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第七章:グレーズ王国の魔物事情と
第六十六話:傍若無人の勇者は何をしたか
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翌日、今度は会議室の様な所に集められたレイン達。その場には昨日謁見の間で出会った者達が集まっていた。
グレーズ王、サニィに視線を送る王妃、目の赤い王女、そしてディエゴ。
二人が席に着くと、早速と王が話し始める。
「あー、オリヴィアの目が赤いのはどういう事だ?」
今回の本題は占い、予言の結果なはずだ。しかし王も娘が可愛いのだろう。その声は真剣だった。
「俺が泣かせた。さて、――」
「おい待て、お前が泣かせただと? 何があった?」
「ボコボコにしてやったんだ。よげ――」
「待て貴様、何を言っているのか分かっているのか?」
「昨日はイライラしていてな、そこにちょうど良いサンドバッグが来たものだから当たっただけだ」
(あ、これはヤバいやつだ。レインさん、心配するのは別の方向だったのか……)
険悪な王とレインに対して、サニィは今更ながら心配の方向が間違っていたことに気づく。王女はまだ何も言わない。
レインがそんなことをするとは思えないが、王女が何も言わない以上はレインの言ったことが真実だ。
「待て待てお前達。レイン、何があったのかは知らんが王の前でそんなことを言って特は無いぞ。ピーテルも落ち着け。レインがそんなことをすることはない」
助け船を出したのはディエゴだった。かつての同期、友人を宥めるその姿は相変わらずの苦労人。
お疲れ様。そうサニィが思ったところで、遂に王女が口を開いた。
「……。あんなことをされて、レイン様には責任を取ってもらわなければなりません」
ああ、またややこしいことになってきた。
サニィは遂にレインが王女に振り向くかもなどと言う心配を捨てた。
ディエゴも最早呆れ返っている。
「……。何があった。言ってみろ」
「実は昨夜……」
王の問いに、王女が答える。
「レイン様のお部屋にお邪魔したのです。すると、レイン様は何かに悩んでおられるご様子でした。なのでわたくしは何かお力になれないものかとお話しを聞いていたのですが、レイン様のお悩みは強さについてでした。
自分も強くならなければならないがサニィさんも強くならなければならない。そんな内容でした。
なので、わたくしご提案したのです。今からひと試合してみませんかと」
「なるほど。お前はもう俺よりも強い。サニィ君を含めてもお前より強い女は居ないだろうな。戦士たる者、強い者と戦えば気も紛れよう。それで?」
「話にならないと言われました……。わたくしではサニィさんに遠く及ばないと……」
王とディエゴに剣術の指導を受けているとは聞いて居たが、王よりも強くなっているとはとてもサニィには思い浮かんではいなかった。
とは言え、サニィに遠く及ばない、そんなことをレインが言ったと聞けて少し嬉しいと思ってしまう。
「わたくし、レイン様に並ぶ為に頑張って修行をして参りました。なので、せめて少しでもとお願いしたのです。ディエゴには勝てませんけど、強い自信はありました」
(レインに並ぶ為に必死に、それは私と同じだ。この娘も、努力してきたんだ。私よりも先に)
「でも、その、いざ構えて対峙すると、何が起こったのかも分からない間に組み伏せられておりました……。そして、レイン様はやはりダメだと……。うっ、ひぐっ」
……。
ディエゴとサニィには、その時の光景がありありと目に浮かんだ。レインを前にして、1秒と立っていられる人間は居ない。
ディエゴには追いつけないけれど王よりは強い。それは本当に途轍もない努力をしたのだろう。しかし、それが一瞬で崩された。
その時の虚無感は、確かに。
「なるほど、事情は飲み込めた、が、さてレイン。そんなにオリヴィアは駄目か? こんなにも美しく強い女は他に居ない。俺も最早勝てず、ディエゴにも迫る勢いだ。お前が王となる時、隣に居るのにこれ以上の適任は居ない。なんなら、……そうだな、サニィ君を側室にしても良い」
「なるほど。そう言うことならば、オリヴィア、サニィに勝ってみせろ。サニィに勝てるのならば王になってやろう」
どっちが王だよ!
そんなツッコミを入れたいのを堪えてから、サニィは今二人が言ったことを思い出す。
サニィを側室にしても良い? 妾ってことだよね、そして、その後、オリヴィア、サニィに勝ってみせろ? は?
何言ってるんだろうこの二人は。
そんな風に混乱している内に、オリヴィアはサニィを睨みつけて宣言した。
「サニィさんに決闘を申し込みます。わたくしが負ければ身を引きましょう。でも、わたくしが勝てば、レイン様の妻となるのはこのわたくしです!」
「……えっ? あの、えっ?」
いつの間にかレインを賭けた女の闘いの構図が出来上がっている。
私はそんなつもりは……。
などと思った所で、やはりと思い直す。レインが王女の妻になってしまったら自分は側室? 二番目ってこと? いや、捨てられるって可能性も。
それは、絶対に嫌だった。
ここまで一緒に旅をしてきて、レインのおかげで強くなって、レインに命を救われて、まだ、何も返せていない。
何より、レインの隣に居るのは、私が良い。
「……はい。お受け致します」
いつの間にかレインを賭けた女の闘いと言う構図に、自ら覚悟を決めて参戦してしまったサニィは、呪いで残りの命が少ないことすら忘れて闘いの準備を始めるのだった。
本題である占いの結果など、目の前のそれに比べれば些細なことであった。
グレーズ王、サニィに視線を送る王妃、目の赤い王女、そしてディエゴ。
二人が席に着くと、早速と王が話し始める。
「あー、オリヴィアの目が赤いのはどういう事だ?」
今回の本題は占い、予言の結果なはずだ。しかし王も娘が可愛いのだろう。その声は真剣だった。
「俺が泣かせた。さて、――」
「おい待て、お前が泣かせただと? 何があった?」
「ボコボコにしてやったんだ。よげ――」
「待て貴様、何を言っているのか分かっているのか?」
「昨日はイライラしていてな、そこにちょうど良いサンドバッグが来たものだから当たっただけだ」
(あ、これはヤバいやつだ。レインさん、心配するのは別の方向だったのか……)
険悪な王とレインに対して、サニィは今更ながら心配の方向が間違っていたことに気づく。王女はまだ何も言わない。
レインがそんなことをするとは思えないが、王女が何も言わない以上はレインの言ったことが真実だ。
「待て待てお前達。レイン、何があったのかは知らんが王の前でそんなことを言って特は無いぞ。ピーテルも落ち着け。レインがそんなことをすることはない」
助け船を出したのはディエゴだった。かつての同期、友人を宥めるその姿は相変わらずの苦労人。
お疲れ様。そうサニィが思ったところで、遂に王女が口を開いた。
「……。あんなことをされて、レイン様には責任を取ってもらわなければなりません」
ああ、またややこしいことになってきた。
サニィは遂にレインが王女に振り向くかもなどと言う心配を捨てた。
ディエゴも最早呆れ返っている。
「……。何があった。言ってみろ」
「実は昨夜……」
王の問いに、王女が答える。
「レイン様のお部屋にお邪魔したのです。すると、レイン様は何かに悩んでおられるご様子でした。なのでわたくしは何かお力になれないものかとお話しを聞いていたのですが、レイン様のお悩みは強さについてでした。
自分も強くならなければならないがサニィさんも強くならなければならない。そんな内容でした。
なので、わたくしご提案したのです。今からひと試合してみませんかと」
「なるほど。お前はもう俺よりも強い。サニィ君を含めてもお前より強い女は居ないだろうな。戦士たる者、強い者と戦えば気も紛れよう。それで?」
「話にならないと言われました……。わたくしではサニィさんに遠く及ばないと……」
王とディエゴに剣術の指導を受けているとは聞いて居たが、王よりも強くなっているとはとてもサニィには思い浮かんではいなかった。
とは言え、サニィに遠く及ばない、そんなことをレインが言ったと聞けて少し嬉しいと思ってしまう。
「わたくし、レイン様に並ぶ為に頑張って修行をして参りました。なので、せめて少しでもとお願いしたのです。ディエゴには勝てませんけど、強い自信はありました」
(レインに並ぶ為に必死に、それは私と同じだ。この娘も、努力してきたんだ。私よりも先に)
「でも、その、いざ構えて対峙すると、何が起こったのかも分からない間に組み伏せられておりました……。そして、レイン様はやはりダメだと……。うっ、ひぐっ」
……。
ディエゴとサニィには、その時の光景がありありと目に浮かんだ。レインを前にして、1秒と立っていられる人間は居ない。
ディエゴには追いつけないけれど王よりは強い。それは本当に途轍もない努力をしたのだろう。しかし、それが一瞬で崩された。
その時の虚無感は、確かに。
「なるほど、事情は飲み込めた、が、さてレイン。そんなにオリヴィアは駄目か? こんなにも美しく強い女は他に居ない。俺も最早勝てず、ディエゴにも迫る勢いだ。お前が王となる時、隣に居るのにこれ以上の適任は居ない。なんなら、……そうだな、サニィ君を側室にしても良い」
「なるほど。そう言うことならば、オリヴィア、サニィに勝ってみせろ。サニィに勝てるのならば王になってやろう」
どっちが王だよ!
そんなツッコミを入れたいのを堪えてから、サニィは今二人が言ったことを思い出す。
サニィを側室にしても良い? 妾ってことだよね、そして、その後、オリヴィア、サニィに勝ってみせろ? は?
何言ってるんだろうこの二人は。
そんな風に混乱している内に、オリヴィアはサニィを睨みつけて宣言した。
「サニィさんに決闘を申し込みます。わたくしが負ければ身を引きましょう。でも、わたくしが勝てば、レイン様の妻となるのはこのわたくしです!」
「……えっ? あの、えっ?」
いつの間にかレインを賭けた女の闘いの構図が出来上がっている。
私はそんなつもりは……。
などと思った所で、やはりと思い直す。レインが王女の妻になってしまったら自分は側室? 二番目ってこと? いや、捨てられるって可能性も。
それは、絶対に嫌だった。
ここまで一緒に旅をしてきて、レインのおかげで強くなって、レインに命を救われて、まだ、何も返せていない。
何より、レインの隣に居るのは、私が良い。
「……はい。お受け致します」
いつの間にかレインを賭けた女の闘いと言う構図に、自ら覚悟を決めて参戦してしまったサニィは、呪いで残りの命が少ないことすら忘れて闘いの準備を始めるのだった。
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