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第十章:未来の為に
第百二十三話:聖女は微笑んでいる
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オリヴィアの踏み込みは驚異的だった。
それを視認できた者は兵士達の半数程、エリーも視認出来たものの、その動きを完璧に捉えられる者は居なかった。
しかし、それに対してレインは余りにもゆっくりと半歩を踏み出した。余りにも自然な動作に、それを捉えられた者は皆無。
対峙しているオリヴィアさえ、その例外ではなかった。オリヴィアは正攻法で圧倒するタイプではあるが、完璧に基礎を抑えているが故に相手の不意の動きにも強い。
しかし、相手の動きは単純に、オリヴィアを遥かに上回る正攻法だった。
オリヴィアは間合いを正確に計り、レインに向かってレイピアを突き立てたつもりだった。間合い内で振りさえすれば必中の剣。前回は体をほんの少し逸らされ、本来当たるべき場所に剣を置くことによって受け流された。
今回はあれから随分と成長している。前回はそれで当たったと認識してしまった為に当たらなかった攻撃も、今ならそれを超えて捉えることが出来る。そう思っていた。
「ひあっ」
しかし、それは直前で失敗する。
半歩を踏み出したレインは突き出す直前のオリヴィアの右手首に左手を添えると、その突撃の勢いを利用して後方にそのまま投げ飛ばした。これから突き出す右手の勢いも利用したその投げで、オリヴィアの体は面白い様に吹き飛んでいく。
「あいたたたた、……参りました」
50m程吹き飛び、体制を立て直してそのままそう言うオリヴィアの喉元には、黒い剣が突き付けられていた。
「踏み込みは良い。速度も申し分ない。以前の課題はクリアしているだろう。ちゃんと受け身も取れている。ただ、少しだけ必中に頼ってしまったな」
「振ることが出来なければ当たることもない。勉強になります」
「とは言え、お前の踏み込みに反応してこれが出来る魔物は魔王位のものだ。自信を持って続ければ良い」
「……魔王、はい。ありがとうございました!!」
見ていた兵士達は呆然としていた。
オリヴィアは強い。それこそ意味が分からない程に。彼女よりも強い魔物が存在すると言うことすら信じたくない程に、彼らにとってオリヴィアは強かった。実際に一緒に訓練をして、魔物を倒して、エリーを含めた全員対一人で模擬戦をして圧倒する力を見せるオリヴィア。
それが、まるで赤子扱い。
どうやったのかは分からないものの、半数の人は何をやったのかを理解していた。
それは、衝撃だった。
「はい!! 師匠、次はわたしがいってもいいですか!?」
「ああ、来い。エリーがどの様に成長したのか見てみたい」
皆が声を出せない、圧倒的過ぎる技術と力の中、エリーだけは違った。
皆が諦めを呟きかけている中で、彼女だけは期待をしていた。
レインが旅立ち、自分が実際に戦いを初めてから、最強はオリヴィアだった。自分がどれだけやっても、小指一本で倒されてしまう程の力を持つオリヴィアが最強だった。
もちろん、戦いを始める前にはレインの力を見ているが、その差を、理解出来てはいなかった。
それが、やっと分かった。
自分がどれだけ弱くてちっぽけで、頂点がどれだけ狂った領域なのかを体験したい。そんな領域にいる人に期待されている自分は一体なんのか、知りたい。
そんな好奇心が、ふつふつと湧き出てきていた。
「行きます!!」
エリーは、兵士達を呼びに行くついでに、いくつかの武器を宿屋『漣』から持ってきていた。今の手持ちは槍、盾、片手剣、そしてオリヴィアとの模擬戦で使っていたメイスと両手剣。
彼女はまず、片手剣をレインに向かって投げつけた。それとほぼ同時、槍とメイスをレインの左右へと放り、そのまま盾を構えて突進する。
「ほう」レインはそう呟きながら片手剣を軽々とキャッチすると、眼前に迫った盾を軽く蹴り飛ばす。
そこに感触はなかった。正確には、エリーを完全に覆い隠す程の大盾の裏に、エリーは居なかった。
「ふぅっ!!」
レインの動きを読んでいたエリーは盾の陰から飛び出ると、その蹴り上げた足を青い剣で切り上げようとする。
当然それは回避されるものの、そのまま勢いをつけてそれをレインに投げつける。
独楽のように回転しながらレインに向かう青い剣。もちろん、攻撃の手は休めない。
地面に刺さっている槍を引き抜くと、その剣の到達とほぼ同時に突き放つ。
「うおっと」
「ううっ」
ぺしんっ。先程のデコピンルールだろう。レインはふっとエリーに近づくとその額に優しくデコピンを放った。
「強いな。やっぱりお前は俺の見込んだ通りだ」
先程のオリヴィアに比べたら、児戯に等しい。最後のレインの接近も、ただ歩いて間合いを詰めただけに見える程、オリヴィアとの差は大きい。非常にゆっくりとした戦いだった。
それでも、見ていた全ての者は、彼女を賞賛せざるを得なかった。
「お、惜しかったぞエリー!!」
そんなことを最初に言ったのは、警備団長だった。最近ではエリーにも勝てなくなった彼は、誰よりも早くにエリーを賞賛した。
呆気にとられ、ただ呆然と立ち尽くしていた自分達を置いて、一人圧倒的強者に立ち向かう英雄。
全ての兵士達に、エリーはそう映ったのだと、後に聞く。
「エリー、お前の攻撃は独特だ。なんと言うかな、リズムが非常に掴みにくい。二つの攻撃のタイミングが、凄く上手くズレている。正直見てやる、ってつもりでやってたから危なかった」
「これから、どうすればもっと強くなれますか?」
「よし、教えてやる。オリヴィア、お前も一緒だ。警備団、お前らはどうする!?」
新たな伝説が始まる予兆を見て、大の大人が引けるわけがなかった。
7歳前の子どもがあれだけの物を見せたのだ。三倍以上生きている自分達が逃げ出すことなど、死んでも出来ない。
「はい! お願いします!!」
数年後、めちゃめちゃ強い戦士が守る町、ブロンセンは、こうして出来上がることになる。
それを視認できた者は兵士達の半数程、エリーも視認出来たものの、その動きを完璧に捉えられる者は居なかった。
しかし、それに対してレインは余りにもゆっくりと半歩を踏み出した。余りにも自然な動作に、それを捉えられた者は皆無。
対峙しているオリヴィアさえ、その例外ではなかった。オリヴィアは正攻法で圧倒するタイプではあるが、完璧に基礎を抑えているが故に相手の不意の動きにも強い。
しかし、相手の動きは単純に、オリヴィアを遥かに上回る正攻法だった。
オリヴィアは間合いを正確に計り、レインに向かってレイピアを突き立てたつもりだった。間合い内で振りさえすれば必中の剣。前回は体をほんの少し逸らされ、本来当たるべき場所に剣を置くことによって受け流された。
今回はあれから随分と成長している。前回はそれで当たったと認識してしまった為に当たらなかった攻撃も、今ならそれを超えて捉えることが出来る。そう思っていた。
「ひあっ」
しかし、それは直前で失敗する。
半歩を踏み出したレインは突き出す直前のオリヴィアの右手首に左手を添えると、その突撃の勢いを利用して後方にそのまま投げ飛ばした。これから突き出す右手の勢いも利用したその投げで、オリヴィアの体は面白い様に吹き飛んでいく。
「あいたたたた、……参りました」
50m程吹き飛び、体制を立て直してそのままそう言うオリヴィアの喉元には、黒い剣が突き付けられていた。
「踏み込みは良い。速度も申し分ない。以前の課題はクリアしているだろう。ちゃんと受け身も取れている。ただ、少しだけ必中に頼ってしまったな」
「振ることが出来なければ当たることもない。勉強になります」
「とは言え、お前の踏み込みに反応してこれが出来る魔物は魔王位のものだ。自信を持って続ければ良い」
「……魔王、はい。ありがとうございました!!」
見ていた兵士達は呆然としていた。
オリヴィアは強い。それこそ意味が分からない程に。彼女よりも強い魔物が存在すると言うことすら信じたくない程に、彼らにとってオリヴィアは強かった。実際に一緒に訓練をして、魔物を倒して、エリーを含めた全員対一人で模擬戦をして圧倒する力を見せるオリヴィア。
それが、まるで赤子扱い。
どうやったのかは分からないものの、半数の人は何をやったのかを理解していた。
それは、衝撃だった。
「はい!! 師匠、次はわたしがいってもいいですか!?」
「ああ、来い。エリーがどの様に成長したのか見てみたい」
皆が声を出せない、圧倒的過ぎる技術と力の中、エリーだけは違った。
皆が諦めを呟きかけている中で、彼女だけは期待をしていた。
レインが旅立ち、自分が実際に戦いを初めてから、最強はオリヴィアだった。自分がどれだけやっても、小指一本で倒されてしまう程の力を持つオリヴィアが最強だった。
もちろん、戦いを始める前にはレインの力を見ているが、その差を、理解出来てはいなかった。
それが、やっと分かった。
自分がどれだけ弱くてちっぽけで、頂点がどれだけ狂った領域なのかを体験したい。そんな領域にいる人に期待されている自分は一体なんのか、知りたい。
そんな好奇心が、ふつふつと湧き出てきていた。
「行きます!!」
エリーは、兵士達を呼びに行くついでに、いくつかの武器を宿屋『漣』から持ってきていた。今の手持ちは槍、盾、片手剣、そしてオリヴィアとの模擬戦で使っていたメイスと両手剣。
彼女はまず、片手剣をレインに向かって投げつけた。それとほぼ同時、槍とメイスをレインの左右へと放り、そのまま盾を構えて突進する。
「ほう」レインはそう呟きながら片手剣を軽々とキャッチすると、眼前に迫った盾を軽く蹴り飛ばす。
そこに感触はなかった。正確には、エリーを完全に覆い隠す程の大盾の裏に、エリーは居なかった。
「ふぅっ!!」
レインの動きを読んでいたエリーは盾の陰から飛び出ると、その蹴り上げた足を青い剣で切り上げようとする。
当然それは回避されるものの、そのまま勢いをつけてそれをレインに投げつける。
独楽のように回転しながらレインに向かう青い剣。もちろん、攻撃の手は休めない。
地面に刺さっている槍を引き抜くと、その剣の到達とほぼ同時に突き放つ。
「うおっと」
「ううっ」
ぺしんっ。先程のデコピンルールだろう。レインはふっとエリーに近づくとその額に優しくデコピンを放った。
「強いな。やっぱりお前は俺の見込んだ通りだ」
先程のオリヴィアに比べたら、児戯に等しい。最後のレインの接近も、ただ歩いて間合いを詰めただけに見える程、オリヴィアとの差は大きい。非常にゆっくりとした戦いだった。
それでも、見ていた全ての者は、彼女を賞賛せざるを得なかった。
「お、惜しかったぞエリー!!」
そんなことを最初に言ったのは、警備団長だった。最近ではエリーにも勝てなくなった彼は、誰よりも早くにエリーを賞賛した。
呆気にとられ、ただ呆然と立ち尽くしていた自分達を置いて、一人圧倒的強者に立ち向かう英雄。
全ての兵士達に、エリーはそう映ったのだと、後に聞く。
「エリー、お前の攻撃は独特だ。なんと言うかな、リズムが非常に掴みにくい。二つの攻撃のタイミングが、凄く上手くズレている。正直見てやる、ってつもりでやってたから危なかった」
「これから、どうすればもっと強くなれますか?」
「よし、教えてやる。オリヴィア、お前も一緒だ。警備団、お前らはどうする!?」
新たな伝説が始まる予兆を見て、大の大人が引けるわけがなかった。
7歳前の子どもがあれだけの物を見せたのだ。三倍以上生きている自分達が逃げ出すことなど、死んでも出来ない。
「はい! お願いします!!」
数年後、めちゃめちゃ強い戦士が守る町、ブロンセンは、こうして出来上がることになる。
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