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第十二章:仲間を探して
第百六十二話:名前に潜む運命の
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サニィ・プリズムハート
それが聖女の本名だった。
それを聞いて、イリスは綺麗な名前、と呟く。
「晴れた日、七色に輝く心の欠片。
とても美しい、本当に聖女様の様な。
でも、今回はそれが、呪いに変わってる。
屈折して、反射して、分散してしまう心。その太陽は、直接的な攻撃に変わって。
だから、それを美しい七色に戻したい。
お姉ちゃん」
イリスはサニィの真名に語りかける。
それを受け入れたサニィは、うとうとと眠そうにこうべを垂れる。
「あなたの名前は、きっとご両親が付けてくれた、とても晴れやかな名前。
その愛情は清楚に清潔に、その心を七色に照らす光の様に。
あなたの本質は、そんな人。
いつも明るくて、世界を照らして、あ、頑張り屋さんで、そして、雨を晴らすことが出来るのは、あなただけ。
何度も屈折して分散してしまったそれを、もう一度拾いあげてみて。
そうすればきっと、あなたは世界で一番、愛される人」
――。
サニィは、そのまま眠ってしまった。
ついでとばかりに、イリスはレインの本名を聞く。
それを聞いて後悔することになるとは、露ほども知らずに……。
――。
「ん、んぅ……」
「起きたか」
サニィが目を覚ますと、見知らぬ天井が見える。黒い木で作られたそれに、ふかふかとした床。
横を見ると、レインが居る。
息がかかるほどの近さに。
「ほ、ほぁあお! 近いですっ!!」
「気分はどうだ?」
「え、と、気分?」
思い返してみれば、この国を滅ぼそうとしていた様な気がする。裸のまま縛り上げて晒し上げて、首長もマニアックな縛り方で吊り上げて……。
「えーと、現実、ですよね?」
「そう聞くってことは、随分と楽になったみたいだな」
「は、はい。首長さんと受付の人に謝らないと……。あ、あとイリスちゃん!」
そう言って、サニィは辺りをキョロキョロと見渡す。
キングサイズのベッドには、レインの他に、クーリアの姿が見える。
その女は、全裸だ。もちろん、レインは服を着ている。
しかし、女は全裸で、サニィに気づくと、レインに熱視線を送る。
「……」
「……」
「……」
沈黙が流れる。
もちろんクーリアは、本気ではない。これでレインが襲いかかってきたならば仕方ない、そうなれば美味しいと思っているものの、本気で誘惑しているわけではない。
それでも、それは命懸けだった。
魔王サニィならば、容赦無くその爆乳を毟り取っていただろう。
「……イラっとはしますけど、殺そうとまでは思わないですね」
「そ、そうか。良かった……」
「服、着てください」
「ああ……」
そうして、長かったサニィの魔王化は、ようやく本当の意味で沈静化した。
少しの嫉妬くらいは、それはするだろう。
それでも、殺したいとは思わない。そんな状態までは、落ち着きを見せた。
「それにしても、ここの国はやっぱり毒ですよぉ」
そんな風に頰を膨らませるサニィを見て首長は何を思ったのか、レイン保護の命令を下すことを決意した。
レインに襲われたのなら仕方ないが、襲うことは禁止。もし破れば、イリスの力で性欲を制限する。
それは、彼女達にとって、死刑宣告も同じだった。
それによってようやく、二人にとって、この国での平穏が訪れることとなった。
――。
「ところでイリス、お姉ちゃんが欲しくないか?」
「え? 何言ってるのお姉ちゃん。遂に頭おかしくなったの?」
夜、精神を張り詰めていた緊張が解けたからか、ぐっすりと寝静まったサニィの隣でレインが目を閉じていると、そんな会話が聞こえてくる。
「確かにサニィさんは可愛いけど、でも、レインさんが……」
「怖いか?」
「う、うん」
「だが、あの男は紛れもない戦士だ。それ以外に、何かあるのか?」
「え、と、あの人ね――」
そこから先は、聞こえなかった。
少しばかり気になるが、あまり盗み聞きというものをするものではない。
再び会話が聞こえ始めた時には、二人の話は魔王対策への話へと変わっていた。
――。
次の日、イリスが二人に頼みがあると言う。
サニィはもちろんのこと、怖がっているレインにも当てはまる頼みだと言うことで、聞いてみることにする。
「わ、私を、鍛えて下さい。お姉ちゃんを超えられるのはきっと、この国では私だけなんです」
誰かに愛の告白でもするのかと言わんばかりに顔を真っ赤に染めて、そんなこと言う。
サニィは可愛いからもちろん良いよとばかりにその手を取り、レインは昨夜のことを思い出す。
「アタシから説明しよう」
直ぐには動かないレインを見て、クーリアが言う。
「この子はこんなナリだが、実は既に教えられることがないんだ。もちろん、今はアタシの方が強い。でも、時間の問題だろう。それに、この子はウアカリの戦士としては特殊過ぎる力を持ってる。ウアカリ流じゃ、この子の本領を発揮出来ない」
「はい。魔王討伐の為、強くなりたいんです。お願いします」
ついでに、サニィもレインさん、と急かしてくる。元より、魔王討伐の為に力を蓄えるのが目的だ。
怖がられていようと、自分から頼み込んでくるのならば是非もない。
「言っておくが、俺は怖いぞ?」
そんなことを言って、苦笑いをすると、お願いしますと精一杯の返事が返る。
ほらな、心配などする必要などない。
そんな風に囁くクーリアの言葉を聞いて、イリスは新しい戦い方を、その特殊な体に最適な戦い方を学ぶ覚悟を改めた。
ウアカリの戦士として、魔王を倒す為に。
そうして、サニィにはオリヴィアよりも可愛い妹が出来た。クーリアがサニィの姉だと名乗ることを受け入れたことによって、自動的にイリスが妹になった。
もちろん、盃を交わしたオリヴィアとは違って、そういうごっこではあるものの、変態ではない妹はとても可愛いと、自分に近い力を持つイリスのことを、ひたすらに鍛え上げることに決めた。
レインの出番は、精々より高練度の体術を教える程度のものだった。
それが聖女の本名だった。
それを聞いて、イリスは綺麗な名前、と呟く。
「晴れた日、七色に輝く心の欠片。
とても美しい、本当に聖女様の様な。
でも、今回はそれが、呪いに変わってる。
屈折して、反射して、分散してしまう心。その太陽は、直接的な攻撃に変わって。
だから、それを美しい七色に戻したい。
お姉ちゃん」
イリスはサニィの真名に語りかける。
それを受け入れたサニィは、うとうとと眠そうにこうべを垂れる。
「あなたの名前は、きっとご両親が付けてくれた、とても晴れやかな名前。
その愛情は清楚に清潔に、その心を七色に照らす光の様に。
あなたの本質は、そんな人。
いつも明るくて、世界を照らして、あ、頑張り屋さんで、そして、雨を晴らすことが出来るのは、あなただけ。
何度も屈折して分散してしまったそれを、もう一度拾いあげてみて。
そうすればきっと、あなたは世界で一番、愛される人」
――。
サニィは、そのまま眠ってしまった。
ついでとばかりに、イリスはレインの本名を聞く。
それを聞いて後悔することになるとは、露ほども知らずに……。
――。
「ん、んぅ……」
「起きたか」
サニィが目を覚ますと、見知らぬ天井が見える。黒い木で作られたそれに、ふかふかとした床。
横を見ると、レインが居る。
息がかかるほどの近さに。
「ほ、ほぁあお! 近いですっ!!」
「気分はどうだ?」
「え、と、気分?」
思い返してみれば、この国を滅ぼそうとしていた様な気がする。裸のまま縛り上げて晒し上げて、首長もマニアックな縛り方で吊り上げて……。
「えーと、現実、ですよね?」
「そう聞くってことは、随分と楽になったみたいだな」
「は、はい。首長さんと受付の人に謝らないと……。あ、あとイリスちゃん!」
そう言って、サニィは辺りをキョロキョロと見渡す。
キングサイズのベッドには、レインの他に、クーリアの姿が見える。
その女は、全裸だ。もちろん、レインは服を着ている。
しかし、女は全裸で、サニィに気づくと、レインに熱視線を送る。
「……」
「……」
「……」
沈黙が流れる。
もちろんクーリアは、本気ではない。これでレインが襲いかかってきたならば仕方ない、そうなれば美味しいと思っているものの、本気で誘惑しているわけではない。
それでも、それは命懸けだった。
魔王サニィならば、容赦無くその爆乳を毟り取っていただろう。
「……イラっとはしますけど、殺そうとまでは思わないですね」
「そ、そうか。良かった……」
「服、着てください」
「ああ……」
そうして、長かったサニィの魔王化は、ようやく本当の意味で沈静化した。
少しの嫉妬くらいは、それはするだろう。
それでも、殺したいとは思わない。そんな状態までは、落ち着きを見せた。
「それにしても、ここの国はやっぱり毒ですよぉ」
そんな風に頰を膨らませるサニィを見て首長は何を思ったのか、レイン保護の命令を下すことを決意した。
レインに襲われたのなら仕方ないが、襲うことは禁止。もし破れば、イリスの力で性欲を制限する。
それは、彼女達にとって、死刑宣告も同じだった。
それによってようやく、二人にとって、この国での平穏が訪れることとなった。
――。
「ところでイリス、お姉ちゃんが欲しくないか?」
「え? 何言ってるのお姉ちゃん。遂に頭おかしくなったの?」
夜、精神を張り詰めていた緊張が解けたからか、ぐっすりと寝静まったサニィの隣でレインが目を閉じていると、そんな会話が聞こえてくる。
「確かにサニィさんは可愛いけど、でも、レインさんが……」
「怖いか?」
「う、うん」
「だが、あの男は紛れもない戦士だ。それ以外に、何かあるのか?」
「え、と、あの人ね――」
そこから先は、聞こえなかった。
少しばかり気になるが、あまり盗み聞きというものをするものではない。
再び会話が聞こえ始めた時には、二人の話は魔王対策への話へと変わっていた。
――。
次の日、イリスが二人に頼みがあると言う。
サニィはもちろんのこと、怖がっているレインにも当てはまる頼みだと言うことで、聞いてみることにする。
「わ、私を、鍛えて下さい。お姉ちゃんを超えられるのはきっと、この国では私だけなんです」
誰かに愛の告白でもするのかと言わんばかりに顔を真っ赤に染めて、そんなこと言う。
サニィは可愛いからもちろん良いよとばかりにその手を取り、レインは昨夜のことを思い出す。
「アタシから説明しよう」
直ぐには動かないレインを見て、クーリアが言う。
「この子はこんなナリだが、実は既に教えられることがないんだ。もちろん、今はアタシの方が強い。でも、時間の問題だろう。それに、この子はウアカリの戦士としては特殊過ぎる力を持ってる。ウアカリ流じゃ、この子の本領を発揮出来ない」
「はい。魔王討伐の為、強くなりたいんです。お願いします」
ついでに、サニィもレインさん、と急かしてくる。元より、魔王討伐の為に力を蓄えるのが目的だ。
怖がられていようと、自分から頼み込んでくるのならば是非もない。
「言っておくが、俺は怖いぞ?」
そんなことを言って、苦笑いをすると、お願いしますと精一杯の返事が返る。
ほらな、心配などする必要などない。
そんな風に囁くクーリアの言葉を聞いて、イリスは新しい戦い方を、その特殊な体に最適な戦い方を学ぶ覚悟を改めた。
ウアカリの戦士として、魔王を倒す為に。
そうして、サニィにはオリヴィアよりも可愛い妹が出来た。クーリアがサニィの姉だと名乗ることを受け入れたことによって、自動的にイリスが妹になった。
もちろん、盃を交わしたオリヴィアとは違って、そういうごっこではあるものの、変態ではない妹はとても可愛いと、自分に近い力を持つイリスのことを、ひたすらに鍛え上げることに決めた。
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