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第五章:白の女王と緑の怪物
第五十九話:どうなんでしょう、案外運命の出会いということも……
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宰相ロベルトは真剣な表情で話し始める。
「さて、まず初めに悪い知らせの方を」
「……」
英雄レインの作ったこの組織が現在掲げている最大の目標は、一人の死者も出さずに魔王を討伐すること。
レイン自身がどう思っていたのかはともかくとして、現在のまとめ役であるアリエルはそれを最大の目標としている。
怪我人は戦えなくなった者も含めいるものの、ロベルトが集めたエリート達の意見も踏まえたアリエル達の采配によって、魔王討伐軍は結成以来未だただ一人の死者も出してはいない。
そんなロベルトが悪い知らせと改めて言うということは、相当に悪いことの様に感じる。
隠されたその真実は、エリーも読み取ることが出来ずごくりと唾を飲む。
「悪い知らせですが、『殉教者エイミー』が脱落です」
「ルーク君とエレナ姉の先生が……」
「あの方はお姉様の為なら死んでも戦う方だとは思ってましたが……」
悲愴を浮かべるエリーとオリヴィアを見て、アリエルは努めて冷静に言う。
「それは痛いな……」
感情を表には出さず、しかし確実な戦力の低下。
しかも、世界で最も戦いたくないと言わしめる魔法使いの脱落。それは少なくとも、英雄候補達を動揺させるには充分なもの。
だからこそ、中枢であるアリエルは冷静にならなければならない。
とは言え次に続くロベルトの言葉は、少なくとも絶望ではなかった。
「死亡ではありません。死に恐怖を感じる呪いによって、戦闘を続けられなくなっただけの様です。ただ、その呪いはルークにも解けない様ですが、命に別状はありません」
「そっか。それなら大丈夫ね。私がエイミーさん分以上に強くなるから」
ロベルトの言葉を聞いて、即座にエリーは笑顔を取り戻す。
エイミーとは顔見知り程度でしかないものの、ルークとエレナにとって大切だと言う事は、エリーにとってもそれなりに守るべき対象となる。
彼女が生きていると言う事は、エリーには一つの確信があった。
彼女の心はいつでも聖女への狂信で満ちていた。
「エイミーさんはどうせお姉ちゃんの魔法書作り続けてるんでしょ?」
そんな風に苦笑いをしながら言うと、ロベルトも同じ様に苦笑する。
「ははは、お見通しですな。彼女は今日も元気に霊峰の頂上で本を増やし続けているようです」
今や文字を読める人は皆と言っても過言ではない程に増えた魔法書の殆どは、彼女が複製した物。
その強烈なキャラクターには一度会ったことのあるここのメンバー全員が苦笑いを隠せないものだった。
少しだけの苦笑いをしながら、アリエルもふうと安堵の息を漏らし、話を続ける。
「そうか。それならば良い。エリー、期待しているぞ」
「任せて。師匠の一番弟子は私だからね」
自信に満ちたエリーの言葉にアリエルも満足そうに頷く。
アリエルから見ても、エリーは要だ。
現在は六位だとしても、いざという時に最も頼りになるのはレインの弟子二人。
一体どこまでをあの英雄は見抜いていたのか、アリエルの力にも今はその二人を中心に編成せよと出ている。エリーはやんちゃでいたずら好きだけれど、既に誰しもが驚く英雄性を有していることを、かつてのドラゴン戦で証明していた。
「さて、悪い話は他には?」
「ウアカリのナディアが一人ウアカリを離脱しました」
「「「ええ……?」」」
次に出たのは誰もが想定しない情報。
クーリアをウアカリに向かわせたことで今やウアカリの中心であるナディアが離脱した。
一体何故そんなことになったのかが三人とも分からないままに口をあんぐりとさせている。
「あ、いえ。クーリアとの関係が改善しなかったと言うわけではなくナディアの独断です。彼女はより強さを求めて一人修行の旅に」
「相変わらずあの人は自由だね……」
「そうですわね……。お姉様と同じお顔で……」
エリーは呆れ、同じく国の中心に居るオリヴィアは困惑する。
とは言え、修行の旅に出たと言われれば納得してしまうのがナディアの特異性だ。
エイミーとも近い問題児。しかし常に強さを求める貪欲さを持ち合わせる彼女ならば、それも充分に有り得ること。
「それで、良い知らせに繋がりますが、そのナディアが英雄の子孫であるサンダルと合流したようです」
「それはまた思いがけない展開だな……」
魔王討伐隊が魔王討伐軍へと名前を変えて3年以上、ただの一度も連絡を取れなかった男がここに来てナディアの気まぐれのおかげで居所が掴めたというのは、確かに良い知らせだ。
ただ、完全に良い知らせとも言えないのが、……二人ともが鬼神レインにも聖女サニィにも、両方と因縁を持っているということ。
「ねえオリ姉、師匠とお姉ちゃんからサンダルさんの事少しだけ聞いてるけど、あの二人って会っちゃいけない二人じゃない?」
「……どうなんでしょう、案外運命の出会いということも……」
因縁は簡単だ。
ナディアはレインに執着していて、サニィと同じ顔の上に敵対心を持っている。
対してサンダルはレインとは喧嘩する程仲が良い友人で、サニィにプロポーズの経験がある。
「それならそれで面白いけどね……。でも片方がナディアさんって時点で既に危ない気配しかしないんだけど」
エイミーの時よりも苦い顔になってエリーは言う。
「で、でもサンダル様は女性の扱いには慣れていると言うことですから、案外……、どうなんですの、エリーゼ様?」
「妾には分からん。ロベルト?」
「……良い知らせだと思ったのですが…………」
全員がエリーに追随するように苦い顔になったまま、果たしてそれが良い知らせなのか悪い知らせなのか結局判然としなくなって、次の話へと移行してくのだった。
それを黙って聞いていたライラだけが妙にほくそ笑んでいるのを、エリーだけが見ていた。
そんなライラも、レインとサニィ両方との因縁を持っている。
「さて、まず初めに悪い知らせの方を」
「……」
英雄レインの作ったこの組織が現在掲げている最大の目標は、一人の死者も出さずに魔王を討伐すること。
レイン自身がどう思っていたのかはともかくとして、現在のまとめ役であるアリエルはそれを最大の目標としている。
怪我人は戦えなくなった者も含めいるものの、ロベルトが集めたエリート達の意見も踏まえたアリエル達の采配によって、魔王討伐軍は結成以来未だただ一人の死者も出してはいない。
そんなロベルトが悪い知らせと改めて言うということは、相当に悪いことの様に感じる。
隠されたその真実は、エリーも読み取ることが出来ずごくりと唾を飲む。
「悪い知らせですが、『殉教者エイミー』が脱落です」
「ルーク君とエレナ姉の先生が……」
「あの方はお姉様の為なら死んでも戦う方だとは思ってましたが……」
悲愴を浮かべるエリーとオリヴィアを見て、アリエルは努めて冷静に言う。
「それは痛いな……」
感情を表には出さず、しかし確実な戦力の低下。
しかも、世界で最も戦いたくないと言わしめる魔法使いの脱落。それは少なくとも、英雄候補達を動揺させるには充分なもの。
だからこそ、中枢であるアリエルは冷静にならなければならない。
とは言え次に続くロベルトの言葉は、少なくとも絶望ではなかった。
「死亡ではありません。死に恐怖を感じる呪いによって、戦闘を続けられなくなっただけの様です。ただ、その呪いはルークにも解けない様ですが、命に別状はありません」
「そっか。それなら大丈夫ね。私がエイミーさん分以上に強くなるから」
ロベルトの言葉を聞いて、即座にエリーは笑顔を取り戻す。
エイミーとは顔見知り程度でしかないものの、ルークとエレナにとって大切だと言う事は、エリーにとってもそれなりに守るべき対象となる。
彼女が生きていると言う事は、エリーには一つの確信があった。
彼女の心はいつでも聖女への狂信で満ちていた。
「エイミーさんはどうせお姉ちゃんの魔法書作り続けてるんでしょ?」
そんな風に苦笑いをしながら言うと、ロベルトも同じ様に苦笑する。
「ははは、お見通しですな。彼女は今日も元気に霊峰の頂上で本を増やし続けているようです」
今や文字を読める人は皆と言っても過言ではない程に増えた魔法書の殆どは、彼女が複製した物。
その強烈なキャラクターには一度会ったことのあるここのメンバー全員が苦笑いを隠せないものだった。
少しだけの苦笑いをしながら、アリエルもふうと安堵の息を漏らし、話を続ける。
「そうか。それならば良い。エリー、期待しているぞ」
「任せて。師匠の一番弟子は私だからね」
自信に満ちたエリーの言葉にアリエルも満足そうに頷く。
アリエルから見ても、エリーは要だ。
現在は六位だとしても、いざという時に最も頼りになるのはレインの弟子二人。
一体どこまでをあの英雄は見抜いていたのか、アリエルの力にも今はその二人を中心に編成せよと出ている。エリーはやんちゃでいたずら好きだけれど、既に誰しもが驚く英雄性を有していることを、かつてのドラゴン戦で証明していた。
「さて、悪い話は他には?」
「ウアカリのナディアが一人ウアカリを離脱しました」
「「「ええ……?」」」
次に出たのは誰もが想定しない情報。
クーリアをウアカリに向かわせたことで今やウアカリの中心であるナディアが離脱した。
一体何故そんなことになったのかが三人とも分からないままに口をあんぐりとさせている。
「あ、いえ。クーリアとの関係が改善しなかったと言うわけではなくナディアの独断です。彼女はより強さを求めて一人修行の旅に」
「相変わらずあの人は自由だね……」
「そうですわね……。お姉様と同じお顔で……」
エリーは呆れ、同じく国の中心に居るオリヴィアは困惑する。
とは言え、修行の旅に出たと言われれば納得してしまうのがナディアの特異性だ。
エイミーとも近い問題児。しかし常に強さを求める貪欲さを持ち合わせる彼女ならば、それも充分に有り得ること。
「それで、良い知らせに繋がりますが、そのナディアが英雄の子孫であるサンダルと合流したようです」
「それはまた思いがけない展開だな……」
魔王討伐隊が魔王討伐軍へと名前を変えて3年以上、ただの一度も連絡を取れなかった男がここに来てナディアの気まぐれのおかげで居所が掴めたというのは、確かに良い知らせだ。
ただ、完全に良い知らせとも言えないのが、……二人ともが鬼神レインにも聖女サニィにも、両方と因縁を持っているということ。
「ねえオリ姉、師匠とお姉ちゃんからサンダルさんの事少しだけ聞いてるけど、あの二人って会っちゃいけない二人じゃない?」
「……どうなんでしょう、案外運命の出会いということも……」
因縁は簡単だ。
ナディアはレインに執着していて、サニィと同じ顔の上に敵対心を持っている。
対してサンダルはレインとは喧嘩する程仲が良い友人で、サニィにプロポーズの経験がある。
「それならそれで面白いけどね……。でも片方がナディアさんって時点で既に危ない気配しかしないんだけど」
エイミーの時よりも苦い顔になってエリーは言う。
「で、でもサンダル様は女性の扱いには慣れていると言うことですから、案外……、どうなんですの、エリーゼ様?」
「妾には分からん。ロベルト?」
「……良い知らせだと思ったのですが…………」
全員がエリーに追随するように苦い顔になったまま、果たしてそれが良い知らせなのか悪い知らせなのか結局判然としなくなって、次の話へと移行してくのだった。
それを黙って聞いていたライラだけが妙にほくそ笑んでいるのを、エリーだけが見ていた。
そんなライラも、レインとサニィ両方との因縁を持っている。
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