雨の世界の終わりまで

七つ目の子

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第十章:未来の為に

第百二十四話:8年後の為に

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「オリヴィア、後で少し話がある。21時に部屋に来てくれ」
「はい、よば、ではないですものね」

 弟子達の元に戻って夕飯を食べた後、レインはオリヴィアを呼びつける。
 レインとサニィが同じ部屋をとったことに少し思うことはある様だが、流石に師の真剣な声を相手にそれを表に出すような事はしない。基本的には優秀な王女だ。二人への憧れが強すぎると言うだけで。
 オリヴィアは予定通り21時に二人の部屋を訪れると、王女らしく澄ました佇まいで二人の前へと座る。
 これから聞くことは、きっと世界に影響を与えること。
 それを分かっているかの様に。

「レインさん、今回は私が話しますね」

 サニィはドラゴンに挑んだ時の様に真面目な表情で、レインはそれに無言の頷きをもって答える。

「さて、オリヴィア、すごく大切な話。まず最初にだけど、私達の寿命はあと1103日、かな。殆ど丸3年。
 それは大体分かってると思うけれど、あと約8年、それより後に魔王が生まれるの。私達が生きていられれば良かったんだけど、それは多分厳しい。私も随分と強くなったけれど、魔王との差はまだまだ大きくて、3年ではきっと追いつけない。追いつけなければ、呪いを消せないみたい。だから、次の魔王討伐を、次代の英雄に託したいの」

「……、やっぱりレイン様が昼間、これが出来るのは魔王くらいとおっしゃったのには意味があったんですのね」

「そうだね、もちろん、オリヴィアは王女様なんだから戦わない方が良いに決まってる。でも、王女様だからこそ聞いて欲しい。黄の魔王は、勇者レインの所に出るって予言、覚えてるよね?」
「はい。もちろんです。1年後と言っていましたし、もう倒されたんですよね?」
「うん、その黄の魔王ね、私だったんだよ」
「え?」

 当然ながら、何を言っているのか分からないと言った様子。
 しかし、暫く呆然としていたかと思うと思い当たる節はあったらしい。

「…………レイン様の所、黄色、お姉様の能力、国内のことしか占えないはずのババ様の占いで魔王を出現が予言出来たってことは……。デーモンロードの時も聞きましたけど、魔王って魔物やお姉様みたいに、陰のマナを感じられる様な人が変化するってことですの?」

 流石にオリヴィアは教養がある。彼女にとっては、答えさえ分かっていれば、それまでの手がかりから推測することは容易かった。
 サニィはそれにこくりと頷くと、話を続ける。今回の問題点はそれではない。

「私達はこれから少ししたら、世界中で8年後に戦える人達を探さないといけない」
「ここからは俺が代わろう。今のところ、一番強いのはお前だ、オリヴィア。そして潜在能力ならエリーがお前に並ぶと考えている。
 お前は王女だが、それでもあえて言おう。お前とエリーは次回魔王戦の要だ。初代英雄エリーゼの国にも行ったが、そこの騎士達でもディエゴに劣る。それに近い者は何人も居たが、お前には到底敵わない。後は南の大陸で探してみるが、どうなるかは全く分からない」
「……なるほど。もっと、強くならないといけないってことですね……」
「これから先、魔法使いも台頭してくる。サニィも二人の生徒を取り、その内の片方は新魔法まで開発しているらしい」
「その方達とも合流が必要と言うことですね」
「ああ、それでも俺が考えるに、8年後、一番強いのはお前だろう。そして更にだ。お前の人徳を信頼して頼みたいことがある」
「なんなりと!」

 レインの力説に、次第に乗せられていくオリヴィア。
 真剣な顔でレインに見つめられているだけでも興奮するというのに、信頼しているとまで言われたのだ。真剣な話とは言え、彼女は興奮を抑えられはしなかった。
 もちろん、真面目に聞いている。

「俺達二人はアルカナウィンドでは前女王殺しの犯罪者となってしまった」
「え、え? え?」
「しかし、現女王エリーゼの能力は次の魔王討伐に必須だろう。彼女の協力も得なければならない」
「え、えーと誤解とか、ですわよね?」
「いや、実際に殺した。女王エリーゼは戦えないだろうが、その能力は指揮官として相応しい」
「……ま、まあ、理由があるとは思っておりますが、ほぼスルーですのね……」
「そこで、お前に頼む」
「わ、分かりましたわ。それなら一旦王都に戻ってすぐ、と言う事にしたほうが良いですわね」
「サニィが送ってくれる。俺はその間にエリー達を鍛えよう」

 次回の魔王討伐への計画はこうして始まった。
 二人がそれを見ることは出来ない。しかし、二人には責任があった。
 その責任を二人は互いに知らないけれど、次回の魔王戦はこの物語では語られないけれど、それでも、彼らはその準備を始める。

「さて、レインさん。私はオリヴィアを送ってルー君達を見てきますね。少し離れ離れになりますけど、寂しくて泣かないでくださいね」
「ああ、頑張ろう。気をつけて行ってこいよ」
「はい、それではまた後で」

 こうして二人は一旦それぞれの役割を果たすため、離れ離れとなる。
 別れは随分とあっさりしたものだが、サニィの力なら、会おうと思えばいつでも会える。
 そうしてついでに、9歳の女王エリーゼと二人の大罪人との再開は、思ったよりも早くに訪れることになる。
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