雨の世界の終わりまで

七つ目の子

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第九章:最後の魔王

第百二十話:あれが魔王……

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 二人が集合地点に辿り着くと、そこには既に大半のメンバーが集まっていた。
 ディエゴは騎士団を纏める為に少々遅れてくるが、他に来ていないのはナディアだけ。
 集合地点は魔王の予兆とされる黒い渦から10kmの地点。誕生はまだ少し先になる予定・・の為、予め現場を把握しておく必要がある。
 どう考えても個々では勝てない敵を相手にする際重要なことは、如何に自分達に有利な状況を作り出すか。
 誕生の場所は森の中の開けた場所だ。

 その為エリーは気になることを聞いてみた。

「あれ、アリエルちゃん、ナディアさんはどうしたの?」

 ナディアは自分に有利な状況を作り出すことに関してはプロフェッショナルだ。
 幾重にも罠を張り巡らせた戦場さえあらかじめ用意しておけば、オリヴィアでもそれを突破するのは至難となる。魔王にそれが通用するかはともかく、ほんの一瞬でも隙を作ることが出来れば、歴戦の誰かがその心臓を貫ける可能性は随分と上昇する。
 その為に、エリーは彼女の助けを欲していたのだが……。

「ナディアは来ない」

 アリエルはそう断言する。

「え、なんで?」
「理由は分からないが、妾の力にそう出たんだ。ナディアが来ると、戦いは困難を極めると」

 アリエル自身も、理由は分かってない。
 この時の為に共に修行を積んできたナディアを置いてくる等と言うのは、やはりアリエルにも辛いことの様だ。
 しかし、魔王戦は人類の存亡に関わる戦い。
 己の心を頑張って殺そうとしているアリエルを見ると、エリーも何も言えなくなってしまう。

「魔女様も来たいって言ってたんだけどね、私が無理矢理置いてきたんだ。連絡を受けて、女性相手に申し訳ないけれど、寝込みを縛らせてもらってね……。見張りを付けた上で道中の転移師に、彼女を転移させない様に頼みながら……」

 長らくナディアと行動を共にしてきたサンダルもそう首を振る。
 その言い方からして、サンダルはナディアを置いて全力で走ってきたのだろう。
 ナディアの性格は、皆が知っている。
 今まで何度も討伐隊の一員であるにも関わらず、一人だけ置いてけぼりのような状況を経験させている。
 遂には魔王戦までもそんなことになってしまって、彼女が納得するはずはないのだ。

 その場の全員がそれを聞いて、サンダルを悪く思うこともなく、ナディアに同情していた。

「そっか。じゃ、終わったら皆でナディアさんの実験台になろっか」

 その提案に、反対意見は出なかった。

 ……。

「ところでサンダルさん、前のランキングに本日はこの順位って書いてあったけど、あれどういうことなの?」
「……あぁ、あれは魔女様の投げたナイフに毒が塗ってあってね…………」

 以前サンダルの頬を掠めたナイフはには軽度の毒が塗ってあった。
 死ぬほどではなく、著しく体が重くなる程度のもの。
 流石研究を続けてきた魔女様だと感心しながらも、これまで避けて来たナイフにももしかしたら塗ってあったのではと思うと背筋が寒くなったもの、その日以降には掠めてもなんとも無かった。つまり、あの時は照れ隠しなのだなと好意的な解釈をしていたサンダルは、やはり良い男なのだろう。

 ……というところまで読み取ったエリーは思わず呆れながら呟いた。

「ああ、そうなんだ……」

 師の一人でもあるナディアが報われるのは素直に嬉しいものの、サンダルとの関係性は理解出来ない。
 ナディアは素直にサンダルを気持ち悪いと思っているし、サンダルはサンダルでナディアに聖女サニィを重ねて来ていた。
 それでよく一緒に居られるなと思っていたものだったが、サンダル自身がナディアを許すことで自身のアイデンティティを守っていると言うのならば、……やっぱり理解出来ない。
 そんなことを考えながら、現場へと向かう。

 ――。

「あれが魔王……」

 黒く、渦巻く何か。
 その心を読み取ろうとしても、よく分からない。
 通常の魔物の様に陰湿なわけでも、勇者を憎んでいるわけでも、リシンの様に助けを求める訳でも、必死に抗おうとする訳でも、苦しんでいる訳でもない。
 それよりもむしろ。

「凄く、穏やかな感じ。イリス姉は何か感じる?」

 エリーは言葉の裏を読み取るイリスに尋ねる。
 イリスの今の力はほんの僅かにマナの言葉を感じ取れる程に洗練されているが、返答は。

「私も分からないな。何も分からない。お姉ちゃんは何か感じない? ウアカリの力って、魔物にも働く場合あるでしょ?」

 ソレは、何一つ言葉を発していない。

 性別のある一部の魔物には、ウアカリの力が働く。
 前回の黒の魔王がヴァンパイアプリンセス、つまり女性型だったということは、今回はもしかしたら男の形をとる可能性もある。

「アタシには男の様な感じだとしか理解出来ない」

 隣に居たクーリアの反応も、そんなもの。
 ウアカリが言うのであればそれは男の形を取るということで間違いはなかろうが、何一つ分かることはない。

「今は実体が有りませんわね。私の必中でも対象外の様ですわ」

 早く倒せるなら、それに越したことはない。
 しかし今はやはり、互いに準備期間の様だ。

 英雄候補達は、周囲の森、その他地形を入念に調べ、可能な限り有利な戦いを仕掛けられるように準備を進めるのみだった。
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