雨の世界の終わりまで

七つ目の子

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第十二章:仲間を探して

第百五十七話:食いしん坊の精霊と砂漠と

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「怒れる大気の精霊よ、えーと、我が心の、叫びを喰らいて、うーん、その、あの、彼の者を無限の業火で、喰らいたまえ」
「食ってばっかりだな怒れる大気の精霊……」
「………………(は、恥ずかし過ぎる……食べてばっかりの精霊って。怒ってるのに食べてばっかりって。我が心の怒りの叫びとか言わなくて良かったぁ……)」

 道中、何度か魔物達の襲撃に遭遇しては、呪文の研究をついでに行おうとそれを唱える。
 まだまだ研究途中で大した役に立たないそれは、一応の効果を表すものの、サニィでなければ実用の域に到達しない。
 食いしん坊な怒れる大気の精霊はオーク達を弱火でこんがりと焼き尽くすと、その役目を終えたとばかりに姿を眩ませる。もちろん、精霊は比喩だ。
 オーク達に纏わり付いた弱火が、彼らをじわじわと長時間かけ悲痛に焼き尽くす。きっと、彼らの死因は酸素不足による窒息死だろう。

 おかしな点を指摘すると、頰を染めたサニィはぶつぶつと何か言っているが、それが何を言っているのかは聞き取れない。
 その表情から察するに、恐らく食べてばっかりの精霊って設定が可愛いとでも思っているのだろうとレインは予測する。
 もちろん、本当の所はただ恥ずかしがっているだけ。

 改めて「大きな炎」と呟くと、イメージだけの炎の魔法を使う。もちろんそれは先程の弱火とは比べ物にならない、本物の業火。
 それを見て、改めて落ち込んだ素振りを見せる。

「じゅ、呪文、難しいです。レインさんも考えて下さいよぉ」

 更にそんな風に泣きつくので、いたずら心も生まれてくるというもの。

「却下だ。お前は言葉のセンスが抜群だ。俺なんかではまともな呪文など考えられまい」

 そんな風に言ってみる。
 すると、サニィは頰を膨らませ、ぷいっとそっぽを向く。

「いつもと言ってること違うし。良いですもん。私がもっともっとちゃんと可愛い呪文を考えてみせますもん」

 そういじける様子は、レインにとってストライクだった。きっと、可愛い呪文ってなんだよとツッコミを入れるのが正解だったのだろう。しかし、たまきの魅力がようやく完全に抜け切ったばかりの青年には、そんな正解を言えるわけはない。
 思わず、可愛いなと呟く。
 それが聞こえたのだろう。サニィは遠くを見て呟く。

「わたしは悲しい。そんな気持ちをあなたにあげます。雨の悲愴曲」

 ズザーと大雨が、レインの頭上に降り注ぐ。完璧な呪文の元に作られた魔法は、その威力を大幅に増す。
 しとしとと降り注ぐ雨をイメージして作られたそれは、凄まじい威力を伴って具現化した。

「……」
「……やっぱり私は、天才なんでしょうか」
「……ああ」

 はっきり言って、その雨量に悲しさなど欠片もない。とても元気に、今もレインに降り注いでいる。
 果たして成功なのかどうか、それは呪文を作り出した天才のサニィ本人にしか分からない。

 しとしとと降り注ぐ雨をイメージした呪文ならば、成功すればその範囲を大幅に増すのではないか。そんな意見を、一人だけ滝に打たれるレインは言えようもなかった。

 ともかく、サニィの呪文研究は半歩の進展を見せた。

 ……。

 それから3週間程、砂漠の横断も二人には最早慣れたもの。
 何度もの魔物の襲撃もあるがそれも大した障害ではない。適当に呪文研究などをしながら順調に進んでいく。

「いやー、砂漠も慣れれば快適ですね。前のところより好きです」
「砂漠で快適な旅が出来るのはお前位のものだろう……」
「あの変な虫も居ないですしね」

 こちらの砂漠は黄土色の砂で、空も淡い青色。先の砂漠よりは遥かに目に優しい色合いをしている。それに、デスワームも出ない。それもあってか、快適な砂漠の旅と言える。
 砂嵐の頻度は多いものの、それを鎮める術すら今のサニィにはあった。

「砂嵐に蜃気楼、エレナちゃんの得意な幻術に応用できるかも? でも、エレナちゃん放っておいても強くなっちゃうし、必要無いかなぁ」
「あの娘は自由であることが重要だな。お前が否定さえしなければ師の教えも上手いこと受け取るだろうさ」
「レインさんが教えた時はどんな感じだったんですか?」
「俺の時にはルークを倒したいって持ちかけられたから、それなら俺を投影しろって言ったのが始まりだったんだが、体術なんかも自分から聞きに来たな。やる気があればそれだけ強くなるタイプだが、逆にその気が無ければ成長しないかもしれない」
「なるほどー。正直私エレナちゃんにはあんまり教えてないんですよね。でも、これがヒントになるなら少し教えてみようかな」

 弟子のことも考えつつ、様々な要素を存分に堪能しつつ、旅を進める。
 誰にも出会わないこの砂漠は昼間は65度を超え、夜には氷点下を下回る。環境的に異常すぎるこの砂漠を快適に堪能する二人が異常すぎることを二人が気づくことは、遂にはなかった。

 ――。

 目的地であるヴィクトリア達の生まれた国は、ここを抜け更に南に進んだ湿地帯の中に存在するらしい。
 そこは女性が活躍する国で、屈強な女戦士が日々魔物から国を守っている。そんな国だという話。
 サニィはそれに少しだけ警戒しているが、まあ、今までの経験からしてレインが魅了の魔法以外で他の女性に靡くことはない。それどころか、一国を滅ぼせるレベルの魅了を使ってもまだ、自分よりも遥かに美人に靡かなかった。
 それならば大丈夫だろうと思いつつ、その土地へと歩みを進めた。

 そこは女性が活躍する国ではなく、女性しかいない国だとは露知らず。

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