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第六章:青と橙の砂漠を旅する
第四十四話:手紙と黄金色の大地の話
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レインは港町で一枚の手紙を書いていた。
狛の村に宛てた手紙。祖父への近況報告だった。
死の山に入れる郵便配達人は居ないものの、死の山の入り口の安全地帯にはポストがある。
定期的にそこに投函された手紙などが無いかを確認する者が村の中には居た。
国の騎士団が訓練の為に入山する際も、予めアポを取る手段がなければ、運悪く村人の戦闘に巻き込まれかねない。訓練時にも安全の為に村人が付き、死者が出ない様に気遣うのもまた村の役割だった。
リタイアした者は実戦訓練が終わるまで村で訓練を受けることになる。
騎士団長は殆どの村人より強いものの、村の人間の殆どは騎士団長以外よりも強い。
誰も彼もを団長だけが育てるわけにはいかなかったので、定期的に入山する死の山は騎士団にとっては地獄の訓練場ではあるものの、大幅に力を伸ばせる場所でもあった。
村人は基本的に気さくであり、訓練に付き合えば国から恩赦も出るので、それを拒否する様な風潮はない。
強いということは、そのまま余裕があるという事でもあった。
そんな死の山の中にある村に出した一通の手紙。
そこには、こんなことが書かれてあった。
――――
ジジイ及び村人へ
弟子をとった。
すぐに殆どの村人よりも強くなるだろう。
5年後、俺が死んだ後には村で少し稽古をつけてやって欲しい。
何せ、僅か5歳にも関わらずデーモンロード級のドラゴンから母親を守る為に立ち上がった程の気骨ある少女だ。能力も申し分ない。
そして今すぐ彼女の為の武器を作って欲しい。いくつかの種類を作り、彼女自身に合うものを選ばせたい。
場所は狛の村より南西1700km程の位置にある港町、ブロンセンだ。宿屋『漣』で住み込みで働いている。名前はアリスの娘エリー。完成次第そこまで送ること。
勇者レインの名において村での反対は認めない。
ちなみに俺と同じ日に死ぬ魔法使いの女と旅をしている。彼女は世界を救うかもしれない。楽しみにしていろ。
今後俺達は時計回りで大陸を一周する。返信は受け取れない。
それでは元気でな。
レイン
――――
そんな内容だった。
書いている所を横から見ていたサニィはそれを読んで、「酷いですね……」と溜息を漏らしていたが、レインの立場は村で最強の男。守護神の様な生き物。
狛の村では強ければ尊敬される。弱いからと言って虐げられるわけでも無いが、強いという事はそれだけで権力を持つという事だった。
こんな手紙で指示をされれば、それに逆らえる者などいない。喜んで武器を作り始めるだろう。
もちろん祖父だけは渋い顔をすることが目に見えていたが……。
――。
「狛の村って、なんか行きたい様な行かないほうが良いような……」
港町を出てそんな手紙のことを思い出したサニィはぽつりと呟く。
レインの故郷と言うことでも興味があるし、気さくで人外の村人達というのも興味がある。しかし、そこにレインを連れて行くとなると、手紙を見てしまった今、遠慮した方が良いのではないかという思いが湧き出てしまっていた。
レインの傍若無人さを最もよく知るのはサニィだ。彼は精神的にも肉体的にも傷付けることはしないものの、非常に疲れることを平然としてくる。と言うか怖い。
それを彼は無意識に村人にもしていたのではないかと考えると、村人にレインを会わせるのは申し訳ない。そんな気持ちだった。
それが取り越し苦労だと知るのは随分と先のことになるが、サニィは実際のところそんなレインを憎からず思っていることもまた事実だった。
「俺は帰らないつもりだったが、お前が行きたいならいつか連れて行こう」
「うーん。悩ましいところです」
「今から向かうのは大陸の反対側だ。好きなだけ悩むといいさ」
「次は砂漠ですか。これまた楽しみなような楽しみじゃないような……」
「砂丘は美しいと聞くが、死ぬとも聞くな」
「まあ、私達は死にませんけどね……。でも死にたくはないですね」
「お前の魔法があれば水の確保だけは確実だ。干物も十分買ってきたし、よほどの事がなければ死にはしないだろう」
「あ、そういえば火傷しちゃうから上着がいるみたいです! 夜は寒いみたいですし」
「なんだと……、お前の肌が傷ついたら大変だ。入る前に必ず町に寄ろう」
二人はそんな会話をしながら海岸線を歩く。
次に目指す砂漠地帯は死の山程ではないが、この大陸の危険地帯だった。
安全に旅をするなら水を作り出せる魔法使いを連れて行くことが必須。現れる魔物も特殊なものがいるので、不意の襲撃に備え戦士も居ると良い。
砂漠の砂はサラサラと細かく足を取られる為、体力も必要だ。
暑い世界ではあるが、薄着をしているとその気温と直射日光、そして照り返し等の要因が重なって火傷をしてしまう為に肌を隠さなければならない。更に夜は氷点下まで冷え込むこともある。
二人はそんなことを復習しつつも、どこか危機感が無い。
口伝や本からの知識でしかないことなので実感が無いのは当然だが、自分たちならば全てに於いて十分な条件を満たしていると考えていた。
当然だ。ドラゴンすらも簡単に倒せる戦士に1000Lを超える水をいくらでも生み出せる魔法使いの組み合わせ。更に彼らは平地であれば現在は一日170kmも移動できる体力を有している。
しかし、彼らはそんな万全の能力を持っているが故に、一つの事を忘れていた。
いや、思い浮かばなかった。今までそんな状況に遭遇したことがなかったのだ。
彼らの砂漠越えは、予想に反してドラゴンを倒すことよりも遥かに厳しい旅になるのだった。
狛の村に宛てた手紙。祖父への近況報告だった。
死の山に入れる郵便配達人は居ないものの、死の山の入り口の安全地帯にはポストがある。
定期的にそこに投函された手紙などが無いかを確認する者が村の中には居た。
国の騎士団が訓練の為に入山する際も、予めアポを取る手段がなければ、運悪く村人の戦闘に巻き込まれかねない。訓練時にも安全の為に村人が付き、死者が出ない様に気遣うのもまた村の役割だった。
リタイアした者は実戦訓練が終わるまで村で訓練を受けることになる。
騎士団長は殆どの村人より強いものの、村の人間の殆どは騎士団長以外よりも強い。
誰も彼もを団長だけが育てるわけにはいかなかったので、定期的に入山する死の山は騎士団にとっては地獄の訓練場ではあるものの、大幅に力を伸ばせる場所でもあった。
村人は基本的に気さくであり、訓練に付き合えば国から恩赦も出るので、それを拒否する様な風潮はない。
強いということは、そのまま余裕があるという事でもあった。
そんな死の山の中にある村に出した一通の手紙。
そこには、こんなことが書かれてあった。
――――
ジジイ及び村人へ
弟子をとった。
すぐに殆どの村人よりも強くなるだろう。
5年後、俺が死んだ後には村で少し稽古をつけてやって欲しい。
何せ、僅か5歳にも関わらずデーモンロード級のドラゴンから母親を守る為に立ち上がった程の気骨ある少女だ。能力も申し分ない。
そして今すぐ彼女の為の武器を作って欲しい。いくつかの種類を作り、彼女自身に合うものを選ばせたい。
場所は狛の村より南西1700km程の位置にある港町、ブロンセンだ。宿屋『漣』で住み込みで働いている。名前はアリスの娘エリー。完成次第そこまで送ること。
勇者レインの名において村での反対は認めない。
ちなみに俺と同じ日に死ぬ魔法使いの女と旅をしている。彼女は世界を救うかもしれない。楽しみにしていろ。
今後俺達は時計回りで大陸を一周する。返信は受け取れない。
それでは元気でな。
レイン
――――
そんな内容だった。
書いている所を横から見ていたサニィはそれを読んで、「酷いですね……」と溜息を漏らしていたが、レインの立場は村で最強の男。守護神の様な生き物。
狛の村では強ければ尊敬される。弱いからと言って虐げられるわけでも無いが、強いという事はそれだけで権力を持つという事だった。
こんな手紙で指示をされれば、それに逆らえる者などいない。喜んで武器を作り始めるだろう。
もちろん祖父だけは渋い顔をすることが目に見えていたが……。
――。
「狛の村って、なんか行きたい様な行かないほうが良いような……」
港町を出てそんな手紙のことを思い出したサニィはぽつりと呟く。
レインの故郷と言うことでも興味があるし、気さくで人外の村人達というのも興味がある。しかし、そこにレインを連れて行くとなると、手紙を見てしまった今、遠慮した方が良いのではないかという思いが湧き出てしまっていた。
レインの傍若無人さを最もよく知るのはサニィだ。彼は精神的にも肉体的にも傷付けることはしないものの、非常に疲れることを平然としてくる。と言うか怖い。
それを彼は無意識に村人にもしていたのではないかと考えると、村人にレインを会わせるのは申し訳ない。そんな気持ちだった。
それが取り越し苦労だと知るのは随分と先のことになるが、サニィは実際のところそんなレインを憎からず思っていることもまた事実だった。
「俺は帰らないつもりだったが、お前が行きたいならいつか連れて行こう」
「うーん。悩ましいところです」
「今から向かうのは大陸の反対側だ。好きなだけ悩むといいさ」
「次は砂漠ですか。これまた楽しみなような楽しみじゃないような……」
「砂丘は美しいと聞くが、死ぬとも聞くな」
「まあ、私達は死にませんけどね……。でも死にたくはないですね」
「お前の魔法があれば水の確保だけは確実だ。干物も十分買ってきたし、よほどの事がなければ死にはしないだろう」
「あ、そういえば火傷しちゃうから上着がいるみたいです! 夜は寒いみたいですし」
「なんだと……、お前の肌が傷ついたら大変だ。入る前に必ず町に寄ろう」
二人はそんな会話をしながら海岸線を歩く。
次に目指す砂漠地帯は死の山程ではないが、この大陸の危険地帯だった。
安全に旅をするなら水を作り出せる魔法使いを連れて行くことが必須。現れる魔物も特殊なものがいるので、不意の襲撃に備え戦士も居ると良い。
砂漠の砂はサラサラと細かく足を取られる為、体力も必要だ。
暑い世界ではあるが、薄着をしているとその気温と直射日光、そして照り返し等の要因が重なって火傷をしてしまう為に肌を隠さなければならない。更に夜は氷点下まで冷え込むこともある。
二人はそんなことを復習しつつも、どこか危機感が無い。
口伝や本からの知識でしかないことなので実感が無いのは当然だが、自分たちならば全てに於いて十分な条件を満たしていると考えていた。
当然だ。ドラゴンすらも簡単に倒せる戦士に1000Lを超える水をいくらでも生み出せる魔法使いの組み合わせ。更に彼らは平地であれば現在は一日170kmも移動できる体力を有している。
しかし、彼らはそんな万全の能力を持っているが故に、一つの事を忘れていた。
いや、思い浮かばなかった。今までそんな状況に遭遇したことがなかったのだ。
彼らの砂漠越えは、予想に反してドラゴンを倒すことよりも遥かに厳しい旅になるのだった。
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