301 / 592
第五章:白の女王と緑の怪物
第六十四話:本当に妾達は主従がなってないな
しおりを挟む
「お疲れライラ。エリーにオリヴィアさんもありがとう」
女王の私室、いつもはアリエル自身が座る席にライラを座らせて言う。
無傷ではあるものの、ライラの力はかなりの集中力を必要とする。少しでもタイミングがズレればいつかのように軸足を折ってしまうか、そのまま潰されてしまう。
彼女の力は常時発動しているわけでもなければ、長時間継続できるわけでもない。
更には自身を犠牲にして女王を助ける立場でありながら、その戦闘方法は自分が無傷であることが前提となる。そんな精神的な矛盾を克服する為にアリエルを利用しなければならないことも、また彼女にとっては少なからず負担となっている。
そのため毎戦闘終える度に、アリエルはライラをこうしていたわっていた。
もしもの時の為には精神的な繋がりなど少ないほうが良い。
互いにそれは分かってはいるものの、アリエルにとってはライラが命懸けで頑張っているという現実から目を背けることなど出来ないし、ライラもまた、本気で恋心を抱いてしまったレインの死を乗り越えるためか、アリエルにべったりだ。
「アリエルちゃん、普段はともかく他国の王女様の前でこれはどうなんですか?」
アリエルの席に座って動く気もないままに、ライラはとりあえずそんなことを言う。
そんなライラの肩を揉み始めながら、アリエルもまた同じ様に。
「本当に妾達は主従がなってないな。ちゃん付けはやめてって言ってるのに」
「あ、そこ気持ちいいです。将来は私の専属マッサージ師になって下さい」
「話も聞かないしー」
そんな様子で楽しそうに話し始める。
「よし、私がそんなアリエルちゃんをマッサージしてあげようかな」
「わたくし達は気にしなくて大丈夫ですわ。うちのお父様なんかやんちゃして騎士団長にお前なんて言われてますもの」
エリーは相変わらず何も気にせずそれに入り込み、オリヴィアもまたそれを見て笑う。
エリーにマッサージをされ始めくすぐったそうに悶え始めるアリエルが遂にライラから手を離すと、そこにオリヴィアが入り込んでライラを揉む。
「ほら、どうです? わたくしの必中はツボ押しも自在ですわ」
「あ、それヤバいです。もっと……ん」
「ライラさん、後で久しぶりに組手をしません?」
気持ち良さそうに声を漏らすライラに、オリヴィアはそう問いかける。
先程の戦闘で、オリヴィアには一目見て分かることがあった。
ライラがたったの2発で倒したあの巨人は、以前砂漠で倒したドラゴンよりも遥かに強い。グレーズで倒したデーモンロードよりも遥かに強い。
とはいえ能力の特性上ライラが優位なのは確実だ。
彼女は能力の通じない強力な魔法を使う敵を苦手としている。例えば同じサイズのドラゴンを倒そうとすれば、苦戦どころか勝つことが出来ないだろう。
しかしそれと同格の魔物を相手に初撃で腕を砕き、魔法を使う為の思考の余地を無くさせ、次の一手で確実に仕留めてみせた。
ある限定的な状況下でならば、ライラは自分よりも遥かに強いとオリヴィアは改めて納得した。
だからこそ、素手同士の組手を彼女とすることで、新しい道が開ける可能性がある。
「もちろん、オリヴィア様に通用するかは分かりませんけど良いですよ」
ライラもまた、オリヴィアの強さを認めている。
通用するかは分からないという言葉は謙虚でも自身の裏返しでもなんでもなく、純粋にそう思ってのこと。
ライラの知る限り最速の剣技、最速の踏み込み、そしてディエゴにも匹敵する圧倒的な練度を持つオリヴィアの技術を体験することは、純粋にレベルアップに繋がることになる。
何より、ライラ自身の目指したレインから最強を義務付けられた存在がオリヴィアだ。
もしかしたら一番弟子であるエリーよりも更に選ばれた存在であるかもしれないと、誰しもが考える。
問題なのは、本人が自分には英雄性がない、『格上に勝つことが出来ない』と勘違いしていることだろう。
そこをなんとか正してやりたい。
『怪物』は、そこまで考えて。
「オリヴィア様、せっかくなら闘技場でやりましょう」
そう提案した。
ここからの展開は、彼女の様に心が読めなくとも分かる。
英雄レインの正統後継者には、好奇心旺盛な方が居る。
どんな技術だろうと瞬く間に吸収し、自分の技として使いこなしている英雄性の塊。
誰しもが彼女に負けない様にと努力をし、それでも勝てないかもしれないと思わせる、最強の男の一番弟子。
「私もやる!! 総当たりで手配してアリエルちゃん!」
「あの、ちょっとライラさんエリーさん」
「よし、うちのライラは怪物じゃなくてもっと綺麗だって所を民衆に見せてやらないとな。任せろ」
「あの、エリーゼ様……」
皆の前ではちょっと、等と言うオリヴィアの言葉はそのままかき消されて、無手格闘大会の開催は決定された。
もちろん、後にアリエルからメディアも呼ぶから士気も上がる等と言われて納得するまでオリヴィアは小声で講義を続けていた。
女王の私室、いつもはアリエル自身が座る席にライラを座らせて言う。
無傷ではあるものの、ライラの力はかなりの集中力を必要とする。少しでもタイミングがズレればいつかのように軸足を折ってしまうか、そのまま潰されてしまう。
彼女の力は常時発動しているわけでもなければ、長時間継続できるわけでもない。
更には自身を犠牲にして女王を助ける立場でありながら、その戦闘方法は自分が無傷であることが前提となる。そんな精神的な矛盾を克服する為にアリエルを利用しなければならないことも、また彼女にとっては少なからず負担となっている。
そのため毎戦闘終える度に、アリエルはライラをこうしていたわっていた。
もしもの時の為には精神的な繋がりなど少ないほうが良い。
互いにそれは分かってはいるものの、アリエルにとってはライラが命懸けで頑張っているという現実から目を背けることなど出来ないし、ライラもまた、本気で恋心を抱いてしまったレインの死を乗り越えるためか、アリエルにべったりだ。
「アリエルちゃん、普段はともかく他国の王女様の前でこれはどうなんですか?」
アリエルの席に座って動く気もないままに、ライラはとりあえずそんなことを言う。
そんなライラの肩を揉み始めながら、アリエルもまた同じ様に。
「本当に妾達は主従がなってないな。ちゃん付けはやめてって言ってるのに」
「あ、そこ気持ちいいです。将来は私の専属マッサージ師になって下さい」
「話も聞かないしー」
そんな様子で楽しそうに話し始める。
「よし、私がそんなアリエルちゃんをマッサージしてあげようかな」
「わたくし達は気にしなくて大丈夫ですわ。うちのお父様なんかやんちゃして騎士団長にお前なんて言われてますもの」
エリーは相変わらず何も気にせずそれに入り込み、オリヴィアもまたそれを見て笑う。
エリーにマッサージをされ始めくすぐったそうに悶え始めるアリエルが遂にライラから手を離すと、そこにオリヴィアが入り込んでライラを揉む。
「ほら、どうです? わたくしの必中はツボ押しも自在ですわ」
「あ、それヤバいです。もっと……ん」
「ライラさん、後で久しぶりに組手をしません?」
気持ち良さそうに声を漏らすライラに、オリヴィアはそう問いかける。
先程の戦闘で、オリヴィアには一目見て分かることがあった。
ライラがたったの2発で倒したあの巨人は、以前砂漠で倒したドラゴンよりも遥かに強い。グレーズで倒したデーモンロードよりも遥かに強い。
とはいえ能力の特性上ライラが優位なのは確実だ。
彼女は能力の通じない強力な魔法を使う敵を苦手としている。例えば同じサイズのドラゴンを倒そうとすれば、苦戦どころか勝つことが出来ないだろう。
しかしそれと同格の魔物を相手に初撃で腕を砕き、魔法を使う為の思考の余地を無くさせ、次の一手で確実に仕留めてみせた。
ある限定的な状況下でならば、ライラは自分よりも遥かに強いとオリヴィアは改めて納得した。
だからこそ、素手同士の組手を彼女とすることで、新しい道が開ける可能性がある。
「もちろん、オリヴィア様に通用するかは分かりませんけど良いですよ」
ライラもまた、オリヴィアの強さを認めている。
通用するかは分からないという言葉は謙虚でも自身の裏返しでもなんでもなく、純粋にそう思ってのこと。
ライラの知る限り最速の剣技、最速の踏み込み、そしてディエゴにも匹敵する圧倒的な練度を持つオリヴィアの技術を体験することは、純粋にレベルアップに繋がることになる。
何より、ライラ自身の目指したレインから最強を義務付けられた存在がオリヴィアだ。
もしかしたら一番弟子であるエリーよりも更に選ばれた存在であるかもしれないと、誰しもが考える。
問題なのは、本人が自分には英雄性がない、『格上に勝つことが出来ない』と勘違いしていることだろう。
そこをなんとか正してやりたい。
『怪物』は、そこまで考えて。
「オリヴィア様、せっかくなら闘技場でやりましょう」
そう提案した。
ここからの展開は、彼女の様に心が読めなくとも分かる。
英雄レインの正統後継者には、好奇心旺盛な方が居る。
どんな技術だろうと瞬く間に吸収し、自分の技として使いこなしている英雄性の塊。
誰しもが彼女に負けない様にと努力をし、それでも勝てないかもしれないと思わせる、最強の男の一番弟子。
「私もやる!! 総当たりで手配してアリエルちゃん!」
「あの、ちょっとライラさんエリーさん」
「よし、うちのライラは怪物じゃなくてもっと綺麗だって所を民衆に見せてやらないとな。任せろ」
「あの、エリーゼ様……」
皆の前ではちょっと、等と言うオリヴィアの言葉はそのままかき消されて、無手格闘大会の開催は決定された。
もちろん、後にアリエルからメディアも呼ぶから士気も上がる等と言われて納得するまでオリヴィアは小声で講義を続けていた。
0
お気に入りに追加
402
あなたにおすすめの小説
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします
Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。
相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。
現在、第三章フェレスト王国エルフ編
転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】
ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします
ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった
【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。
累計400万ポイント突破しました。
応援ありがとうございます。】
ツイッター始めました→ゼクト @VEUu26CiB0OpjtL
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る
早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」
解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。
そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。
彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。
(1話2500字程度、1章まで完結保証です)
お願いだから俺に構わないで下さい
大味貞世氏
ファンタジー
高校2年の9月。
17歳の誕生日に甲殻類アレルギーショックで死去してしまった燻木智哉。
高校1年から始まったハブりイジメが原因で自室に引き籠もるようになっていた彼は。
本来の明るい楽観的な性格を失い、自棄から自滅願望が芽生え。
折角貰った転生のチャンスを不意に捨て去り、転生ではなく自滅を望んだ。
それは出来ないと天使は言い、人間以外の道を示した。
これは転生後の彼の魂が辿る再生の物語。
有り触れた異世界で迎えた新たな第一歩。その姿は一匹の…
異世界でリサイクルショップ!俺の高価買取り!
理太郎
ファンタジー
坂木 新はリサイクルショップの店員だ。
ある日、買い取りで査定に不満を持った客に恨みを持たれてしまう。
仕事帰りに襲われて、気が付くと見知らぬ世界のベッドの上だった。
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる