雨の世界の終わりまで

七つ目の子

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第十四章:取り敢えずで世界を救う

第百八十五話:小さな勇者

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 残すドラゴンは、世界に18頭。
 英雄候補達と一人の英雄は、それぞれに装備を整えると、まずはブロンセンの東1000km程の所にいると言うドラゴンの所を目指す。
 今回ばかりはアリスの、呪いによって少し不安な気持ちも、レインが必ず安全だと保証したことでなんとか平常を保つことに成功した。サニィとエレナが、幻術で呪いによる恐怖の感情を抑えたことも関係している。

 「それじゃお母さん、女将さん、少し行ってきます」

 そんなエリーの挨拶を、目の前で母親が死んでしまったアリエル以外は朗らかに眺める。

 ――。

「アリエルちゃん、わたしのお母さんも女将さんも、アリエルちゃんの家族の様に思って大丈夫だからね」

 アリエルはアリスに出会ってからすぐ、エリーからそんなことを言われていた。
 エリーは心が読めてしまう。
 その為に、アリエルの中に眠る複雑な感情にも、直ぐに気付いてしまう。
 アリエルは確かに女王だ。確かに女王ではあるのだが、10歳の子ども。まだ、反抗期に入る前だった9歳で母親を亡くしている。
 そのせいで、甘えたい盛りだった。

 それを出会って直ぐの子どもに見抜かれてしまっていた。

「わ、妾は寂しくなんかないもん。女王だし、孤高だもん」

 そう、動揺を全く隠せず抵抗してみせるが、自身の能力は、正しき道は、心を開けと言っている。
 みんなの方を振り返ると、何故かみんな優しい顔をしている。レインだけは、少し厳しい目。

「昔ね、師匠が言ってたんだよ。大きなものを守るよりも、先ずは身近な誰か一人を守れる様になれって」

 複雑な心の内を察して、エリーは話し始める。
 たった3年前。とはいえ、8歳のエリーにとっては最早昔。レインは確かに、エリーにそう伝えた。
しかし、アリエルは女王だ。最初から守るべきは国でなくてはならない。きっと子どもが相手だから、そう言ったのだろうとアリエルは思う。
 それを読みながら、エリーは続ける。

「そうじゃなくてね、わたしはまず、全力でお母さんを守れる様に頑張ったの。途中からオリ姉も来て、一緒に特訓して、オリ姉が見守ってくれてる中で、魔物とも戦って、お母さんを守れるって言われた」

 そう言いながら、右の拳を握る。
 先ずは一つ。

「それでね、次は、恩人の女将さんと大将、後、『さざなみ』を守れる様に頑張った。そして、次は町」

 もう片方の拳を握る。両方の拳を握りしめ、エリーは続ける。

「わたしが守りたいものはね、それで全部。それを守る為だけに、ドラゴンでも倒すの」

 まだ、アリエルはエリーが何を言いたいのかを分からない。
 正しき道は、心を開けと言っている。

「でも、師匠がさっきライラさんの時、言ったよね」

『本来の立場は置いておいてくれ』

 と、確かにそう言った。
 それはレインがライラを気遣ってのこと。
 そう思うアリエルを、エリーは否定する。

「それがね、違うの。師匠は同じ仲間だって言ったの。数少ないえいゆうの? よく分からないけど、ライラさんも仲間だって、言ったの」

 そうして、エリーはアリエルに抱きつく。
 アリエルは平均的な10歳児。エリーは小柄な8歳児だ。身長差もある。
 抱きしめるというよりは、抱きつくという状態だ。

「だから、わたしが守るべきなのはアリエルちゃんも一緒。わたしはもう、アリエルちゃんを守る為ならドラゴンも倒す」

 言外に、国は守れないけれど、『アリエルちゃん』を救う力ならあると、そう言っている様に聞こえる。

 正しき道は、心を開けと言っている。

 アリスは、実の娘を見る様にアリエルを見ている。遅れて来た女将さんらしき人も、同様だ。

 いつしか、周囲の空気が暖かい。
 ここはグレーズ王国の港町ブロンセン。
 いくら同盟国とは言え、一国の女王が他国の初対面の人をお母さんと呼ぶわけには、と言うのもある。
 そして自分には自慢のお母さんが居る。居た、では無く、自分の記憶の中には、確かに。
 しかし、ここは、国ではない。レイン兄の言葉を自分なりに理解するなら、ここは一先ず今だけは、魔王討伐隊本部、宿屋『さざなみ』だ。周りに居るのは臣民や部下ではなく、ただの戦友。無理やり、そう納得してみる。

 だから、こう言った。

 ――。

「アリスさん、女将さん、妾も気を付けて行ってくる!」

 大きく手を振るアリス達に向かって、アリエルはエリーよりも元気に手を振りながらそう告げた。
 それを見て、エリーも負けじと両手をぶんぶんと振り回す。

「アリエルちゃん、わたしが守るからあんま離れないでね」
「大丈夫だ。妾だって特訓してるからな。エリーよりも強いかも」
 オリヴィアの勇姿を思い出したアリエルに、エリーがにやりと笑う。
「ふーん。オリ姉が格好良かったんだ」
「ち、違うもん。妾が足引っ張るわけにはいかないんだもん」
「アリエルちゃん、気付いてないかもしれないけど、アリエルちゃんは本当のことを言われるとすぐ『もん』って言うんだよ」
「そ、そんなことないもんっ、あ……」

 なかなか素直になれない10歳児と、それを平気で翻弄する8歳児。
 実に微笑ましい光景だと思いながら、少しばかり海辺を仲間達で歩いていく。
 転移をすればすぐに着いてしまう。
 しかしたまにはこういうものも良いものだと、レインとサニィは仲の良い子ども達を見ながら思った。
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