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第十五章:帰還、そして最後の一年
第二百十九話:騎士団長の剣
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王都では、相変わらず武器に名前を付けるのが流行っている。
中にはレインから見ても良い名前だと思うものもあったのだが、大抵はよく分からない。
とは言え、一つ言いたいことがあった。
殆どの名前に対してサニィが、「あんまセンス良くないですねぇ」等と呟いていたことに対してだ。
「お前……」
「へ? なんですか?」
「いや、まあ、良いだろう」
正直、その多くはレインにとってサニィの付ける名前と差が分からない。しかし、流行っていると言う事は、少数派はここではむしろレインの方だ。
サニィが何を以てあまりセンスが良くないと言っているのは全く意味がわからないが、いかにレインにとってサニィがクソダサセンスだとは言え、多くに認められるということはそれはそれなりに、まあ、悪くないことではある。
それを頭ごなしに否定すると言うのも、そろそろ大人気ないのではないかと思ってしまうのだった。
「……ディエゴは名前を付けたのだろうか」
彼の1.2m程のロングソードは、この国最強の騎士だけあり宝剣クラスが与えられている。単純に切れ味が良いだけのものだが、申し分無い性能。
これだけのことになってしまったのならばそれに名前の一つでも付けていておかしくはない。
とは言え、王とは違い微妙に堅物なあの男がこの流れに乗るのか乗らないか、乗るならばどんな名前を付けるのかは少しだけ興味があった。
「ディエゴさんは意外とセンス良さそうですよね」
「……そうだな」
二人の考えるセンスが良いが食い違っていることは明らかだが、二人は二人ともそれなりにディエゴを評価していた。
だからこそ、気になって見に行くことにしてみた。
ディエゴの執務室に向かう道中、団長の名前がちらほらと聞こえる。
「剣の名前が」「格好良い」「実は熟女が」「それにしてもあの名前は」
そんな言葉が聞こえてくる。
「付けてるっぽいですね、名前」
「ああ、連中の言葉を総合すると、マイケルの剣は『ジュクジョスレイヤー』が濃厚だな」
「それはないでしょう……」
「ああ、確かに格好良いには当てはまらんな」
「え?」
「ん?」
そんないい加減な会話をしながら、部屋へと辿り着く。
侵入すると、ちょうど剣の手入れをしているところだった。
「ふんふふふーんふ」
等と鼻歌を歌いながら上機嫌に油を塗っている。
「なんだあいつ……」
「マイケルさん、なんか謎の多い人ですね」
「ああ、『ヨウジョブレイカー』の線もあるな」
「それはただの犯罪だと思いますが……」
人の部屋に勝手に入っておきながら、とんでもない念話を続ける。
ただの犯罪は勝手に部屋に侵入しているお前らだと言う者は、誰も居ない。
「よーし、今日も美しいな」
これはやはり名前を付けているのは確実だ。
二人はそれを確信する。
それほどに満足げに、うっとりとした表情で剣を鞘に収める。
「あの気持ち悪い顔はやはり熟女を見る時のものだろうな」
「……そうですね」
言いたい放題の二人に、遂に騎士団長はその名前を口にする。
その名前を前にして、二人は押し黙った。
期待を裏切られたとか、センスが悪かったとか、そういう問題ではなかった。
「えーと、なんて言えば良いんでしょうか。どんまい?」
「なんで俺がそんなことを言われなきゃいかんのだ……」
「まあ、私は嫌いじゃないですよ」
「俺も悪くはないと思うんだがな」
「まあ、良いライバル関係ってことで。熟女の噂は剣と何も関係なくて良かったじゃないですか」
「それは逆によかないだろうが。俺達しか知らないはずの話を誰が広めたんだ……」
王都を出て、火山へと向かいながら二人は話す。
いつの間にやらディエゴが熟女好きという話は都内でそこそこ噂になっているらしく、未婚の壮年女性が市井では「団長狙っちゃおっかなー」「あんたには無理よぬゅふふ」等と話しているのが聞こえた。
まあ、それを団長本人は気にしていない様子だったのでそれは置いておくとして。
「でも、なんだかんだ言ってディエゴさんはレインさんのファンですよね」
「いや、普通に自称ライバルだと言ってくれよ」
「なんだかんだ言ってのファンじゃなければあんな名前付けませんよー」
騎士団長ディエゴの愛剣の名前は、そのうっとりと眺めていた剣の名前は。
『宝剣天霧』
つまり、『ジュクジョスレイヤー』でも『ヨウジョブレイカー』でもなんでもなく、文字を少し変えれば雨斬り。
要するに、『レインスライサー』だった。
「いやぁ、いつか斬られると良いですね、レインさん」
「良くないだろうが。しかも俺があいつに負けることは有り得ない」
「またまたー。みんなに強くなって欲しいくせにぃ」
「相変わらずテンション上がると鬱陶しいなお前は……」
次第に盛り上がっていくサニィを他所に、レインは考える。
名前は悪くない。いや、むしろサニィの付けた王の剣『ことりぺんぎん』に比べたら神懸かりと言って良い程に良い名前だ。
「というか『ことりぺんぎん』ってなんだよアホかよ」
「いきなりアホとかなんなんですか! 私の名前は今やトレンドなんですよ!」
「は?」
「あ、いえ、調子に乗りましたすみません。私の名前はちょっと流行ってるくらいで、ええ」
相変わらず命名のセンスだけは全く合わない二人は、今日も微妙に戦いつつ、火山の方へと歩いていく。
「やはり『天霧』って名前にして正解だったな。霧をも天をも切り裂けと名付けてみたが、最近は更に愛着が湧いてきた。斬れ味も上々だ。よし、そろそろ狛の村へ出発するぞお前ら!」
一方で何も知らない騎士団長は、今日も愛剣と共に自分を、騎士団を鍛え続けていた。
中にはレインから見ても良い名前だと思うものもあったのだが、大抵はよく分からない。
とは言え、一つ言いたいことがあった。
殆どの名前に対してサニィが、「あんまセンス良くないですねぇ」等と呟いていたことに対してだ。
「お前……」
「へ? なんですか?」
「いや、まあ、良いだろう」
正直、その多くはレインにとってサニィの付ける名前と差が分からない。しかし、流行っていると言う事は、少数派はここではむしろレインの方だ。
サニィが何を以てあまりセンスが良くないと言っているのは全く意味がわからないが、いかにレインにとってサニィがクソダサセンスだとは言え、多くに認められるということはそれはそれなりに、まあ、悪くないことではある。
それを頭ごなしに否定すると言うのも、そろそろ大人気ないのではないかと思ってしまうのだった。
「……ディエゴは名前を付けたのだろうか」
彼の1.2m程のロングソードは、この国最強の騎士だけあり宝剣クラスが与えられている。単純に切れ味が良いだけのものだが、申し分無い性能。
これだけのことになってしまったのならばそれに名前の一つでも付けていておかしくはない。
とは言え、王とは違い微妙に堅物なあの男がこの流れに乗るのか乗らないか、乗るならばどんな名前を付けるのかは少しだけ興味があった。
「ディエゴさんは意外とセンス良さそうですよね」
「……そうだな」
二人の考えるセンスが良いが食い違っていることは明らかだが、二人は二人ともそれなりにディエゴを評価していた。
だからこそ、気になって見に行くことにしてみた。
ディエゴの執務室に向かう道中、団長の名前がちらほらと聞こえる。
「剣の名前が」「格好良い」「実は熟女が」「それにしてもあの名前は」
そんな言葉が聞こえてくる。
「付けてるっぽいですね、名前」
「ああ、連中の言葉を総合すると、マイケルの剣は『ジュクジョスレイヤー』が濃厚だな」
「それはないでしょう……」
「ああ、確かに格好良いには当てはまらんな」
「え?」
「ん?」
そんないい加減な会話をしながら、部屋へと辿り着く。
侵入すると、ちょうど剣の手入れをしているところだった。
「ふんふふふーんふ」
等と鼻歌を歌いながら上機嫌に油を塗っている。
「なんだあいつ……」
「マイケルさん、なんか謎の多い人ですね」
「ああ、『ヨウジョブレイカー』の線もあるな」
「それはただの犯罪だと思いますが……」
人の部屋に勝手に入っておきながら、とんでもない念話を続ける。
ただの犯罪は勝手に部屋に侵入しているお前らだと言う者は、誰も居ない。
「よーし、今日も美しいな」
これはやはり名前を付けているのは確実だ。
二人はそれを確信する。
それほどに満足げに、うっとりとした表情で剣を鞘に収める。
「あの気持ち悪い顔はやはり熟女を見る時のものだろうな」
「……そうですね」
言いたい放題の二人に、遂に騎士団長はその名前を口にする。
その名前を前にして、二人は押し黙った。
期待を裏切られたとか、センスが悪かったとか、そういう問題ではなかった。
「えーと、なんて言えば良いんでしょうか。どんまい?」
「なんで俺がそんなことを言われなきゃいかんのだ……」
「まあ、私は嫌いじゃないですよ」
「俺も悪くはないと思うんだがな」
「まあ、良いライバル関係ってことで。熟女の噂は剣と何も関係なくて良かったじゃないですか」
「それは逆によかないだろうが。俺達しか知らないはずの話を誰が広めたんだ……」
王都を出て、火山へと向かいながら二人は話す。
いつの間にやらディエゴが熟女好きという話は都内でそこそこ噂になっているらしく、未婚の壮年女性が市井では「団長狙っちゃおっかなー」「あんたには無理よぬゅふふ」等と話しているのが聞こえた。
まあ、それを団長本人は気にしていない様子だったのでそれは置いておくとして。
「でも、なんだかんだ言ってディエゴさんはレインさんのファンですよね」
「いや、普通に自称ライバルだと言ってくれよ」
「なんだかんだ言ってのファンじゃなければあんな名前付けませんよー」
騎士団長ディエゴの愛剣の名前は、そのうっとりと眺めていた剣の名前は。
『宝剣天霧』
つまり、『ジュクジョスレイヤー』でも『ヨウジョブレイカー』でもなんでもなく、文字を少し変えれば雨斬り。
要するに、『レインスライサー』だった。
「いやぁ、いつか斬られると良いですね、レインさん」
「良くないだろうが。しかも俺があいつに負けることは有り得ない」
「またまたー。みんなに強くなって欲しいくせにぃ」
「相変わらずテンション上がると鬱陶しいなお前は……」
次第に盛り上がっていくサニィを他所に、レインは考える。
名前は悪くない。いや、むしろサニィの付けた王の剣『ことりぺんぎん』に比べたら神懸かりと言って良い程に良い名前だ。
「というか『ことりぺんぎん』ってなんだよアホかよ」
「いきなりアホとかなんなんですか! 私の名前は今やトレンドなんですよ!」
「は?」
「あ、いえ、調子に乗りましたすみません。私の名前はちょっと流行ってるくらいで、ええ」
相変わらず命名のセンスだけは全く合わない二人は、今日も微妙に戦いつつ、火山の方へと歩いていく。
「やはり『天霧』って名前にして正解だったな。霧をも天をも切り裂けと名付けてみたが、最近は更に愛着が湧いてきた。斬れ味も上々だ。よし、そろそろ狛の村へ出発するぞお前ら!」
一方で何も知らない騎士団長は、今日も愛剣と共に自分を、騎士団を鍛え続けていた。
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