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第十一章:南の大陸へ
第百三十八話:再び二人で旅をする
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オリヴィア達が王都から戻って来ると同時、二人は港町を出発した。
まだまだ、いくらでもエリー達の面倒はみたいところではある。それでも、南の大陸での人材探しも必要であれば、残された時間も少なかった。
オリヴィアは王都に戻ったついでにサニィが発見したいくつかの町を襲撃から守り、あの時の死闘の感覚を自分の物にした様だし、エリーもさらなる成長と、能力の可能性を見出していた。
後はきっと、放っておいても自分が育てるのと変わらない成長を見せるのだろう。
そう、思ってしまった。
「さて、そんなわけで、俺達は行って来る」「うん、行ってきます」
「どんなわけかは分からないですれど、行ってらっしゃいませ」
そう言いあって手を振ると、船が離岸して行く中で、それまで何も言わなかったエリーは叫んだ。
「寂しがりやの師匠、行ってらっしゃい!!」
そうして、誰よりも大きく手を振った。
何やら恥ずかしいな。そんなことを呟くレインに、サニィは筒抜けですからと笑う。
見送りには町の警備部隊やアリス、女将と、存在感の薄い大将、実に多くの人が集まっており、この船も彼らが手配してくれたものだった。
手配してくれたとは言っても、船頭もいない、二人きりの大型木造ボードをプレゼントされただけだった。
きっとこの光景を見た町の住人多くは、無謀な旅を強行した馬鹿で好かれている奴を、せめてみんなで見送ろうとでもしていると思ったことだろう。
乗っているのが正確な空間把握能力を持つ怪人と、無限のマナを操れる聖女だとは、見送りをしていた人間達以外は誰も知らない。
――。
港が視界から消え、腰を下ろす。
互いの目の前にいるのは、随分と懐かしい顔だった。
「それにしても久しぶりだな、サニィ」
「2週間位ぶり、ですか。でもその前も別々に行動してましたし、確かに久しぶりですねー」
「ああ、出会った最初は一瞬たりとも離れる気なんか無かったんだけどな」
「……私は最初レインさんのこと怖かったですけど」
そんなサニィの言葉にレインは少しだけしゅんとする。
久しぶりの二人きりだからだろうか、師匠として厳しくしてきた反動だろうか、それとも、自分が頼りになるようになったということだろうか。
何はともあれ、そんな久しぶりの二人きりを、サニィはとても愛おしく思った。
「南の大陸ですか。私達が英雄に興味を持ったきっかけのヴィクトリア様とフィリオナ様は、そこの出身なんですよね」
「ヴィクトリアは巨人の子どもだったって説があるよな」
「ああー、それ、マルス様が違うって否定しましたよ」
「なんだと……?」
もしかして魔王の時の様に、またそんなファンタジーを信じていたのだろうか。
魔王はファンタジーではなかったけれど、巨人族なんてのは存在しない。ジャイアントって魔物は確かに南の大陸にいるけれど。
「そもそも、185cmって普通に大きい人じゃないですか。確かに、女性としては凄く大きいですけど」
「うーん、言われてみればマルスも自分よりは小さかったと言っていたような……」
「あはは、結構レインさんってそういう所信じるんですね」
やっぱりそういう部分で可愛いところがある。
そんな風に思ってしまったのは流石に本人には言えない。
恐らく気にしないだろうとは思うが、もしも恥ずかしがったりしたら船の上では流石に気まずくなってしまう。
「まあ、俺の存在自体が奇妙なものだしな。何があってもおかしくはないと思ってるが……」
それは確かに。
と思ったところで、サニィは一つの事実に気がついた。
「あ、もしかして、レインさんって私のそういうところを見越してたんですか?」
「ん? なんでだ?」
違ったらしい。ファンタジー好きなら魔法使いじゃない魔法使い(正確には奇跡らしいけれど)を見抜いて惚れたのなんだの言ったのではと思ったけれど。
では、とサニィは考えたところで、レインは言葉を続けた。
「俺は普通にお前の見た目が好みだったし、血の臭いを落とせば良い匂いもしたし、寝顔、いや、寝相も面白かったしな。まあ、最初に言った通りの一目惚れだったわけだ」
「寝相って……。ってか体臭の話とかしないでくださいよ恥ずかしい!」
この男のことだから、そんな予想は、ちょくちょく外れる気がする。
「そもそも、能力を見てないのに分かるわけがない」と言われてしまえば確かにそうだ。
これ以上は藪蛇になりそうだったので、話題をやめることにした。
「いやぁー、ヴィクトリア様が巨人の子孫じゃないってのは残念ですけど」
「なんだその下手なごまかし方は」
「あっちの大陸には狛の村とは違う戦闘民族がいるってのは事実みたいなんで楽しみですね」
「おい」
「女性だけの民族と言うことですよ。どういうマナが作用してアレしてるのか今からアレですねー!」
何やら久しぶりののんびりしたやり取りになんとなく癒されつつ、二人は大海原の旅を続ける。
目指すのは南の大陸、世界にある三つの大陸の最後の一つ。
せめて到着までは、この雰囲気の中で過ごしていたいと二人は思っていた。
残り[1058日→1043日]
まだまだ、いくらでもエリー達の面倒はみたいところではある。それでも、南の大陸での人材探しも必要であれば、残された時間も少なかった。
オリヴィアは王都に戻ったついでにサニィが発見したいくつかの町を襲撃から守り、あの時の死闘の感覚を自分の物にした様だし、エリーもさらなる成長と、能力の可能性を見出していた。
後はきっと、放っておいても自分が育てるのと変わらない成長を見せるのだろう。
そう、思ってしまった。
「さて、そんなわけで、俺達は行って来る」「うん、行ってきます」
「どんなわけかは分からないですれど、行ってらっしゃいませ」
そう言いあって手を振ると、船が離岸して行く中で、それまで何も言わなかったエリーは叫んだ。
「寂しがりやの師匠、行ってらっしゃい!!」
そうして、誰よりも大きく手を振った。
何やら恥ずかしいな。そんなことを呟くレインに、サニィは筒抜けですからと笑う。
見送りには町の警備部隊やアリス、女将と、存在感の薄い大将、実に多くの人が集まっており、この船も彼らが手配してくれたものだった。
手配してくれたとは言っても、船頭もいない、二人きりの大型木造ボードをプレゼントされただけだった。
きっとこの光景を見た町の住人多くは、無謀な旅を強行した馬鹿で好かれている奴を、せめてみんなで見送ろうとでもしていると思ったことだろう。
乗っているのが正確な空間把握能力を持つ怪人と、無限のマナを操れる聖女だとは、見送りをしていた人間達以外は誰も知らない。
――。
港が視界から消え、腰を下ろす。
互いの目の前にいるのは、随分と懐かしい顔だった。
「それにしても久しぶりだな、サニィ」
「2週間位ぶり、ですか。でもその前も別々に行動してましたし、確かに久しぶりですねー」
「ああ、出会った最初は一瞬たりとも離れる気なんか無かったんだけどな」
「……私は最初レインさんのこと怖かったですけど」
そんなサニィの言葉にレインは少しだけしゅんとする。
久しぶりの二人きりだからだろうか、師匠として厳しくしてきた反動だろうか、それとも、自分が頼りになるようになったということだろうか。
何はともあれ、そんな久しぶりの二人きりを、サニィはとても愛おしく思った。
「南の大陸ですか。私達が英雄に興味を持ったきっかけのヴィクトリア様とフィリオナ様は、そこの出身なんですよね」
「ヴィクトリアは巨人の子どもだったって説があるよな」
「ああー、それ、マルス様が違うって否定しましたよ」
「なんだと……?」
もしかして魔王の時の様に、またそんなファンタジーを信じていたのだろうか。
魔王はファンタジーではなかったけれど、巨人族なんてのは存在しない。ジャイアントって魔物は確かに南の大陸にいるけれど。
「そもそも、185cmって普通に大きい人じゃないですか。確かに、女性としては凄く大きいですけど」
「うーん、言われてみればマルスも自分よりは小さかったと言っていたような……」
「あはは、結構レインさんってそういう所信じるんですね」
やっぱりそういう部分で可愛いところがある。
そんな風に思ってしまったのは流石に本人には言えない。
恐らく気にしないだろうとは思うが、もしも恥ずかしがったりしたら船の上では流石に気まずくなってしまう。
「まあ、俺の存在自体が奇妙なものだしな。何があってもおかしくはないと思ってるが……」
それは確かに。
と思ったところで、サニィは一つの事実に気がついた。
「あ、もしかして、レインさんって私のそういうところを見越してたんですか?」
「ん? なんでだ?」
違ったらしい。ファンタジー好きなら魔法使いじゃない魔法使い(正確には奇跡らしいけれど)を見抜いて惚れたのなんだの言ったのではと思ったけれど。
では、とサニィは考えたところで、レインは言葉を続けた。
「俺は普通にお前の見た目が好みだったし、血の臭いを落とせば良い匂いもしたし、寝顔、いや、寝相も面白かったしな。まあ、最初に言った通りの一目惚れだったわけだ」
「寝相って……。ってか体臭の話とかしないでくださいよ恥ずかしい!」
この男のことだから、そんな予想は、ちょくちょく外れる気がする。
「そもそも、能力を見てないのに分かるわけがない」と言われてしまえば確かにそうだ。
これ以上は藪蛇になりそうだったので、話題をやめることにした。
「いやぁー、ヴィクトリア様が巨人の子孫じゃないってのは残念ですけど」
「なんだその下手なごまかし方は」
「あっちの大陸には狛の村とは違う戦闘民族がいるってのは事実みたいなんで楽しみですね」
「おい」
「女性だけの民族と言うことですよ。どういうマナが作用してアレしてるのか今からアレですねー!」
何やら久しぶりののんびりしたやり取りになんとなく癒されつつ、二人は大海原の旅を続ける。
目指すのは南の大陸、世界にある三つの大陸の最後の一つ。
せめて到着までは、この雰囲気の中で過ごしていたいと二人は思っていた。
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