雨の世界の終わりまで

七つ目の子

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第九章:英雄たち

第九十九話:二人の英雄の世間話と

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「かつての魔王を倒した勇者達か。それを少し調べてみるのも面白いのかもしれんな」
「そうですね。とても興味があります。彼らはレインさんの様に魔王と同等に戦えるから挑んだわけではありませんし。……あ、そういえば、レインさんってエリーちゃんの武器にそんな名前を付けて送ってましたよね。まあ、採用されるのは私の名前だと思いますが」
「俺が戦闘狂の様な言い方だな……。俺でも勝てなくとも挑むぞ。強さを持ってしまった以上そこからは逃れられん。と言うかお前はなんでそんな自分の付けた名前に自信があるんだ……」

 二人は南東に向かいながら、そんな話をする。予定としては、これから火山地帯の手前で次の大陸へと向かう予定だった。
 しかし、北の果てに行き二人の勇者の偉業を目の当たりにしたことで、かつての英雄達に興味がわいた。畏敬の念と言っても良いかもしれない。ともかく、魔王が生まれるとされる日までにあと170日程度、半年を切っている。しかし、本日の議題はそこには至らなかった。

「え、だってオリヴィアも可愛いって言ってましたし。王族公認ですよ? 王家の宝剣『ささみ3号』! 天才だって言ってましたよ??」
「それはお前に気を使ってではないのか?」
「いえ、柄の内に『ささみ3号』と銘を入れてましたし」
「……あの王家は次代で終わりだな」

 オリヴィアに褒められて自信を付けてしまったサニィ。きっと、ルークに『フラワー2号』をダサいと言われたことなど忘れているのだろう。

「レインさんだって思いつかないからって英雄の名前付けただけの癖にぃー……」

 そんなことを呟くと、ぷいっとそっぽを向いてしまう。

「まあ、それは確かに認めるが、それでもお前よりは良いと思ってる」
「私だってレインさんに負けてませんしー。独創性は大事ですしー」
「……そういえば、こうなるからエリーに任せようという話になったんだったな」

 結局のところ、その場に二人しかいない以上、どちらも感性で片付いてしまう話は平行線になるのも無理はない。一つだけ言えるのは、既にその手紙を受け取ったエリーが、サニィの付けた名前を意味が分からないと切り捨てていたことが事実だということだけだろう。
 その後しばらく、エリーが好んで使っていた武器は『長剣レイン』と『戦棍ボブ』だったのだが、それはまあ、良いだろう。『長剣レイン』は師の名前を冠している青い刃を持った剣だから、『戦棍ボブ』はエリー曰く女将さんに似てる、と言う理由で好きなことも、まあ置いておこう。

「しかし、エリーの武器はタイミングが良かったな」
「そうですね。緑のドラゴンに、魔王の素材。後は金属系が大変だって言ってましたね」
「全部準宝剣クラスでと頼んだからな」
「代金ってどうなってるんですか?」
「ん? 俺が村にいた間はただ一人の死者も出ていないが?」
「……」
「まあ、残った素材は自由にしてくれと言ってある。元は取れるだろう」

 全部を準宝剣クラスで作れと言う注文自体無茶なものなのだが、宝剣が作れる様な素材の半分以上を手渡されたら鍛冶師の血が騒いでしまう。実際に鍛冶師は、「ま、任せとけよレイン。か、必ず作ってやるぜ」と声を震わせながら言っていた。
 それが両方の意味を持つことは気づいていたものの、嫌がっているわけではないことも、サニィには分かっていた。近くで魔王が生まれたことも、彼らにとっては幸運だろう。

「まあ、鍛冶屋さんも嬉しそうといえば嬉しそうでしたし、良いんですけど」
「あいつは何故か俺のことを怖がる節があってな」
「何かあったんじゃないんですか? きっかけが」
「んー、5年前、デーモンロードの素材が欲しいと言ってたから連れて行った位だな。結局俺一人で倒したんだが、欲しけりゃ一太刀くらい入れてみろと1時間くらい生かしておいたら、あいつにターゲットが向いてな」
「……それじゃないですか」
「でも結局は無傷だしな……」

 そういう問題じゃねえよ……。そう思ってしまうサニィだったが、レインはこういうやつだと諦める。
 とは言え、意外にもレインと他の村人の仲が良い事を見て、サニィはあの時安心していたのも事実だった。何よりあそこの村では強さはステータスの一つ。別格で、何げに優しいレインが嫌われることなどないことも分かってはいたのだったけれど……。

「オリヴィアとエリーちゃん、合流してますかね」
「そろそろだろうさ。オリヴィアも王族な以上ずっと一緒というわけにはいかんだろうが、あいつなら上手いことエリーと競い合ってくれる」
「まあ、オリヴィアは人懐っこいですからね」
「心が読めると言っても、オリヴィアには裏がないからな。その点でも安心だ。裏がないと言う事は読み辛いと言うことでもある。良いトレーニング相手にもなるだろうな」
「でも、ぶっちゃけそこまでは考えてませんでしたよね」
「ああ……」

 オリヴィアを弟子にとったのは、殆どレインのノリだったはずだ。
 あの後、なんとなくそんな展開を思いついてエリーの元に向かわせる様に仕向けた、とそんなところだろう。

「ところで質問なんですが、なんでエリーちゃんの武器は全てがそこまでグレードの高い装備なんですか? やっぱり一番弟子だから可愛いってことですか? 全部に名前を考えてあげてるし」
「ああ、それは簡単だ。エリーは恐らくそれらの武器全てを使う」
「ん? どういうことですか?」
「あいつは全てに秀でている。心が読める。そして女とは言え当時の俺に近い怪力だ。相手によってあらゆる武器を使い分けて戦うんだろうさ」
「へえー。普段から全部背負うってことですか?」
「まあ、見た目も奇妙だし動きに支障が出るだろうから、そんなことにはならないだろうけどな。普段は8つの中で特に得意なものを3つ位携帯するだけだろうさ」

 二人は8年後、奇妙な格好の少女が世界を股にかけて活躍することを、まだ知らない。
 とはいえ流石に二人共多くの強敵と戦ってきただけあり、現状出会った人物の中で、二人の没後最強を競うのは恐らくエリーとオリヴィアだろうと予想できる。ルークとエレナも優秀な能力を持つが、現状の魔法では彼女達二人には叶わない。もう少し、魔法を解明する必要があるのではないかと、そう考えていた。

 そんな話をしながら、二人はかつて魔王を倒した勇者の一人、【撲殺王ボブ】と呼ばれた英雄が生まれた近くの小国を目指して進路を変えた。
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