雨の世界の終わりまで

七つ目の子

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第十一章:南の大陸へ

第百四十五話:世界よりもお前の方が必要だ

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 南の大陸北部は全体的にマナの濃度が薄い様だった。
 その理由をレインはここらは南北の点から最も遠い場所だからではないかと言っていたが、別に南北の点に近い程濃度が濃いわけではない。
 霊峰も中心に行くほど、高度が上がる程にマナ濃度は上がって行く。
 単純に、この付近はマナ同士が混ざり合って消滅し易い環境にあるのではないか、というのがサニィの論。
 マナがどこからあらわれているのか、なんてことは流石のサニィにも分からないものの、世界の中でも多い場所と少ない場所が確かにある、という事だけは場所はっきりと分かる。
 その中で、どちらであっても濃度が高い所はパワースポットの様になっているし、逆に濃度の低い所は外界との接触を断とうとしていることが多いことが分かった。

 それもそのはず、濃度が低い所に住む人は言ってみれば超人ではなくただの人、武力で制圧されてしまえばひとたまりもない。だからそれを見せる前に接触しないことを選んだ。ということなのだろう。
 幸いにも、少なくとも弱者にとってはだが、この世界は魔物が溢れている。
 わざわざ弱者をいたぶって遊ぶ暇があるなら魔物と1匹でも多く倒した方が明るい未来が待っている。いや、それもあるが、彼らは皆、いたぶられることの恐怖を知っている。
 魔物は、殆どの者にとっては圧倒的は強者なのだ。だから、弱者が接触を断つのであれば仕方がない。そう定めている国が多かった。
 もしくは、弱者をいたぶる暇などないという方が、正しいのかもしれない。

 マナの濃度が薄いこの一帯に近づく魔物は殆どいなかったし、勇者達もマナの少ない空間は落ち着かない。理由は分かっていなかったが、ここらはあまり良い場所ではない。そんなイメージも付いていることが幸いしていた。
 だからこそ、そこに住む者は弱い人と、弱い魔物、そして豊富な動物達だけだった。

「確かにここに入ったときのレインさんは少しおかしかったですよね。カタコト話し始めたりとか」
「カタコトに関しては言われたくない気もするが……」
「でも、こんな環境もあるんですね。私にはあまり関係ないんですけど」
「俺の周りにもくれないか」

 サニィは無意識に、少ないマナを周囲に集めて落ち着きを維持しているらしい。

「やです」

 彼女はレインの要求を断る。少しだけ、意地悪く。昨日までは纏わせていたけれど、今日はなんとなく切ってみたのだった。

「なんでだ……」

 もちろん、やろうと思えば簡単なこと。
 少しだけそわそわとしている青年を、マナ操作の一つで落ち着かせることなど容易い。
 それでも、サニィはそれをしたくなかった。

「理由は簡単です。もっと私を必要として欲しいから」
「既に十分過ぎる程必要なんだが」
「どのくらい?」
「お前が居なくなったら、世界を滅ぼすくらい?」
「全然足りません」
「どうしろってんだ……」

 正直、それに殆ど意味はなかった。
 そんなことをしても自分を信じてくれるとは思っていないし、むしろ少し嫌がられるかもしれない。でも、そんな会話が少しだけ楽しかった。
 多分、それだけのこと。

「まあ、レインさんには無理ですね。私はレインさんが居なかったらいつまでも死に続けてたと思いますけど、レインさんはそうじゃないですから」
「お前、それなら感謝してマナを操作するくらいは進んでしてくれよ……」
「ほら、全然分かってない!」

 くっ……。とレインは呻く。
 確かに普通なら、そうだろう。しかし、サニィは必要として欲しいと言っていた。
 それが条件なら、確かに先程の居なくなれば世界を滅ぼす発言もとても軽いものになってしまう……。
 必要としていると答えたくせに、感謝しているならやれと言うのは、しかもレインは居なくても生きていられる発言を否定し忘れていた。
 普段なら気付けるそれにも、割と集中力を欠いている今は考えられていなかった。

「ふふんっ。やっとレインさんに一泡吹かせてやりました」
「くそ、認めよう。やるな、サニィの癖に」
「一言余計なのでマナ操作はもうしませーん」

 本当になんとなく、だった。
 ただ、なんとなくそわそわしているレインが可愛く思えて、悪戯をしたくなっただけ。
 だから、レインの発言も、特に気にはしていなかった。
 尤も、サニィ自身がそれをいくら気にしたところで、その結果は変わらないし、サニィ自身に止める術は一切なかったのだけれど。

「はあ、まあ、もしもお前が居なくなったらちゃんと世界を滅ぼすから、マナをくれ。落ち着かなくて仕方がない」
「えー。もうちょっとそわそわしてて下さいよー」
「落ち着かないってことは俺の動きも精彩を欠くってことだぞ? ここで魔王が出現したら倒せないぞ?」
「もしも出た時にはちゃんとしますから大丈夫です。ドラゴンなら行けますよね?」

 ドラゴンをただのトカゲと同列に見るのは最早お前くらいのものだ……。
 そんな呟きが聞こえてきた所で、マナを纏わせてあげることにした。
 もちろんドラゴンは出てこないけれど、流石に少しだけ可哀想になってきたから。

「レインさんの弱ってる所は貴重ですから、見られる時に見ておかないと勿体無いです」
「まあ、それならそれで良いんだが……」
「良いなら解きますけどぉ?」
「勘弁してくれ……」

 あ、ちょっとやりすぎた。そうは思ったものの、突然手を取ってきたレインのせいで、割と全てがどうでも良くなってきてしまったのだった。

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