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第七章:グレーズ王国の魔物事情と
第五十五話:火山への道中、一人の勇者と二人の……
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「団長さんはいつ頃からレインさんと知り合いなんですか? レインさんが名前を覚えてないのも気になりますし……」
火山へと続く道の途中、サニィはふと気になったことを聞いてみた。単なる好奇心。
それが嫌みを伴っての言葉ならば無視しておきたい所ではあったが、サニィの純粋な眼差しに騎士ディエゴは逆らえなかった。
「レインが9歳の時にね……。死の山への訓練の時に、8歳でデーモンロードを一人で倒した少年がいると聞いて、当時自分の力を過信していた私は勝負を挑んだのさ。その時に少々酷いことを言ってしまってね……。結果はボロ負けで、酷く反省したものさ」
ディエゴは公務中らしく多少丁寧な口調でそんなことを言う。するとレインはそれに笑いながら答える。
「俺が勝ったら名前を覚えて貰う。もちろん俺に負けの二文字など無いがな! って随分格好良いことを言っていたんだ。マイケルは」
「全く、それ以来私の名前はマイケルなのさ……。まあ、そんなことを言ってしまった私が悪いんだけどね」
「それ以来死の山に来る度に真摯に手合わせを頼みに来る様になったからな。名前は分からんがライバルとしては認めたわけだ」
「へえ~。お二人にそんな過去が……。と言うより、一つ聞いて良いですか?」
「なんだい?」
サニィは今の会話の中に聞き捨てならない言葉が入っていたのに気が付いた。あり得ない一言だ。
「あの、レインさんがデーモンロードを倒したのって何歳って言いました?」
「8歳と13歳だね。そして今年もそろそろ生まれる頃だから、タイミングさえ良ければ手伝いたい所さ」
そう言えば、ディエゴの執務室に侵入した時に今年出ると言っていた様な……。その時はまたレインに振り回されてイマイチ頭に入っていなかった。
「あの、レインさん、レインさんって5歳の時にはオーガに負けたんじゃなかったですか……?」
「ああ、それから随分と強くなってな。1年以内に普通のデーモンなら簡単に倒せる様になったんだ」
「ええ……」
「お前の成長はもっと凄いけどな」
その二人の会話を聞いて、ディエゴが瞳を輝かせる。レインに認められるなど殆ど見た事が無い。そしてサニィはかつて世話になったリーゼの娘だ。最早自分の力をハッキリと自覚しているディエゴ。
そこに嫉妬の感情などはなかった。
「レインが認めるサニィ君の力と言うのも気になるね。その開花の魔法自体見た事が無い程の規模だけれど、レインが認めると言うことはそれどころじゃないんだろう?」
「ああ、こいつは世界を変えるぞ。恐らく世界に残る名前としてはサニィの方が上になるだろう」
「それほどか。ますます楽しみだ」
「あの、ちょっと恥ずかしいと言うかプレッシャーと言うか、恥ずかしいんですけど……」
レインが何を指してそんなことを言うのかは全く分からないが、上だとか言われるのは単純に恥ずかしい。素直に喜べないのはきっとレインの普段の行いのせいでもあるのだろうけど。
サニィはそんなことを思うが、地力がついてきたことはオークの一戦でも実感していた。
あの一戦から1ヶ月近く。出力は今もなお上がっている。レインのおかげであまり動じなくもなってきた。
それもまた事実だった。
「でも、私はともかくとして、レインさんは弟子も取ってるんですよ」
「なに!? レインが弟子だと……!?」
今度はディエゴが驚愕の表情になってレインを振り返る。レインは戦闘に関しては今まで一人で全てをこなしてきた。
いくら呪いにかかったとは言え弟子をとるようなことになるとは思ってもみなかった。
「ああ、見込みある奴が居てな。港町ブロンセンに居る。目を掛けてやってくれると助かる」
「どんな子なんだ?」
「心を読める勇者だ。5歳にしてドラゴンを前に母親を守ろうとした少女だ」
「それはまた……。分かった、気にかけておこう。……ん? ドラゴン?」
「ああ、エメラルドグリーンの体をしたやつが居てな。仕留めたから安心しろ」
ディエゴの顎が外れそうなほどに開かれる。ドラゴンの強さは知られていない。それはデーモンロード級であったが、飛行出来れば逃げられる可能性も高い。
それを仕留めたから安心しろとはやはり化け物だ。
「お前は本当に何をしでかすのか分かったものじゃないな……。と言うかな。翠竜が1年後に首都を襲うって、お前が旅に出た頃に予言で出てたんだよ。それをお前、倒したとは……。確かにドラゴンが消えたと婆さん騒いでたが……、とは言え警戒を解くわけにはいかないだろう?」
「勇者の能力か? それでお前は頭を抱えていたのか」
「ああ、イフリートにデーモンロード、そしてドラゴン。おまけにお前も呪いで旅に出たと来たもんだ。この国は災厄続きだと思っていたが、なんて都合良くお前は現れるんだ」
最早呆れ始めるディエゴに、サニィも苦笑いを崩せない。
放置していれば首都を襲ったドラゴンを道中で倒し、イフリートが暴れ始めれば運良く騎士団と合流する。全く幸せになる呪いとは言えタイミングが出来すぎている。
きっと帰り道に死の山に行けばデーモンロードと出会うのだろう。
もう、それで良いや。
三度目のデーモンロードが楽しみだ等とこぼすレインをよそに、サニィとディエゴは苦い笑顔のままそう納得するしかなかった。
火山へと続く道の途中、サニィはふと気になったことを聞いてみた。単なる好奇心。
それが嫌みを伴っての言葉ならば無視しておきたい所ではあったが、サニィの純粋な眼差しに騎士ディエゴは逆らえなかった。
「レインが9歳の時にね……。死の山への訓練の時に、8歳でデーモンロードを一人で倒した少年がいると聞いて、当時自分の力を過信していた私は勝負を挑んだのさ。その時に少々酷いことを言ってしまってね……。結果はボロ負けで、酷く反省したものさ」
ディエゴは公務中らしく多少丁寧な口調でそんなことを言う。するとレインはそれに笑いながら答える。
「俺が勝ったら名前を覚えて貰う。もちろん俺に負けの二文字など無いがな! って随分格好良いことを言っていたんだ。マイケルは」
「全く、それ以来私の名前はマイケルなのさ……。まあ、そんなことを言ってしまった私が悪いんだけどね」
「それ以来死の山に来る度に真摯に手合わせを頼みに来る様になったからな。名前は分からんがライバルとしては認めたわけだ」
「へえ~。お二人にそんな過去が……。と言うより、一つ聞いて良いですか?」
「なんだい?」
サニィは今の会話の中に聞き捨てならない言葉が入っていたのに気が付いた。あり得ない一言だ。
「あの、レインさんがデーモンロードを倒したのって何歳って言いました?」
「8歳と13歳だね。そして今年もそろそろ生まれる頃だから、タイミングさえ良ければ手伝いたい所さ」
そう言えば、ディエゴの執務室に侵入した時に今年出ると言っていた様な……。その時はまたレインに振り回されてイマイチ頭に入っていなかった。
「あの、レインさん、レインさんって5歳の時にはオーガに負けたんじゃなかったですか……?」
「ああ、それから随分と強くなってな。1年以内に普通のデーモンなら簡単に倒せる様になったんだ」
「ええ……」
「お前の成長はもっと凄いけどな」
その二人の会話を聞いて、ディエゴが瞳を輝かせる。レインに認められるなど殆ど見た事が無い。そしてサニィはかつて世話になったリーゼの娘だ。最早自分の力をハッキリと自覚しているディエゴ。
そこに嫉妬の感情などはなかった。
「レインが認めるサニィ君の力と言うのも気になるね。その開花の魔法自体見た事が無い程の規模だけれど、レインが認めると言うことはそれどころじゃないんだろう?」
「ああ、こいつは世界を変えるぞ。恐らく世界に残る名前としてはサニィの方が上になるだろう」
「それほどか。ますます楽しみだ」
「あの、ちょっと恥ずかしいと言うかプレッシャーと言うか、恥ずかしいんですけど……」
レインが何を指してそんなことを言うのかは全く分からないが、上だとか言われるのは単純に恥ずかしい。素直に喜べないのはきっとレインの普段の行いのせいでもあるのだろうけど。
サニィはそんなことを思うが、地力がついてきたことはオークの一戦でも実感していた。
あの一戦から1ヶ月近く。出力は今もなお上がっている。レインのおかげであまり動じなくもなってきた。
それもまた事実だった。
「でも、私はともかくとして、レインさんは弟子も取ってるんですよ」
「なに!? レインが弟子だと……!?」
今度はディエゴが驚愕の表情になってレインを振り返る。レインは戦闘に関しては今まで一人で全てをこなしてきた。
いくら呪いにかかったとは言え弟子をとるようなことになるとは思ってもみなかった。
「ああ、見込みある奴が居てな。港町ブロンセンに居る。目を掛けてやってくれると助かる」
「どんな子なんだ?」
「心を読める勇者だ。5歳にしてドラゴンを前に母親を守ろうとした少女だ」
「それはまた……。分かった、気にかけておこう。……ん? ドラゴン?」
「ああ、エメラルドグリーンの体をしたやつが居てな。仕留めたから安心しろ」
ディエゴの顎が外れそうなほどに開かれる。ドラゴンの強さは知られていない。それはデーモンロード級であったが、飛行出来れば逃げられる可能性も高い。
それを仕留めたから安心しろとはやはり化け物だ。
「お前は本当に何をしでかすのか分かったものじゃないな……。と言うかな。翠竜が1年後に首都を襲うって、お前が旅に出た頃に予言で出てたんだよ。それをお前、倒したとは……。確かにドラゴンが消えたと婆さん騒いでたが……、とは言え警戒を解くわけにはいかないだろう?」
「勇者の能力か? それでお前は頭を抱えていたのか」
「ああ、イフリートにデーモンロード、そしてドラゴン。おまけにお前も呪いで旅に出たと来たもんだ。この国は災厄続きだと思っていたが、なんて都合良くお前は現れるんだ」
最早呆れ始めるディエゴに、サニィも苦笑いを崩せない。
放置していれば首都を襲ったドラゴンを道中で倒し、イフリートが暴れ始めれば運良く騎士団と合流する。全く幸せになる呪いとは言えタイミングが出来すぎている。
きっと帰り道に死の山に行けばデーモンロードと出会うのだろう。
もう、それで良いや。
三度目のデーモンロードが楽しみだ等とこぼすレインをよそに、サニィとディエゴは苦い笑顔のままそう納得するしかなかった。
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