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第六章:青と橙の砂漠を旅する
第四十五話:二色の世界に踏み入れる
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道中一つの町を経由して更に海岸沿いに突き進んだところ、風景が変化してきた。草木も減り、地面も荒れている。砂漠の手前の荒野に入ったらしい。
海岸線沿いは基本的に平和な為ちょくちょく海鮮を収穫してはマーマンに襲われ、それを簡単に討伐しては金目の物を物色する。そんな生活を続けていた。
サニィはレインの狩りを見ていくうちに新しい魔法も思い浮かんでいく。
超常現象を起こすのが魔法なわけではあるものの、レインの人外の膂力は十分に超常現象と比較出来る。
サニィは海辺で生活を繰り返したことで水系の魔法を多く習得した。
その内で最も有用な魔法の一つはウォーターカッターだった。
水を超高圧で吹き出して相手を両断する。この魔法は圧力をかけるだけでも相当なマナを消費する為、現状はサニィにしか使えない魔法だろうと予想されるもののこれを改善していけばとても有効な魔法になるだろう。
何せサニィの様な一般女性の体力しか持たない者でも簡単に岩を削ることが出来る。
海岸沿いの岩場にサニィが洞穴を作ってキャンプをする、なんてことも行ってきた。
レインには造作もなく出来ることではあるものの、サニィは未だドラゴンのような魔物が襲ってきた場合はレインに頼りっきりとなってしまう。レインは気にしないだろうが、今度は自分が町を救いたいと考えているサニィにとってそれは避けねばならないことだった。
それに、油断していたらすぐにエリーに負けてしまう……。
ともかくそんな生活をしてきたサニィはさらに強くなっていた。
そしてのんびりした旅の後辿りついた荒野地帯は砂漠の入口に近い。
のんびりとは言え、一日辺り150km程進んでいるのだが……。
「砂漠までもう少しだな。ここから北東に向けて突き進もう。中心部より少し北にオアシスがあるらしい」
「ど真ん中を突き抜けるルートですか。でも、こないだの町の人は砂漠に行くのは絶対やめろって言ってましたね」
「俺達でも一人ずつならともかく、二人居れば安全だろう。流石にドラゴンを倒すよりは難易度も低いだろう」
「ドラゴンを基準にするのはどうかと思いますが……」
そんな感じで二人は楽観的に突き進んでいった。
そしていよいよ砂漠の入口へと到達する。
「おおおー!! ここが砂漠ですか。海と同じく何も無いってのが綺麗ですねー」
「そうだな。空の青と砂漠のオレンジの二色しかない世界か。砂漠自体の波模様もまた面白い」
「青とオレンジの関係は補色って言うんですよ。正反対の色です」
「ほう。というと?」
「隣に置くとお互いが強調されます」
「なるほど。確かに空はいつもより青く見えるし、砂漠も熱を帯びて見えるな」
二人は補色の関係性に今一ピンとくるものがなかった。
サニィも知識は知っているものの、その効果について詳細に掴んでいるわけではない。
現状では空は真っ青で砂漠はオレンジ。とてもはっきりした対比は面白い。
雲もほとんどなく、本当にほぼ二色の世界だ。数多く存在する砂丘もまた自然の造形美。
初めて見るその色が少なく彩度の高い空間に、二人は大いに盛り上がった。
上着を着込んで凄まじく暑いことも、どこまでも続く砂丘の前には些細なことだと思えた。
二人はそのまま何も考えずに砂漠へと突入する。
――。
喉が乾けばサニィが水を召喚する。空気中に存在する水が少ないので召喚出来る水の量も少なくなってしまうが、二人が飲む分には問題がない。
そして今までのように砂漠の道中、サニィはまた花を咲かせ続けることにした。
レインがいる以上は迷子になることはないだろう。しかし来た道が目に見えるというのはサニィ自身安心できることでもあったし、砂漠でも花が次の日まで持つのかを見ておきたかった。
しかし、そんな楽観的な状況も長くは続かない。
「何やら景色を壊してしまってる気もしますけど、枯れると思いますし大丈夫ですよね。砂丘はいつも変化するって聞きましたし。空と色は違いますけど青ですし。と言うか暑いですね」
「そうだな。気にすることもないだろう。それにしても暑いな……」
「暑いですね……」
「ああ、暑いな……」
二人はそのまましばし無言になる。
3時間程歩き続けた後、二人はあることに気づいた。
「砂漠ってドラゴンより難易度高くないか?」
「で、ですね。ちょっと雨でも降らせてみますね」
もちろんドラゴン程難易度が高い等という事はない。
一般の人々にとっては砂漠は食料と水さえ確保出来れば、あとは獰猛な砂漠の生き物にさえ気をつければなんとか生き延びることが出来る場所だ。
しかしドラゴンは通常であれば会えば死ぬ。
その差は雲泥のものではあるが、二人の感覚は一般では無かった。
サニィは雨を降らせようとするが、雲がまとまらない。
雨雲にまで変化する前にそれは砂漠の熱気で霧散してしまう。
雨を降らせる魔法など普段は使うことがなかったので、暑さで集中力の途切れているサニィにそれを収束させるイメージなど出来なかった。
「ごめんなさい、難しいみたいです……」
二人の砂漠旅はまだ始まったばかりだ。
残り【1779→1765日】
海岸線沿いは基本的に平和な為ちょくちょく海鮮を収穫してはマーマンに襲われ、それを簡単に討伐しては金目の物を物色する。そんな生活を続けていた。
サニィはレインの狩りを見ていくうちに新しい魔法も思い浮かんでいく。
超常現象を起こすのが魔法なわけではあるものの、レインの人外の膂力は十分に超常現象と比較出来る。
サニィは海辺で生活を繰り返したことで水系の魔法を多く習得した。
その内で最も有用な魔法の一つはウォーターカッターだった。
水を超高圧で吹き出して相手を両断する。この魔法は圧力をかけるだけでも相当なマナを消費する為、現状はサニィにしか使えない魔法だろうと予想されるもののこれを改善していけばとても有効な魔法になるだろう。
何せサニィの様な一般女性の体力しか持たない者でも簡単に岩を削ることが出来る。
海岸沿いの岩場にサニィが洞穴を作ってキャンプをする、なんてことも行ってきた。
レインには造作もなく出来ることではあるものの、サニィは未だドラゴンのような魔物が襲ってきた場合はレインに頼りっきりとなってしまう。レインは気にしないだろうが、今度は自分が町を救いたいと考えているサニィにとってそれは避けねばならないことだった。
それに、油断していたらすぐにエリーに負けてしまう……。
ともかくそんな生活をしてきたサニィはさらに強くなっていた。
そしてのんびりした旅の後辿りついた荒野地帯は砂漠の入口に近い。
のんびりとは言え、一日辺り150km程進んでいるのだが……。
「砂漠までもう少しだな。ここから北東に向けて突き進もう。中心部より少し北にオアシスがあるらしい」
「ど真ん中を突き抜けるルートですか。でも、こないだの町の人は砂漠に行くのは絶対やめろって言ってましたね」
「俺達でも一人ずつならともかく、二人居れば安全だろう。流石にドラゴンを倒すよりは難易度も低いだろう」
「ドラゴンを基準にするのはどうかと思いますが……」
そんな感じで二人は楽観的に突き進んでいった。
そしていよいよ砂漠の入口へと到達する。
「おおおー!! ここが砂漠ですか。海と同じく何も無いってのが綺麗ですねー」
「そうだな。空の青と砂漠のオレンジの二色しかない世界か。砂漠自体の波模様もまた面白い」
「青とオレンジの関係は補色って言うんですよ。正反対の色です」
「ほう。というと?」
「隣に置くとお互いが強調されます」
「なるほど。確かに空はいつもより青く見えるし、砂漠も熱を帯びて見えるな」
二人は補色の関係性に今一ピンとくるものがなかった。
サニィも知識は知っているものの、その効果について詳細に掴んでいるわけではない。
現状では空は真っ青で砂漠はオレンジ。とてもはっきりした対比は面白い。
雲もほとんどなく、本当にほぼ二色の世界だ。数多く存在する砂丘もまた自然の造形美。
初めて見るその色が少なく彩度の高い空間に、二人は大いに盛り上がった。
上着を着込んで凄まじく暑いことも、どこまでも続く砂丘の前には些細なことだと思えた。
二人はそのまま何も考えずに砂漠へと突入する。
――。
喉が乾けばサニィが水を召喚する。空気中に存在する水が少ないので召喚出来る水の量も少なくなってしまうが、二人が飲む分には問題がない。
そして今までのように砂漠の道中、サニィはまた花を咲かせ続けることにした。
レインがいる以上は迷子になることはないだろう。しかし来た道が目に見えるというのはサニィ自身安心できることでもあったし、砂漠でも花が次の日まで持つのかを見ておきたかった。
しかし、そんな楽観的な状況も長くは続かない。
「何やら景色を壊してしまってる気もしますけど、枯れると思いますし大丈夫ですよね。砂丘はいつも変化するって聞きましたし。空と色は違いますけど青ですし。と言うか暑いですね」
「そうだな。気にすることもないだろう。それにしても暑いな……」
「暑いですね……」
「ああ、暑いな……」
二人はそのまましばし無言になる。
3時間程歩き続けた後、二人はあることに気づいた。
「砂漠ってドラゴンより難易度高くないか?」
「で、ですね。ちょっと雨でも降らせてみますね」
もちろんドラゴン程難易度が高い等という事はない。
一般の人々にとっては砂漠は食料と水さえ確保出来れば、あとは獰猛な砂漠の生き物にさえ気をつければなんとか生き延びることが出来る場所だ。
しかしドラゴンは通常であれば会えば死ぬ。
その差は雲泥のものではあるが、二人の感覚は一般では無かった。
サニィは雨を降らせようとするが、雲がまとまらない。
雨雲にまで変化する前にそれは砂漠の熱気で霧散してしまう。
雨を降らせる魔法など普段は使うことがなかったので、暑さで集中力の途切れているサニィにそれを収束させるイメージなど出来なかった。
「ごめんなさい、難しいみたいです……」
二人の砂漠旅はまだ始まったばかりだ。
残り【1779→1765日】
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