319 / 592
第七章:鬼の棲む山の拒魔の村
第八十二話:やっぱり正解だったね
しおりを挟む
全員が漣に集まった翌日、アルカナウィンドのロベルトとグレーズ王国のババ様と呼ばれる占い師から緊急の連絡として、狛の村が全滅したとの連絡が入った。
前日はこれからについての編成等と、狛の村の最悪の事態についての会議を行っていたが、予想よりも早くその時は来てしまった。
しかし皮肉なことに、一度こうなってしまえばアリエルの力は最大の効力を発揮する。
相手の感情を抜きにして考えるのならば、つまり、狛の村の人々が物言わぬ状態になってしまっているのならば、その力の導くとおりに動けば良い。
正しき道を示す等とは言うものの、それはアリエルにとって正しいものとも、狛の住人にとって正しいものとも限らない。
以前、アリエルはこの能力に頼った結果母親を失った。
それはきっと、母親にとっては最も苦しまずに済んだ死に方だったのだろうが、アリエルにとっては凄惨の一言。死が決まっていたとはいえ、納得ができるかといえばそれはまた別だ。
その際には宰相ロベルトが確実に母親の味方だと分かっていた為に、なんとか母親が恐怖を感じずに逝けたのなら仕方が無いと諦めることは出来た。
しかしながら、今回はその過去があった為にアリエルは躊躇してしまった所に、この訃報だ。
だからこそ、アリエルは贖罪の様に素早く動いた。
その連絡を受けた10分後には、全てのメンバーを集めて指示を出す。
会議は省略、始めから力の示す通りの作戦を皆へと伝える。
その作戦はシンプルなものだ。
狛の村周辺に出現した新種の魔物を、エリー、オリヴィア、イリスの三名でそれを討伐。
残るディエゴ、ルーク、エレナ、マルス、クーリア、ナディア、サンダルの7名は抑止力となっていた狛の村の住人が全滅した為に死の山から溢れ出すと予想される魔物達の討伐に当たる。
山の周囲を囲うように七名が配置され、魔物達を殲滅する作戦となる。
メンバー構成は力の示す通り、周囲への配置はもう少し少人数、自国へと帰還しても良いと出ていたが、万全を期する為に、そして改めてこの部隊の結束力を高めるという名目の上、ほぼ全員を配置することにした。
その過程で『死の山』の魔物は弱体化する、とのこと。
そしてアリエル自身も自ら狛の村へと付いていくと言い始めたので、そこはエリーが無理やり心に介入して押さえ付ける。
ライラが付き、『漣』にて待機。それがアリエルの役割となった。
「アリエルちゃんだけは狛の村の人達が魔物化したって知らせてないって言ってたけど、やっぱり正解だったね」
死の山、狛の村への道中、力を最大限に駆使して隠密行動を取りつつも、エリーはオリヴィアにアリエルへの心配を語る。
会議を省略した時点から、彼女の心は穏やかなものではなかった。
他国のことでありながら、オリヴィアにすら勝りそうな程の後悔を胸に、一同に対して指示を出していた。
ロベルト曰く、もうどうやっても止められない為に、女王の力は上手く働いていない。
もしかしたら暴走してしまうかもしれないので注意をしてくれと、そう言われていなければ、その動揺そのものがエリーにも伝わってしまっていただろう。
逆に一週間悩み続け、その末に狛の村の人達の魔物化を聞かされたオリヴィアは覚悟を決めていた。
【こんな時、レイン様ならば迷わず楽にしてあげるでしょう】
そんな心の声と共に、『心優しい王女様』から『血濡れの鬼姫』へとその心を変えていた。
「彼女はとても優しい女王様ですもの。自国の国民だった人々に刃を向けられるわたくしとは、……違いますわ」
オリヴィアはそう答える。
死は決してネガティヴなものだけではない。かつて師匠であるレインが、聖女サニィが死ぬのが分かっていてもドラゴン戦を見守り続けていた様に、逆にそれによって楽にしてやることも出来る。
それがオリヴィアが、レインから言葉ではない場所から学んでいたことだった。
僅か6歳から常に死と隣り合わせで生き続けてきた師から学んだ、オリヴィアなりの考え方。
もちろんそれが正しいとは限らない。
王女としては正解の部分と間違っている部分とが混在している考え方だろう。
だが今回に限っては、それは正解だったらしい。
「オリ姉は優しい。必ず自分で全員に止めを、苦しまないように一突きでって、考えてるでしょう?」
心を読んだのか、そう言うエリーに、隣で聞いていたイリスも頷く。
「うん、オリヴィアさんは優しいよ。でも、今回私が付いて来たのには理由があると思う」
【もしかしたらだけど、私の力で元に戻せる可能性もゼロではないかも】
イリスは限りなくゼロに近い考えを、口には出さずに思い描く。
エリーにだけは伝わるかもしれない可能性。
しかし、未だ前例のない試み。希望を言葉に出せば、あっけなくそれが敗れ去った時、大きなダメージを受けてしまう。何よりもこの国を愛しているオリヴィアならば尚更だ。
だから、これだけを伝える。
「オリヴィアさん、三人で行くんだから、早まらないでね」
そんな真剣な言葉をオリヴィアは正面から受け止め、大きく頷いた。
「お二人の存在が今はとても心強いですわ。もしも早まりそうになったら止めてくださいね」
「ん、暴走したら【月光】貰うからね」
「ははは、さて、気を引き締めよう。狛の村の人達とは言え新種の魔物。何をしてくるかは分からないよ」
そうイリスが言った瞬間だった。
「うっ、……う、ぷ……」
突如、エリーの表情が青ざめ吐き気を抑えるように苦しみだした。
強烈な感情に酔った時の典型的な状態だ。普段なら慣れるまで数秒、しかし、今回は今までのどの感情よりも強烈なものだったらしく。
「おえぇ……」
吐き気を抑えられずにその場で戻してしまう。
確実に近くにいると、残る二人は剣を構えた。
オリヴィアは右手に【宝剣:ささみ3号】を、左手には【不壊の月光】。
イリスは右手に剣を、左手に盾を。共にウアカリの極上品。
耳を澄ますと、苦しそうなエリーの声と、前方から落ち葉を踏み分けるざっざっという音が聞こえる。
狛の村の少し手前、それは現れた。
「リシンさん……」
右手に狛の村で作られたらしい宝剣を持ち、左手には村長夫人であるリンの首を持った、狛の村村長リシンの姿。血脂に塗れた、そんな男の姿。
その瞳は最早、三人を人ととらえてはいなかった。
前日はこれからについての編成等と、狛の村の最悪の事態についての会議を行っていたが、予想よりも早くその時は来てしまった。
しかし皮肉なことに、一度こうなってしまえばアリエルの力は最大の効力を発揮する。
相手の感情を抜きにして考えるのならば、つまり、狛の村の人々が物言わぬ状態になってしまっているのならば、その力の導くとおりに動けば良い。
正しき道を示す等とは言うものの、それはアリエルにとって正しいものとも、狛の住人にとって正しいものとも限らない。
以前、アリエルはこの能力に頼った結果母親を失った。
それはきっと、母親にとっては最も苦しまずに済んだ死に方だったのだろうが、アリエルにとっては凄惨の一言。死が決まっていたとはいえ、納得ができるかといえばそれはまた別だ。
その際には宰相ロベルトが確実に母親の味方だと分かっていた為に、なんとか母親が恐怖を感じずに逝けたのなら仕方が無いと諦めることは出来た。
しかしながら、今回はその過去があった為にアリエルは躊躇してしまった所に、この訃報だ。
だからこそ、アリエルは贖罪の様に素早く動いた。
その連絡を受けた10分後には、全てのメンバーを集めて指示を出す。
会議は省略、始めから力の示す通りの作戦を皆へと伝える。
その作戦はシンプルなものだ。
狛の村周辺に出現した新種の魔物を、エリー、オリヴィア、イリスの三名でそれを討伐。
残るディエゴ、ルーク、エレナ、マルス、クーリア、ナディア、サンダルの7名は抑止力となっていた狛の村の住人が全滅した為に死の山から溢れ出すと予想される魔物達の討伐に当たる。
山の周囲を囲うように七名が配置され、魔物達を殲滅する作戦となる。
メンバー構成は力の示す通り、周囲への配置はもう少し少人数、自国へと帰還しても良いと出ていたが、万全を期する為に、そして改めてこの部隊の結束力を高めるという名目の上、ほぼ全員を配置することにした。
その過程で『死の山』の魔物は弱体化する、とのこと。
そしてアリエル自身も自ら狛の村へと付いていくと言い始めたので、そこはエリーが無理やり心に介入して押さえ付ける。
ライラが付き、『漣』にて待機。それがアリエルの役割となった。
「アリエルちゃんだけは狛の村の人達が魔物化したって知らせてないって言ってたけど、やっぱり正解だったね」
死の山、狛の村への道中、力を最大限に駆使して隠密行動を取りつつも、エリーはオリヴィアにアリエルへの心配を語る。
会議を省略した時点から、彼女の心は穏やかなものではなかった。
他国のことでありながら、オリヴィアにすら勝りそうな程の後悔を胸に、一同に対して指示を出していた。
ロベルト曰く、もうどうやっても止められない為に、女王の力は上手く働いていない。
もしかしたら暴走してしまうかもしれないので注意をしてくれと、そう言われていなければ、その動揺そのものがエリーにも伝わってしまっていただろう。
逆に一週間悩み続け、その末に狛の村の人達の魔物化を聞かされたオリヴィアは覚悟を決めていた。
【こんな時、レイン様ならば迷わず楽にしてあげるでしょう】
そんな心の声と共に、『心優しい王女様』から『血濡れの鬼姫』へとその心を変えていた。
「彼女はとても優しい女王様ですもの。自国の国民だった人々に刃を向けられるわたくしとは、……違いますわ」
オリヴィアはそう答える。
死は決してネガティヴなものだけではない。かつて師匠であるレインが、聖女サニィが死ぬのが分かっていてもドラゴン戦を見守り続けていた様に、逆にそれによって楽にしてやることも出来る。
それがオリヴィアが、レインから言葉ではない場所から学んでいたことだった。
僅か6歳から常に死と隣り合わせで生き続けてきた師から学んだ、オリヴィアなりの考え方。
もちろんそれが正しいとは限らない。
王女としては正解の部分と間違っている部分とが混在している考え方だろう。
だが今回に限っては、それは正解だったらしい。
「オリ姉は優しい。必ず自分で全員に止めを、苦しまないように一突きでって、考えてるでしょう?」
心を読んだのか、そう言うエリーに、隣で聞いていたイリスも頷く。
「うん、オリヴィアさんは優しいよ。でも、今回私が付いて来たのには理由があると思う」
【もしかしたらだけど、私の力で元に戻せる可能性もゼロではないかも】
イリスは限りなくゼロに近い考えを、口には出さずに思い描く。
エリーにだけは伝わるかもしれない可能性。
しかし、未だ前例のない試み。希望を言葉に出せば、あっけなくそれが敗れ去った時、大きなダメージを受けてしまう。何よりもこの国を愛しているオリヴィアならば尚更だ。
だから、これだけを伝える。
「オリヴィアさん、三人で行くんだから、早まらないでね」
そんな真剣な言葉をオリヴィアは正面から受け止め、大きく頷いた。
「お二人の存在が今はとても心強いですわ。もしも早まりそうになったら止めてくださいね」
「ん、暴走したら【月光】貰うからね」
「ははは、さて、気を引き締めよう。狛の村の人達とは言え新種の魔物。何をしてくるかは分からないよ」
そうイリスが言った瞬間だった。
「うっ、……う、ぷ……」
突如、エリーの表情が青ざめ吐き気を抑えるように苦しみだした。
強烈な感情に酔った時の典型的な状態だ。普段なら慣れるまで数秒、しかし、今回は今までのどの感情よりも強烈なものだったらしく。
「おえぇ……」
吐き気を抑えられずにその場で戻してしまう。
確実に近くにいると、残る二人は剣を構えた。
オリヴィアは右手に【宝剣:ささみ3号】を、左手には【不壊の月光】。
イリスは右手に剣を、左手に盾を。共にウアカリの極上品。
耳を澄ますと、苦しそうなエリーの声と、前方から落ち葉を踏み分けるざっざっという音が聞こえる。
狛の村の少し手前、それは現れた。
「リシンさん……」
右手に狛の村で作られたらしい宝剣を持ち、左手には村長夫人であるリンの首を持った、狛の村村長リシンの姿。血脂に塗れた、そんな男の姿。
その瞳は最早、三人を人ととらえてはいなかった。
0
お気に入りに追加
402
あなたにおすすめの小説
神々に天界に召喚され下界に追放された戦場カメラマンは神々に戦いを挑む。
黒ハット
ファンタジー
戦場カメラマンの北村大和は,異世界の神々の戦の戦力として神々の召喚魔法で特殊部隊の召喚に巻き込まれてしまい、天界に召喚されるが神力が弱い無能者の烙印を押され、役に立たないという理由で異世界の人間界に追放されて冒険者になる。剣と魔法の力をつけて人間を玩具のように扱う神々に戦いを挑むが果たして彼は神々に勝てるのだろうか
転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】
ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします
ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった
【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。
累計400万ポイント突破しました。
応援ありがとうございます。】
ツイッター始めました→ゼクト @VEUu26CiB0OpjtL
転生したから思いっきりモノ作りしたいしたい!
ももがぶ
ファンタジー
猫たちと布団に入ったはずが、気がつけば異世界転生!
せっかくの異世界。好き放題に思いつくままモノ作りを極めたい!
魔法アリなら色んなことが出来るよね。
無自覚に好き勝手にモノを作り続けるお話です。
第一巻 2022年9月発売
第二巻 2023年4月下旬発売
第三巻 2023年9月下旬発売
※※※スピンオフ作品始めました※※※
おもちゃ作りが楽しすぎて!!! ~転生したから思いっきりモノ作りしたいしたい! 外伝~
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
30年待たされた異世界転移
明之 想
ファンタジー
気づけば異世界にいた10歳のぼく。
「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」
こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。
右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。
でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。
あの日見た夢の続きを信じて。
ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!
くじけそうになっても努力を続け。
そうして、30年が経過。
ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。
しかも、20歳も若返った姿で。
異世界と日本の2つの世界で、
20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる