雨の世界の終わりまで

七つ目の子

文字の大きさ
上 下
219 / 592
第十五章:帰還、そして最後の一年

第二百十九話:騎士団長の剣

しおりを挟む
 王都では、相変わらず武器に名前を付けるのが流行っている。
 中にはレインから見ても良い名前だと思うものもあったのだが、大抵はよく分からない。
 とは言え、一つ言いたいことがあった。
 殆どの名前に対してサニィが、「あんまセンス良くないですねぇ」等と呟いていたことに対してだ。

「お前……」
「へ? なんですか?」
「いや、まあ、良いだろう」

 正直、その多くはレインにとってサニィの付ける名前と差が分からない。しかし、流行っていると言う事は、少数派はここではむしろレインの方だ。
 サニィが何を以てあまりセンスが良くないと言っているのは全く意味がわからないが、いかにレインにとってサニィがクソダサセンスだとは言え、多くに認められるということはそれはそれなりに、まあ、悪くないことではある。
 それを頭ごなしに否定すると言うのも、そろそろ大人気ないのではないかと思ってしまうのだった。

「……ディエゴは名前を付けたのだろうか」

 彼の1.2m程のロングソードは、この国最強の騎士だけあり宝剣クラスが与えられている。単純に切れ味が良いだけのものだが、申し分無い性能。
 これだけのことになってしまったのならばそれに名前の一つでも付けていておかしくはない。
 とは言え、王とは違い微妙に堅物なあの男がこの流れに乗るのか乗らないか、乗るならばどんな名前を付けるのかは少しだけ興味があった。

「ディエゴさんは意外とセンス良さそうですよね」
「……そうだな」

 二人の考えるセンスが良いが食い違っていることは明らかだが、二人は二人ともそれなりにディエゴを評価していた。
 だからこそ、気になって見に行くことにしてみた。

 ディエゴの執務室に向かう道中、団長の名前がちらほらと聞こえる。
「剣の名前が」「格好良い」「実は熟女が」「それにしてもあの名前は」
 そんな言葉が聞こえてくる。

「付けてるっぽいですね、名前」
「ああ、連中の言葉を総合すると、マイケルの剣は『ジュクジョスレイヤー』が濃厚だな」 
「それはないでしょう……」
「ああ、確かに格好良いには当てはまらんな」
「え?」
「ん?」

 そんないい加減な会話をしながら、部屋へと辿り着く。
 侵入すると、ちょうど剣の手入れをしているところだった。

「ふんふふふーんふ」

 等と鼻歌を歌いながら上機嫌に油を塗っている。

「なんだあいつ……」
「マイケルさん、なんか謎の多い人ですね」
「ああ、『ヨウジョブレイカー』の線もあるな」
「それはただの犯罪だと思いますが……」

 人の部屋に勝手に入っておきながら、とんでもない念話を続ける。
 ただの犯罪は勝手に部屋に侵入しているお前らだと言う者は、誰も居ない。

「よーし、今日も美しいな」

 これはやはり名前を付けているのは確実だ。
 二人はそれを確信する。
 それほどに満足げに、うっとりとした表情で剣を鞘に収める。

「あの気持ち悪い顔はやはり熟女を見る時のものだろうな」
「……そうですね」

 言いたい放題の二人に、遂に騎士団長はその名前を口にする。
 その名前を前にして、二人は押し黙った。
 期待を裏切られたとか、センスが悪かったとか、そういう問題ではなかった。

「えーと、なんて言えば良いんでしょうか。どんまい?」
「なんで俺がそんなことを言われなきゃいかんのだ……」
「まあ、私は嫌いじゃないですよ」
「俺も悪くはないと思うんだがな」
「まあ、良いライバル関係ってことで。熟女の噂は剣と何も関係なくて良かったじゃないですか」
「それは逆によかないだろうが。俺達しか知らないはずの話を誰が広めたんだ……」 

 王都を出て、火山へと向かいながら二人は話す。
 いつの間にやらディエゴが熟女好きという話は都内でそこそこ噂になっているらしく、未婚の壮年女性が市井では「団長狙っちゃおっかなー」「あんたには無理よぬゅふふ」等と話しているのが聞こえた。
 まあ、それを団長本人は気にしていない様子だったのでそれは置いておくとして。

「でも、なんだかんだ言ってディエゴさんはレインさんのファンですよね」
「いや、普通に自称ライバルだと言ってくれよ」
「なんだかんだ言ってのファンじゃなければあんな名前付けませんよー」

 騎士団長ディエゴの愛剣の名前は、そのうっとりと眺めていた剣の名前は。
『宝剣天霧あまぎり
 つまり、『ジュクジョスレイヤー』でも『ヨウジョブレイカー』でもなんでもなく、文字を少し変えれば雨斬りあまぎり
 要するに、『レインスライサー』だった。

「いやぁ、いつか斬られると良いですね、レインさん」
「良くないだろうが。しかも俺があいつに負けることは有り得ない」
「またまたー。みんなに強くなって欲しいくせにぃ」
「相変わらずテンション上がると鬱陶しいなお前は……」

 次第に盛り上がっていくサニィを他所に、レインは考える。
 名前は悪くない。いや、むしろサニィの付けた王の剣『ことりぺんぎん』に比べたら神懸かりと言って良い程に良い名前だ。

「というか『ことりぺんぎん』ってなんだよアホかよ」
「いきなりアホとかなんなんですか! 私の名前は今やトレンドなんですよ!」
「は?」
「あ、いえ、調子に乗りましたすみません。私の名前はちょっと流行ってるくらいで、ええ」

 相変わらず命名のセンスだけは全く合わない二人は、今日も微妙に戦いつつ、火山の方へと歩いていく。

「やはり『天霧』って名前にして正解だったな。霧をも天をも切り裂けと名付けてみたが、最近は更に愛着が湧いてきた。斬れ味も上々だ。よし、そろそろ狛の村へ出発するぞお前ら!」

 一方で何も知らない騎士団長は、今日も愛剣と共に自分を、騎士団を鍛え続けていた。
しおりを挟む
ツギクルバナー
感想 9

あなたにおすすめの小説

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第三章フェレスト王国エルフ編

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る

早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」 解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。 そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。 彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。 (1話2500字程度、1章まで完結保証です)

お願いだから俺に構わないで下さい

大味貞世氏
ファンタジー
高校2年の9月。 17歳の誕生日に甲殻類アレルギーショックで死去してしまった燻木智哉。 高校1年から始まったハブりイジメが原因で自室に引き籠もるようになっていた彼は。 本来の明るい楽観的な性格を失い、自棄から自滅願望が芽生え。 折角貰った転生のチャンスを不意に捨て去り、転生ではなく自滅を望んだ。 それは出来ないと天使は言い、人間以外の道を示した。 これは転生後の彼の魂が辿る再生の物語。 有り触れた異世界で迎えた新たな第一歩。その姿は一匹の…

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

30年待たされた異世界転移

明之 想
ファンタジー
 気づけば異世界にいた10歳のぼく。 「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」  こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。  右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。  でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。  あの日見た夢の続きを信じて。  ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!  くじけそうになっても努力を続け。  そうして、30年が経過。  ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。  しかも、20歳も若返った姿で。  異世界と日本の2つの世界で、  20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。

処理中です...