雨の世界の終わりまで

七つ目の子

文字の大きさ
上 下
47 / 592
第六章:青と橙の砂漠を旅する

第四十七話:建前は遅れを取り戻す

しおりを挟む
 デスワームの件でサニィがパニックに陥って次の日、サニィはレインの背中に背負われていた。

 デスワームが出現する地域はオアシスの南西500km程度よりも更に南西の地域のみ。かなり限られた地域にのみ生息する。
 非常に限定された地域にしか生息していない上で強力な魔物であるが故に、その姿などは曖昧な情報しか手に入らなかった。自ら進んで砂漠に入る者などほぼ居ない上に、そんな場所に超強力な魔物が出ると知って近づく者など更に居ない。巨大なヘビの様な虫の魔物という情報が、いつしか毒液を吐く巨大なデーモン並みの恐ろしさのミミズという情報として広まっていた。
 実際のところはデーモンよりは弱く、その毒を合わせてもデーモンには及ばない。その程度の魔物なわけだったが、サニィの感じたように、未知でいて巨大な虫と言うものはそれだけで恐ろしい。
 それはともかくとして、そんなデスワームがトラウマになったサニィは、その日の晩は一睡も出来ずに、次の日に汗をしっかりと落とすと、レインの背中で気を失うように眠り始めた。
 その圧倒的な強さの背は非常に乗り心地も良く、そこにいれば100%安全だと本能ごと理解しているかのように、一度眠り始めたらぐっすりだった。

 (涎が垂れてきているが……)

 流石にサニィが好みの美少女だとは言え、肩口に涎を垂らされて喜びはしない。とはいえ、サニィの体は上着越しでも程よく柔らかく、背負い心地も良いものだった。尤もサニィは人によっては貧乳と言うだろう部類なので、胸部が特に、などということもない。
 標準体型ではあるものの全体的に女性特有の柔らかさがちょうど良い。そんな感じだ。

 その日はレインの足でもって300km程移動すると、デスワームの地帯を抜けた。
 サニィは程よく眠ると目が覚めていたが、デスワームの地域を抜けるまでは目を開けたくなかったこと、そして予想外にもレインの背の乗り心地が良かったことでずっと狸寝入りを決めていた。
 とは言えデスワームはレインが全て回避していたことも分かっていたが。

 「……今日はありがとうございました」
 「構わない。俺も約得と言ったところだしな。と言うことで明日オアシスまで走るというのはどうだ?」
 「そうですね。今日は魔法の訓練が疎かでしたし、明日は一日今日の分を取り戻したいです。また背中、お願いします」

 レインは自分の発言で生娘のサニィなら気を悪くするだろうなと思いつつそう提案をしてみたが、サニィの反応は意外にも次の日もレインの背に乗りたいということだった。
 もちろんサニィは訓練を理由にしているが、実はその背の乗り心地が良かったことが大いに関係していることも理由だ。当然それは言わないけれど。

 そして次の日、レインはサニィを背に乗せ、残りの450kmを走り出す。
 時速45kmでも10時間。砂漠で人を一人背負ってそれだけの距離を移動するのは普通に考えれば不可能。しかし、サニィのサポートによってそれは案外簡単だった。
 サニィは魔法によって常に砂漠の砂を平に固め道を作り、透視の応用でオアシスの方向を探り、道中の魔物を全て蹴散らし、砂嵐を鎮めた。レインはただ指示を受けた方向に走るだけの道中。朝の6時に出発すると、昼13時過ぎ頃にはオアシスへと到着してしまった。
 もちろん道中は常に代わり映えもしない砂と空の世界だ。最初は時間とともに形を変える砂漠も楽しいと思ったものだったが、それも最初の二日程度のものだった。
 それはデスワームが出たことで最早嫌なことの域に達し、できる限り早くオアシスに辿り着きたい。サニィはそんな風に思っていた。レインはデスワームを気持ち悪いとは思うものの、サニィ程の拒否反応は起こさなかったが、砂漠の風景にはすぐ飽きていたこともまた事実だった。
 補色の関係である青とオレンジだけで構成された空間は最初こそ強い印象を与え、ある種の感動を与えるものの、最初に強いインパクトがある分飽きるのも早い。ましてやずっと殆ど変わらない景色だ。
 しかも、暑い上に歩きづらい。昼夜の変化も一日二日を楽しめば十分だ。すぐにそんな風に思う様になっていた。

 その為、5日で1000km近い道のりを駆け抜けてオアシスへと辿り着く。
 アリスとエリーに出会って遅れた分も取り戻せるしちょうど良い。そんな風に納得しながら。

 「おおお、ここがオアシスですか! こんな湖がこの砂漠の真ん中にあるなんて……」
 「緑もあって良い景色だな。俺にとってはここに住むのは死の山に住むより大変な気がするが」

 そこは直径1km程の湖を囲うように草木が生い茂り、砂岩で造られた家々がそれらに馴染んで町を形成している。

 「そうですね。ここは観光には良いですが住むには向いてないですよね。オアシスだけで一生過ごせるなら良いかもしれないですけど……、今回は何日滞在します?」
 「今回は4日にしようか」
 「そうですね。3日だとまた砂漠に出る準備をするのに短いし5日だと早く今度は砂漠に出るのが嫌になりそうですしね」

 二人はようやく観光気分を取り戻し、砂漠の中の楽園へと足を踏み入れた。
しおりを挟む
ツギクルバナー
感想 9

あなたにおすすめの小説

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第三章フェレスト王国エルフ編

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る

早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」 解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。 そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。 彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。 (1話2500字程度、1章まで完結保証です)

お願いだから俺に構わないで下さい

大味貞世氏
ファンタジー
高校2年の9月。 17歳の誕生日に甲殻類アレルギーショックで死去してしまった燻木智哉。 高校1年から始まったハブりイジメが原因で自室に引き籠もるようになっていた彼は。 本来の明るい楽観的な性格を失い、自棄から自滅願望が芽生え。 折角貰った転生のチャンスを不意に捨て去り、転生ではなく自滅を望んだ。 それは出来ないと天使は言い、人間以外の道を示した。 これは転生後の彼の魂が辿る再生の物語。 有り触れた異世界で迎えた新たな第一歩。その姿は一匹の…

30年待たされた異世界転移

明之 想
ファンタジー
 気づけば異世界にいた10歳のぼく。 「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」  こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。  右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。  でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。  あの日見た夢の続きを信じて。  ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!  くじけそうになっても努力を続け。  そうして、30年が経過。  ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。  しかも、20歳も若返った姿で。  異世界と日本の2つの世界で、  20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。

異世界でリサイクルショップ!俺の高価買取り!

理太郎
ファンタジー
坂木 新はリサイクルショップの店員だ。 ある日、買い取りで査定に不満を持った客に恨みを持たれてしまう。 仕事帰りに襲われて、気が付くと見知らぬ世界のベッドの上だった。

処理中です...