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第九章:英雄たち
第百話:恐怖の英雄【撲殺王ボブ】
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【撲殺王ボブ】
彼の英雄ボブと言えば、茶の魔王を倒したのと同時に史上最大の犯罪者として名を馳せている。
人間歴102年、この小国イングレスにて生を受けた男は、その肌の色から一部の心無い国民から迫害を受け、辛い幼少期を過ごしてきたと言われている。
彼はその幼少期の影響で、弱い者を守るために命を懸け、強い者は弱い者を守る義務があるという考えに至り、多くの捨てられたペットや、怪我をした動物を保護していた。
彼の力はバーサーク。怒りが増す程我を忘れ、我を忘れるほど力が増す。
これにより成長したボブは遂に、多くの弱き者を虐げる人々を虐殺してしまう事件を起こしてしまう。しかしボブは何もしなければとても心優しい青年であった為、危険人物でありながら魔王の討伐隊へと志願し、それに合格する。
戦闘の序盤こそその力は振るわなかったものの、魔王により多くの仲間達が倒されると次第に怒りが増し、ボブが気づいた時にはその場に残ったのはたった一人の恐怖に怯える見知らぬ勇者と、ボブのみだった。
そのボブ自身も、その時の怪我によって直ぐに亡くなってしまう。
ボブが亡くなった時、英雄の保護していた動物達は一斉に騒ぎ出したという記録が残っている。
その最後の決戦において、彼の英雄と魔王が殺した勇者の数は、ほぼ同数だったという……。
――。
ここは撲殺王ボブに関する資料館。
フィリオナやヴィクトリアの残した印を見て、過去の英雄達に興味を持った二人は、グレーズ王国とヴェラトゥーラ共和国の東の境目にある小国イングレスへと来ていた。
更に先に進んでいくと、ボブの肖像画や、ボブが使っていたとされる二本のメイスのレプリカ等が飾ってある。
「ああ、やっぱり色々なお話があるのですね……」
「撲殺王ボブに関しては基本的には容姿と、凶暴だったことと実は優しかった、と言うことしか普段は語られないからな……」
「褐色の肌、ですか。確かにこの大陸の人の肌は白いですもんね」
ボブの特徴的な容姿に関しては、多くが語られていた。
2mを超える長身、細身でありながらしっかりと筋肉の付いたその肌は褐色で、真っ黒の鳥の巣の様な髪の毛に、分厚い唇。それがボブの身体的特徴だった。「悪いことしてるとボブに食べられちゃうぞー!」そんな叱り文句も、その身体的特徴と性格から出来た叱り文句で、多少の教養ある家庭では言われていることだった。
「うーん。悪いことするとボブに食べられちゃうぞって、私もお母さんに言われたなぁ……」
「幼少期は迫害の対象にして、大きくなれば恐怖の対象か。なんと言えば良いものか分からんな」
「殺しはやりすぎ、と言いたいところですけど、彼の能力のせいですもんね」
「俺もお前が強姦でもされようものなら全員殺すからな。そういう点では俺と変わりないとも言える」
「うーん、分かりませんね……。最終的には、仲間達も殺しちゃって……」
「その可能性は大いにあったはずなのに、討伐隊へと加えた人間達もいるわけだ」
やはり、英雄達には様々な逸話がある。
撲殺王ボブは悪いものを懲らしめる鬼としての話題が有名ではあったが、そうなった理由などは語られない。悪いのは誰か、と聞かれてみても、考えてみても、魔王以外の答えは浮かばない。
仮に幼少期に迫害をされなかったとしても、彼はいずれその能力によって殺人を犯していただろう。
逆に言ってしまえば、その様な迫害を受けたからこそ、魔王に虐殺されていく弱い仲間達を見て、魔王を倒せるほどの怒りに燃えることが出来たとも言える。
ボブは言ってしまえば、生まれた瞬間から人を殺すことが決まっていた存在だとも言える。
「都合の悪いことは余り語られない。単純に悪者とされず、こんな記録が残っているだけでも、ボブは救われていると言えるのかもしれない」
「レインさんが魔王を倒したことは表の歴史には出ないように、ですか」
「俺はまあ、どうでも良いさ。そういうつもりで言ったわけではないしな」
レインが魔王を倒したことは、彼が生きている間には語られないだろう。彼が一人で魔王を倒してしまう以上、魔王の出現はいたずらに恐怖を煽ってしまうだけ。【次の魔王はレインのところに生まれる】そんな予言がある以上、次の魔王討伐も歴史の闇に飲まれるだろう。
それをレインは気にしてはいなかったが、サニィは少しばかり気にしていた。自分自身、聖女聖女と騒がれるものの、その聖女を育てたのは魔王殺しの英雄レインなのだ。
「うーん、私はやっぱり、なんか、色々と納得できません。どうしようもないですけどっ!」
「俺のことに関してはいつか歴史に乗るだろう。どうせオリヴィアが黙っちゃいないさ」
「まあ、あの娘は、確かに。まあ、それなら、確かに。…………巨大な銅像とか建てそう……」
「ああ、だから気にする必要はない、おっ?」
「どうしました?」
「これ、見てみろ」
レインが指し示した先には、こう書いてある。
『撲殺王ボブ資料館 初代館長 ライム・グリーンウッド』
それは、茶の魔王討伐で、唯一生き残った勇者の名前だった。
残り【1398日→1386日】 次の魔王出現まで【167日】
彼の英雄ボブと言えば、茶の魔王を倒したのと同時に史上最大の犯罪者として名を馳せている。
人間歴102年、この小国イングレスにて生を受けた男は、その肌の色から一部の心無い国民から迫害を受け、辛い幼少期を過ごしてきたと言われている。
彼はその幼少期の影響で、弱い者を守るために命を懸け、強い者は弱い者を守る義務があるという考えに至り、多くの捨てられたペットや、怪我をした動物を保護していた。
彼の力はバーサーク。怒りが増す程我を忘れ、我を忘れるほど力が増す。
これにより成長したボブは遂に、多くの弱き者を虐げる人々を虐殺してしまう事件を起こしてしまう。しかしボブは何もしなければとても心優しい青年であった為、危険人物でありながら魔王の討伐隊へと志願し、それに合格する。
戦闘の序盤こそその力は振るわなかったものの、魔王により多くの仲間達が倒されると次第に怒りが増し、ボブが気づいた時にはその場に残ったのはたった一人の恐怖に怯える見知らぬ勇者と、ボブのみだった。
そのボブ自身も、その時の怪我によって直ぐに亡くなってしまう。
ボブが亡くなった時、英雄の保護していた動物達は一斉に騒ぎ出したという記録が残っている。
その最後の決戦において、彼の英雄と魔王が殺した勇者の数は、ほぼ同数だったという……。
――。
ここは撲殺王ボブに関する資料館。
フィリオナやヴィクトリアの残した印を見て、過去の英雄達に興味を持った二人は、グレーズ王国とヴェラトゥーラ共和国の東の境目にある小国イングレスへと来ていた。
更に先に進んでいくと、ボブの肖像画や、ボブが使っていたとされる二本のメイスのレプリカ等が飾ってある。
「ああ、やっぱり色々なお話があるのですね……」
「撲殺王ボブに関しては基本的には容姿と、凶暴だったことと実は優しかった、と言うことしか普段は語られないからな……」
「褐色の肌、ですか。確かにこの大陸の人の肌は白いですもんね」
ボブの特徴的な容姿に関しては、多くが語られていた。
2mを超える長身、細身でありながらしっかりと筋肉の付いたその肌は褐色で、真っ黒の鳥の巣の様な髪の毛に、分厚い唇。それがボブの身体的特徴だった。「悪いことしてるとボブに食べられちゃうぞー!」そんな叱り文句も、その身体的特徴と性格から出来た叱り文句で、多少の教養ある家庭では言われていることだった。
「うーん。悪いことするとボブに食べられちゃうぞって、私もお母さんに言われたなぁ……」
「幼少期は迫害の対象にして、大きくなれば恐怖の対象か。なんと言えば良いものか分からんな」
「殺しはやりすぎ、と言いたいところですけど、彼の能力のせいですもんね」
「俺もお前が強姦でもされようものなら全員殺すからな。そういう点では俺と変わりないとも言える」
「うーん、分かりませんね……。最終的には、仲間達も殺しちゃって……」
「その可能性は大いにあったはずなのに、討伐隊へと加えた人間達もいるわけだ」
やはり、英雄達には様々な逸話がある。
撲殺王ボブは悪いものを懲らしめる鬼としての話題が有名ではあったが、そうなった理由などは語られない。悪いのは誰か、と聞かれてみても、考えてみても、魔王以外の答えは浮かばない。
仮に幼少期に迫害をされなかったとしても、彼はいずれその能力によって殺人を犯していただろう。
逆に言ってしまえば、その様な迫害を受けたからこそ、魔王に虐殺されていく弱い仲間達を見て、魔王を倒せるほどの怒りに燃えることが出来たとも言える。
ボブは言ってしまえば、生まれた瞬間から人を殺すことが決まっていた存在だとも言える。
「都合の悪いことは余り語られない。単純に悪者とされず、こんな記録が残っているだけでも、ボブは救われていると言えるのかもしれない」
「レインさんが魔王を倒したことは表の歴史には出ないように、ですか」
「俺はまあ、どうでも良いさ。そういうつもりで言ったわけではないしな」
レインが魔王を倒したことは、彼が生きている間には語られないだろう。彼が一人で魔王を倒してしまう以上、魔王の出現はいたずらに恐怖を煽ってしまうだけ。【次の魔王はレインのところに生まれる】そんな予言がある以上、次の魔王討伐も歴史の闇に飲まれるだろう。
それをレインは気にしてはいなかったが、サニィは少しばかり気にしていた。自分自身、聖女聖女と騒がれるものの、その聖女を育てたのは魔王殺しの英雄レインなのだ。
「うーん、私はやっぱり、なんか、色々と納得できません。どうしようもないですけどっ!」
「俺のことに関してはいつか歴史に乗るだろう。どうせオリヴィアが黙っちゃいないさ」
「まあ、あの娘は、確かに。まあ、それなら、確かに。…………巨大な銅像とか建てそう……」
「ああ、だから気にする必要はない、おっ?」
「どうしました?」
「これ、見てみろ」
レインが指し示した先には、こう書いてある。
『撲殺王ボブ資料館 初代館長 ライム・グリーンウッド』
それは、茶の魔王討伐で、唯一生き残った勇者の名前だった。
残り【1398日→1386日】 次の魔王出現まで【167日】
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