349 / 592
第八章:ほんの僅かの前進
第百十二話:勝てる気しないんだけど
しおりを挟む
次の日、イリスはオリヴィアと手合わせをした。
夕食時の一件はあったものの、イリスもオリヴィアも特に気まずい雰囲気になるでも調子を狂わせるわけでもなく、無事にイリスの鍛錬を兼ねた手合わせは終了した。
「ふう。いい調子ですわね」
「ほんと、エリーちゃんの一言は的確だね」
「ふふふ、それが的確に聞こえるのはイリスさん位のものですわ」
アーツに稽古を付けるときには、こういう感じ、と言いながら身振り手振りで教えているエリー。
それが言葉の裏までをも聞けるイリスには的確に聞こえる様で、思わず笑ってしまう。
的確な一言とは、つまり盾についてだ。
もう少し大きな盾。
その一言は、イリスの戦い方の大きなヒントになっていた。
元々小型の盾を利用していたイリスは、それを斜めに傾けたり振りながら敵の攻撃に合わせることで、受け流したり弾いたりとそう言った戦い方を主体としてきた。上手く決まれば相手の隙を作れるものの、受け止められる衝撃には限りがある。盾が小さい為に、足もしっかりと使っていかなければ攻撃を防ぎきることは出来ない。
そんな戦い方だった。
何故それが一番向いていると考えていたのかは最早覚えていないものの、恐らく戦士として剣で相手を倒したいという意識が漏れていたのだろう。
そんな意識が残っていたのだろうか、エリーとの戦いの際には相変わらず攻撃を弾く意識が強く、長剣の貫通によって見事にその意識に隙を作られたのだ。
そこで、オリヴィアとの戦いの際にはもう少し大きい盾を用意した。
受け流すだけではなく、しっかりと受け止められる位の大きさのもの。
その選択が功を奏した。
オリヴィアの右手のレイピアはいつも通り受け流し、左手の不壊の剣は受け止める。
そんな使い分けが、少し盾の大きさを変えるだけで実現出来たのだと言う。
「ヒントはエリーちゃんの突進なんだよね。盾に完全に隠れちゃうなんていうのはエリーちゃんしかできないけど、盾に信頼を置くって行為を今まで私はしてこなかった」
そう言いながら、昨日は潰された左腕をさする。
「あの盾は特別性ですけれど……、でもエリーさんに潰されてすぐに盾に信頼を置けるイリスさんは凄いですわ」
「あはは、あれは思わず自分から腕を振っちゃったんだよね。今までの癖と盾の重さでやっちゃったって感じ」
今回の手合わせは、互いに一切の怪我無し。
防御に徹したイリスに攻めあぐねるオリヴィアだったが、互いに一切の隙を見せず膠着状態が続いた。
最終的に隙間とも言えない防御の隙間を突いた必中のオリヴィアが勝ちはしたものの、その防御はドラゴンよりも堅いと言うのがオリヴィアの評価だった。
「これから専用の盾を作るよ。少しの衝撃吸収と、徹底的に頑丈なだけの盾だけどね」
そんな言葉で、最後は締められた。
エリーから学んだ盾で戦う技術の集大成は、オリヴィアですら攻めの糸口を見出すのに苦労する程の防御。
それで決定した様だ。
それは実際魔物に対しても有効で、威圧感のある風貌に多くの魔物達は怯み、また勇敢な魔物はイリスの言霊の支配下となる。魔王に対してはそれらが通用しなくとも、生存率は飛躍的に高まった。
盾をただの防具として見るのではなく、武器として見ることで自身の戦士として有りたいという精神とのミスマッチをも解消して、イリスは飛躍的に強くなった。
――。
数日後、勇者のランキングが更新されたという記事が出回った。
1位 オリヴィア
2位 ライラ
3位 ナディア
4位 エリー
5位 ディエゴ
6位 サンダル ※本日はこの順位
7位 イリス
どこの誰が集計したのかも分からないそのランキングは、以前と変わらず同じ新聞社。
しかし、それを見て英雄候補達は皆が納得を覚えたのだった。
特に、エリーの順位に関して。
地味に順位の下がっていたサンダルとディエゴの差は、本日はこの順位という注釈が気になるものの、イリスがそのランキングに載ったことも、魔王戦に向けての大きな一歩だろう。
――。
「あれ、私っていつの間にかディエゴさん超えてるの? 勝てる気しないんだけど」
「うーん、難しいところですわね。多分ディエゴとエリーさんが直接戦ったらディエゴが勝つのでしょうけれど、それ以外の相手だったり対魔物に関しては、確かに最近のエリーさんは凄いと認めざるを得ませんわ……」
「そっか。でもオリ姉は私以外に負けちゃダメだよ」
「ふふ、エリーさんにも負けませんわ。一番弟子をエリーさんに譲る代わりに、月光はわたくしのものですもの」
「何? やるの?」
「はいはい、来月またやりましょう」
ウアカリを発ち西の港町へと着いた二人は、今日もそんな風に闘志を漲らせていた。
到着した直後に二人で60m程のドラゴンを討伐したのだが、それも彼女達にとっては最早大した敵ではなくなっているらしい。
その様子を見た街の人々が、相変わらず血に濡れたオリヴィアに恐怖しながらも、二人を英雄の様に讃えていたことは、一先ず置いておいても良いだろう
夕食時の一件はあったものの、イリスもオリヴィアも特に気まずい雰囲気になるでも調子を狂わせるわけでもなく、無事にイリスの鍛錬を兼ねた手合わせは終了した。
「ふう。いい調子ですわね」
「ほんと、エリーちゃんの一言は的確だね」
「ふふふ、それが的確に聞こえるのはイリスさん位のものですわ」
アーツに稽古を付けるときには、こういう感じ、と言いながら身振り手振りで教えているエリー。
それが言葉の裏までをも聞けるイリスには的確に聞こえる様で、思わず笑ってしまう。
的確な一言とは、つまり盾についてだ。
もう少し大きな盾。
その一言は、イリスの戦い方の大きなヒントになっていた。
元々小型の盾を利用していたイリスは、それを斜めに傾けたり振りながら敵の攻撃に合わせることで、受け流したり弾いたりとそう言った戦い方を主体としてきた。上手く決まれば相手の隙を作れるものの、受け止められる衝撃には限りがある。盾が小さい為に、足もしっかりと使っていかなければ攻撃を防ぎきることは出来ない。
そんな戦い方だった。
何故それが一番向いていると考えていたのかは最早覚えていないものの、恐らく戦士として剣で相手を倒したいという意識が漏れていたのだろう。
そんな意識が残っていたのだろうか、エリーとの戦いの際には相変わらず攻撃を弾く意識が強く、長剣の貫通によって見事にその意識に隙を作られたのだ。
そこで、オリヴィアとの戦いの際にはもう少し大きい盾を用意した。
受け流すだけではなく、しっかりと受け止められる位の大きさのもの。
その選択が功を奏した。
オリヴィアの右手のレイピアはいつも通り受け流し、左手の不壊の剣は受け止める。
そんな使い分けが、少し盾の大きさを変えるだけで実現出来たのだと言う。
「ヒントはエリーちゃんの突進なんだよね。盾に完全に隠れちゃうなんていうのはエリーちゃんしかできないけど、盾に信頼を置くって行為を今まで私はしてこなかった」
そう言いながら、昨日は潰された左腕をさする。
「あの盾は特別性ですけれど……、でもエリーさんに潰されてすぐに盾に信頼を置けるイリスさんは凄いですわ」
「あはは、あれは思わず自分から腕を振っちゃったんだよね。今までの癖と盾の重さでやっちゃったって感じ」
今回の手合わせは、互いに一切の怪我無し。
防御に徹したイリスに攻めあぐねるオリヴィアだったが、互いに一切の隙を見せず膠着状態が続いた。
最終的に隙間とも言えない防御の隙間を突いた必中のオリヴィアが勝ちはしたものの、その防御はドラゴンよりも堅いと言うのがオリヴィアの評価だった。
「これから専用の盾を作るよ。少しの衝撃吸収と、徹底的に頑丈なだけの盾だけどね」
そんな言葉で、最後は締められた。
エリーから学んだ盾で戦う技術の集大成は、オリヴィアですら攻めの糸口を見出すのに苦労する程の防御。
それで決定した様だ。
それは実際魔物に対しても有効で、威圧感のある風貌に多くの魔物達は怯み、また勇敢な魔物はイリスの言霊の支配下となる。魔王に対してはそれらが通用しなくとも、生存率は飛躍的に高まった。
盾をただの防具として見るのではなく、武器として見ることで自身の戦士として有りたいという精神とのミスマッチをも解消して、イリスは飛躍的に強くなった。
――。
数日後、勇者のランキングが更新されたという記事が出回った。
1位 オリヴィア
2位 ライラ
3位 ナディア
4位 エリー
5位 ディエゴ
6位 サンダル ※本日はこの順位
7位 イリス
どこの誰が集計したのかも分からないそのランキングは、以前と変わらず同じ新聞社。
しかし、それを見て英雄候補達は皆が納得を覚えたのだった。
特に、エリーの順位に関して。
地味に順位の下がっていたサンダルとディエゴの差は、本日はこの順位という注釈が気になるものの、イリスがそのランキングに載ったことも、魔王戦に向けての大きな一歩だろう。
――。
「あれ、私っていつの間にかディエゴさん超えてるの? 勝てる気しないんだけど」
「うーん、難しいところですわね。多分ディエゴとエリーさんが直接戦ったらディエゴが勝つのでしょうけれど、それ以外の相手だったり対魔物に関しては、確かに最近のエリーさんは凄いと認めざるを得ませんわ……」
「そっか。でもオリ姉は私以外に負けちゃダメだよ」
「ふふ、エリーさんにも負けませんわ。一番弟子をエリーさんに譲る代わりに、月光はわたくしのものですもの」
「何? やるの?」
「はいはい、来月またやりましょう」
ウアカリを発ち西の港町へと着いた二人は、今日もそんな風に闘志を漲らせていた。
到着した直後に二人で60m程のドラゴンを討伐したのだが、それも彼女達にとっては最早大した敵ではなくなっているらしい。
その様子を見た街の人々が、相変わらず血に濡れたオリヴィアに恐怖しながらも、二人を英雄の様に讃えていたことは、一先ず置いておいても良いだろう
0
お気に入りに追加
402
あなたにおすすめの小説
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします
Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。
相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。
現在、第三章フェレスト王国エルフ編
転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】
ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします
ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった
【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。
累計400万ポイント突破しました。
応援ありがとうございます。】
ツイッター始めました→ゼクト @VEUu26CiB0OpjtL
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る
早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」
解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。
そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。
彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。
(1話2500字程度、1章まで完結保証です)
お願いだから俺に構わないで下さい
大味貞世氏
ファンタジー
高校2年の9月。
17歳の誕生日に甲殻類アレルギーショックで死去してしまった燻木智哉。
高校1年から始まったハブりイジメが原因で自室に引き籠もるようになっていた彼は。
本来の明るい楽観的な性格を失い、自棄から自滅願望が芽生え。
折角貰った転生のチャンスを不意に捨て去り、転生ではなく自滅を望んだ。
それは出来ないと天使は言い、人間以外の道を示した。
これは転生後の彼の魂が辿る再生の物語。
有り触れた異世界で迎えた新たな第一歩。その姿は一匹の…
異世界でリサイクルショップ!俺の高価買取り!
理太郎
ファンタジー
坂木 新はリサイクルショップの店員だ。
ある日、買い取りで査定に不満を持った客に恨みを持たれてしまう。
仕事帰りに襲われて、気が付くと見知らぬ世界のベッドの上だった。
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる