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第二部第一章:鬼神を継ぐ二人
第八話:お師匠様、わたくしは最強を証明しますわ
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「エリーさん、月光を」
「ん、仕方ないか」
ドラゴンと聞いて冷静になったオリヴィアは、エリーに一本の剣を手渡す様に要求する。
宝剣『不壊の月光』
文字通り、ただ壊れないという性質を持つ剣だ。
何をしてもその刃が傷付くことは無く、汚れすら付かない。
そして一切のしなりすらないそれは、別に特段高い斬れ味も持たない。
通常の剣と比べて倍の4kgという重量もある。
二人は、毎月この剣を奪い合って闘いをすることに決めている。
理由はシンプルだ。師の遺品だから。
毎月の試合で勝った方が、一ヶ月の所有権を持つ。それが二人の間で交わされた約束だった。
先月は生まれて初めてエリーがオリヴィアに勝った為それを帯剣していたが、その扱いにはまだ慣れていない。エリーはもっと斬れ味の良い武器をいくつも普段から持っているし、防御するのであれば大盾がある。
それならば、5年間それを使い続けたオリヴィアに渡してしまった方が今は良い。
ドラゴンと聞いてパニックを起こし始めた群衆の中で二人は冷静にそれを渡し終えると、言い放った。
「みんな、大丈夫」
心の芯にまで届くような声がオアシスに響く。
エリーの力を乗せたその声は、そのたった一言で民衆達を安心させる。
確かにこの人が言った言葉であれば信じていい、いや、間違いがない。それほどに、心が穏やかになっていく。
「安心してください。そのドラゴンはわたくしがきちんと始末させていただきますわ」
エリーの一言でしーんと静まり返った民衆に、王女の艶やかな声が浸透していく。
皆、『サンダープリンセス』とか、『雷姫』と言う都市伝説は聞いている。
どんな強大な魔物も、その赤い閃光は瞬く間に倒してしまう。
ある時は行商人のピンチに現れ、ある時は都市の危機に現れる。
そんな彼女が本物であるならば、隣にいるその都市伝説に勝ったと言う少女が共に戦うのであれば、確かにドラゴンを退けることなら出来るかもしれない。
先の少女の一声と相まって、民衆達はそんな安堵の表情を浮かべ始めた。
少女が余計なことを言うまでは……。
「ってことで、ドラゴンはこの王女様が一人で倒してくれるみたいだから、安心しなさい」
「へ……?」
民衆と王女が、同時に間抜けな声を上げる。
ドラゴンという魔物は、通常倒せるようなものではない。
国を挙げた防衛戦で、ようやく撃退できるような魔物だ。
かつて英雄レインの故郷、狛の村の化け物の様な住人達が50m弱の個体を倒したという記録は残っている。しかしそれ以外の討伐となれば、まだ魔王が居た時代の話だ。
二人の、異常とも言える歴史的英雄を除けば。
そんな皆の心中を察して、エリーが更に続ける。
「この王女様は、その異常の後継者なんだからドラゴン位倒せるわ。安心なさい」
そんなエリーの余裕の発言に、指名された王女は目を白黒させながら言う。
「いや、あの、サイズはどの位ですの?」
「んー、空気の感じからすると狛の村の奴より少し大きいくらいかな」
それは無理だ。民衆達は思う。
一人どころか、数百人の勇者と魔法使いが合同で戦って追い返せる程度。
皆はそう考える。
ところが、王女の反応は違った。
「あ、それならいけますわね、オアシスの守護、お願いしますね」
「ほい、了解。今回こそはちゃんと倒してきてよね」
一体何を言っているのか、民衆達には最早分からなかった。
中には命懸けで加勢するといった表情をしている冒険者や兵もちらほら見える。
そんな者達の覚悟などまるで意に介さないように、二人は続ける。
「あ、オリ姉、最初の牽制で私が倒しちゃったらごめんね」
背負っていたいくつもの武器を地面に突き刺し、その中から槍と盾を選んでエリーは言う。
「それは困りますわ。あなたはしっかりここを守ってくださいな」
右手にレイピア、左手に月光と呼ばれた剣を持ってオリヴィアは構える。
「のんびりしてたら私も出ちゃうからね。あ、あなた達早く下がりなさいよ」
「あ、はい」
心に介入するエリーが、有無を言わさず戦士達を下がらせる。
そんな気の抜けたやりとりがあった直後、南の方向からけたたましい低音の雄叫びが鳴り響き、巨大な赤色のドラゴンが姿を現した。
「ふふふ、わたくしが初めて倒すドラゴンが赤色とは、運命を感じますわね」
以前、オリヴィアは三度、ドラゴンと戦ったことがある。
しかしその中で彼女が仕留めた回数はゼロ。
赤く燃える鱗は、そんなオリヴィアの悔しさの象徴でもあった。
「よーし、いってらっっっしゃい、マルス!」
そんな風に感慨に耽るオリヴィアを差し置いて、エリーが手に持った槍を投擲する。
マルスと呼ばれたその槍はドラゴンに向かって一直線に飛んでいく。
「ちょ、卑怯ですわ!」とオリヴィアが叫ぶのも聞かず、にやりとエリーが笑い、ドラゴンは、その牙をもって、それを弾き落とした。
「ちぇ、やっぱここじゃあんま威力でないかー」
つまらなそうに口を尖らせるエリー。
「エリーさん、わたくしが倒すって言いましたわよ!」
対して、オリヴィアは本気で怒っている。
それもそのはず、因縁の赤いドラゴンは以前皆が苦戦する中、当時最弱だったエリーが今の槍で一撃の元に屠っていた。
当時から強いと言われていた自分ではなく、まだまだ力不足だったはずの少女が、である。
「敵を騙すには味方からって言うじゃない」
知らなーいといった表情でそっぽを向くエリー。
「ドラゴンにとってはただの不意打ちですわ!」
「はいはい、行ってらっしゃい、オリ姉」
「くうう、後で絶対試合ですわよ! ぎゃふんと言わせてあげますわ!」
心底悔しそうに、最近少し生意気になってきた少女を背にして、王女はドラゴンを振り返った。
「お師匠様、わたくしは最強を証明しますわ」
その一言と共に、王女は一筋の閃光となって突き進んだ。
「ん、仕方ないか」
ドラゴンと聞いて冷静になったオリヴィアは、エリーに一本の剣を手渡す様に要求する。
宝剣『不壊の月光』
文字通り、ただ壊れないという性質を持つ剣だ。
何をしてもその刃が傷付くことは無く、汚れすら付かない。
そして一切のしなりすらないそれは、別に特段高い斬れ味も持たない。
通常の剣と比べて倍の4kgという重量もある。
二人は、毎月この剣を奪い合って闘いをすることに決めている。
理由はシンプルだ。師の遺品だから。
毎月の試合で勝った方が、一ヶ月の所有権を持つ。それが二人の間で交わされた約束だった。
先月は生まれて初めてエリーがオリヴィアに勝った為それを帯剣していたが、その扱いにはまだ慣れていない。エリーはもっと斬れ味の良い武器をいくつも普段から持っているし、防御するのであれば大盾がある。
それならば、5年間それを使い続けたオリヴィアに渡してしまった方が今は良い。
ドラゴンと聞いてパニックを起こし始めた群衆の中で二人は冷静にそれを渡し終えると、言い放った。
「みんな、大丈夫」
心の芯にまで届くような声がオアシスに響く。
エリーの力を乗せたその声は、そのたった一言で民衆達を安心させる。
確かにこの人が言った言葉であれば信じていい、いや、間違いがない。それほどに、心が穏やかになっていく。
「安心してください。そのドラゴンはわたくしがきちんと始末させていただきますわ」
エリーの一言でしーんと静まり返った民衆に、王女の艶やかな声が浸透していく。
皆、『サンダープリンセス』とか、『雷姫』と言う都市伝説は聞いている。
どんな強大な魔物も、その赤い閃光は瞬く間に倒してしまう。
ある時は行商人のピンチに現れ、ある時は都市の危機に現れる。
そんな彼女が本物であるならば、隣にいるその都市伝説に勝ったと言う少女が共に戦うのであれば、確かにドラゴンを退けることなら出来るかもしれない。
先の少女の一声と相まって、民衆達はそんな安堵の表情を浮かべ始めた。
少女が余計なことを言うまでは……。
「ってことで、ドラゴンはこの王女様が一人で倒してくれるみたいだから、安心しなさい」
「へ……?」
民衆と王女が、同時に間抜けな声を上げる。
ドラゴンという魔物は、通常倒せるようなものではない。
国を挙げた防衛戦で、ようやく撃退できるような魔物だ。
かつて英雄レインの故郷、狛の村の化け物の様な住人達が50m弱の個体を倒したという記録は残っている。しかしそれ以外の討伐となれば、まだ魔王が居た時代の話だ。
二人の、異常とも言える歴史的英雄を除けば。
そんな皆の心中を察して、エリーが更に続ける。
「この王女様は、その異常の後継者なんだからドラゴン位倒せるわ。安心なさい」
そんなエリーの余裕の発言に、指名された王女は目を白黒させながら言う。
「いや、あの、サイズはどの位ですの?」
「んー、空気の感じからすると狛の村の奴より少し大きいくらいかな」
それは無理だ。民衆達は思う。
一人どころか、数百人の勇者と魔法使いが合同で戦って追い返せる程度。
皆はそう考える。
ところが、王女の反応は違った。
「あ、それならいけますわね、オアシスの守護、お願いしますね」
「ほい、了解。今回こそはちゃんと倒してきてよね」
一体何を言っているのか、民衆達には最早分からなかった。
中には命懸けで加勢するといった表情をしている冒険者や兵もちらほら見える。
そんな者達の覚悟などまるで意に介さないように、二人は続ける。
「あ、オリ姉、最初の牽制で私が倒しちゃったらごめんね」
背負っていたいくつもの武器を地面に突き刺し、その中から槍と盾を選んでエリーは言う。
「それは困りますわ。あなたはしっかりここを守ってくださいな」
右手にレイピア、左手に月光と呼ばれた剣を持ってオリヴィアは構える。
「のんびりしてたら私も出ちゃうからね。あ、あなた達早く下がりなさいよ」
「あ、はい」
心に介入するエリーが、有無を言わさず戦士達を下がらせる。
そんな気の抜けたやりとりがあった直後、南の方向からけたたましい低音の雄叫びが鳴り響き、巨大な赤色のドラゴンが姿を現した。
「ふふふ、わたくしが初めて倒すドラゴンが赤色とは、運命を感じますわね」
以前、オリヴィアは三度、ドラゴンと戦ったことがある。
しかしその中で彼女が仕留めた回数はゼロ。
赤く燃える鱗は、そんなオリヴィアの悔しさの象徴でもあった。
「よーし、いってらっっっしゃい、マルス!」
そんな風に感慨に耽るオリヴィアを差し置いて、エリーが手に持った槍を投擲する。
マルスと呼ばれたその槍はドラゴンに向かって一直線に飛んでいく。
「ちょ、卑怯ですわ!」とオリヴィアが叫ぶのも聞かず、にやりとエリーが笑い、ドラゴンは、その牙をもって、それを弾き落とした。
「ちぇ、やっぱここじゃあんま威力でないかー」
つまらなそうに口を尖らせるエリー。
「エリーさん、わたくしが倒すって言いましたわよ!」
対して、オリヴィアは本気で怒っている。
それもそのはず、因縁の赤いドラゴンは以前皆が苦戦する中、当時最弱だったエリーが今の槍で一撃の元に屠っていた。
当時から強いと言われていた自分ではなく、まだまだ力不足だったはずの少女が、である。
「敵を騙すには味方からって言うじゃない」
知らなーいといった表情でそっぽを向くエリー。
「ドラゴンにとってはただの不意打ちですわ!」
「はいはい、行ってらっしゃい、オリ姉」
「くうう、後で絶対試合ですわよ! ぎゃふんと言わせてあげますわ!」
心底悔しそうに、最近少し生意気になってきた少女を背にして、王女はドラゴンを振り返った。
「お師匠様、わたくしは最強を証明しますわ」
その一言と共に、王女は一筋の閃光となって突き進んだ。
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