187 / 592
第十四章:取り敢えずで世界を救う
第百八十七話:英雄性
しおりを挟む
最強の英雄【鬼神レイン】の戦い方は異常である。
前述したように、狛の村の住人達はその体の性質上死に対する感傷が薄い。
五年に一度生まれるデーモンロードに対して、狛の村の住人は総出で挑み、必ず死者が出るのだが、それが祭りと認識される程度には。
そんな彼らではあるが、死を恐れない戦い方をするというわけではない。彼らはそれぞれ自身の死にはそれなりに恐怖しているし、たまに生まれる弱者は山を下りて外で生活することもある。
そんな彼らの中にあっても、レインの戦い方は異常だった。
命を顧みないに等しい、限界の回避行動。
紫の魔王と死闘を繰り広げた際には、その回避行動が失敗し、3度の致命傷を負ったと言う。
男は、確実に敵を倒す為にその様な戦い方をするのだと言うのだが、その戦いと気迫は、誰がどう見てもそれだけの理由に留まらない様に見える。
まるで、母親を殺してしまった自分を15年経っても許せないかの様に。
まるで、自分を殺そうとでもしているかの様に。
最強の英雄レインは、そんな異常な戦いを繰り返していたという。
確かに死地を何度も繰り返し体験していれば、強くもなるだろう。
ただし、それで生き残れる場合に限り。
それは何度も死にながら戦うも全く強くならなかったマルスが証言している。
アレス著『世界の英雄達』より抜粋
――。
先程のドラゴンとの死闘に、一切の動揺を見せなかったのはサニィのみだった。
そんなギリギリの戦闘をしていても、レインの表情を見て余裕だと判断したサニィは静かに観戦していた。同格の相手に負けることなど有り得ない。
そんな風に思っている様に見える。
同格なのだから、普通に考えれば勝つこともあれば負ける事もある。
確かに、誰から見てもレインとドラゴンの戦いは互角だった。
それでも、負けることなど有り得ないとサニィは思っていた。
エリーはそれを感じ取っていた。
それはレインを信じているというよりも、最早狂信と呼べるほどに、勝利を確信していた。
「さて、次のドラゴンは私がやろうかな。マナスルの南500km」
「お、お姉様」
呑気にそんなことを言い始めるサニィに、オリヴィアが動揺を見せる。
「ん? どうしたの?」とサニィ。
「レイン様の戦い方は……」
「大丈夫。レインさんは自分から負ける様な戦い方はしないよ」
大丈夫ではない、様に思う。きっと、サニィ以外の誰もがそう思っているだろう。
そんな空気が流れている。
「うーん、流石にレインさんが負けそうになったら、すぐ制約を解除する。でも、なんて言うのかな。英雄は自分よりは遥か上の強さの魔王を打ち取るからこそ英雄なんだよ。同格に負けたら英雄じゃない」
理解は出来るが、納得はしたくない。オリヴィアの心境は複雑だった。
レインは、何も言わない。
こういう部分で何も言わず、受け取る者に判断を委ねるのはレインの癖なのだろうか。
それとも別の意図があるのか今は分からない。
それは、エリーにすら読み取れない。
「ともかく、今回の戦いでレインさんの英雄性は見えたんじゃないかな」
そんなことを言われれば、オリヴィアは嫌でも納得するしかなくなってしまった。
自分達がレインの本気を、レインの同格との戦い方を見てみたいと、そう言ってしまったからだ。
自分達が言ったことを自ら否定することは、ましてや、師匠の戦いを否定することは弟子として、言ってはならないこと。ましてや、その結果だけを切り取れば、圧勝と言っても過言ではない。
そう、納得せざるを得なくなる。
「分かりました。お師匠様、お姉様、疑ってしまい申し訳ありません」
そう言った所で、クーリアとナディアが口を開く。
「確かに驚いた。しかしウアカリとしては、偉大な戦士だと認められる。冷や冷やはした。もちろん、怖かった。しかしそれでも、勝者は正義だ。オリヴィアの言いたいことも分かる。ウアカリの戦士ですら、あんな戦いはしない。異常だと言える。だが、英雄性。それだけは、どうやっても否定は出来ないな」
「そうですね、私はあんな正々堂々戦わないから、むしろだい、……格好いいと思いました」
次いで、ライラ。
「レイン様、私に言ってくれましたよね。死ぬなよって。一つだけお聞きします。今回、負ける可能性はありましたか?」
「無い」
即答。
余りにもそっけない一言。
しかしそれだけで、ライラは満たされた。
クーリアとナディアは、安心した。
オリヴィアは不思議と、納得できた。
エリーは、師匠は凄いな、と、そう思った。
レインは卓越した反射神経と空間把握能力を持っている。
海でコンパスも持たず目的地まで真っ直ぐ進める様に、足元の情報は常に把握している。
その反射神経は、同格であれば劣ることは無い。しかも相手は巨大で愚鈍なドラゴンだ。
巨大になるほど動きは遅くなる。相対的に先端の速度は上がるものの、それすらレインにとっては問題無く読み切れる程度。空間把握能力と相まって、その速度を読み違えることは無い。
単純に、戦うためだけに造られた体と言っても過言ではないソレが、普段は動かず気まぐれに都市を襲うトカゲ等に遅れを取ることは、あり得なかった。
それを知っているのは、サニィだけ。
だからこそサニィは、狂信的なまでにレインを信じていた。
身体性能だけが同格であることは、すなわち互角であって完全な同格とはなり得ない。
英雄性、それがレインと50m程度のドラゴンでは全く違う格を持っている。
それを英雄の伴侶は、元魔王は、深く知っていた。
前述したように、狛の村の住人達はその体の性質上死に対する感傷が薄い。
五年に一度生まれるデーモンロードに対して、狛の村の住人は総出で挑み、必ず死者が出るのだが、それが祭りと認識される程度には。
そんな彼らではあるが、死を恐れない戦い方をするというわけではない。彼らはそれぞれ自身の死にはそれなりに恐怖しているし、たまに生まれる弱者は山を下りて外で生活することもある。
そんな彼らの中にあっても、レインの戦い方は異常だった。
命を顧みないに等しい、限界の回避行動。
紫の魔王と死闘を繰り広げた際には、その回避行動が失敗し、3度の致命傷を負ったと言う。
男は、確実に敵を倒す為にその様な戦い方をするのだと言うのだが、その戦いと気迫は、誰がどう見てもそれだけの理由に留まらない様に見える。
まるで、母親を殺してしまった自分を15年経っても許せないかの様に。
まるで、自分を殺そうとでもしているかの様に。
最強の英雄レインは、そんな異常な戦いを繰り返していたという。
確かに死地を何度も繰り返し体験していれば、強くもなるだろう。
ただし、それで生き残れる場合に限り。
それは何度も死にながら戦うも全く強くならなかったマルスが証言している。
アレス著『世界の英雄達』より抜粋
――。
先程のドラゴンとの死闘に、一切の動揺を見せなかったのはサニィのみだった。
そんなギリギリの戦闘をしていても、レインの表情を見て余裕だと判断したサニィは静かに観戦していた。同格の相手に負けることなど有り得ない。
そんな風に思っている様に見える。
同格なのだから、普通に考えれば勝つこともあれば負ける事もある。
確かに、誰から見てもレインとドラゴンの戦いは互角だった。
それでも、負けることなど有り得ないとサニィは思っていた。
エリーはそれを感じ取っていた。
それはレインを信じているというよりも、最早狂信と呼べるほどに、勝利を確信していた。
「さて、次のドラゴンは私がやろうかな。マナスルの南500km」
「お、お姉様」
呑気にそんなことを言い始めるサニィに、オリヴィアが動揺を見せる。
「ん? どうしたの?」とサニィ。
「レイン様の戦い方は……」
「大丈夫。レインさんは自分から負ける様な戦い方はしないよ」
大丈夫ではない、様に思う。きっと、サニィ以外の誰もがそう思っているだろう。
そんな空気が流れている。
「うーん、流石にレインさんが負けそうになったら、すぐ制約を解除する。でも、なんて言うのかな。英雄は自分よりは遥か上の強さの魔王を打ち取るからこそ英雄なんだよ。同格に負けたら英雄じゃない」
理解は出来るが、納得はしたくない。オリヴィアの心境は複雑だった。
レインは、何も言わない。
こういう部分で何も言わず、受け取る者に判断を委ねるのはレインの癖なのだろうか。
それとも別の意図があるのか今は分からない。
それは、エリーにすら読み取れない。
「ともかく、今回の戦いでレインさんの英雄性は見えたんじゃないかな」
そんなことを言われれば、オリヴィアは嫌でも納得するしかなくなってしまった。
自分達がレインの本気を、レインの同格との戦い方を見てみたいと、そう言ってしまったからだ。
自分達が言ったことを自ら否定することは、ましてや、師匠の戦いを否定することは弟子として、言ってはならないこと。ましてや、その結果だけを切り取れば、圧勝と言っても過言ではない。
そう、納得せざるを得なくなる。
「分かりました。お師匠様、お姉様、疑ってしまい申し訳ありません」
そう言った所で、クーリアとナディアが口を開く。
「確かに驚いた。しかしウアカリとしては、偉大な戦士だと認められる。冷や冷やはした。もちろん、怖かった。しかしそれでも、勝者は正義だ。オリヴィアの言いたいことも分かる。ウアカリの戦士ですら、あんな戦いはしない。異常だと言える。だが、英雄性。それだけは、どうやっても否定は出来ないな」
「そうですね、私はあんな正々堂々戦わないから、むしろだい、……格好いいと思いました」
次いで、ライラ。
「レイン様、私に言ってくれましたよね。死ぬなよって。一つだけお聞きします。今回、負ける可能性はありましたか?」
「無い」
即答。
余りにもそっけない一言。
しかしそれだけで、ライラは満たされた。
クーリアとナディアは、安心した。
オリヴィアは不思議と、納得できた。
エリーは、師匠は凄いな、と、そう思った。
レインは卓越した反射神経と空間把握能力を持っている。
海でコンパスも持たず目的地まで真っ直ぐ進める様に、足元の情報は常に把握している。
その反射神経は、同格であれば劣ることは無い。しかも相手は巨大で愚鈍なドラゴンだ。
巨大になるほど動きは遅くなる。相対的に先端の速度は上がるものの、それすらレインにとっては問題無く読み切れる程度。空間把握能力と相まって、その速度を読み違えることは無い。
単純に、戦うためだけに造られた体と言っても過言ではないソレが、普段は動かず気まぐれに都市を襲うトカゲ等に遅れを取ることは、あり得なかった。
それを知っているのは、サニィだけ。
だからこそサニィは、狂信的なまでにレインを信じていた。
身体性能だけが同格であることは、すなわち互角であって完全な同格とはなり得ない。
英雄性、それがレインと50m程度のドラゴンでは全く違う格を持っている。
それを英雄の伴侶は、元魔王は、深く知っていた。
0
お気に入りに追加
402
あなたにおすすめの小説
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします
Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。
相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。
現在、第三章フェレスト王国エルフ編
転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】
ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします
ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった
【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。
累計400万ポイント突破しました。
応援ありがとうございます。】
ツイッター始めました→ゼクト @VEUu26CiB0OpjtL
解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る
早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」
解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。
そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。
彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。
(1話2500字程度、1章まで完結保証です)
お願いだから俺に構わないで下さい
大味貞世氏
ファンタジー
高校2年の9月。
17歳の誕生日に甲殻類アレルギーショックで死去してしまった燻木智哉。
高校1年から始まったハブりイジメが原因で自室に引き籠もるようになっていた彼は。
本来の明るい楽観的な性格を失い、自棄から自滅願望が芽生え。
折角貰った転生のチャンスを不意に捨て去り、転生ではなく自滅を望んだ。
それは出来ないと天使は言い、人間以外の道を示した。
これは転生後の彼の魂が辿る再生の物語。
有り触れた異世界で迎えた新たな第一歩。その姿は一匹の…
30年待たされた異世界転移
明之 想
ファンタジー
気づけば異世界にいた10歳のぼく。
「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」
こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。
右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。
でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。
あの日見た夢の続きを信じて。
ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!
くじけそうになっても努力を続け。
そうして、30年が経過。
ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。
しかも、20歳も若返った姿で。
異世界と日本の2つの世界で、
20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。
異世界でリサイクルショップ!俺の高価買取り!
理太郎
ファンタジー
坂木 新はリサイクルショップの店員だ。
ある日、買い取りで査定に不満を持った客に恨みを持たれてしまう。
仕事帰りに襲われて、気が付くと見知らぬ世界のベッドの上だった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる