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第五章:白の女王と緑の怪物
第五十七話:毛並みって犬みたいな言い方をするなエリー
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アルカナウィンド王城では、現在一人の侵入者が女王に向かって突き進んでいる。
形式上それを取り締まろうと近衛騎士達は走り回るが、相手は一切の痕跡をみせない。
金髪の少女が城に侵入したという事実だけが城の中を慌ただしくしていた。
とはいえ城内では騎士以外はいつものことかといった様子で微笑んでいる。
この城では、これはしばしば起こる現象だ。
騎士達も最早形式上追いかけるというよりも一種の訓練をしている様な感覚だろう。やれ右に行っただの精神介入されただの、見つけた筈なのにだの、そんなことを叫びながら侵入者を追っていた。
もしもその少女が敵であったのなら大問題なものの、結局その少女は女王の親友だ。
「アリエルちゃーん!」
侵入者の少女は、女王の名前を叫びながら突撃する。
それに対して、女王は余裕の表情で両手を腰に当てている。
「ふふふ、出方は分かってる!右に回避!」
正しき道を示す力の応用、相手の攻撃を先読みして回避に成功する。
そしてそのまま決め台詞を言おうとした所で決着だ。
「妾の力をなめるなひゃっ」
「捕まえた! 相変わらずもふもふの毛並みだー」
心を読める相手を前に一手回避に成功したとして、次に何をするのかが筒抜けだ。ましてや女王はそれほど身体能力が高いわけでもない。次の道が示された頃には手遅れだった。
瞬時に切り返した少女にあっけなく捕まると、その白髪を撫で付けられる。
「毛並みって犬みたいな言い方をするなエリー! おい! 聞いて、ふぁ、ライラ、助け!」
エリーの怒涛の攻撃に女王は怪物と呼ばれる侍女に助けを求める。
しかし当の侍女は掌に拳を置いて納得している。女王の様子は確かに、少女に撫で付けられて困っている大型犬によく似ていた。
「アリエル様が犬の様な愛嬌とは正に的を射てますね。流石はエリー」
そんなこと言い始めて、眺めている。
今の女王は実際のところ、マスコット的な人気も博している。
初代女王の英雄譚から連想する『白の女王エリーゼ』と言うよりも、『守りたくなるアリエルちゃん』と言った方がしっくり来るのだ。
もちろん、国民はそれを口にはしないが、皆分かっている。
「エリーゼだけに的を射るってね」
そんな弓の名手初代エリーゼに白弓エリーゼと名付けた弓を持つエリーが掛けてみたところで、現女王エリーゼから本気の泣きが入る。
「何言ってるのか分からないから! 助けて!」
エリーの馬鹿力で身動きの一つも取れない女王は、そんな風に情けなく怪物と呼ばれる侍女に本気の助けを求めたのだった。
「なるほど、確かに守ってあげたいアリエルちゃん」
皆の心を代弁しながらエリーが解放する。
すると、女王は何事もなかったかの様に玉座に腰掛け、居住まいを直すのだった。
もちろん、エリーが皆を代弁してそれを言ったことに気付いているその顔は真っ赤に染まっていた。
アリエルは別にエリー程小柄なわけではない。
とは言え、初代エリーゼと同じなのは長い白髪だけ。その愛玩性は英雄と言うよりもアイドルに近い。
城の中ではライラを始め当然の様に認知されていること、そしてあくまで女王を中心としているのは国民の側。市井にも噂はある程度は流れていくものだ。
「ま、まあ良いよもう。ところで、何しに来たんだ?」
「アリエルちゃんそろそろ寂しいかなと思って会いに来ただけだよ。というか私が寂しかったから会いに来ただけ」
「そ、そうか。オリヴィアさんは?」
ストレートな言葉に嬉しさを隠せずに問う。
いつも一緒にいる二人のうちの一人が見当たらない。
なんとなく理由に見当は付いているものの、一応の形で。
「あれ、そう言えばミラさんも戻ってきてないね」
思い返してみれば、アリエルが治ったと伝えに来た侍女のミラの心を読んだ時点で飛び出していた。
「気づいてなかったのか……」
「いやぁー、アリエルちゃんもふもふしたくて」
「もう、全くエリーは。オリヴィアさん今ではこの国でも大人気なんだから今頃凄いことになってるんじゃない?」
アリエルはオリヴィアに憧れている。
戦う王女様、その苛烈な戦闘の様子に思わず見惚れてしまった過去がある。
自分では決してなれない初代エリーゼの様に気丈に戦う彼女は、アルカナウィンド女王の理想の姿。
それは、サンダープリンセスがオリヴィアだと知ってしまった今の国民にとってもほぼ同じだ。
「ああ、そうだそうだ! オリ姉とアリエルちゃんの二大ヒロインが居れば大丈夫みたいな雰囲気が漂ってた! まずいかも、どうしよう、助けてくる?」
今更ながらあわあわと慌て始めるエリーを宥めたのは、怪物と呼ばれる女だった。
「私が行ってきますよエリー。アリエル様を守っててね。あ、いや、遊んであげててね」
「あ、うん、了解!」
今のこの国で一番影響力を持つ者はアリエルだが、二番目はライラだ。
彼女が何度も何度もアリエルを助けているシーンを、今では国民のみんなが目撃していると言っても良い。
基本的には常にアリエルに付いている彼女も、エリーが居れば安心。
敵意を事前に察するその力で、守ることに関してははっきり言ってライラ以上。
そんな全幅の信頼をもって、ライラは街へと繰り出すことにした。
形式上それを取り締まろうと近衛騎士達は走り回るが、相手は一切の痕跡をみせない。
金髪の少女が城に侵入したという事実だけが城の中を慌ただしくしていた。
とはいえ城内では騎士以外はいつものことかといった様子で微笑んでいる。
この城では、これはしばしば起こる現象だ。
騎士達も最早形式上追いかけるというよりも一種の訓練をしている様な感覚だろう。やれ右に行っただの精神介入されただの、見つけた筈なのにだの、そんなことを叫びながら侵入者を追っていた。
もしもその少女が敵であったのなら大問題なものの、結局その少女は女王の親友だ。
「アリエルちゃーん!」
侵入者の少女は、女王の名前を叫びながら突撃する。
それに対して、女王は余裕の表情で両手を腰に当てている。
「ふふふ、出方は分かってる!右に回避!」
正しき道を示す力の応用、相手の攻撃を先読みして回避に成功する。
そしてそのまま決め台詞を言おうとした所で決着だ。
「妾の力をなめるなひゃっ」
「捕まえた! 相変わらずもふもふの毛並みだー」
心を読める相手を前に一手回避に成功したとして、次に何をするのかが筒抜けだ。ましてや女王はそれほど身体能力が高いわけでもない。次の道が示された頃には手遅れだった。
瞬時に切り返した少女にあっけなく捕まると、その白髪を撫で付けられる。
「毛並みって犬みたいな言い方をするなエリー! おい! 聞いて、ふぁ、ライラ、助け!」
エリーの怒涛の攻撃に女王は怪物と呼ばれる侍女に助けを求める。
しかし当の侍女は掌に拳を置いて納得している。女王の様子は確かに、少女に撫で付けられて困っている大型犬によく似ていた。
「アリエル様が犬の様な愛嬌とは正に的を射てますね。流石はエリー」
そんなこと言い始めて、眺めている。
今の女王は実際のところ、マスコット的な人気も博している。
初代女王の英雄譚から連想する『白の女王エリーゼ』と言うよりも、『守りたくなるアリエルちゃん』と言った方がしっくり来るのだ。
もちろん、国民はそれを口にはしないが、皆分かっている。
「エリーゼだけに的を射るってね」
そんな弓の名手初代エリーゼに白弓エリーゼと名付けた弓を持つエリーが掛けてみたところで、現女王エリーゼから本気の泣きが入る。
「何言ってるのか分からないから! 助けて!」
エリーの馬鹿力で身動きの一つも取れない女王は、そんな風に情けなく怪物と呼ばれる侍女に本気の助けを求めたのだった。
「なるほど、確かに守ってあげたいアリエルちゃん」
皆の心を代弁しながらエリーが解放する。
すると、女王は何事もなかったかの様に玉座に腰掛け、居住まいを直すのだった。
もちろん、エリーが皆を代弁してそれを言ったことに気付いているその顔は真っ赤に染まっていた。
アリエルは別にエリー程小柄なわけではない。
とは言え、初代エリーゼと同じなのは長い白髪だけ。その愛玩性は英雄と言うよりもアイドルに近い。
城の中ではライラを始め当然の様に認知されていること、そしてあくまで女王を中心としているのは国民の側。市井にも噂はある程度は流れていくものだ。
「ま、まあ良いよもう。ところで、何しに来たんだ?」
「アリエルちゃんそろそろ寂しいかなと思って会いに来ただけだよ。というか私が寂しかったから会いに来ただけ」
「そ、そうか。オリヴィアさんは?」
ストレートな言葉に嬉しさを隠せずに問う。
いつも一緒にいる二人のうちの一人が見当たらない。
なんとなく理由に見当は付いているものの、一応の形で。
「あれ、そう言えばミラさんも戻ってきてないね」
思い返してみれば、アリエルが治ったと伝えに来た侍女のミラの心を読んだ時点で飛び出していた。
「気づいてなかったのか……」
「いやぁー、アリエルちゃんもふもふしたくて」
「もう、全くエリーは。オリヴィアさん今ではこの国でも大人気なんだから今頃凄いことになってるんじゃない?」
アリエルはオリヴィアに憧れている。
戦う王女様、その苛烈な戦闘の様子に思わず見惚れてしまった過去がある。
自分では決してなれない初代エリーゼの様に気丈に戦う彼女は、アルカナウィンド女王の理想の姿。
それは、サンダープリンセスがオリヴィアだと知ってしまった今の国民にとってもほぼ同じだ。
「ああ、そうだそうだ! オリ姉とアリエルちゃんの二大ヒロインが居れば大丈夫みたいな雰囲気が漂ってた! まずいかも、どうしよう、助けてくる?」
今更ながらあわあわと慌て始めるエリーを宥めたのは、怪物と呼ばれる女だった。
「私が行ってきますよエリー。アリエル様を守っててね。あ、いや、遊んであげててね」
「あ、うん、了解!」
今のこの国で一番影響力を持つ者はアリエルだが、二番目はライラだ。
彼女が何度も何度もアリエルを助けているシーンを、今では国民のみんなが目撃していると言っても良い。
基本的には常にアリエルに付いている彼女も、エリーが居れば安心。
敵意を事前に察するその力で、守ることに関してははっきり言ってライラ以上。
そんな全幅の信頼をもって、ライラは街へと繰り出すことにした。
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