雨の世界の終わりまで

七つ目の子

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第二章:美少女魔法使いを育てる

第六話:言霊によって導く

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 辿りついた町は、荒れ果てていた。
 予想通りだったし、覚悟はしていたものの、サニィの記憶にあった町とのギャップにはやはりとても堪えるものがある。辛うじて彼女に救いがあるとすれば、それはただの一体も遺体が無いことだろうか。
 あらゆる所に血糊はあるものの、それを見ずに済むことは彼女の心の平穏に少しばかり寄与していた。

「大丈夫か?」やはりと言うべきか、顔色の悪いサニィをレインは心配する。
「はい。覚悟はしてましたから」

 少しばかりの強がりも混ざってはいるが、今自分がすべきことは悲しむことだけではない。
 そして戻ってきた理由は、それではない。サニィのすべきことは死者を弔うこと。悲しむことは、あくまでその一環だ。

 この町に建っている家は500件程。サニィはその一件一件を周ると、左手に杖を、右手を顔の前に片合掌、死者の平穏を願う。
 どうか天国で安らかに過ごしてください。一人一人の名前を浮かべながら、そう唱えるサニィに倣い、レインも追従する。そしてそれは、自身の家であっても例外ではない。

 丸一日をかけ全ての家を周ると、サニィは「終わりました」とだけ口にして、町を出る。
 この国では魂は基本的に死後、家に帰ってくると考えられている。その後家族が願い、言霊で導くことによって天国に行くとされている。そしてその時、魔法使いが立ち会うのが通常である。魂という目に見えないものは、魔法使いという超常の事象を起こす存在が居ることでより強力になった言霊に導かれる。そう考えられているからだ。
 魔法使いとして何度かこの形式の葬式に立ち会ったサニィは、簡単ではあるがこれを全ての家で行い、弔ったというわけである。

「全ての住人の名前、覚えていたんだな」
「あはは。2000人も居ませんから。私、みんなに可愛がってもらってたし」
「俺は70人程度の村人の名前も曖昧だ……」
「それは酷いです!」

 歩きながら適当なことを言うレインにぷんすかと怒り出すサニィ。
 レイン自身はサニィが2000人の名前を全て覚えていたことに素直に感心していたのだが、そんなことは当然であるサニィには上手く伝わっていない。そのまま説教を開始するサニィは、レインの意図とは全く別の方向で少しばかり元気を取り戻していった。

 ――。

 その日、町から程近い森の中で再びキャンプを開始すると、レインは真面目な顔で口を開く。

「オーガのアジトには大量の遺体があった。一応簡易的な礼葬はしておいたが、お前が今日したことで彼らも救われただろう」
「うん、そうだと良いです。レインさんもありがとう」

 3時間にも及ぶ説教によって微妙に口調が砕けてきたサニィは、レインのした火葬、そして共に葬儀をしてくれたことに素直に感謝の意を述べる。
 レインの村では葬儀は行わない。『死の山』で死んだ者は自然の成り行きである。遺体は燃やして終わりだ。
 それを噂として知っているサニィは、レインがそんなことをしてくれるとは思っていなかった。

「だから意外でした。『死の山』出身だって言ってたから」
「世界を巡るつもりなんだ。郷に入っては郷に従え。実はうちの村にはそんな諺がある」
「おお、それはまた。レインさんは我が道を行く、と思っていました。そういえば勇者を輩出する村ですものね。でももし――」
「我が道を行ける時には遠慮なく行くけどな。だから俺は今日、お前を抱く」
「えぇぇええええ……」

 墓穴を掘った。
 そう思いながらもひっくり返ってしまう。サニィには当然、そんな覚悟は無かった。
 それどころか、まだレインと一緒に旅をするかも迷っている。つもりだ。
 それが言いたいことを遮られた上でそんな変なことを言われた。
 今日抱かれる? 人外に襲われる? 男は狼だから気をつけろってお父さんはいつも言っていたけど、こう言う事!? というか抱かれるって具体的にはなにするの?
 それが子どもを作る行為だということは知っている。裸になることも知っている。しかし、具体的なことはなにも知らない。
 ってか、裸にさせられるの!!!? 出会って二日目のイケメンに!?

「い、いや、あの、まだ……あの」
「冗談だ。やはりかわ――」
「雷……」

 直後、バリィィィンという豪音と共に、レインに巨大な雷が落ちる。
 これをオーガ相手に出来ていたなら、サニィが連れ去られることは無かっただろう。それほどの威力。
 しかし、落雷に遭った男はピンピンしていた。露出している顔や腕に木の根の様な火傷ができているが、それもやがて引いていく。

「すまんすまん。しかしとんでもない威力だな」

 レインは何事も無かったかのようにそう告げると、サニィの魔法の威力を褒め始める。

「もう! バカ! 今のが私の過去最高の威力です!」
「明確な殺意を感じたからな。なるほど。才能は抜群だ」

 魔法は正確に事象を思い浮かべること。そしてそれに応じたマナを触媒とすること。
 今、サニィは完全にレインを殺そうとした。雷によって黒焦げになるイメージをしていた。
 通常の魔法使いであればそんな一撃を出せるほどのマナを持っていないだろう。
 しかし、サニィは事も無げにそんな魔法を行使した。

「でも、オーガには勝てませんでした」
「実践経験が無いからな。だが大丈夫だ。俺と一緒に居るうちに必ず強くなる。何度でも実験台になってやろう」

 そう言ってニィっと笑うレインに、サニィは頬が熱くなるのを感じる。
 この男は私で遊んでいる。でも、自分の身を使って魔法の相手になってくれるなんて……。
 それに見た目も悪くないし、何か落ち着くし、少し……いや、楽しいは流石に勘違いだ。
 新しい体験に気が緩んでしまっているだけだ。

 しかし、なんとなくではあるけれど、感謝している。
 この人が冗談を言ってくれなければ、きっと……。
 もし私がもっと病に罹ることが早かったらそもそもオーガに町が襲われることすら無かっただろうなんて、考えていた。幸せになってしまう病によって、みんな平和に。そんなことを、考えていただろう。
 過去はもう戻らないのに、囚われてしまうところだった。
 そう言う意味では、感謝している。

「でも、私、レインさん嫌いです!」
「そうか。俺は好きだ。絶対に逃がさん」

 膨れながら言ってみるものの、全く動じない上に強烈な反撃をしてくるレインに、ふてくされたふりをしてサニィは寝袋に潜り込む。
 本当はあまり嫌な気はしない。
 でも、これはこれで少しばかり楽しいかも。
 そんなことを思いながら、また一日、リミットは近づいていく。

 残り【1820→1819日】
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