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第二部第一章:鬼神を継ぐ二人
第十七話:分かりやすくも親しみやすい二つ名が良かったよ
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「聖女の弟子ルークと言えば、もしかしてあの『悪夢の婚約者』か……」
「そうだな、『悪夢の婚約者』だ」
「自由落下そのままキックって声を夢の中で聞いた気がする。それに実際に浮いてるところを見ると、……『悪夢の婚約者』で間違いないだろう」
ルークの名乗りを聞いた村人達は、口々にそんな言葉を呟く。
既に少年は、聖女の直接の教え子、及びこの『重力魔法』を開発した者として世界に名を馳せている。
世界的には、少年の方が有名だ。
しかしここベラトゥーラ共和国に於いては、少し違う。
(ねえルー君、私早速彼らの夢を無かったことにしたの後悔してるんだけど……)
(ごめんねエレナ、僕もだ……)
この国の首都から半径1000km程度の範囲に限り、少女の方が少年よりも有名となっている。
と言うのも、少年の開発した重力魔法はある程度の教養が必要になる為に扱える者が少ない。
それに対して、少女の方は分かりやすい魔法を扱える、ということがある。それを目にした者は皆が口をあんぐりと開き、同じ言葉を口にしたということが、少女が一国の中で有名になった理由だ。
それはともかくとして、少女は少年が『悪夢の婚約者』と呼ばれることを好ましく思っていない。
「すまないが、『悪夢の婚約者』は止めてくれないか」
言われ慣れている為、あえての不満顔を作りながら少年は言う。
「ああ、これは申し訳ない、お許し下さい救世主よ……」
「それも止めてくれ……。僕はただの聖女の生徒だ」
そう言えば、次は村人達がきょとんとする。
聖女の直接の教え子、それも一番の生徒として有名な彼ならば救世主では?とでも言わんばかりの顔だ。
(先生は毎回こんな恥ずかしい思いをしてたのか……。相変わらず何もかも敵わないなぁ)
(研究所にいた時はあんなに僕が最強だって言ってたのに何を今更弱気になってるのよ)
(あの時とは違うよ……)
村人達がどうすべきかとがやがや相談している間も、少年は勝手に追い詰められていく。別に、目立つのが嫌いなわけでもないのだが、素直に遜られるのもまた慣れてはいない。
「ところで『天才ルーク』様、豪華なものはありませんがどうか村をあげてのおもてなしを」
その言葉に少年は再び真っ赤になる。
「……いや、僕は行かなければいけない。また魔物が出現したようだからね」
言って、少年はぱっと姿を消した。
魔物の出現は、見えていない。ただの口実だ。
その後結局の所、彼が居た場所に祭壇が設けられ、村の救世主として祀られることになることを逃げ出した少年が知ることはなかった。
……。
「ねえエレナ、僕の二つ名おかしくない?」
村から離れた少年が、隣に追いついた少女に深刻そうに尋ねる。
「なら『悪夢の婚約者』にする?ルー君がそれが良いって言うなら認めるけど」
相変わらず少女の方は、少年を試すようにそんなことを言う。
「……いや。どうせならオリヴィアさんの『雷姫』みたいに分かりやすくも親しみやすい二つ名が良かったよ」
「私なんか『悪夢』だけれど」
「……ごめん」
「全く、あなたは本当に凄いんだからさっきみたいにフッハッハッハって腕組んで笑ってれば良いのに」
自分は無条件に凄い。尊敬する人物が偉大過ぎてそこまで思ったことはなかったが、ここ1年でそういう時期を抜けてしまった微妙な年頃の少年は、ちょくちょくこういった恥ずかしさを少女に相談していた。そして毎回からかう様な嗜める様な、慰める様なことを言われては気を持ち直す。
見知らぬ人に凄いと言われるのと、婚約者である少女に凄いと言われるのとでは、その意味合いが全く違う。
「そっか。でもさ、エレナの『悪夢』はなんとか変えたいね」
こうして、毎回少女に嗜められれば、簡単に納得してしまうのだ。
その理由も、簡単だ。
「私は自分が『悪夢』なことは気に入ってるわ。でも、ルー君が『悪夢の婚約者』なのが嫌なの。それじゃ私の方が上じゃない」
少女は少年を上手いこと持ち上げる。
「ははは、そっか。全くエレナには敵わないな」
機嫌良くそう言った少年、ルークはいつだって少女エレナの掌の上だ。
新しい魔法を開発する様な天才も、人間関係では決して勝てない相手がいる。
それが、彼にとってはどうしようもなく心地の良いものだった。
「さて、少しオリヴィアさん達に合流してみようと思うんだけど、どうする?」
気を取り直したルークはそんなことを尋ねる。
「そうしましょうか。エリーちゃんで試したい魔法もあるし」
エレナは少しばかり闘志を燃やす。
「エリーちゃんで、って……」
相変わらずの発想にルークは苦笑いしながらも、「まあ、彼女幻術効かないしね……」とカバーを忘れない。
「さて、私が詠唱するから守ってね」
「はい、了解」
そうして10分程に渡る詠唱の後、二人は一度他の仲間達の居場所を把握している場所へと、光の粒になって転移していく。
――。
「よく来たな、ルークにエレナ。エリーとオリヴィアなら死の山に向かっておるぞ」
そんな言葉で二人を出迎えたのは、女王を示すティアラを付けた白髪の少女だった。
転移先は世界最大の大国。
その王城の片隅にある、青い花の庭。
「そうだな、『悪夢の婚約者』だ」
「自由落下そのままキックって声を夢の中で聞いた気がする。それに実際に浮いてるところを見ると、……『悪夢の婚約者』で間違いないだろう」
ルークの名乗りを聞いた村人達は、口々にそんな言葉を呟く。
既に少年は、聖女の直接の教え子、及びこの『重力魔法』を開発した者として世界に名を馳せている。
世界的には、少年の方が有名だ。
しかしここベラトゥーラ共和国に於いては、少し違う。
(ねえルー君、私早速彼らの夢を無かったことにしたの後悔してるんだけど……)
(ごめんねエレナ、僕もだ……)
この国の首都から半径1000km程度の範囲に限り、少女の方が少年よりも有名となっている。
と言うのも、少年の開発した重力魔法はある程度の教養が必要になる為に扱える者が少ない。
それに対して、少女の方は分かりやすい魔法を扱える、ということがある。それを目にした者は皆が口をあんぐりと開き、同じ言葉を口にしたということが、少女が一国の中で有名になった理由だ。
それはともかくとして、少女は少年が『悪夢の婚約者』と呼ばれることを好ましく思っていない。
「すまないが、『悪夢の婚約者』は止めてくれないか」
言われ慣れている為、あえての不満顔を作りながら少年は言う。
「ああ、これは申し訳ない、お許し下さい救世主よ……」
「それも止めてくれ……。僕はただの聖女の生徒だ」
そう言えば、次は村人達がきょとんとする。
聖女の直接の教え子、それも一番の生徒として有名な彼ならば救世主では?とでも言わんばかりの顔だ。
(先生は毎回こんな恥ずかしい思いをしてたのか……。相変わらず何もかも敵わないなぁ)
(研究所にいた時はあんなに僕が最強だって言ってたのに何を今更弱気になってるのよ)
(あの時とは違うよ……)
村人達がどうすべきかとがやがや相談している間も、少年は勝手に追い詰められていく。別に、目立つのが嫌いなわけでもないのだが、素直に遜られるのもまた慣れてはいない。
「ところで『天才ルーク』様、豪華なものはありませんがどうか村をあげてのおもてなしを」
その言葉に少年は再び真っ赤になる。
「……いや、僕は行かなければいけない。また魔物が出現したようだからね」
言って、少年はぱっと姿を消した。
魔物の出現は、見えていない。ただの口実だ。
その後結局の所、彼が居た場所に祭壇が設けられ、村の救世主として祀られることになることを逃げ出した少年が知ることはなかった。
……。
「ねえエレナ、僕の二つ名おかしくない?」
村から離れた少年が、隣に追いついた少女に深刻そうに尋ねる。
「なら『悪夢の婚約者』にする?ルー君がそれが良いって言うなら認めるけど」
相変わらず少女の方は、少年を試すようにそんなことを言う。
「……いや。どうせならオリヴィアさんの『雷姫』みたいに分かりやすくも親しみやすい二つ名が良かったよ」
「私なんか『悪夢』だけれど」
「……ごめん」
「全く、あなたは本当に凄いんだからさっきみたいにフッハッハッハって腕組んで笑ってれば良いのに」
自分は無条件に凄い。尊敬する人物が偉大過ぎてそこまで思ったことはなかったが、ここ1年でそういう時期を抜けてしまった微妙な年頃の少年は、ちょくちょくこういった恥ずかしさを少女に相談していた。そして毎回からかう様な嗜める様な、慰める様なことを言われては気を持ち直す。
見知らぬ人に凄いと言われるのと、婚約者である少女に凄いと言われるのとでは、その意味合いが全く違う。
「そっか。でもさ、エレナの『悪夢』はなんとか変えたいね」
こうして、毎回少女に嗜められれば、簡単に納得してしまうのだ。
その理由も、簡単だ。
「私は自分が『悪夢』なことは気に入ってるわ。でも、ルー君が『悪夢の婚約者』なのが嫌なの。それじゃ私の方が上じゃない」
少女は少年を上手いこと持ち上げる。
「ははは、そっか。全くエレナには敵わないな」
機嫌良くそう言った少年、ルークはいつだって少女エレナの掌の上だ。
新しい魔法を開発する様な天才も、人間関係では決して勝てない相手がいる。
それが、彼にとってはどうしようもなく心地の良いものだった。
「さて、少しオリヴィアさん達に合流してみようと思うんだけど、どうする?」
気を取り直したルークはそんなことを尋ねる。
「そうしましょうか。エリーちゃんで試したい魔法もあるし」
エレナは少しばかり闘志を燃やす。
「エリーちゃんで、って……」
相変わらずの発想にルークは苦笑いしながらも、「まあ、彼女幻術効かないしね……」とカバーを忘れない。
「さて、私が詠唱するから守ってね」
「はい、了解」
そうして10分程に渡る詠唱の後、二人は一度他の仲間達の居場所を把握している場所へと、光の粒になって転移していく。
――。
「よく来たな、ルークにエレナ。エリーとオリヴィアなら死の山に向かっておるぞ」
そんな言葉で二人を出迎えたのは、女王を示すティアラを付けた白髪の少女だった。
転移先は世界最大の大国。
その王城の片隅にある、青い花の庭。
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