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第七章:グレーズ王国の魔物事情と
第六十二話:生まれるはずのない勇者と
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「一つの仮説を立てました。私の感覚と魔王の発言を元に」
レインが三度も死ぬ敵を相手に、一番冷静だったのはサニィだった。
ディエゴを含む騎士団は相手の余りの強大さ故に、一度は奮起した精神も折れかけていた。自分達が入る余地すらない。あれはそんな戦闘だった。魔王一人倒すのに100人の勇者が死ぬわけではない。魔王と一戦交える毎に100人の勇者が死ぬ。
それは間違いなく自分達だ。
そんなことを思っていた。
かつての勇者達がどのようにして魔王を倒したのか。分かっていたつもりではあった。
かつての文献には5人でドラゴンを倒せる様なパーティが3組以上組んで倒すもの。そのうち5人が生き残れば大勝利。それが魔王だと記されていた。
しかし、百聞は一見に如かず。
目の前に現れたそれは、自分達を狙っていないにも関わらず【死】そのものだった。
その目には、レインが三度死んだことすら映っていない。ただ、【死】が踊り狂っていた。そう見えた。
もちろんそれは死に対する恐怖が増大しているサニィも例外ではない。
ただ、サニィには許せなかった。
レインがボロボロになっているのを見ることを。
自分がかつて受けた死の恐怖を、レインが受けていることを。
その結果、サニィの頭は冴えていた。
「魔物は陰のマナが物質化したものだと思います。陽のマナが魔法という超常現象を生み出すように、陰のマナもまた超常的な現象を引き起こすのではないかと。
世界によりありふれている陽のマナの方は勇者や魔法使いが生まれる原因で、魔法使い自身も消費します。陰のマナは魔法には使えないので、それが魔物になってしまうのでは」
「ドラゴンが使う魔法や俺はどうなるんだ? 陰と陽が混ざっているのか?」
「いえ、魔物は実体化しているので普通に陽のマナで魔法を使えるのだと思います。
レインさんはなんと言うか、両方が体内にあるんですよね。一度試してみたんですけど、陰のマナと陽のマナを綺麗に混ぜると消えます。中和されるというか。
でも、レインさんの体内には両方がある。その理由は分かりませんけど、それがレインさんが生きていてはいけないと言われた理由かと」
「大気中には両方が混ざり合うことなく混在しているということか」
「そういうことです。でも、死の山は陰の濃度がとても高い。その結果、強力な魔物が多く生まれるのではないかと思います。そして狛の村の人々はその濃い濃度の陰のマナを取り込んでいるから強い。勇者は超常的な力を持ちますけど、狛の村の人々は勇者よりも突出した一部の身体能力ですもんね。それは魔物に近い能力を持ってくると言うことではないのかと。
でも、基本的には体内で綺麗に混ざると中和されちゃうので、狛の村には勇者や魔法使いは生まれません。
とまあ、ここまでが私の仮説です」
「狛の村に伝わる宝剣が、”いつか生まれる勇者”に託されるという理由もそれか……」
「もしかしたら壊れない以外の特殊な力もあるかもしれませんね。ふふ」
そんなサニィに釣られ、レインもいつの間にか冷静になっていた。
勇者などありふれた存在であるのに、狛の村に伝わる宝剣は一度も使われていなかった。
それはサニィの仮説によってより意味を持つ。
別にその宝剣は、魔王を倒す為に造られたという伝承はない。あくまで、いつか生まれるとされる勇者に託す為に代々受け継がれたということを思い出す。
「なるほど、魔王は生きていてはいけないと言う。しかし、伝承は俺に宝剣を託す。そして、サニィ……か」
なにやら納得したようなレインに対して、今度はサニィが小首をかしげクエスチョンマークを浮かべる。何故そこで自分の名前が出てくるのか分からない。そんな表情。
「なんでもないさ。ともかく俺もお前も、更に強くならなければならない。今のところはそれだけだな」
「そうですね。また魔王は生まれるって言ってましたし、次は私も一緒に戦えないと。今じゃ不可能だし……」
サニィは両手で小さく両の拳を握り込む。
悔しかった。
レインが死ぬ目に遭っていたのに。見ていることすらできなかったことが。
視界には入っていたが、捉えることすら出来ていなかったことが。
レインが何度も致命傷を受けていたことを知りもしなかったことが。
目の前で膝をつくレインを見たことが。
勝ったとか負けたとか、そういう問題ではない。
自分が何も出来なかったことが、何より。
「よし、その為にもお前の力を明かそう。目星はついている」
「は、はい」
結果として、サニィは魔法使いではなかった。
大きな分類としては同じ勇者ではあるのだが、その能力は正確には魔法使いではない。
とは言え同じ現象を殆ど同じ原理で引き起こす技術と言う点で、彼女は魔法の発展に大きく貢献することになる。
レインが三度も死ぬ敵を相手に、一番冷静だったのはサニィだった。
ディエゴを含む騎士団は相手の余りの強大さ故に、一度は奮起した精神も折れかけていた。自分達が入る余地すらない。あれはそんな戦闘だった。魔王一人倒すのに100人の勇者が死ぬわけではない。魔王と一戦交える毎に100人の勇者が死ぬ。
それは間違いなく自分達だ。
そんなことを思っていた。
かつての勇者達がどのようにして魔王を倒したのか。分かっていたつもりではあった。
かつての文献には5人でドラゴンを倒せる様なパーティが3組以上組んで倒すもの。そのうち5人が生き残れば大勝利。それが魔王だと記されていた。
しかし、百聞は一見に如かず。
目の前に現れたそれは、自分達を狙っていないにも関わらず【死】そのものだった。
その目には、レインが三度死んだことすら映っていない。ただ、【死】が踊り狂っていた。そう見えた。
もちろんそれは死に対する恐怖が増大しているサニィも例外ではない。
ただ、サニィには許せなかった。
レインがボロボロになっているのを見ることを。
自分がかつて受けた死の恐怖を、レインが受けていることを。
その結果、サニィの頭は冴えていた。
「魔物は陰のマナが物質化したものだと思います。陽のマナが魔法という超常現象を生み出すように、陰のマナもまた超常的な現象を引き起こすのではないかと。
世界によりありふれている陽のマナの方は勇者や魔法使いが生まれる原因で、魔法使い自身も消費します。陰のマナは魔法には使えないので、それが魔物になってしまうのでは」
「ドラゴンが使う魔法や俺はどうなるんだ? 陰と陽が混ざっているのか?」
「いえ、魔物は実体化しているので普通に陽のマナで魔法を使えるのだと思います。
レインさんはなんと言うか、両方が体内にあるんですよね。一度試してみたんですけど、陰のマナと陽のマナを綺麗に混ぜると消えます。中和されるというか。
でも、レインさんの体内には両方がある。その理由は分かりませんけど、それがレインさんが生きていてはいけないと言われた理由かと」
「大気中には両方が混ざり合うことなく混在しているということか」
「そういうことです。でも、死の山は陰の濃度がとても高い。その結果、強力な魔物が多く生まれるのではないかと思います。そして狛の村の人々はその濃い濃度の陰のマナを取り込んでいるから強い。勇者は超常的な力を持ちますけど、狛の村の人々は勇者よりも突出した一部の身体能力ですもんね。それは魔物に近い能力を持ってくると言うことではないのかと。
でも、基本的には体内で綺麗に混ざると中和されちゃうので、狛の村には勇者や魔法使いは生まれません。
とまあ、ここまでが私の仮説です」
「狛の村に伝わる宝剣が、”いつか生まれる勇者”に託されるという理由もそれか……」
「もしかしたら壊れない以外の特殊な力もあるかもしれませんね。ふふ」
そんなサニィに釣られ、レインもいつの間にか冷静になっていた。
勇者などありふれた存在であるのに、狛の村に伝わる宝剣は一度も使われていなかった。
それはサニィの仮説によってより意味を持つ。
別にその宝剣は、魔王を倒す為に造られたという伝承はない。あくまで、いつか生まれるとされる勇者に託す為に代々受け継がれたということを思い出す。
「なるほど、魔王は生きていてはいけないと言う。しかし、伝承は俺に宝剣を託す。そして、サニィ……か」
なにやら納得したようなレインに対して、今度はサニィが小首をかしげクエスチョンマークを浮かべる。何故そこで自分の名前が出てくるのか分からない。そんな表情。
「なんでもないさ。ともかく俺もお前も、更に強くならなければならない。今のところはそれだけだな」
「そうですね。また魔王は生まれるって言ってましたし、次は私も一緒に戦えないと。今じゃ不可能だし……」
サニィは両手で小さく両の拳を握り込む。
悔しかった。
レインが死ぬ目に遭っていたのに。見ていることすらできなかったことが。
視界には入っていたが、捉えることすら出来ていなかったことが。
レインが何度も致命傷を受けていたことを知りもしなかったことが。
目の前で膝をつくレインを見たことが。
勝ったとか負けたとか、そういう問題ではない。
自分が何も出来なかったことが、何より。
「よし、その為にもお前の力を明かそう。目星はついている」
「は、はい」
結果として、サニィは魔法使いではなかった。
大きな分類としては同じ勇者ではあるのだが、その能力は正確には魔法使いではない。
とは言え同じ現象を殆ど同じ原理で引き起こす技術と言う点で、彼女は魔法の発展に大きく貢献することになる。
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