心の声が漏れ聞こえてくる。
 それは恐らく、何人もの重なった思念だろう。
 覚悟の中の悲痛さが何層にも分かれている。
 そんな中で、明らかに違う声が混ざっているのが分かる。

【アリエルちゃんの力がグレーズへの報告を示す……。グレーズ……ディエゴさんの戦死……オリヴィアさんの心は…………そしてレインさんが、…………国王は……】

 既に思考を切り替えているルークは、こういう時に頼もしい。
 しかしその心の声は、一瞬にして絶望に変わった。

【まずい! エリーちゃん! 直ぐグレーズに飛ぶんだ!】

 アリエルの力は一切の感情を考慮しない。
 その指示に従えば間違いなく最少の犠牲で魔王を討伐出来ることだろう。
 しかしそれでも、流石のルークを以てしても、それだけはどうしても許すことが出来なかった。
 その最少の犠牲は恐らく、最大の……。

「オリ姉、ちょっとここで待ってて」
「え、エリーさん? 行かないで」
「イリス姉に来てもらうから待っててね、少しだけだから」

 いつになく弱気になっているオリヴィアを精神介入で無理やり宥めつつ、ルークの声に従って急いで部屋を飛び出す。
 ルークの想像通りなら、それはきっと、最悪の結果を招く。
 いや、ほぼ確実にそうなることだろう。
 今まで見てきた凡ゆる心を鑑みるに、ルークの予測が当たる確率は限りなく100%に近い。
 あの人は、そういう人だった。
 そして何よりも……。

 あの言葉を正しく受け取っていたのは魔王討伐隊の面々だけだ。

 隣の部屋で心を介して報告を聞いていたエリーは、それを把握している。
 だからこそ、行かねばならないと思った。
 今はオリヴィアを置いてでも、直ぐにグレーズに走らねばと、エリーはそう思った。

 ――。

「こいつはもう勇者ではない!」

 ディエゴが最期に残したその言葉が示す意味は、勝算があるという意味だ。
 隙を見る力、次元さえ超えてしまう様なその圧倒的な勇者の力は、当然ながら陰のマナのみで構成されたその肉体では持ち得ない。しかし、見ただけでそれを見抜く者は、何も言わずに散ってしまったナディアを除いて誰一人、戦わなければ存在しない。
 だからこそディエゴは、希望をもたらす為にその言葉を残した。

 魔王討伐隊の面々だけは、その意図をはっきりと把握していた。

 しかし、それ以外の人々にはそれがディエゴの悲痛の言葉に聞こえても、何もおかしくはなかった。
しおりを挟む
ツギクルバナー
感想 9

あなたにおすすめの小説

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第三章フェレスト王国エルフ編

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る

早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」 解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。 そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。 彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。 (1話2500字程度、1章まで完結保証です)

お願いだから俺に構わないで下さい

大味貞世氏
ファンタジー
高校2年の9月。 17歳の誕生日に甲殻類アレルギーショックで死去してしまった燻木智哉。 高校1年から始まったハブりイジメが原因で自室に引き籠もるようになっていた彼は。 本来の明るい楽観的な性格を失い、自棄から自滅願望が芽生え。 折角貰った転生のチャンスを不意に捨て去り、転生ではなく自滅を望んだ。 それは出来ないと天使は言い、人間以外の道を示した。 これは転生後の彼の魂が辿る再生の物語。 有り触れた異世界で迎えた新たな第一歩。その姿は一匹の…

異世界でリサイクルショップ!俺の高価買取り!

理太郎
ファンタジー
坂木 新はリサイクルショップの店員だ。 ある日、買い取りで査定に不満を持った客に恨みを持たれてしまう。 仕事帰りに襲われて、気が付くと見知らぬ世界のベッドの上だった。

Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!

仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。 しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。 そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。 一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった! これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!

処理中です...