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第十二章:仲間を探して
第百五十三話:素晴らしい料理の為に
しおりを挟む宝石人間が指摘した、軍需企業デインデの生体兵器部門の研究リーダーの名前は直ぐに判った。
メイム・クリアキンという女性科学者だった。
漆黒はクリアキンという名に何か引っかかりを感じていたのだが、その時はその正体が判らないでいた。
それより問題は、せっかく鴻巣徹宗をたぐり寄せる手がかりを掴んだものの、漆黒には、それを自分の手で調べる時間がない事だった。
漆黒は、渋々その情報をレオンに伝えた。
レオンは当たり前のように情報を聞いている。
この関係だけは、昔から変わらない。
そしてこの見返りだと言わんばかりに、レオンは最近の情勢についての情報を漆黒に伝えた。
「公安では、赤・フォルモサ・ダイオワン旅団のメンバーを徹底的に引っ張ってくる方針になった。あの飛蝗人間軍団の登場で、鴻巣徹宗が旅団の裏にいるのは明白になったが、そっちはそれだけだ。どういうわけか、まったく奴の行方が掴めない。それは、失地回復の為にやっきになってるジッパーも同じようだ。だからウチも、時間をかけ、どんなに汚い手を使ってでも、鴻巣の周りから旅団をひっぺがして行くって事になったんだ。それで最悪、鴻巣徹宗に手が届かなくても、旅団の弱体化は図れるしな。」
「その間、飛蝗人間がもう一度現れないって保障はあるのか?ある日、逮捕した旅団のメンバーを全員開放せよ、さもなくば飛蝗人間がどこそこを破壊するとか脅しをかけられるんじゃないのか?」
「、、知るかよ。でも今度は、ちょっとは対応策が練れるんだろ。お前の相棒が集めた飛蝗人間のデータ以外にも、飛蝗人間については色々出そろってる。こっちもカボチャ頭ばっかって訳じゃない、」
「だといいんだがな。相手は旅団じゃなくて、鴻巣徹宗だぞ。奴を抑えなきゃ、脅威はなくならないんじゃないか?」
「わかってるさ。だから、俺もお前の教えてくれた線で出来るだけ頑張ってみる。」
珍しくレオンが素直に同意した。
「出来るだけ、だと?、、、まさかお前まで、周りから活動に縛りを掛けられているのか?俺に慎重に動けとか、偉そうに言った奴は、どこのどいつだ。」
「、、、俺も甘く見ていた。余程、警察は公安課含めて、ジッパーの事が嫌いらしい。俺が昔からジッパーと反目してるのを知っていてもコレだ。それと、公安がこの機会にジッパーの位置を奪いたいという思惑もあるようだ。」
「、、そんな事、言ってる場合か。」
同じ系列に居るはずの公安とジッパーが、完全に分断されていた、これが鴻巣徹宗のもう一つの狙いなら、彼はそちらも成功しつつあるわけだと漆黒は思った。
「ここは、あの鉄の女にかけるしかないな、、。いいか、第2次精霊計画はヘブンでも地上世界との親和派と言われる長寿族が、そのリーダーシップを引き継いだからスタート出来たんだ。つまり人口の減少した人間をサポートする生命体の量産という元の目的に立ち返ったという事になる。神々に貢ぎ物を捧げる人間達は健康であった方が良いという考え方が優勢になり、世界を謳歌するのは神だけで良いという過激派は、一旦そのなりを潜めたと言うことだよ。そのバランスを変えるきっかけになった地上の人間が何人かいたらしい。その内の一人が、彼女だ。彼女はヘブンそのものがひっくり返るような、とんでもない爆弾情報を持ってるって話だぜ。」
たしかにパーマー捜査官はタフだ。
いずれ現在の状況をひっくり返すだろう。
だがそれを待っていられない。
レオンはまだ、事の深刻さが充分に理解できていないのだ、漆黒はそう思った。
・・・・・・・・
「最近の猟児さんは、浮かない顔をしてますね。あのテロ事件のカタを付けたいと思ってるのに身動きがとれないからですか?それはもしかして、私のせいでもあるのですか?」
鷲男は、漆黒が大人しくしているのは、自分の指導者としての立場があるからだと思っている。
「いや、お前とは関係ない。正直言って、少し前まではそうだったが、最近のお前を見てると、もう、誰がお前の指導者になっても大丈夫だと思えるようになって来た。いやもう、お前には指導者なんかいらないのかも知れない。」
「それは光栄な話ですが、私はもっと猟児さんから学びたいと思っています。もちろんソレは刑事である猟児さんにですよ。刑事じゃない猟児さんは、精霊にはふさわしくない。」
最後のは勿論、冗談だった。
そういった冗談が言えるほどに鷲男は成長したのだ。
ならばこの際、自分は羽目をはずして行動してみるか、ただそれをやれば刑事である漆黒としては鷲男とつきあえなくなる。
その思いは微かな痛みを伴っていた。
「失礼ですが、ここは張果という人物に頼ってみればどうでしょう?幸い、蔡署長はお金の欲望にとても弱い人物です。上層部からは、貴方とジッパーとの関係を遮断しろという命令は下っていますが、今の所、それ以上の事はないはずです。おそらく、貴方に対する今の処遇の半分以上は、蔡署長独自の裁量で起こっている事だと思います。張果さんなら、蔡署長を動かせるだけの金が積めるでしょう。それに張果という人は買収のプロだ、その事で猟児さんが迷惑をかける可能性は限りなく低い。」
「お前、張果の事を含めて、そこまで調べ上げたのか?」
「ええ、猟児さんに提案を持ちかけるのに、迂闊な事は言えませんからね。でも現時点での蔡署長の権限行使の有限性を調べるのは簡単でしたが、張果さんの方は、相当苦労しました。もしかしたら、張果さんの方が、私に情報をわざと開いてくれた可能性もあります。」
漆黒の頭の中に、張果が、『ジェットよ、もうちょっと遊んでみるか、でもよ、ソレが終わったらもう観念して俺の甥っ子になれ』と皺だらけの顔をくしゃくしゃにして笑っている顔が思い浮かんだ。
「でもこのやり方だと早さが求められますね、猟児さんが目立った動きをして警察上層部に知れたら、直ぐに蔡署長は掌を返すでしょうから。賄賂を貰っていようが、それも知らぬ存ぜずで押し通しますよ、きっと。」
「だろうな、蔡は風見鶏だからな。」
「鷲男としては、風見鶏を持ち出されるのは少し心外ですね。」
鷲男は喉の奥でクククと鳴いた。
「判った。それでやってみよう。それに俺は何処かで、あの人が間に合うような気がしている。」
「あの人?パーマー捜査官ですね。」
「そうだ。」
「私もそんな気がします。あっこれは、あくまで精霊のカンですが。」
漆黒には精霊のカンとやらが、かなり高い確率で当たるような気がした。
・・・・・・・・・
その夜、漆黒は鷲男を帰した後、張果にストリングで電話をした。
直接、張果に会って話しても良かったが、自分がこれから持ちかける話の内容に何故か気恥ずかしさを感じたのだ。
「又、アンタに借りを作ることになっちまいそうだが、あんたの金で、俺が刑事であり続けられる時間を買ってくれないか?」
「あのスピリットが言ってた事だな?お前さん、いい相棒をもったな。羨ましい話だ。」
「虫のいい話ばかりを言ってばかりじゃ、申し訳ない。今度の買ってくれた時間で俺が成功しなかったら、俺は刑事を止めて、あんたの本当の甥っ子になる。ジェットブラックになったって、アンタの甥っ子としての役割も、今追いかけている事も両立出来ると思うんだ。刑事としては、その次はなくなるけどな。今が見切り時なのかも知れない。」
「そうか、ようやくその気になってくれたのか、」
「でも、もし成功したら、、その可能性は半々だと思うが、、。このまま暫く刑事で居させてくれないか。俺のゴールはもう少し先のような気もするんだ。」
漆黒は自分の原体である漆黒賢治があの「きれいな爆弾」を落とした可能性がある事を口に出来なかった。
「、、、そこに辿り着くには、刑事である方が手っ取り早い。つまり言い換えれば、俺の方も、すっきりした気分で正式にアンタの甥っ子になる時期が早まるって事だ。、、すまん、どういってもアンタに甘えているな。でも成功したら、今度の件で、かかった金は絶対に返す。俺だって、本気で悪徳刑事やらせたら、相当なもんだぜ。」
「目的を成し遂げられる可能性は、半々だと思っているのか?儂から言わせるとその読みは甘いぞ。」
「ああ、だけど50%にしたのは、俺が知ってる勝利の女神が、俺に微笑んでくれると思ってるからさ。」
「女神な、、、そうか、判った。その話に乗ろう。」
「ありがとう、恩に着るよ。、、そうだ、この際だからもう一つ、今まで言えなかった事を言っておく。」
「ほう、なんだね?それは?」
「鷲男、いや精霊の事だ。第二次精霊計画、あれはアンタが裏で動いてくれたんだろう?感謝してる。」
「、、、いいさ、アレは。あれは儂のゲームでもあったんだからな。それより儂は妙な気分だ。お前さんの成功と失敗を同時に望んでおる。なに儂の事は気にかけんでいい。儂は長寿族だ。儂にはもう少し時間が残っている。精一杯やるがいいさ。」
張果は枯れきっているが、それでも目の前で起こることを、ゲームのように楽しんでいる。
こんな風になれるなら、人間、長生きするのも悪くないなと漆黒は思った。
二日後、漆黒が署の専用ブースを覗いた時、そこに在るはずの漆黒が新たに担当すべき事案欄は空白だった。
ただ、『長期継続捜査の再開を命ず』とだけあった。
張果が蔡にいくら金を払ったのかは判らないが、これで少なくとも、暫くの間、漆黒は刑事として、メイム・クリアキンに接触する事が可能になったのである。
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