雨の世界の終わりまで

七つ目の子

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第五章:白の女王と緑の怪物

第五十八話:私もいいこいいこしてあげましょうか?

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 ライラが出て行ってから30分程。ボロボロになった侍女ミラと、愛想笑いが定着してしまった様な顔をしているオリヴィアを連れて、最強の侍女ライラは戻ってきた。
 薄緑の髪の毛に短いスカートのメイド服、そこから覗くぴっちりとしたハーフパンツ、肘から手首までの手甲に、サンダルという奇抜な格好をした人物は世界中を探しても彼女一人しか存在しない。戦闘時にはそのサンダルすらも脱ぎ捨てるのだが、それは今は置いておくとして。
 彼女が市井に現れれば、人ゴミはモーセの十戒の如く割れていく。その圧倒的な強さはすっかり市民に定着しており、恐れまではしないものの、逆らえば一瞬にしてひねり潰されるともっぱらの噂だ。
 怪物の名前は王都に襲撃した魔物を蹂躙するライラを見た、彼女の本質を知らない市民が名付けたのが最初だと言われている。

「オリヴィア様が困ってますよ、皆さん」

 その一言で、リンゴ飴を両手に持ちながら市民に笑顔を振りまいていたオリヴィアはすんなりと解放された。もちろん、必死に市民を抑えていたミラと呼ばれる侍女は、救世主が来たとばかりに喜んだ。
 オリヴィアならば反応される前に抜け出すことも出来たのだが、流石に知らせを届けてくれたミラを放置するわけにもいかずどうしようかと考えていた所見つかってしまって、抜け出すことも出来ずに愛想を振りまくことにしていたのだった。

「お久しぶりですわエリーゼ様」

 特に疲れた様子もなく部屋にたどり着いたオリヴィアは優雅に礼をする。
 ここがアルカナウィンドで女王がアリエルという時点で、すぐに助けが来ることは確信していた。

「久しぶりオリヴィアさん。エリーは相変わらずだな……」

 少し複雑な顔をしながらアリエルも礼を返す。その頭にエリーを貼り付けたまま。

「ふふふ、エリーさんにとってエリーゼ様は大切なお友達ですもの。最近少し寂しかったみたいなので構ってあげて下さいな」
「くださいな」
 笑いかけるオリヴィアに、エリーも追従する。
「ま、まあ、エリーの士気は今回の要だからな。仕方ないが、妾こないだ倒れたばかりだからな?」
 困った顔をしながらも、アリエルは少し嬉しさを隠せずに答える。
「私もいいこいいこしてあげましょうか? いつもの様に」
 ライラも楽しそうに混ざると、わいわいと騒ぎ始めた。

「いつもの様にってそんなことしてないだろ!」
「いやいや、アリエルちゃんはいいこよねーライラさん」
「うんうん、エリーの言う通りですよアリエル様」
「ふふふ、それじゃわたくしも」
「もう、好きにしろ!!」

 女三人寄れば姦しいと言うか、四人寄れば女王が撫で繰り回される。
 しばらくそんな風にきゃいきゃいと盛り上がった後、ようやく落ち着いた頃に宰相ロベルトが部屋に入ってきた。

「ははは、今日も元気そうですな皆さん」
「あ、こんにちは宰相さん」「ご機嫌ようロベルトさん」
「ええいらっしゃいませ」

 微笑みながら入ってきた宰相に二人が挨拶すると、宰相もまた挨拶を返す。

 この国の宰相ロベルトは先々代からこの国を支えている名宰相だ。
 アリエルにとっては祖父の様な存在であって、今でもエリーゼという名前がそれだけでこの国の希望になっている理由はこの男にあると言っても過言ではない。
 しかし今日はそんな宰相に、女王はご立腹だ。

「ロベルト遅いぞ! もう少しでエリーに食われるところだった……」
「なあに問題ありますまい。私の力には何一つ出てませんよ」
「なんだと……」
「ははは、小さな守護神殿に好かれてるというのはこれ以上なく良いことですよ」
「でも、でもちょっと怖かったし!」
「ライラが守っているので大丈夫ですよ」
「ライラも敵だもん!」
「こらこら、あなたの為のライラにそんなことを言ってはダメです」
「でも……」
「とは言え、彼女達がこうして集まってくれるのもエリーゼ様の人望の為せる業。そこは誇って良いと思いますよ」
「うぅ、うん」

 そんなやりとりすら、最早恒例のこと。
 問題点を見抜くという力を持つこの老人は、アリエルの政治の師でもある。
 言い合いで勝てるわけもなく、アリエルはしゅんとする。
 そんな彼女を見て、彼女を可愛がっていた三人もようやく真面目になっていく。ここまでがこの四人が集まった時のいつものやり取りだ。

「さて、今回はちょうど良かったので今の情勢を少しお知らせします」

 そうしてロベルトは話し始めた。
 この城には現在、情報系のエリートが集まっている。
 国を治めると同時にそれすらまとめあげているその老人は、そうして英雄候補達、そして魔物達の動向について話し始めた。
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