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第八章:新たな国の霊峰へ
第八十七話:お前には負けない
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準決勝第1試合、ルーク対エレナ。
年齢性別問わず、危険な魔法は禁止されているものの、純粋な魔法勝負のこの試合。たった二人しかいない10歳以下の参加者である二人は、正に破竹の勢いで勝ち進んでいた。
超出力、噂の聖女似の魔法女王の生徒であるルークは前評判通り、圧巻と言った戦いぶりを披露していた。マナの効率を最適化し、相手をあっという間に地に伏せるそれは、天才と言う名前が相応しい。ここまで相手は一切の抵抗の余地無く、負けを認めて来た。
対してエレナは地味な魔法と体捌きで勝ち進んでいる。少しばかり魔法の攻防を繰り返すと、あっという間に相手の懐に入り込み、杖を突きつける。
準決勝の予想は、比べ物にもならない程ルークの圧勝だろう。エレナの魔法では相手にならない。何より、あの子の魔法は大したことがない。
そんな所だった。
そんな予想がされる中、二人の戦いは静かに幕を開ける。
「エレナ、僕は君の想像力を認めている。でも、今の僕はもう今までの僕ではない。勝たせてもらう」
「ルーク君こそ、魔人様に育てられたわたしを甘く見ないでね」
二人は互いにそう声をかけ合うと、魔法を展開した。
先手を取ったのはルークだ。今までの必勝パターン。大容量の水の壁を作り出し、それを防ぐ暇もなく押し流す。水に流されて焦ってしまえば魔法は使えない。
しかし、エレナの得意な魔法は氷だった。
彼女は一瞬表面を凍らせると、素早く横に転がり、その水を見事に回避する。
元々体術に長けているエレナは、レインによってルーク対策を叩き込まれていた。
「ルーク君、後ろ」
「ひっ……」
ルークがエレナの言葉に違和感を感じ、自分の周囲に水壁を展開し、背後を確認した瞬間、それは居た。
圧倒的な威圧感を放つ悪魔。
かつてサニィを貧乳だと言ってしまった時に感じた死の感覚。無慈悲に命をむしり取るだろう、そう。魔人レインの姿が。
「あ、あ……」
水壁によって守られてはいるものの、ルークは戦意を喪失したと言っても過言では無かった。
魔法のみの純粋な戦いでは、エレナはルークに遠く及ばない。よって、ルークと違って効率化された魔法を十分に使えないエレナは、弱点を突くことにした。
もちろんそれはレインの作戦だ。
ルークはレインを本気で怖がっている。レインの圧力を幻術で再現できれば、勝ちの目が見える。
幸いにもエレナはルークとは別の才能を持っていた。ルークも認める想像力、運動神経、そして何よりも、彼女は図太かった。
レインが施した一週間でルークに勝つ為の特訓、その内容は、キレたレインの幻術を再現することと、体術の最適化だった。
その為に、彼女は毎日圧力を解放したレインを見続けていた。
そんな彼女の、色を付けた全力の幻術。
ルークの弱点は少しばかり感情的になり易いこと。パニックに弱いことだった。
ほんの5秒程で、水壁が解けてしまう。
その瞬間、エレナはルークに詰め寄り、杖を突きつけ……ようとした所で、水に流された。
「はあ、はあ。ま、魔人には、負けない。エレナを魔人なんかに……」
そんなことを言うものの、その場にへたり込んでしまうルーク。
対して、エレナは両手を挙げ、「マナ切れです、降参」と宣言した。
「エ……エレナの降参によって、勝者、ルーク」
立っているのは敗者エレナ。
対して、へたり込んでいるのが勝者ルーク。
会場は静かだった。別にその試合のレベルに驚いていたわけではない。
彼らは別のことに囚われていた。
エレナはそんな観衆を置いてそのままルークへと近づくとその手を取り、こう言った。
「やっぱり凄いね、ルー君」
「へ? エレナ?」
「ふふ、わたし、聖女様に妬いちゃって。決勝戦、頑張ってね」
会場に響いたそんな声を聞いている者は、二人しか居なかった。
それ以外の観客は、そんな言葉を全く聞いていなかった。
「……あの、魔人に教えられてたのは?」
「ん? 魔人様も聖女様がルー君に構ってて寂しかっただけみたいだよ。目的の一致?」
「な……なんだそれ……」
そのままばたりと仰向けに倒れこむルークに、未だ放心状態の観客達。
観客達は、レインの幻覚の影響をいまだに受けていた。死を間近に感じた彼らが気がつくには、まだ時間がかかりそうだ。
「えーと、レインさん、あなた子どもですか?」
「まあ、たまには良いじゃないか。エレナも最近ルークがお前に夢中で寂しいって顔をしてたからな。振り向かせるきっかけを作ってやった所だ」
「ふーん。と言うか、ルー君は研究所に守りたい子がいるって言ってたけど、それ、エレナちゃんのことじゃないんですか?」
「ま、あの顔を見る限りはそうだろうな。可愛いものじゃないか」
「……何を言ってるんだか」
結局、レインはルークに、エレナはサニィに妬いて二人で結託し、それを見てサニィとルークも妬いてしまっただけだ。
よくよく考えてみれば、可愛いのはたったの10歳児に妬いてしまうレインの方ではないか。そんな風に思ってしまうサニィだった。
その後、エレナはルークの手を取ったまま、その会場を出て行った。そんな微笑ましい光景を見ていたのは、二人の師だけだったけれど。
――。
決勝戦はルーク対エイミー。
魔法はルークの方が強く、しかし技術はエイミーの方が上。何故かエイミーは死に物狂いと言った顔を しているが、対するルークは冷静だった。
勝負は拮抗していたが、流石は年の功と言った所だろうか。三倍近い時を生きているエイミーが、ルークの隙を突いて見事に優勝した。
……。
彼女が勝った理由は簡単だった。
エイミーは彼氏居ない歴=年齢。死んでも色ボケ小僧には負けるわけには行かなかった。
相手に怪我をさせてはいけないこの大会で、唯一命懸けで戦った彼女が優勝するのも、仕方ないものであった。
もちろんその後のエクストラステージで、何故か発情した彼女はサニィにボコボコにされていたのだけれど。
「大人気ない」
それはいったい誰に最も相応しい言葉だったのだろうか。
年齢性別問わず、危険な魔法は禁止されているものの、純粋な魔法勝負のこの試合。たった二人しかいない10歳以下の参加者である二人は、正に破竹の勢いで勝ち進んでいた。
超出力、噂の聖女似の魔法女王の生徒であるルークは前評判通り、圧巻と言った戦いぶりを披露していた。マナの効率を最適化し、相手をあっという間に地に伏せるそれは、天才と言う名前が相応しい。ここまで相手は一切の抵抗の余地無く、負けを認めて来た。
対してエレナは地味な魔法と体捌きで勝ち進んでいる。少しばかり魔法の攻防を繰り返すと、あっという間に相手の懐に入り込み、杖を突きつける。
準決勝の予想は、比べ物にもならない程ルークの圧勝だろう。エレナの魔法では相手にならない。何より、あの子の魔法は大したことがない。
そんな所だった。
そんな予想がされる中、二人の戦いは静かに幕を開ける。
「エレナ、僕は君の想像力を認めている。でも、今の僕はもう今までの僕ではない。勝たせてもらう」
「ルーク君こそ、魔人様に育てられたわたしを甘く見ないでね」
二人は互いにそう声をかけ合うと、魔法を展開した。
先手を取ったのはルークだ。今までの必勝パターン。大容量の水の壁を作り出し、それを防ぐ暇もなく押し流す。水に流されて焦ってしまえば魔法は使えない。
しかし、エレナの得意な魔法は氷だった。
彼女は一瞬表面を凍らせると、素早く横に転がり、その水を見事に回避する。
元々体術に長けているエレナは、レインによってルーク対策を叩き込まれていた。
「ルーク君、後ろ」
「ひっ……」
ルークがエレナの言葉に違和感を感じ、自分の周囲に水壁を展開し、背後を確認した瞬間、それは居た。
圧倒的な威圧感を放つ悪魔。
かつてサニィを貧乳だと言ってしまった時に感じた死の感覚。無慈悲に命をむしり取るだろう、そう。魔人レインの姿が。
「あ、あ……」
水壁によって守られてはいるものの、ルークは戦意を喪失したと言っても過言では無かった。
魔法のみの純粋な戦いでは、エレナはルークに遠く及ばない。よって、ルークと違って効率化された魔法を十分に使えないエレナは、弱点を突くことにした。
もちろんそれはレインの作戦だ。
ルークはレインを本気で怖がっている。レインの圧力を幻術で再現できれば、勝ちの目が見える。
幸いにもエレナはルークとは別の才能を持っていた。ルークも認める想像力、運動神経、そして何よりも、彼女は図太かった。
レインが施した一週間でルークに勝つ為の特訓、その内容は、キレたレインの幻術を再現することと、体術の最適化だった。
その為に、彼女は毎日圧力を解放したレインを見続けていた。
そんな彼女の、色を付けた全力の幻術。
ルークの弱点は少しばかり感情的になり易いこと。パニックに弱いことだった。
ほんの5秒程で、水壁が解けてしまう。
その瞬間、エレナはルークに詰め寄り、杖を突きつけ……ようとした所で、水に流された。
「はあ、はあ。ま、魔人には、負けない。エレナを魔人なんかに……」
そんなことを言うものの、その場にへたり込んでしまうルーク。
対して、エレナは両手を挙げ、「マナ切れです、降参」と宣言した。
「エ……エレナの降参によって、勝者、ルーク」
立っているのは敗者エレナ。
対して、へたり込んでいるのが勝者ルーク。
会場は静かだった。別にその試合のレベルに驚いていたわけではない。
彼らは別のことに囚われていた。
エレナはそんな観衆を置いてそのままルークへと近づくとその手を取り、こう言った。
「やっぱり凄いね、ルー君」
「へ? エレナ?」
「ふふ、わたし、聖女様に妬いちゃって。決勝戦、頑張ってね」
会場に響いたそんな声を聞いている者は、二人しか居なかった。
それ以外の観客は、そんな言葉を全く聞いていなかった。
「……あの、魔人に教えられてたのは?」
「ん? 魔人様も聖女様がルー君に構ってて寂しかっただけみたいだよ。目的の一致?」
「な……なんだそれ……」
そのままばたりと仰向けに倒れこむルークに、未だ放心状態の観客達。
観客達は、レインの幻覚の影響をいまだに受けていた。死を間近に感じた彼らが気がつくには、まだ時間がかかりそうだ。
「えーと、レインさん、あなた子どもですか?」
「まあ、たまには良いじゃないか。エレナも最近ルークがお前に夢中で寂しいって顔をしてたからな。振り向かせるきっかけを作ってやった所だ」
「ふーん。と言うか、ルー君は研究所に守りたい子がいるって言ってたけど、それ、エレナちゃんのことじゃないんですか?」
「ま、あの顔を見る限りはそうだろうな。可愛いものじゃないか」
「……何を言ってるんだか」
結局、レインはルークに、エレナはサニィに妬いて二人で結託し、それを見てサニィとルークも妬いてしまっただけだ。
よくよく考えてみれば、可愛いのはたったの10歳児に妬いてしまうレインの方ではないか。そんな風に思ってしまうサニィだった。
その後、エレナはルークの手を取ったまま、その会場を出て行った。そんな微笑ましい光景を見ていたのは、二人の師だけだったけれど。
――。
決勝戦はルーク対エイミー。
魔法はルークの方が強く、しかし技術はエイミーの方が上。何故かエイミーは死に物狂いと言った顔を しているが、対するルークは冷静だった。
勝負は拮抗していたが、流石は年の功と言った所だろうか。三倍近い時を生きているエイミーが、ルークの隙を突いて見事に優勝した。
……。
彼女が勝った理由は簡単だった。
エイミーは彼氏居ない歴=年齢。死んでも色ボケ小僧には負けるわけには行かなかった。
相手に怪我をさせてはいけないこの大会で、唯一命懸けで戦った彼女が優勝するのも、仕方ないものであった。
もちろんその後のエクストラステージで、何故か発情した彼女はサニィにボコボコにされていたのだけれど。
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