雨の世界の終わりまで

七つ目の子

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第七章:グレーズ王国の魔物事情と

第六十話:世界を満たすもの

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 突然だが、魔物は無から生まれる。その発生メカニズムは一切解明されておらず、見つけたら即座に潰す。それが魔物を相手取る騎士達や冒険者の使命。全滅させたと思っても、時が経てば再び復活する。
 そう思われていた。

 「なんだか死の山ここ、嫌な感じがしますね」
 「嫌な感じ?」
 「はい。何か……、なんですかね」
 「俺には全く分からないな。どうだ、マイケル?」
 「私にも分からないな」
 「えーと、うーん」

 しばしサニィは悩む。
 いつも感じている感覚にも近い。しかし、それよりも嫌な感じ。
 ドラゴンの迫力に近いけれど、そこまでの圧力ではない。
 そんなことを呟く。

 デーモンロードはまだ生まれてはいない様だが、それ単体ではなく山全体から感じる感覚。
 魔法を使う時の感触にも似ているが、それは……。

 「あ、分かりました。レインさんから感じるものとこの山、似てます。ついでに魔物全体から感じるものとレインさんも似てます」
 「ん? 俺は魔物だと言うことか?」
 「いいえ、違います。全然分かりません」
 「なんだそれは……」
 「でも、最近魔物が怖くない理由の一つにレインさんがあることも事実です。その理由が分かりませんけど」
 「考えてみろ」「はい」

 その理由を考えるサニィをレインは見つめる。
 考え込む中で生じる隙を見つける為だ。何が理由なのか、分かるかもしれない。
 戦闘を続ける騎士達を気にかけながらではある。
 しかし、それは重要なことだと思えた。レインと死の山と魔物に共通点がある。しかし、それは同じではない。何かしらが違う。そう感じていることが見える。

 「うーん、ここの、マナ? レインさんの中の、魔物の、似てる気が」
 「俺の中にマナは無いんじゃないか? 魔法なんぞ一切使えないが」
 「そうですね、中と言うよりも、体に……あれ?」

 そこまで言ったところで、一つ気になる点が出来る。
 マナは世界に充満している。そう考えられている理由はとても単純な理由だった。魔法を使っていくと、空になった体内のマナタンクの中にマナが流れ込んでくる感覚を覚える。マナタンクという物自体が魔法使いにしか感じることが出来ない機関なので、それを証明することは出来ないが、魔法使いは皆一様にその感覚を覚える。同様に魔法を使うときには、それを放出する感覚を覚える。
 だから、世界にはマナが満ちている。そう考えられていたのだ。
 世界に満ちているマナを直接感じ取ることは、どんな魔法使いにすら出来ない。
 そのはず、だった。
 しかしここに来て、その嫌な感覚と言うものは、魔法を使う時のマナの感覚にとても似ていることに気づく。
 いいや、正確には、真逆。

 「え、と、この感覚、言ってみるなら負のマナ?」
 「負のマナ?」
 「普段私たちが使っているマナが正のマナと言うのなら、この山には負のマナが充満してる感じがします。ここにも少ないですが正のマナはあるので魔法は使えますけど」
 「ほう、それが俺や魔物と関係があるのか?」
 「……そんな感じがするだけですが」
 「なるほど。まあ、今回ばかりは守るから考えておいてくれ」
 「はい。では取り敢えず狛の村に向かいましょう」

 ――。

 魔物の発生メカニズムは未だに解明されていない。
 勇者が生まれる理由も、何故狛の村の人間達が皆人外の強さを持つのかも。
 しかし、その理由はとてもシンプルなものだった。

 「おおー。ここがレインさんの出身地ですかー!」
 「ああ、色々と渡り歩いて、最終的にはここで生まれたらしい」

 入口でそんな会話をしていると、気付いた村人が歩いてくる。20歳程度の好青年だ。
 「おー、勇者レイン! お、その隣は誰だ?」
 そんな風に手を振りながら。

 「おう。お前は……、久しぶりだな。こいつはサニィ。俺と共に死ぬ者だ」
 「おま、やっぱり俺の名前覚えてないのか……。まあ良いや。その子は要するに嫁ということか」
 「そんな感じだ」「そんな感じじゃないですう! あ、初めまして。サニィと言います」

 そんな挨拶をしていると、わらわらと村人が集まってくる。
 狩りに出ている者を除いて50名程だろうか。殆ど全ての者が来ているのだと分かる。

 「なんじゃお前は、こんな早くに戻ってきて。あんな手紙を渡しよってからに」

 遅れてそんなことを言いながら、一人の老人が歩いてくる。
 その髪と髭は殆ど白だが、少しだけ青が混ざっているのだろうか、それがレインの祖父であるとすぐに理解できる。

 「おうジジイ。帰ってきたぞ。もう一度孫の顔が見られるんだ。感謝しろよ」
 「相変わらず可愛くない孫だなお前は。女だの弟子だの、死ぬと分かった途端にひよったか。化物の癖に」
 「ジジイこそ4ヶ月前よりも腰が曲がったんじゃねえのか? まさか狛の村の長老ともあろうお方が怠けてるんじゃないだろうな?」

 新人を除いた騎士団員達は二人のやり取りに呆れている。相変わらず仲が良いのか悪いのか分からないやり取りだ。きっと仲は良いのだろう。互いに唯一の家族だ。
 しかし、二人のそんなやりとりを気にもせず、サニィは一つのことに集中していた。
 村人達が集まってきて、初めて気付いた。
 彼らは勇者の逆、どちらかと言えば魔物に近い存在であると言うことに。
 ただ、彼らは魔物ではなく人間だ。
 狛の村の人間は皆人外、よく言ったものである。
 そんなことを思っていた。

 ――。

 その日の夜、レインの家に招待されたサニィは二人になったところ、レインに告げる。

 「分かりました。狛の村の人達は体内に負のマナが同化しています。その理屈で言えば、勇者である騎士団の皆さんは正のマナが同化しています。正のマナというもの自体がありふれているので、今までは全く気が付きませんでしたけど」
 「負のマナってのを体で感じ取ったからこそ正のマナを感じ取れたわけか」
 「そういうことだと思います。ここはとてもその負のマナの濃度が濃いんです」

 そこまで聞けば、思い当たる節はいくつもある。
 狛の村に生まれると言うだけで人外の強さを持つ。その理由は負のマナが充満しているこの土地で、胎児である時期から成長していくうちにそれを取り込んでしまうのだろう。
 勇者が生まれる理由も同様だろうか。魔法使いも、それ自体が勇者の一つの形態であるのだと考えれば、負のマナが充満している狛の村で魔法使いが生まれないことも納得できる。

 「ところで、それなら俺は何故勇者なんだ?」
 「え? レインさんは普通に正のマナと負のマナ両方持ってますけど……
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