157 / 592
第十二章:仲間を探して
第百五十七話:食いしん坊の精霊と砂漠と
しおりを挟む
「怒れる大気の精霊よ、えーと、我が心の、叫びを喰らいて、うーん、その、あの、彼の者を無限の業火で、喰らいたまえ」
「食ってばっかりだな怒れる大気の精霊……」
「………………(は、恥ずかし過ぎる……食べてばっかりの精霊って。怒ってるのに食べてばっかりって。我が心の怒りの叫びとか言わなくて良かったぁ……)」
道中、何度か魔物達の襲撃に遭遇しては、呪文の研究をついでに行おうとそれを唱える。
まだまだ研究途中で大した役に立たないそれは、一応の効果を表すものの、サニィでなければ実用の域に到達しない。
食いしん坊な怒れる大気の精霊はオーク達を弱火でこんがりと焼き尽くすと、その役目を終えたとばかりに姿を眩ませる。もちろん、精霊は比喩だ。
オーク達に纏わり付いた弱火が、彼らをじわじわと長時間かけ悲痛に焼き尽くす。きっと、彼らの死因は酸素不足による窒息死だろう。
おかしな点を指摘すると、頰を染めたサニィはぶつぶつと何か言っているが、それが何を言っているのかは聞き取れない。
その表情から察するに、恐らく食べてばっかりの精霊って設定が可愛いとでも思っているのだろうとレインは予測する。
もちろん、本当の所はただ恥ずかしがっているだけ。
改めて「大きな炎」と呟くと、イメージだけの炎の魔法を使う。もちろんそれは先程の弱火とは比べ物にならない、本物の業火。
それを見て、改めて落ち込んだ素振りを見せる。
「じゅ、呪文、難しいです。レインさんも考えて下さいよぉ」
更にそんな風に泣きつくので、いたずら心も生まれてくるというもの。
「却下だ。お前は言葉のセンスが抜群だ。俺なんかではまともな呪文など考えられまい」
そんな風に言ってみる。
すると、サニィは頰を膨らませ、ぷいっとそっぽを向く。
「いつもと言ってること違うし。良いですもん。私がもっともっとちゃんと可愛い呪文を考えてみせますもん」
そういじける様子は、レインにとってストライクだった。きっと、可愛い呪文ってなんだよとツッコミを入れるのが正解だったのだろう。しかし、たまきの魅力がようやく完全に抜け切ったばかりの青年には、そんな正解を言えるわけはない。
思わず、可愛いなと呟く。
それが聞こえたのだろう。サニィは遠くを見て呟く。
「わたしは悲しい。そんな気持ちをあなたにあげます。雨の悲愴曲」
ズザーと大雨が、レインの頭上に降り注ぐ。完璧な呪文の元に作られた魔法は、その威力を大幅に増す。
しとしとと降り注ぐ雨をイメージして作られたそれは、凄まじい威力を伴って具現化した。
「……」
「……やっぱり私は、天才なんでしょうか」
「……ああ」
はっきり言って、その雨量に悲しさなど欠片もない。とても元気に、今もレインに降り注いでいる。
果たして成功なのかどうか、それは呪文を作り出した天才のサニィ本人にしか分からない。
しとしとと降り注ぐ雨をイメージした呪文ならば、成功すればその範囲を大幅に増すのではないか。そんな意見を、一人だけ滝に打たれるレインは言えようもなかった。
ともかく、サニィの呪文研究は半歩の進展を見せた。
……。
それから3週間程、砂漠の横断も二人には最早慣れたもの。
何度もの魔物の襲撃もあるがそれも大した障害ではない。適当に呪文研究などをしながら順調に進んでいく。
「いやー、砂漠も慣れれば快適ですね。前のところより好きです」
「砂漠で快適な旅が出来るのはお前位のものだろう……」
「あの変な虫も居ないですしね」
こちらの砂漠は黄土色の砂で、空も淡い青色。先の砂漠よりは遥かに目に優しい色合いをしている。それに、デスワームも出ない。それもあってか、快適な砂漠の旅と言える。
砂嵐の頻度は多いものの、それを鎮める術すら今のサニィにはあった。
「砂嵐に蜃気楼、エレナちゃんの得意な幻術に応用できるかも? でも、エレナちゃん放っておいても強くなっちゃうし、必要無いかなぁ」
「あの娘は自由であることが重要だな。お前が否定さえしなければ師の教えも上手いこと受け取るだろうさ」
「レインさんが教えた時はどんな感じだったんですか?」
「俺の時にはルークを倒したいって持ちかけられたから、それなら俺を投影しろって言ったのが始まりだったんだが、体術なんかも自分から聞きに来たな。やる気があればそれだけ強くなるタイプだが、逆にその気が無ければ成長しないかもしれない」
「なるほどー。正直私エレナちゃんにはあんまり教えてないんですよね。でも、これがヒントになるなら少し教えてみようかな」
弟子のことも考えつつ、様々な要素を存分に堪能しつつ、旅を進める。
誰にも出会わないこの砂漠は昼間は65度を超え、夜には氷点下を下回る。環境的に異常すぎるこの砂漠を快適に堪能する二人が異常すぎることを二人が気づくことは、遂にはなかった。
――。
目的地であるヴィクトリア達の生まれた国は、ここを抜け更に南に進んだ湿地帯の中に存在するらしい。
そこは女性が活躍する国で、屈強な女戦士が日々魔物から国を守っている。そんな国だという話。
サニィはそれに少しだけ警戒しているが、まあ、今までの経験からしてレインが魅了の魔法以外で他の女性に靡くことはない。それどころか、一国を滅ぼせるレベルの魅了を使ってもまだ、自分よりも遥かに美人に靡かなかった。
それならば大丈夫だろうと思いつつ、その土地へと歩みを進めた。
そこは女性が活躍する国ではなく、女性しかいない国だとは露知らず。
残り[866日→813日]
「食ってばっかりだな怒れる大気の精霊……」
「………………(は、恥ずかし過ぎる……食べてばっかりの精霊って。怒ってるのに食べてばっかりって。我が心の怒りの叫びとか言わなくて良かったぁ……)」
道中、何度か魔物達の襲撃に遭遇しては、呪文の研究をついでに行おうとそれを唱える。
まだまだ研究途中で大した役に立たないそれは、一応の効果を表すものの、サニィでなければ実用の域に到達しない。
食いしん坊な怒れる大気の精霊はオーク達を弱火でこんがりと焼き尽くすと、その役目を終えたとばかりに姿を眩ませる。もちろん、精霊は比喩だ。
オーク達に纏わり付いた弱火が、彼らをじわじわと長時間かけ悲痛に焼き尽くす。きっと、彼らの死因は酸素不足による窒息死だろう。
おかしな点を指摘すると、頰を染めたサニィはぶつぶつと何か言っているが、それが何を言っているのかは聞き取れない。
その表情から察するに、恐らく食べてばっかりの精霊って設定が可愛いとでも思っているのだろうとレインは予測する。
もちろん、本当の所はただ恥ずかしがっているだけ。
改めて「大きな炎」と呟くと、イメージだけの炎の魔法を使う。もちろんそれは先程の弱火とは比べ物にならない、本物の業火。
それを見て、改めて落ち込んだ素振りを見せる。
「じゅ、呪文、難しいです。レインさんも考えて下さいよぉ」
更にそんな風に泣きつくので、いたずら心も生まれてくるというもの。
「却下だ。お前は言葉のセンスが抜群だ。俺なんかではまともな呪文など考えられまい」
そんな風に言ってみる。
すると、サニィは頰を膨らませ、ぷいっとそっぽを向く。
「いつもと言ってること違うし。良いですもん。私がもっともっとちゃんと可愛い呪文を考えてみせますもん」
そういじける様子は、レインにとってストライクだった。きっと、可愛い呪文ってなんだよとツッコミを入れるのが正解だったのだろう。しかし、たまきの魅力がようやく完全に抜け切ったばかりの青年には、そんな正解を言えるわけはない。
思わず、可愛いなと呟く。
それが聞こえたのだろう。サニィは遠くを見て呟く。
「わたしは悲しい。そんな気持ちをあなたにあげます。雨の悲愴曲」
ズザーと大雨が、レインの頭上に降り注ぐ。完璧な呪文の元に作られた魔法は、その威力を大幅に増す。
しとしとと降り注ぐ雨をイメージして作られたそれは、凄まじい威力を伴って具現化した。
「……」
「……やっぱり私は、天才なんでしょうか」
「……ああ」
はっきり言って、その雨量に悲しさなど欠片もない。とても元気に、今もレインに降り注いでいる。
果たして成功なのかどうか、それは呪文を作り出した天才のサニィ本人にしか分からない。
しとしとと降り注ぐ雨をイメージした呪文ならば、成功すればその範囲を大幅に増すのではないか。そんな意見を、一人だけ滝に打たれるレインは言えようもなかった。
ともかく、サニィの呪文研究は半歩の進展を見せた。
……。
それから3週間程、砂漠の横断も二人には最早慣れたもの。
何度もの魔物の襲撃もあるがそれも大した障害ではない。適当に呪文研究などをしながら順調に進んでいく。
「いやー、砂漠も慣れれば快適ですね。前のところより好きです」
「砂漠で快適な旅が出来るのはお前位のものだろう……」
「あの変な虫も居ないですしね」
こちらの砂漠は黄土色の砂で、空も淡い青色。先の砂漠よりは遥かに目に優しい色合いをしている。それに、デスワームも出ない。それもあってか、快適な砂漠の旅と言える。
砂嵐の頻度は多いものの、それを鎮める術すら今のサニィにはあった。
「砂嵐に蜃気楼、エレナちゃんの得意な幻術に応用できるかも? でも、エレナちゃん放っておいても強くなっちゃうし、必要無いかなぁ」
「あの娘は自由であることが重要だな。お前が否定さえしなければ師の教えも上手いこと受け取るだろうさ」
「レインさんが教えた時はどんな感じだったんですか?」
「俺の時にはルークを倒したいって持ちかけられたから、それなら俺を投影しろって言ったのが始まりだったんだが、体術なんかも自分から聞きに来たな。やる気があればそれだけ強くなるタイプだが、逆にその気が無ければ成長しないかもしれない」
「なるほどー。正直私エレナちゃんにはあんまり教えてないんですよね。でも、これがヒントになるなら少し教えてみようかな」
弟子のことも考えつつ、様々な要素を存分に堪能しつつ、旅を進める。
誰にも出会わないこの砂漠は昼間は65度を超え、夜には氷点下を下回る。環境的に異常すぎるこの砂漠を快適に堪能する二人が異常すぎることを二人が気づくことは、遂にはなかった。
――。
目的地であるヴィクトリア達の生まれた国は、ここを抜け更に南に進んだ湿地帯の中に存在するらしい。
そこは女性が活躍する国で、屈強な女戦士が日々魔物から国を守っている。そんな国だという話。
サニィはそれに少しだけ警戒しているが、まあ、今までの経験からしてレインが魅了の魔法以外で他の女性に靡くことはない。それどころか、一国を滅ぼせるレベルの魅了を使ってもまだ、自分よりも遥かに美人に靡かなかった。
それならば大丈夫だろうと思いつつ、その土地へと歩みを進めた。
そこは女性が活躍する国ではなく、女性しかいない国だとは露知らず。
残り[866日→813日]
0
お気に入りに追加
402
あなたにおすすめの小説
神々に天界に召喚され下界に追放された戦場カメラマンは神々に戦いを挑む。
黒ハット
ファンタジー
戦場カメラマンの北村大和は,異世界の神々の戦の戦力として神々の召喚魔法で特殊部隊の召喚に巻き込まれてしまい、天界に召喚されるが神力が弱い無能者の烙印を押され、役に立たないという理由で異世界の人間界に追放されて冒険者になる。剣と魔法の力をつけて人間を玩具のように扱う神々に戦いを挑むが果たして彼は神々に勝てるのだろうか
転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】
ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします
ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった
【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。
累計400万ポイント突破しました。
応援ありがとうございます。】
ツイッター始めました→ゼクト @VEUu26CiB0OpjtL
転生したから思いっきりモノ作りしたいしたい!
ももがぶ
ファンタジー
猫たちと布団に入ったはずが、気がつけば異世界転生!
せっかくの異世界。好き放題に思いつくままモノ作りを極めたい!
魔法アリなら色んなことが出来るよね。
無自覚に好き勝手にモノを作り続けるお話です。
第一巻 2022年9月発売
第二巻 2023年4月下旬発売
第三巻 2023年9月下旬発売
※※※スピンオフ作品始めました※※※
おもちゃ作りが楽しすぎて!!! ~転生したから思いっきりモノ作りしたいしたい! 外伝~
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
30年待たされた異世界転移
明之 想
ファンタジー
気づけば異世界にいた10歳のぼく。
「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」
こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。
右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。
でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。
あの日見た夢の続きを信じて。
ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!
くじけそうになっても努力を続け。
そうして、30年が経過。
ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。
しかも、20歳も若返った姿で。
異世界と日本の2つの世界で、
20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる