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第九章:英雄たち
第百三話:レインの覚悟と魔王の話と
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「実際のところ、マルス様の強さはどうだったんですか?」
「本当にデーモンと互角程度だった。魔王戦は本当に、ひたすら死に続けていただけだったんだろう」
「じゃあ、ヴィクトリア様が来るなって言ったのは」
「ああ、守ろうとしたんだろうな」
マルス邸を離れ、ウェニスの町を観光しながらそんな話をする二人。
レインは、本当に一切の容赦なくマルスを切り刻んでいた。それがマルスの望んでいたこと、そしてレインの彼に対する尊敬の念の現れだとしても、それはもう本当に慈悲の欠片すらないのかと思わせるほどに。
しかし、マルスはそんなレインの猛攻の前に、一切倒れなかった。
最も勇敢な英雄、最弱で不敗の英雄の戦い方と言うものを、存分に思い知らされた。
彼は死ぬ様なダメージはかなり痛いと言っていた。しかし、それでも一切引かない。
勝つまで挑み続ける信念が、彼を不敗たらしめている。それを理解した。
「マルス様は赤の魔王討伐で十分過ぎるほど働いていただきましたから、次の魔王討伐は二人で頑張りましょうね」
「いや、次の魔王は俺が一人で倒す。一度も死なずに倒してみせる。これは、俺に必要なことだ」
サニィの笑顔の申し出に、レインはその様に返す。
「そ、そうですか……。でも、見学はさせてくださいね」
その言葉だけは、サニィも否定してはいけない。そこまでの覚悟を孕んでいることがありありと見て取れた。
以前の魔王に、レインは負けている。3度。そして、倒した後には思わず膝をついている。一人で魔王を倒した勇者はレインただ一人だが、膝をついていない勇者は今だにマルスただ一人。だから次の魔王には決して負けない。言いたいことは、流石に分かった。魔王殺しの勇者たちを何人か知って、男の意地の様なものが湧き上がってきたのだと。
「ああ、お前には側にいて欲しい」
今一理由は分からないものの、レインのその言葉も真に迫っている。
いつもの何も考えていないように見えるそれとは違い、覚悟を持った瞳に、サニィも思わずたじろいでしまうものの、嫌というわけではない。
と言うよりも、むしろ、少しばかり安心する気がした。
「も、もちろんです。レインさんが一度でもやられたら加勢しますからね!」
4ヶ月後にレインのところに生まれる魔王。グレーズ王国を出る前に聞いた話によると、占いに出た魔王の種類は黄の魔王。紫に次いで黄色、その次もあるのだろうか。
そんなことを思いながら。サニィとレインはウェニスの町を練り歩く。
ちょうど今の時期はマルス祭。町の人々がマルスの勇敢さを讃える祭りを催していた。
毎年、マルス本人が仮面を付けて英雄マルス役として参加している祭りだ。
マルスが生きていることを知っているのは役場中でも一部の人のみ。仮面の巨漢がマルスだとは、極一部の人以外は気づいていないらしい。
ともかく、彼は町を挙げて讃えられ毎年祭りは大成功を収めるらしい。
「ひたすら死ぬ目にあった後は、ずっと人々に讃えられ、好かれる英雄か。これまたボブと真逆で大変な人生だな」
「それはレインさんが人に褒められ慣れてないだけじゃないんです?」
「でも、マルスはこの先どれだけ生きるのかすら分からん。ま、いつまでもこの祭りが続くと良いな」
「そうですね……」
そうして二人はマルス祭を楽しむと、再び旅を始める。前回は南から行ったので、今回は北から行こう。そんな単純な考えのもと、北へと向かう。次に向かうは英雄ベルナール誕生の地と言われるこの大陸北方の地。誰よりも堅実に、誰もが認めた英雄ベルナール。無茶な戦いのマルス達に次いで2番目に死者の少ない魔王戦を繰り広げた英雄の生まれた土地。
――。
「それにしても、魔王はそれぞれ魔物の姿をしているんですね」
「……みたいだな」
「どうしたんですか?」
「……いや、なんでもないさ。もし、魔王のマナを感じたらすぐに教えてくれ」
「んん? 分かりましたけどー。あと4ヶ月位、緊張しますね」
「ああ、そうだな」レインのそんな声がサニィに届いかたどうか、サニィはいつもの様に花を咲かせる。
サニィはレインの勝ちを確信している。それに対してレインには何か不安があるように思う。
しかしその内容を、恐らく聞くべきではない。そんな予感が、なんとなくしている。
「もしレインさんが負けたら私が倒しちゃいますからね」
「ああ、その時は頼む。まあ、負けないがな」
そんな風に答えるレインの様子だけは、いつもと同じく優しいものだった。
二人は再び少し明るく戻ると、また会話を交わしながら北へと歩く。もちろん、いつものように魔法の修行は欠かさないままに。
――。
「赤がイフリート、紫がデーモンロード、茶はなんか書いてありましたっけ?」
「茶はオーガだと聞いたことがある気がする。真偽は不明だけどな」
「そういえば資料館には何もありませんでしたね。そうなると、黒はなんなんでしょうね。呪いを撒き散らす魔物……レイス?」
「ああ、そうだな。少し、確信に迫ってみよう」
「ん? どうしました?」
「俺は黒の魔王を、強力な魔法使い系の魔物だと考えている。例えばリッチとか」
「それはなんでです?」
「こればっかりは課題だ。俺の考えも正解だとは限らないしな」
残り【1346日→1344日】 次の魔王出現まで【135日】
「本当にデーモンと互角程度だった。魔王戦は本当に、ひたすら死に続けていただけだったんだろう」
「じゃあ、ヴィクトリア様が来るなって言ったのは」
「ああ、守ろうとしたんだろうな」
マルス邸を離れ、ウェニスの町を観光しながらそんな話をする二人。
レインは、本当に一切の容赦なくマルスを切り刻んでいた。それがマルスの望んでいたこと、そしてレインの彼に対する尊敬の念の現れだとしても、それはもう本当に慈悲の欠片すらないのかと思わせるほどに。
しかし、マルスはそんなレインの猛攻の前に、一切倒れなかった。
最も勇敢な英雄、最弱で不敗の英雄の戦い方と言うものを、存分に思い知らされた。
彼は死ぬ様なダメージはかなり痛いと言っていた。しかし、それでも一切引かない。
勝つまで挑み続ける信念が、彼を不敗たらしめている。それを理解した。
「マルス様は赤の魔王討伐で十分過ぎるほど働いていただきましたから、次の魔王討伐は二人で頑張りましょうね」
「いや、次の魔王は俺が一人で倒す。一度も死なずに倒してみせる。これは、俺に必要なことだ」
サニィの笑顔の申し出に、レインはその様に返す。
「そ、そうですか……。でも、見学はさせてくださいね」
その言葉だけは、サニィも否定してはいけない。そこまでの覚悟を孕んでいることがありありと見て取れた。
以前の魔王に、レインは負けている。3度。そして、倒した後には思わず膝をついている。一人で魔王を倒した勇者はレインただ一人だが、膝をついていない勇者は今だにマルスただ一人。だから次の魔王には決して負けない。言いたいことは、流石に分かった。魔王殺しの勇者たちを何人か知って、男の意地の様なものが湧き上がってきたのだと。
「ああ、お前には側にいて欲しい」
今一理由は分からないものの、レインのその言葉も真に迫っている。
いつもの何も考えていないように見えるそれとは違い、覚悟を持った瞳に、サニィも思わずたじろいでしまうものの、嫌というわけではない。
と言うよりも、むしろ、少しばかり安心する気がした。
「も、もちろんです。レインさんが一度でもやられたら加勢しますからね!」
4ヶ月後にレインのところに生まれる魔王。グレーズ王国を出る前に聞いた話によると、占いに出た魔王の種類は黄の魔王。紫に次いで黄色、その次もあるのだろうか。
そんなことを思いながら。サニィとレインはウェニスの町を練り歩く。
ちょうど今の時期はマルス祭。町の人々がマルスの勇敢さを讃える祭りを催していた。
毎年、マルス本人が仮面を付けて英雄マルス役として参加している祭りだ。
マルスが生きていることを知っているのは役場中でも一部の人のみ。仮面の巨漢がマルスだとは、極一部の人以外は気づいていないらしい。
ともかく、彼は町を挙げて讃えられ毎年祭りは大成功を収めるらしい。
「ひたすら死ぬ目にあった後は、ずっと人々に讃えられ、好かれる英雄か。これまたボブと真逆で大変な人生だな」
「それはレインさんが人に褒められ慣れてないだけじゃないんです?」
「でも、マルスはこの先どれだけ生きるのかすら分からん。ま、いつまでもこの祭りが続くと良いな」
「そうですね……」
そうして二人はマルス祭を楽しむと、再び旅を始める。前回は南から行ったので、今回は北から行こう。そんな単純な考えのもと、北へと向かう。次に向かうは英雄ベルナール誕生の地と言われるこの大陸北方の地。誰よりも堅実に、誰もが認めた英雄ベルナール。無茶な戦いのマルス達に次いで2番目に死者の少ない魔王戦を繰り広げた英雄の生まれた土地。
――。
「それにしても、魔王はそれぞれ魔物の姿をしているんですね」
「……みたいだな」
「どうしたんですか?」
「……いや、なんでもないさ。もし、魔王のマナを感じたらすぐに教えてくれ」
「んん? 分かりましたけどー。あと4ヶ月位、緊張しますね」
「ああ、そうだな」レインのそんな声がサニィに届いかたどうか、サニィはいつもの様に花を咲かせる。
サニィはレインの勝ちを確信している。それに対してレインには何か不安があるように思う。
しかしその内容を、恐らく聞くべきではない。そんな予感が、なんとなくしている。
「もしレインさんが負けたら私が倒しちゃいますからね」
「ああ、その時は頼む。まあ、負けないがな」
そんな風に答えるレインの様子だけは、いつもと同じく優しいものだった。
二人は再び少し明るく戻ると、また会話を交わしながら北へと歩く。もちろん、いつものように魔法の修行は欠かさないままに。
――。
「赤がイフリート、紫がデーモンロード、茶はなんか書いてありましたっけ?」
「茶はオーガだと聞いたことがある気がする。真偽は不明だけどな」
「そういえば資料館には何もありませんでしたね。そうなると、黒はなんなんでしょうね。呪いを撒き散らす魔物……レイス?」
「ああ、そうだな。少し、確信に迫ってみよう」
「ん? どうしました?」
「俺は黒の魔王を、強力な魔法使い系の魔物だと考えている。例えばリッチとか」
「それはなんでです?」
「こればっかりは課題だ。俺の考えも正解だとは限らないしな」
残り【1346日→1344日】 次の魔王出現まで【135日】
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