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第十一章:南の大陸へ
第百四十話:呪いはまだ消えない
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先送りにしている、問題があった。
先代女王エリーゼを殺してから、必ず解決しないといけないと、決めていた問題。
そもそも、アリエル・エリーゼを悲しませてしまった原因はサニィの力不足でも、レインの強引な救いでも、なんでもない。
世界には悪意が満ちている。
元々の問題は、それだ。
黒の魔王が残した、100年以上誰も逆らえなかった死の呪い。
不死になるというのに死への恐怖は増し、5年後に必ず死ぬ、絶望の。
それが、そんなものが存在するというのがそもそも、アリエルを悲しませた原因であり、アリスの様子が優れない理由であり、二人が旅をする理由だった。
今のところ、それを解決できる手段は一つだけだった。
いや、二つあったかもしれない。厳密には、三つだ。
しかしいずれにせよ、それを実行できるのは、世界でたったの二人だけだった。
こうして旅をしている間にも、世界ではきっと、この呪いによって苦しんでいる人がいるのだろう。死んでいく人がいるのだろう
しかし、それを解決することは出来なかった。
その理由の一つは、魔王が再び生まれるということ。
現状の戦力のままに魔王の誕生を迎えてしまえば、恐らく世界は滅びてしまう。
オリヴィアならきっと、奮闘できるだろう。
エリーならきっと、奮闘できるだろう。
そんな希望を持つことは当然できる。
しかし、彼女達は現状では・・・・決して魔王に届かない。
その為の兵を集め、訓練する作業は、実際に魔王を倒したレインが適任だった。
その為に魔法使いを強化することが出来るのは、サニィだけだった。
自分達は死ぬのだから、後は残った者達でなんとかしろ、とは、言えなかった。
二人はそれほど自分勝手ではなかった。
二つ目の理由は、個人的な理由だ。
今はまだ、呪いを消し去ることはできない。
たとえ世界でどれだけ苦しんでいる人がいたとしても。
二人は今回アルカナウィンドを訪問をした時、都合良く、必ず呪いを解く方法を見つけるとアリエルを騙し、解けないとは言わなかった。
その理由は、まだ解きたくなかったからだ。
二人はそれほどに自分勝手だった。
少なくとも、サニィ一人でこの呪いを解く方法は存在しない。
だから、視点さえ変えれば、嘘は全く言ってはいない。
そう、都合良く二人は自分達を納得させていた。
二人共が二人共、既に、世界の行く末よりも相手の事の方が大切。
幾度かの死を経験して、一人では超えられそうになかった経験を通して、そんな風に思っていた。
どれだけ死の恐怖があったとしても、お互い同じ時に逝けるのなら、それは救いだ。
先代エリーゼを殺したのも、それが理由。
死が、死に方が、救いの一つであると、そう考えてしまったから。
もう少し生きられた命を強制的に終わらせることを、親しい人間はなかなか納得できない。
本人が納得していたとしても、それを諦めと呼び、命を繋ごうとする。
そして本人が目に見えて苦しんでいるのが分かれば、死なせてあげた方が、と思い直す。
しかし、それを前倒しすることは許さない。
それを、今回救うつもりで先代エリーゼを殺して、アリエルに恨まれたことで二人は思い知った。
きっと、どちらも間違っていないのだろう。
大切な人には長く生きていて欲しい。当然だ。苦しむ前に逝きたい。当然だ。
きっと、どちらも間違っているのだろう。
その死で悲しむ人がいる。当然だ。それで長く苦しむことになる。当然だ。
結局のところ、誰にとって、なのかで変わるのが正しさだ。
だから、二人はこの問題を先送りにしていた。
二人は人外の能力を持つ英雄で、化け物で、鬼神で、聖女だったけれど、本当は弱い弱い、人間だったから。
少なくとも、世界の為に自らの身を犠牲に出来るマルスに比べたら、よっぽど弱い人間だった。
それ故に、聖女と呼ばれる女と鬼神と呼ばれる青年はこう約束した。
「レインさん、旅の最後、行く場所は北か南、どっちがいいですか?」
「どっちでも良いのか?」
「理論上は」
「じゃ、南に行こうか。北はヴィクトリア達の場所だ」
「そうですね。……レインさん」
「ん?」
「本当は、ずっと思ってました。好きです。私と一緒に死んでください」
「俺の方が古くから好きなはずだ。ああ、一緒に死のうか」
南の大陸に着く手前、いくつかの島を回った後、一つの無人島でキャンプ中。
その場所が最初のキャンプ地に似ていたせいか、そんな気分になっていた。
残り[1022日→999日]
先代女王エリーゼを殺してから、必ず解決しないといけないと、決めていた問題。
そもそも、アリエル・エリーゼを悲しませてしまった原因はサニィの力不足でも、レインの強引な救いでも、なんでもない。
世界には悪意が満ちている。
元々の問題は、それだ。
黒の魔王が残した、100年以上誰も逆らえなかった死の呪い。
不死になるというのに死への恐怖は増し、5年後に必ず死ぬ、絶望の。
それが、そんなものが存在するというのがそもそも、アリエルを悲しませた原因であり、アリスの様子が優れない理由であり、二人が旅をする理由だった。
今のところ、それを解決できる手段は一つだけだった。
いや、二つあったかもしれない。厳密には、三つだ。
しかしいずれにせよ、それを実行できるのは、世界でたったの二人だけだった。
こうして旅をしている間にも、世界ではきっと、この呪いによって苦しんでいる人がいるのだろう。死んでいく人がいるのだろう
しかし、それを解決することは出来なかった。
その理由の一つは、魔王が再び生まれるということ。
現状の戦力のままに魔王の誕生を迎えてしまえば、恐らく世界は滅びてしまう。
オリヴィアならきっと、奮闘できるだろう。
エリーならきっと、奮闘できるだろう。
そんな希望を持つことは当然できる。
しかし、彼女達は現状では・・・・決して魔王に届かない。
その為の兵を集め、訓練する作業は、実際に魔王を倒したレインが適任だった。
その為に魔法使いを強化することが出来るのは、サニィだけだった。
自分達は死ぬのだから、後は残った者達でなんとかしろ、とは、言えなかった。
二人はそれほど自分勝手ではなかった。
二つ目の理由は、個人的な理由だ。
今はまだ、呪いを消し去ることはできない。
たとえ世界でどれだけ苦しんでいる人がいたとしても。
二人は今回アルカナウィンドを訪問をした時、都合良く、必ず呪いを解く方法を見つけるとアリエルを騙し、解けないとは言わなかった。
その理由は、まだ解きたくなかったからだ。
二人はそれほどに自分勝手だった。
少なくとも、サニィ一人でこの呪いを解く方法は存在しない。
だから、視点さえ変えれば、嘘は全く言ってはいない。
そう、都合良く二人は自分達を納得させていた。
二人共が二人共、既に、世界の行く末よりも相手の事の方が大切。
幾度かの死を経験して、一人では超えられそうになかった経験を通して、そんな風に思っていた。
どれだけ死の恐怖があったとしても、お互い同じ時に逝けるのなら、それは救いだ。
先代エリーゼを殺したのも、それが理由。
死が、死に方が、救いの一つであると、そう考えてしまったから。
もう少し生きられた命を強制的に終わらせることを、親しい人間はなかなか納得できない。
本人が納得していたとしても、それを諦めと呼び、命を繋ごうとする。
そして本人が目に見えて苦しんでいるのが分かれば、死なせてあげた方が、と思い直す。
しかし、それを前倒しすることは許さない。
それを、今回救うつもりで先代エリーゼを殺して、アリエルに恨まれたことで二人は思い知った。
きっと、どちらも間違っていないのだろう。
大切な人には長く生きていて欲しい。当然だ。苦しむ前に逝きたい。当然だ。
きっと、どちらも間違っているのだろう。
その死で悲しむ人がいる。当然だ。それで長く苦しむことになる。当然だ。
結局のところ、誰にとって、なのかで変わるのが正しさだ。
だから、二人はこの問題を先送りにしていた。
二人は人外の能力を持つ英雄で、化け物で、鬼神で、聖女だったけれど、本当は弱い弱い、人間だったから。
少なくとも、世界の為に自らの身を犠牲に出来るマルスに比べたら、よっぽど弱い人間だった。
それ故に、聖女と呼ばれる女と鬼神と呼ばれる青年はこう約束した。
「レインさん、旅の最後、行く場所は北か南、どっちがいいですか?」
「どっちでも良いのか?」
「理論上は」
「じゃ、南に行こうか。北はヴィクトリア達の場所だ」
「そうですね。……レインさん」
「ん?」
「本当は、ずっと思ってました。好きです。私と一緒に死んでください」
「俺の方が古くから好きなはずだ。ああ、一緒に死のうか」
南の大陸に着く手前、いくつかの島を回った後、一つの無人島でキャンプ中。
その場所が最初のキャンプ地に似ていたせいか、そんな気分になっていた。
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