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第十四章:取り敢えずで世界を救う
第百八十八話:聖女の力を見て
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サニィの戦い方は理想的だ。
基本を完全に押さえたドラゴン戦。一度の敗北を経験したこともあり、その対処方法も見事。
まず、翼を得意の蔦で絡め取り飛行不能にする。そのまま墜落地点にあらかじめ蔦を設置しておき、手足ごと絡め取り固定。
次いで殆どのドラゴンは自分の体ごと周囲にブレスで蔦を燃やそうとしてくるのでそれを待って、振り向いた瞬間口の中に宝石を転移させたらそれでボン、だ。
周囲を焼くブレスも普通に水で消化して終わり。
なんとも簡単な話だが、これを行うのは数百人の魔法使いが束になっても難しい、圧倒的な物量投入。
それをいとも簡単にやってのけるのが、元魔王とは凄いものだなとアリエルは呑気に呟く。
相手との差がありすぎると、理解すら覚束ない。
そんなサニィの魔法に最も驚愕したのは、グレーズ筆頭騎士ディエゴだった。
「あの時の戦いとは比べ物にならない成長ぶりだねサニィ君……、いや、もう聖女様と言った方が良いのかな……」
相手のドラゴンはあの時と同じく70m級。
ブレスの炎も50m程の火柱を作りながら周囲を焼き尽くす。これを平然と相殺する時点で、人間業ではない。
前回は土壁で必死に防いでいたものだった。
いや、それどころではない。
絡め取る蔦の大きさが異常だ。面白くない倒し方をするのならあのまま絞め殺すことすら出来ただろう。
しかし何と言うべきか、素直に喜んで良いものかはサニィには分からない。
「ディエゴさんまで聖女様は止めてくださいよぉ。この魔法の出力も魔王に乗っ取られた影響だって思うと、微妙な所ではあるんですから」
「いやぁ、悪い悪い。もう私ではどう頑張っても追いつけないと思うと、ちょっと思うところもあるのさ」
かつては最強と呼ばれた男も、次々若い世代に引き離されていくのは嬉しいところでもあり、悲しいところでもある。
まあでも、『聖女様を讃える会』にでも入ることにするよ。等と一言残しては、まだまだ鍛錬を続けなくてはとやる気になっていた。
そして二人の生徒とイリスはそのサニィの圧倒的な出力を前に、単純に感動を覚えていた。
負けたくないと思う心も当然あるが、それとは真逆の感動。圧倒的過ぎて笑えてしまうほどの出力。
自分達の目標とする先生はあれほどに、本来は勇者であるにも関わらず、あれ程に正当な魔法使いの戦いをするのかと、そんな単純な感動を覚えていた。
「エレナ、僕は先生とは随分と違う魔法使いになる。でも、少し地味かもしれないけれど、僕にしか出来ない魔法で頑張ろうかな」
「私は先生やルー君と比べたら随分邪道な魔法使いかな。出力で勝てないなら、精神面で。邪道でも、最向いてる方法が良いよね」
「……私もあんな魔法が使えたらなぁ」
ルークとエレナに続いて、能力を喋って以来二人と仲良くなったイリスが続ける。
「イリスさんは先生と似たような正統派魔法ですもんね。勇者が魔法を使えるってだけで凄すぎますけど」
とルークが杖を振ってみる。その姿はど素人だ。
ルークにはエレナと違って肉弾戦の才能は皆無。完全な頭でっかちの魔法使いタイプと言える。
とは言え、それはそれでイリスにとっては少し羨ましい。
「私は呪文限定な上に出力もないからね。ほとんど肉弾戦の補助魔法だから」
「でも、心を落ち着ける言葉、メンタルケアの力なら私なんかより遥かに上じゃないですか」
エレナは精神を乱すのは得意だが、落ち着かせるのは苦手。
「そうだねぇ、でも」
なんと言うか結論としては、先生は、サニィさんは凄い。格好いい。
三人は声を揃えて、そんなことを続けた。
結局の所、それが言いたいが為に、ここまでの会話を続けた様な所がある。
とはいえ、サニィは目標。
その圧倒的な力を改めて目に焼き付けることは、十分に強くなった自分をイメージする役に立つものだった。
一方、サニィの超魔法を見てメラメラと闘志を燃やしている者が居た。二人。
「くっ、サニィ様強すぎじゃない? 分かったけど、分かってたけどおかしくない? レイン様ぁ……」
と、ライラ。彼女はあのドラゴンとレインの戦いを見て、自分の新たな可能性に気がついていた。
それは今は置いておこう。しかしそれを以てしても、サニィには到底及ばない。
悔しさを感じることが傲慢であるかの様に、圧倒的な差を感じてしまう。
「くっ、あれは確かに抜けがけしようとすれば殺されますね。強いのは分かってましたけど、闇討ちも不可能なレベルですねアレは……」
とはナディア。
彼女は彼女で、隙があればサニィを縛ってレインを襲おうと考えていた。
二人とも狙いはレインではあるが、全くアプローチの仕方は違う。
そして現状の二人の実力は全く互角。
となれば。
「聞こえてたわよ、ナディア様。あなたレイン様を襲う為にサニィ様を闇討するつもり?」
「あなたこそ聞こえてましたよ。夜中になるとレイン様ぁ……とか艶っぽい声出してるの」
「言ってませんー。私はそういう時は決して声を出しませんー」
「さっきは声が漏れてましたー。レイン様ぁ……って言ってましたー」
二人とも、女の勘とかいうもので互いにとっくにレイン狙いであることは気づいている。
故に、仲が悪い。ウアカリでは共同財産として扱われる男も、別の国の女が相手であれば話は別だ。
道中、訓練と称して殴り合っては、いつも決着が付かず両者ダウンを繰り返している。
とは言え、今はそれどころではない。
「……今は下品なあなたに構ってる暇はないわ。サニィ様を超えるにはやっぱりあの力をものにしないと」
「そうですね。私もあなたを倒せる程度の訓練では足りません。まずはクーリアさんを軽く超えないと。あ、受付嬢辞めよう」
何はともあれ、二人はいいライバル関係なのかもしれない。
そのやりとりを見ながらレインとサニィがそう呟いていたことを、二人は全く気づいていなかった。
基本を完全に押さえたドラゴン戦。一度の敗北を経験したこともあり、その対処方法も見事。
まず、翼を得意の蔦で絡め取り飛行不能にする。そのまま墜落地点にあらかじめ蔦を設置しておき、手足ごと絡め取り固定。
次いで殆どのドラゴンは自分の体ごと周囲にブレスで蔦を燃やそうとしてくるのでそれを待って、振り向いた瞬間口の中に宝石を転移させたらそれでボン、だ。
周囲を焼くブレスも普通に水で消化して終わり。
なんとも簡単な話だが、これを行うのは数百人の魔法使いが束になっても難しい、圧倒的な物量投入。
それをいとも簡単にやってのけるのが、元魔王とは凄いものだなとアリエルは呑気に呟く。
相手との差がありすぎると、理解すら覚束ない。
そんなサニィの魔法に最も驚愕したのは、グレーズ筆頭騎士ディエゴだった。
「あの時の戦いとは比べ物にならない成長ぶりだねサニィ君……、いや、もう聖女様と言った方が良いのかな……」
相手のドラゴンはあの時と同じく70m級。
ブレスの炎も50m程の火柱を作りながら周囲を焼き尽くす。これを平然と相殺する時点で、人間業ではない。
前回は土壁で必死に防いでいたものだった。
いや、それどころではない。
絡め取る蔦の大きさが異常だ。面白くない倒し方をするのならあのまま絞め殺すことすら出来ただろう。
しかし何と言うべきか、素直に喜んで良いものかはサニィには分からない。
「ディエゴさんまで聖女様は止めてくださいよぉ。この魔法の出力も魔王に乗っ取られた影響だって思うと、微妙な所ではあるんですから」
「いやぁ、悪い悪い。もう私ではどう頑張っても追いつけないと思うと、ちょっと思うところもあるのさ」
かつては最強と呼ばれた男も、次々若い世代に引き離されていくのは嬉しいところでもあり、悲しいところでもある。
まあでも、『聖女様を讃える会』にでも入ることにするよ。等と一言残しては、まだまだ鍛錬を続けなくてはとやる気になっていた。
そして二人の生徒とイリスはそのサニィの圧倒的な出力を前に、単純に感動を覚えていた。
負けたくないと思う心も当然あるが、それとは真逆の感動。圧倒的過ぎて笑えてしまうほどの出力。
自分達の目標とする先生はあれほどに、本来は勇者であるにも関わらず、あれ程に正当な魔法使いの戦いをするのかと、そんな単純な感動を覚えていた。
「エレナ、僕は先生とは随分と違う魔法使いになる。でも、少し地味かもしれないけれど、僕にしか出来ない魔法で頑張ろうかな」
「私は先生やルー君と比べたら随分邪道な魔法使いかな。出力で勝てないなら、精神面で。邪道でも、最向いてる方法が良いよね」
「……私もあんな魔法が使えたらなぁ」
ルークとエレナに続いて、能力を喋って以来二人と仲良くなったイリスが続ける。
「イリスさんは先生と似たような正統派魔法ですもんね。勇者が魔法を使えるってだけで凄すぎますけど」
とルークが杖を振ってみる。その姿はど素人だ。
ルークにはエレナと違って肉弾戦の才能は皆無。完全な頭でっかちの魔法使いタイプと言える。
とは言え、それはそれでイリスにとっては少し羨ましい。
「私は呪文限定な上に出力もないからね。ほとんど肉弾戦の補助魔法だから」
「でも、心を落ち着ける言葉、メンタルケアの力なら私なんかより遥かに上じゃないですか」
エレナは精神を乱すのは得意だが、落ち着かせるのは苦手。
「そうだねぇ、でも」
なんと言うか結論としては、先生は、サニィさんは凄い。格好いい。
三人は声を揃えて、そんなことを続けた。
結局の所、それが言いたいが為に、ここまでの会話を続けた様な所がある。
とはいえ、サニィは目標。
その圧倒的な力を改めて目に焼き付けることは、十分に強くなった自分をイメージする役に立つものだった。
一方、サニィの超魔法を見てメラメラと闘志を燃やしている者が居た。二人。
「くっ、サニィ様強すぎじゃない? 分かったけど、分かってたけどおかしくない? レイン様ぁ……」
と、ライラ。彼女はあのドラゴンとレインの戦いを見て、自分の新たな可能性に気がついていた。
それは今は置いておこう。しかしそれを以てしても、サニィには到底及ばない。
悔しさを感じることが傲慢であるかの様に、圧倒的な差を感じてしまう。
「くっ、あれは確かに抜けがけしようとすれば殺されますね。強いのは分かってましたけど、闇討ちも不可能なレベルですねアレは……」
とはナディア。
彼女は彼女で、隙があればサニィを縛ってレインを襲おうと考えていた。
二人とも狙いはレインではあるが、全くアプローチの仕方は違う。
そして現状の二人の実力は全く互角。
となれば。
「聞こえてたわよ、ナディア様。あなたレイン様を襲う為にサニィ様を闇討するつもり?」
「あなたこそ聞こえてましたよ。夜中になるとレイン様ぁ……とか艶っぽい声出してるの」
「言ってませんー。私はそういう時は決して声を出しませんー」
「さっきは声が漏れてましたー。レイン様ぁ……って言ってましたー」
二人とも、女の勘とかいうもので互いにとっくにレイン狙いであることは気づいている。
故に、仲が悪い。ウアカリでは共同財産として扱われる男も、別の国の女が相手であれば話は別だ。
道中、訓練と称して殴り合っては、いつも決着が付かず両者ダウンを繰り返している。
とは言え、今はそれどころではない。
「……今は下品なあなたに構ってる暇はないわ。サニィ様を超えるにはやっぱりあの力をものにしないと」
「そうですね。私もあなたを倒せる程度の訓練では足りません。まずはクーリアさんを軽く超えないと。あ、受付嬢辞めよう」
何はともあれ、二人はいいライバル関係なのかもしれない。
そのやりとりを見ながらレインとサニィがそう呟いていたことを、二人は全く気づいていなかった。
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