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第十章:未来の為に
第百二十一話:世界を変える魔法
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レイン、サニィ、ロベルトの3人は、三日三晩一切の睡眠を取らずエリーゼ前女王の死に立ち会っていた。
恐らく方法によってはサニィが交代しても彼女に痛みや苦しみを与えることはなかっただろう。
しかし、その交代はレインが許さなかった。言ってみれば、それを最初に決断したのは、最初に前女王を見捨てたのは、レインだった。
サニィは直前まで修行を繰り返し、前女王の発狂の兆しが見える直前までは何度も何度も解呪を繰り返していた。それを、ほんの僅かな揺らぎ、まだ発狂し始める前の状態から殺し始めたのはレインだった。
「勇者レイン、聖女サニィ、あなた達は二人共きっと正しいのです。これもきっと、27世様が示した正しき道の一つなのです。26世様は苦しんでおられません」
「頼むからそれを女王様には言ってくれるなよ。彼女を殺すのは俺の独断だ」
三日間、女王の再生が止まるまでの間、三人が交わした言葉はそれだけだった。
彼女が確実に死んだ後、サニィに「復元を頼む」そう伝えるまで、サニィは一言も喋らなかった。
助けられなかったことにどれだけ責任を感じたのか、どれだけ無念だったか、どれだけ悲しかったか、サニィは完璧な復元を施した。
レインは一切の苦しみを与えないように、細心の注意を払って彼女を切り刻んでいた。再生の中心点となるのは基本的には脳からだが、与えるダメージの量や場所によっては別の場所が起点となることもある。もしも脳が再生してしまえば苦しみを与えてしまう可能もある。だから、徹底的に。
誰しもが息をつく暇もないほどに。
その男は女王だった人を殺し続けた。
「じい、思い返してみれば、お母さんやじいだけじゃなくて、あの二人も真っ青な顔をしてたね……」
事件の三日後、グレーズ王女の為の手紙を認めながら、僅か9歳の女王エリーゼ27世は、独り言の様にそう呟いた。
――。
「レインさん、新しい魔法を、思いつきました。出来るかは、分かりませんけど」
ゆっくりと陰のマナを解き、徐々に心を落ち着かせながらサニィは言う。
聞けば、宰相と前女王は納得していると言うものの、サニィ自身にとってはそれは救いではない。やはり何度も死んだことがあるからだろう、いくら苦しまなかったとしても死は救いになり得ない。サニィはそう考えたらしい。
「だからせめて、罪滅ぼしではないですけどその時に学んだことを、魔法の発展に役立てたいと思いまして……」
「聞こう」
「復元、この魔法自体が実は新しい魔法なんです。レインさんが無茶ぶりしましたけど、その構造を完全に理解してないとただのハリボテになっちゃいますから。で、それ、成功しました。それが出来たということは逆に分解も出来るんです」
「そういえば以前、胸や皮下脂肪の話をしてたな」
「そうなんですよ。で、そこの木を見ててください。出来るかな、分解、……そして復元」
サニィは『フラワー2号』で近くに生えていた樹木を指すと、その樹木は光に包まれ霧散する。
そして、自分の背後を指すと、その場に先ほど分解した樹木を出現させる。
地面が少し盛り上がり、それを押しのけて現れたことが分かる。
「なるほど。完全な転移か」
「はい。これを動物で出来るのかは分かりませんが、先ほど魔物で試したら出来ました。もう、陰の方も操れるので」
「ああ、続けてくれ」
サニィは魔王を倒したことで、世界中のマナを感じられる様になった。
その中でも特に、自分の残したマナを強く感じられるらしい。転移の魔法が完成すれば、その場に素早く転移することも可能になるかもしれない。
ただし、失敗すればそのまま霧散して人生の終わり。
成功するかどうかは一切の保証がない。当然ながら転移中に思考は出来ないだろうから。
「とは言え、呪いを受けてればどこかで復活するのかもしれませんけど……」
「なるほど、つまり、自分の身を犠牲にして転移の魔法を完成させたいと?」
サニィはこくりと頷く。
もちろん問題点は山積みだ。サニィは世界中のマナを感じられるものの、通常の魔法使いはマナがタンクに流入してくる感覚しか得ることができない。どこでも自由に転移は到底不可能だ。
「それに関しては何かビーコンの様なものを開発すれば……」
マナの量は足りるのか、試そうとして死人が多く出るだろう。
「そこに関しても何かしらの対応策を考えないといけませんね。分解、非常に危険です。簡単に人を殺せてしまうわけですから」
それからの2ヶ月間、二人は考えに考えた。
ビーコンはともかく、転移の魔法は分解、復元という二つの魔法ではなく転移の魔法として最初から考えるように仕向けること。その特性上触媒を使った技術を応用すればいいのではないかということ。そして、それを一般化するためには世界を変え特殊な術式を編み出す必要があること。
その結果、今はまだサニィしか実用出来ず、サニィの死後には全ての魔法使いが実用可能となる世界を旅するための魔法、転移魔法は創られた。
「これがあれば、私もやっと世界を変えられたってことになるかもしれません」
「魔王が残したものが呪いなら、お前が残すものは祝福としようか」
「それを自分で言いたくないんですけど……」
「どうせ広める奴らが居るだろうさ」
動物を転移させ、次に自分を転移させ、最後に最も難易度の高いレインを転移させ、転移魔法は完成した。イメージにかなりの時間がかかってしまうものの、今まで行った場所になら、多分、すぐに飛べる。
命懸けとは言え、サニィはエリーゼに報いるためにもこれを成功させなければならなかった。
「それじゃ、港町ブロンセンへ行ってみるか」
「はい、死ぬ準備はいいですか?」
もちろん、今はまだそのつもりはない。
二人の最終目的はあくまでも、呪いの解呪だ。
今はそれを出来ない為に繋ぎで創った魔法は、彼らの死後、大いに活躍することになる。
恐らく方法によってはサニィが交代しても彼女に痛みや苦しみを与えることはなかっただろう。
しかし、その交代はレインが許さなかった。言ってみれば、それを最初に決断したのは、最初に前女王を見捨てたのは、レインだった。
サニィは直前まで修行を繰り返し、前女王の発狂の兆しが見える直前までは何度も何度も解呪を繰り返していた。それを、ほんの僅かな揺らぎ、まだ発狂し始める前の状態から殺し始めたのはレインだった。
「勇者レイン、聖女サニィ、あなた達は二人共きっと正しいのです。これもきっと、27世様が示した正しき道の一つなのです。26世様は苦しんでおられません」
「頼むからそれを女王様には言ってくれるなよ。彼女を殺すのは俺の独断だ」
三日間、女王の再生が止まるまでの間、三人が交わした言葉はそれだけだった。
彼女が確実に死んだ後、サニィに「復元を頼む」そう伝えるまで、サニィは一言も喋らなかった。
助けられなかったことにどれだけ責任を感じたのか、どれだけ無念だったか、どれだけ悲しかったか、サニィは完璧な復元を施した。
レインは一切の苦しみを与えないように、細心の注意を払って彼女を切り刻んでいた。再生の中心点となるのは基本的には脳からだが、与えるダメージの量や場所によっては別の場所が起点となることもある。もしも脳が再生してしまえば苦しみを与えてしまう可能もある。だから、徹底的に。
誰しもが息をつく暇もないほどに。
その男は女王だった人を殺し続けた。
「じい、思い返してみれば、お母さんやじいだけじゃなくて、あの二人も真っ青な顔をしてたね……」
事件の三日後、グレーズ王女の為の手紙を認めながら、僅か9歳の女王エリーゼ27世は、独り言の様にそう呟いた。
――。
「レインさん、新しい魔法を、思いつきました。出来るかは、分かりませんけど」
ゆっくりと陰のマナを解き、徐々に心を落ち着かせながらサニィは言う。
聞けば、宰相と前女王は納得していると言うものの、サニィ自身にとってはそれは救いではない。やはり何度も死んだことがあるからだろう、いくら苦しまなかったとしても死は救いになり得ない。サニィはそう考えたらしい。
「だからせめて、罪滅ぼしではないですけどその時に学んだことを、魔法の発展に役立てたいと思いまして……」
「聞こう」
「復元、この魔法自体が実は新しい魔法なんです。レインさんが無茶ぶりしましたけど、その構造を完全に理解してないとただのハリボテになっちゃいますから。で、それ、成功しました。それが出来たということは逆に分解も出来るんです」
「そういえば以前、胸や皮下脂肪の話をしてたな」
「そうなんですよ。で、そこの木を見ててください。出来るかな、分解、……そして復元」
サニィは『フラワー2号』で近くに生えていた樹木を指すと、その樹木は光に包まれ霧散する。
そして、自分の背後を指すと、その場に先ほど分解した樹木を出現させる。
地面が少し盛り上がり、それを押しのけて現れたことが分かる。
「なるほど。完全な転移か」
「はい。これを動物で出来るのかは分かりませんが、先ほど魔物で試したら出来ました。もう、陰の方も操れるので」
「ああ、続けてくれ」
サニィは魔王を倒したことで、世界中のマナを感じられる様になった。
その中でも特に、自分の残したマナを強く感じられるらしい。転移の魔法が完成すれば、その場に素早く転移することも可能になるかもしれない。
ただし、失敗すればそのまま霧散して人生の終わり。
成功するかどうかは一切の保証がない。当然ながら転移中に思考は出来ないだろうから。
「とは言え、呪いを受けてればどこかで復活するのかもしれませんけど……」
「なるほど、つまり、自分の身を犠牲にして転移の魔法を完成させたいと?」
サニィはこくりと頷く。
もちろん問題点は山積みだ。サニィは世界中のマナを感じられるものの、通常の魔法使いはマナがタンクに流入してくる感覚しか得ることができない。どこでも自由に転移は到底不可能だ。
「それに関しては何かビーコンの様なものを開発すれば……」
マナの量は足りるのか、試そうとして死人が多く出るだろう。
「そこに関しても何かしらの対応策を考えないといけませんね。分解、非常に危険です。簡単に人を殺せてしまうわけですから」
それからの2ヶ月間、二人は考えに考えた。
ビーコンはともかく、転移の魔法は分解、復元という二つの魔法ではなく転移の魔法として最初から考えるように仕向けること。その特性上触媒を使った技術を応用すればいいのではないかということ。そして、それを一般化するためには世界を変え特殊な術式を編み出す必要があること。
その結果、今はまだサニィしか実用出来ず、サニィの死後には全ての魔法使いが実用可能となる世界を旅するための魔法、転移魔法は創られた。
「これがあれば、私もやっと世界を変えられたってことになるかもしれません」
「魔王が残したものが呪いなら、お前が残すものは祝福としようか」
「それを自分で言いたくないんですけど……」
「どうせ広める奴らが居るだろうさ」
動物を転移させ、次に自分を転移させ、最後に最も難易度の高いレインを転移させ、転移魔法は完成した。イメージにかなりの時間がかかってしまうものの、今まで行った場所になら、多分、すぐに飛べる。
命懸けとは言え、サニィはエリーゼに報いるためにもこれを成功させなければならなかった。
「それじゃ、港町ブロンセンへ行ってみるか」
「はい、死ぬ準備はいいですか?」
もちろん、今はまだそのつもりはない。
二人の最終目的はあくまでも、呪いの解呪だ。
今はそれを出来ない為に繋ぎで創った魔法は、彼らの死後、大いに活躍することになる。
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