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第十四章:取り敢えずで世界を救う
第百九十一話:人外の村へ
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魔物の多くに言えることではあるが、その中でもドラゴンは明確に大きい程強い。
長さが倍ならば質量は8倍を超える。マナが物質化したものなので明確な表現とは違うのかもしれないが、大きくなるほど筋量が増えるのはもちろんのこと、鱗が分厚く堅くなり、ダメージを与えることそのものが困難となる。
そして大きくなればそれだけマナタンクも大きくなり、長い時を生きることによって高い知力を持つことにもなる。
となれば当然、100mの個体は50mの倍強い、では済まなくなる。
通常の人であれば平均で身長107cmの5歳児がどうあがいた所で、大人に敵うはずもない。
今まで確認された最小の個体は翼を広げた状態で40m、これでも町一つを滅ぼすには十分な強さを持っているのだが、最初の魔王となった個体は150mだ。
その時の死者軽く小国一つと、千の勇者を超えている。
ここ数年で強化されたグレーズ騎士団が総出でドラゴンと戦っても、今だ40mのドラゴンを追い返すのがやっとだろう。
ところで、狛の村には現在一頭のドラゴンが向かっている。
サニィ曰く、最も弱い反応。彼女が魔王化する少し前位に生まれたばかりの様な、まだ何も知らないドラゴンの様だと言う。
「さて、せっかくですからレインさんの故郷、私たちで守りませんか?」
英雄候補達に向かって、サニィはそう告げる。
最も弱いドラゴンならば確かに、倒せなければ話にすらならない。
英雄候補達は一様に頷くと、狛の村へと飛び立った。
――。
「お久しぶりです皆さん」
「おお、久しぶりじゃないかレインにサニィちゃん」
サニィが挨拶をすると、家々から相変わらずがやがやと村人が出てくる。
サニィは陰のマナの充満するここが苦手な為、レインを何度か転移させる際、山の麓にしていた。
なので、実際に彼らに会うのは随分と久しぶりだ。
彼女は以前の訪問で守護神レインが連れてきた女ということで注目の的だった。
それは、久しぶりに訪れた今でも変わらない。
「みんな、どうやら今ドラゴンがここに向かっているらしい。弱い個体とのことだが、ここの連中で討伐したいらしい」
言って、新村長に英雄候補達を紹介する。
「それは断る」
新村長リシンは即答する。
「は? 何を言ってるんだお前」
若干の威圧を含んだレインの問いに少々怯えながらも、リシンは答える。
「お前が魔王を倒してからな、色々と話し合ったんだ。あと少しなんだろう? ならば、今まで散々お前に任せてきた分を、少しは取り戻さんとな。弱いドラゴン程度倒せずに拒魔は名乗れんだろうが」
弱いドラゴン程度、その言葉が聞きなれないものだと英雄候補達は眉をひそめる。
それはレインも同様。
「お前達で勝てるのなら良いのかもしれんがな、ドラゴンはデーモンロードとは全く違うぞ」
「違う所なんぞ飛ぶこととでかい事と魔法を使うこと程度だろう。大体、自分達の村位自分達で守れないんなら滅ぶのも仕方がない。ってことで、手出しは無用だ」
「お前な……」
自分達で守れないのなら滅ぶのも仕方ない。
そんなリシンの言葉にレインは怒りを滾らせるが、それを制する者がいる。
「レインさん、任せてみましょう。確かに村長さんの言う通りですから。でも、危なかったら私、我慢しませんからね? 私は自分の町、魔物に滅ぼされてますから、それは許せません。でも……」
少しバツが悪そうにする村長に、サニィは胸に手を当て続ける。
「村の住人だけで脅威から故郷を守れるんだって夢、見させて下さい」
そして、英雄候補達を振り返る。
「そういうことだから皆、ドラゴン退治はまた今度でも良い?」
「うん、お姉ちゃん。私も、お姉ちゃんと同じ気持ちだから」
エリーは即答する。
ディエゴは、狛の村の戦力を改めて確認したいと名目の上、他の英雄候補達もそれぞれ、レインの人外と呼ばれる故郷には興味があった。
「ってことでレイン、俺達の戦いを見ててくれ。借りってことで良いからさ」
リシンは、そんなことを言う。
他の住人たちも同じくそれに頷く。
「ならばこれは貸しだ。今度生まれる魔王討伐、お前らも手伝うなら聞いてやろう」
少しばかり立場が混乱している気もするが、借りと言うことなら、ここ10年以上一人の戦死者も出さずに村が保たれていることそのものが、既に借りとなっている。
「ああ、任された」
そう答えたリシンに、レインはこう付け加えた。
「ただし、ドラゴン程度で一人でも死人を出せばその時点で俺が出る」
そうして村人達は各々家へと戻っていくと、武器や防具を手に取って、レイン達の元へと戻ってきた。
子どもと老人を除いて60人。
これがグレーズ騎士団であれば、どんなに小さいドラゴンであっても追い返すのがやっとだ。
それでも、死者は間違いなく出る。
これがアルカナウィンド騎士団であれば、70m程までなら追い返せるが小さいドラゴンでも倒しきることは出来ないだろう。小さくとも、死者はともかく重傷者は確実に出る。
ウアカリならば40mなら倒せるかもしれない。死を恐れない勇敢な戦士達が本気で戦えば。しかし、それは死ぬことを前提とした戦いになってしまう。
もちろんどの国も、60人で、ではない。全軍で、だ。
そんな一国の軍隊でも苦戦は必至なドラゴンを、如何に人外の村とは言え討伐、いや、撃退すら出来るものか。
騎士団長ディエゴと女王アリエル、そして首長クーリアは、彼らの様子を興味深く見守ることにした。
長さが倍ならば質量は8倍を超える。マナが物質化したものなので明確な表現とは違うのかもしれないが、大きくなるほど筋量が増えるのはもちろんのこと、鱗が分厚く堅くなり、ダメージを与えることそのものが困難となる。
そして大きくなればそれだけマナタンクも大きくなり、長い時を生きることによって高い知力を持つことにもなる。
となれば当然、100mの個体は50mの倍強い、では済まなくなる。
通常の人であれば平均で身長107cmの5歳児がどうあがいた所で、大人に敵うはずもない。
今まで確認された最小の個体は翼を広げた状態で40m、これでも町一つを滅ぼすには十分な強さを持っているのだが、最初の魔王となった個体は150mだ。
その時の死者軽く小国一つと、千の勇者を超えている。
ここ数年で強化されたグレーズ騎士団が総出でドラゴンと戦っても、今だ40mのドラゴンを追い返すのがやっとだろう。
ところで、狛の村には現在一頭のドラゴンが向かっている。
サニィ曰く、最も弱い反応。彼女が魔王化する少し前位に生まれたばかりの様な、まだ何も知らないドラゴンの様だと言う。
「さて、せっかくですからレインさんの故郷、私たちで守りませんか?」
英雄候補達に向かって、サニィはそう告げる。
最も弱いドラゴンならば確かに、倒せなければ話にすらならない。
英雄候補達は一様に頷くと、狛の村へと飛び立った。
――。
「お久しぶりです皆さん」
「おお、久しぶりじゃないかレインにサニィちゃん」
サニィが挨拶をすると、家々から相変わらずがやがやと村人が出てくる。
サニィは陰のマナの充満するここが苦手な為、レインを何度か転移させる際、山の麓にしていた。
なので、実際に彼らに会うのは随分と久しぶりだ。
彼女は以前の訪問で守護神レインが連れてきた女ということで注目の的だった。
それは、久しぶりに訪れた今でも変わらない。
「みんな、どうやら今ドラゴンがここに向かっているらしい。弱い個体とのことだが、ここの連中で討伐したいらしい」
言って、新村長に英雄候補達を紹介する。
「それは断る」
新村長リシンは即答する。
「は? 何を言ってるんだお前」
若干の威圧を含んだレインの問いに少々怯えながらも、リシンは答える。
「お前が魔王を倒してからな、色々と話し合ったんだ。あと少しなんだろう? ならば、今まで散々お前に任せてきた分を、少しは取り戻さんとな。弱いドラゴン程度倒せずに拒魔は名乗れんだろうが」
弱いドラゴン程度、その言葉が聞きなれないものだと英雄候補達は眉をひそめる。
それはレインも同様。
「お前達で勝てるのなら良いのかもしれんがな、ドラゴンはデーモンロードとは全く違うぞ」
「違う所なんぞ飛ぶこととでかい事と魔法を使うこと程度だろう。大体、自分達の村位自分達で守れないんなら滅ぶのも仕方がない。ってことで、手出しは無用だ」
「お前な……」
自分達で守れないのなら滅ぶのも仕方ない。
そんなリシンの言葉にレインは怒りを滾らせるが、それを制する者がいる。
「レインさん、任せてみましょう。確かに村長さんの言う通りですから。でも、危なかったら私、我慢しませんからね? 私は自分の町、魔物に滅ぼされてますから、それは許せません。でも……」
少しバツが悪そうにする村長に、サニィは胸に手を当て続ける。
「村の住人だけで脅威から故郷を守れるんだって夢、見させて下さい」
そして、英雄候補達を振り返る。
「そういうことだから皆、ドラゴン退治はまた今度でも良い?」
「うん、お姉ちゃん。私も、お姉ちゃんと同じ気持ちだから」
エリーは即答する。
ディエゴは、狛の村の戦力を改めて確認したいと名目の上、他の英雄候補達もそれぞれ、レインの人外と呼ばれる故郷には興味があった。
「ってことでレイン、俺達の戦いを見ててくれ。借りってことで良いからさ」
リシンは、そんなことを言う。
他の住人たちも同じくそれに頷く。
「ならばこれは貸しだ。今度生まれる魔王討伐、お前らも手伝うなら聞いてやろう」
少しばかり立場が混乱している気もするが、借りと言うことなら、ここ10年以上一人の戦死者も出さずに村が保たれていることそのものが、既に借りとなっている。
「ああ、任された」
そう答えたリシンに、レインはこう付け加えた。
「ただし、ドラゴン程度で一人でも死人を出せばその時点で俺が出る」
そうして村人達は各々家へと戻っていくと、武器や防具を手に取って、レイン達の元へと戻ってきた。
子どもと老人を除いて60人。
これがグレーズ騎士団であれば、どんなに小さいドラゴンであっても追い返すのがやっとだ。
それでも、死者は間違いなく出る。
これがアルカナウィンド騎士団であれば、70m程までなら追い返せるが小さいドラゴンでも倒しきることは出来ないだろう。小さくとも、死者はともかく重傷者は確実に出る。
ウアカリならば40mなら倒せるかもしれない。死を恐れない勇敢な戦士達が本気で戦えば。しかし、それは死ぬことを前提とした戦いになってしまう。
もちろんどの国も、60人で、ではない。全軍で、だ。
そんな一国の軍隊でも苦戦は必至なドラゴンを、如何に人外の村とは言え討伐、いや、撃退すら出来るものか。
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