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第八章:ほんの僅かの前進
第百十五話:狐、たまきの所在は一切不明
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アルカナウィンド女王アリエル・エリーゼの力は正しき道を示すことだ。
誰がそう言い始めたのだろうか、ずっとこの国を支えている宰相ロベルトならば知っているかもしれないが聞いたことはない。
アリエルは自身の力を、7年ほど前まで一切疑うことがなかった。
自らの頭の中に浮かんでくる答えの様なものを母やロベルトに伝えれば皆が喜んでくれる。
本気で、そう信じていた。
そう。自らの力が示した通りの道に従って母親が死ぬまでは。
「狐の監視はする必要なし。そう、出てたんだがなぁ」
エリーとオリヴィアの報告を聞いて、魔王討伐軍の司令部にその調査を指示すると、驚くべき返答が返って来た。
【狐、たまきの所在は一切不明。ただし、今現在魔王への関与は否定できず】
凡ゆる情報系の勇者の力を用いてしても、それまでは交戦の意図なしで統一されていたたまきの情報。
それが今になって変化し始めた。
しかしアリエルの力には、今でも狐は放置して問題なしと出ている。
「どういうことだと思う?」
目の前の宰相ロベルトと、護衛のライラに問う。
すると、ロベルトはしばし悩んだあと、うーむと唸りながら言いにくそうに答え始めた。
問題点を見抜くというロベルトの力は、こういう時に頼もしい。
「アリエル様の力は感情を一切考慮しません」
「……そうだな」
母の件も、それが原因でアリエルは苦しんだ。
最も苦しまない最期を迎えさせる為の方法としては正しくとも、それでアリエルがどれだけ悲しんだことか、思い出すのも嫌なほど。
それを踏まえた上で、ロベルトは続ける。
「且つ、どう手を加えても変わらない道に関しては、問題なしと出るのではないかと、思われます」
ロベルトの力は、現在問題となっている点を強く示す。
つまり、たまきを放置しようが処分しようが、辿る道は一切変わらない。
「と言うことは、たまきが何をしても、何もしなくとも、妾達には関係ないと考えるしかないのか……」
それは同時に、狐側がアクションを起こしても起こさなくとも、感情以外の変化は何一つ起こらないということでもあるということ。
結論だけ言ってしまえば、悩むだけ無駄だということだ。
「しかし、魔王への関与の可能性ありというのも気になるな」
「それに関しては、私達を信じていただくしか有りません」
無駄だと分かっていても顎に手を当て思案してしまうアリエルにそう声をかけたのはライラだ。
今も尚ストレッチに形の確認と余念がない彼女は、最早護衛と言うよりも変なお姉さんの様相を呈しているが、最早それは誰も気にしていない。
魔王戦の前に素手同士の対決でエリーに負けて以来、ほんの少しでも強くなる為にならなんでもすると、この様に仕事中にも忙しなく動いている。
アリエル自身は護衛を他の騎士に任せようかと気を利かすのだが、それでも今は、護衛をやめるつもりはないらしい。
「そうか。そうだな。ライラやオリヴィアさんが、一人ならともかくみんな揃って魔王に負けるわけないもんな」
そんな変なお姉さんの言葉に、アリエルは元気を取り戻す。
目の前の護衛は、一人でドラゴン級の魔物を仕留めてしまう化物だ。
形の確認に余念がないから隙があるのではと、護衛という気負いをなくさせたい一心で一度近衛騎士の半分に自身を奇襲させて見た時には、その半数が瀕死になるという事態にも陥る程に気も高まっている。
そんなライラが今も鍛錬を続けているのを見ると、自然と大丈夫だという気分になってくるものだった。
最強の護衛は、言う。
「今の魔王討伐軍は、過去460年で最強です。ドラゴンを単独で討伐するなど夢のまた夢だと言われていた10年前までとは、訳が違う。アリエルちゃんは安心して、腕を組んで見守っていると良いんです」
今の魔王討伐軍には、一国を軽く滅ぼすと言われたドラゴンを単独で仕留めた者が二人居る。そして、それと同等の化物であるタイタンを単独で仕留めた者、キマイラを単独で仕留めた者。
そして、そんな彼女達が切り札の様に言うエリーが居る。
鬼神レインは別格としても、軍としては間違いなく過去最強だ。今までの魔王討伐軍は、五人で揃ってようやくドラゴンを倒せるレベルの者が中心。そして彼らは今も尚、七英雄として伝説的に語られている。
ならば、アリエルに言えることは一つだけだった。
「ああ。世界を任せたぞ、ライラ」
――。
「アリエルちゃんからの返事が来たよ。なになに、……【二人は魔王討伐軍の中でも最高戦力、細かいことは気にせず魔王にのみ集中せよ】だって」
アリエルに軍経由で速達の手紙を送ってから三日程、折り返しの手紙をオリヴィアの前でエリーは読む。
そこにはその間にあった葛藤等は何も記されていない。
しかし、二人は分かっていた。
もう流石に長い付き合いだ。
「細かいこと、と言うことは、やはり色々あるんですのね」
「アリエルちゃん隠すの下手だからねー。でも、確かに手紙に書いてあることも最もね」
「ええ。修行、続けるしかありませんわね」
結局出来ることの再確認になっただけではあるが、アリエルが言うのならば確かに間違いはない。
オリヴィアはともかく、エリーは今度あったら思いっきりもふもふしてやろう等と考えながら、修行を再開するのだった。
誰がそう言い始めたのだろうか、ずっとこの国を支えている宰相ロベルトならば知っているかもしれないが聞いたことはない。
アリエルは自身の力を、7年ほど前まで一切疑うことがなかった。
自らの頭の中に浮かんでくる答えの様なものを母やロベルトに伝えれば皆が喜んでくれる。
本気で、そう信じていた。
そう。自らの力が示した通りの道に従って母親が死ぬまでは。
「狐の監視はする必要なし。そう、出てたんだがなぁ」
エリーとオリヴィアの報告を聞いて、魔王討伐軍の司令部にその調査を指示すると、驚くべき返答が返って来た。
【狐、たまきの所在は一切不明。ただし、今現在魔王への関与は否定できず】
凡ゆる情報系の勇者の力を用いてしても、それまでは交戦の意図なしで統一されていたたまきの情報。
それが今になって変化し始めた。
しかしアリエルの力には、今でも狐は放置して問題なしと出ている。
「どういうことだと思う?」
目の前の宰相ロベルトと、護衛のライラに問う。
すると、ロベルトはしばし悩んだあと、うーむと唸りながら言いにくそうに答え始めた。
問題点を見抜くというロベルトの力は、こういう時に頼もしい。
「アリエル様の力は感情を一切考慮しません」
「……そうだな」
母の件も、それが原因でアリエルは苦しんだ。
最も苦しまない最期を迎えさせる為の方法としては正しくとも、それでアリエルがどれだけ悲しんだことか、思い出すのも嫌なほど。
それを踏まえた上で、ロベルトは続ける。
「且つ、どう手を加えても変わらない道に関しては、問題なしと出るのではないかと、思われます」
ロベルトの力は、現在問題となっている点を強く示す。
つまり、たまきを放置しようが処分しようが、辿る道は一切変わらない。
「と言うことは、たまきが何をしても、何もしなくとも、妾達には関係ないと考えるしかないのか……」
それは同時に、狐側がアクションを起こしても起こさなくとも、感情以外の変化は何一つ起こらないということでもあるということ。
結論だけ言ってしまえば、悩むだけ無駄だということだ。
「しかし、魔王への関与の可能性ありというのも気になるな」
「それに関しては、私達を信じていただくしか有りません」
無駄だと分かっていても顎に手を当て思案してしまうアリエルにそう声をかけたのはライラだ。
今も尚ストレッチに形の確認と余念がない彼女は、最早護衛と言うよりも変なお姉さんの様相を呈しているが、最早それは誰も気にしていない。
魔王戦の前に素手同士の対決でエリーに負けて以来、ほんの少しでも強くなる為にならなんでもすると、この様に仕事中にも忙しなく動いている。
アリエル自身は護衛を他の騎士に任せようかと気を利かすのだが、それでも今は、護衛をやめるつもりはないらしい。
「そうか。そうだな。ライラやオリヴィアさんが、一人ならともかくみんな揃って魔王に負けるわけないもんな」
そんな変なお姉さんの言葉に、アリエルは元気を取り戻す。
目の前の護衛は、一人でドラゴン級の魔物を仕留めてしまう化物だ。
形の確認に余念がないから隙があるのではと、護衛という気負いをなくさせたい一心で一度近衛騎士の半分に自身を奇襲させて見た時には、その半数が瀕死になるという事態にも陥る程に気も高まっている。
そんなライラが今も鍛錬を続けているのを見ると、自然と大丈夫だという気分になってくるものだった。
最強の護衛は、言う。
「今の魔王討伐軍は、過去460年で最強です。ドラゴンを単独で討伐するなど夢のまた夢だと言われていた10年前までとは、訳が違う。アリエルちゃんは安心して、腕を組んで見守っていると良いんです」
今の魔王討伐軍には、一国を軽く滅ぼすと言われたドラゴンを単独で仕留めた者が二人居る。そして、それと同等の化物であるタイタンを単独で仕留めた者、キマイラを単独で仕留めた者。
そして、そんな彼女達が切り札の様に言うエリーが居る。
鬼神レインは別格としても、軍としては間違いなく過去最強だ。今までの魔王討伐軍は、五人で揃ってようやくドラゴンを倒せるレベルの者が中心。そして彼らは今も尚、七英雄として伝説的に語られている。
ならば、アリエルに言えることは一つだけだった。
「ああ。世界を任せたぞ、ライラ」
――。
「アリエルちゃんからの返事が来たよ。なになに、……【二人は魔王討伐軍の中でも最高戦力、細かいことは気にせず魔王にのみ集中せよ】だって」
アリエルに軍経由で速達の手紙を送ってから三日程、折り返しの手紙をオリヴィアの前でエリーは読む。
そこにはその間にあった葛藤等は何も記されていない。
しかし、二人は分かっていた。
もう流石に長い付き合いだ。
「細かいこと、と言うことは、やはり色々あるんですのね」
「アリエルちゃん隠すの下手だからねー。でも、確かに手紙に書いてあることも最もね」
「ええ。修行、続けるしかありませんわね」
結局出来ることの再確認になっただけではあるが、アリエルが言うのならば確かに間違いはない。
オリヴィアはともかく、エリーは今度あったら思いっきりもふもふしてやろう等と考えながら、修行を再開するのだった。
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