雨の世界の終わりまで

七つ目の子

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第十五章:帰還、そして最後の一年

第二百二十九話:なんだかんだで仲の良い二人

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「全く君は化け物だな」

 平原のど真ん中、仰向けに倒れた美青年は言う。
 一人でドラゴンを倒した実績を持つ、歴史上でも三人しか存在しないうちの一人。
 英雄の子孫サンダル。

「これでも全盛期よりは弱くなった」
「そんなことは聞きたくなかったな。全盛期の君と戦いたかった」

 いつも通り、何処か嫌らしい答えをする友人を相手に、何処か清々しい気分で答える。
 完敗、だ。
 一切、手も足も出ない。
 ドラゴンは7回死ぬ内に、少しずつ光明が見えてきた。例えどれだけ恐怖に打ち震えようとも、後少しで倒せるという思いが常にあったからこそ、なんとか討伐に成功した。
 それが、目の前の自分を見下ろす青年には、まるで勝つイメージが湧かなかった。

 全力で斧を振るっても、その本気には、素手で白刃どりされる始末。
 いつかの様に吹き飛ばそうと思っても、同じ威力が出る速度で、つまり、遥かに質量の大きい自分よりも更に速い速度で突っ込まれる。
 かと言って、短剣を抜くことはプライドが許さない。もちろん、それを抜く暇すらない。

「安心しろ。俺は全力でやった。俺に勝てたら魔王にも勝てる」
「なんの励ましにもならんな……。やはり、まだまだ私は弱い。とは言え、指標は出来た、か」

 つまり、魔王誕生までにあの強さまで登り詰めれば、自分の力で魔王を倒せるということ。
 今はまだ、差がありすぎてはっきりとはしないが、自分が100人いれば対抗出来るだろうか、と言った所。
 となれば、単純計算、一先ず100倍強くなれば良いだけだ。

「サニィ君、ありがとう。私は君のおかげで、更に強くなれそうだ」
「いいえ。それがサンダルさんの強さですよ」

 友人を無視して、サンダルは聖女に言う。
 心残りが無いと言えば、嘘になる。
 それでも、サンダルは完敗したことで、何処か安心していた。

 これで、自分は二人を追いかけていられる。
 もしも間違って勝ちでもしてしまったら、自分の成長はそこで終わってしまっただろう。
 満足は人を腐らせる。
 だからこそ、今日ここで負けたことは、ある種の財産になる。

「まあ、勝ち逃げは気に食わないが……」
「いつでも挑戦は受け付けよう。なんなら今からまたやるか? サニィは約束通り俺のものだが」
「まだ君は女性をもの扱いするのか、と言いたい所だが、生憎全く体が動かん。不死の肉体とは言え、疲れは溜まるものだ」

 相変わらず憎々しげにレインを睨みつつ、サンダルは頭を放り投げる。

「今日は休むと良い」
「言われなくとも、だ。あー、今まで君を倒すために頑張り過ぎたよ。でも、回復したらまたやらないといけないじゃないか。嫌になるな、本当に」

 何処か嬉しそうに、サンダルは言う。
 マメだらけの手を天にかざして、空の青さに眩しさを感じながら、その色に、サニィの瞳を重ねながら、サンダルは一先ず、意識を手放すことにした。

 ――。

「あ、目が覚めましたか。今日は私の手料理ですよ」

 声を聞いて目をあけると、見慣れぬ部屋に居た。それなりに豪華な内装の部屋。目の前に金髪碧眼の女性、聖女サニィが料理を運んでいるのが見える。

「あれ? 私はサニィ君と結婚する夢を見ているのか?」

 だとしたら、これは醒めるべき夢だ。
 まだ、見て良いものではない。
 あれだけレインにぼこぼこにされて、夢の中で良い思いをするなど
 弛んでいるにも程がある。

「何を言ってるんだお前は。これは俺の為に作ってくれた料理だ」

 その声に、突然現実に引き戻される。

「なんだ君は、夢の中でくらい甘い思いをしても良いだろう」

 先程の思いも、嫌いな友人の前では天邪鬼の様に消えてしまう。見てはいけない夢とはなんだったのか、自分の弱さが少し嫌になりながら、事態を把握する。

 ここは、宿の一室の様だ。
 気を失った私をここに運んで、サニィ君が料理を作ってくれている。
 サンダルは理解する。

「全く、二人ともこんな時くらい喧嘩はやめて下さいよ。この料理はレインさんの為に作ったわけじゃありません! 私達三人で食べる為に作ったんです」

 聖女は聖女らしく聖女の様なことを言う。
 プロポーズして、無様に負けて気絶した男を前に、以前と何一つ変わらない態度。
 流石は自分の惚れた女性だと、再び込み上げてくるものがある。

「はぁ、本当になんで聖女様は君の様な人が良いんだか」

 思わず口から漏れてしまう。
 それに、サニィは笑って答えた。

「サンダルさんだって分かってる癖に」
「……全っ然分からないな」
 即答する。
「俺はお前を認めているのに冷たいことだ」

 そんなことを恥ずかしげもなく言う所も気に入らない。

「ともかく、私は友人の全てが気に入らない」

 そんな風に言い張るサンダルに、サニィはまだ笑みを崩さず、こう言った。

「嫌よ嫌よも好きのうちという奴ですね」

 それに対して、図らずも、二人の青年からは、全く同じ言葉が全く同じタイミングで飛び出たのだった。

「それはやめてくれ」

 なんだかんだ言って仲の良い二人を見て、サニィはまだ、友人とは良いものだと笑い続ける。
 それを見て、少しばかり、ライバルとして認めたライラと、どうにもコンプレックスから敵対してしまうナディアのことを、思い描くのだった。
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