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第五章:勇者弟子を取る
第四十一話:世界はとても狭くとても広い
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ドラゴンを倒した次の日、サニィは久しぶりに気になることを聞いてみた。
「あのドラゴンって実際の所、どの位の強さだったんですか?」
実物を見て初めて感じたこともあった。思っていたよりも遥かに大きな威圧感。そして思っていたよりも耐えられるブレス。
あのドラゴンの強さは、サニィの中で実物を見たことによって逆に曖昧なものとなっていた。
「あれはデーモンロードって所だな」
「死の山に5年に一回出るって奴ですか?」
デーモンロード。
死の山に5年に一度現れるそれは、毎回狛の村と言う人外の村を滅ぼそうとするが如く猛威を奮う。それは通常のデーモンとは比べ物にならない強さを持ち、襲うのが必ず狛の村であるから良いものの山を降りて別の町を狙おうものなら幾つ壊滅するか分からないとまで言われている化け物だ。
その時期には流石に狛の村の村人総出で対処するのが通例となっており、人外の村からも死者が出ることも珍しくない程だと言う。
ただ、5年に一度のデーモンロードの出現は狛の村では悪魔祭とか言う祭となっているのが、また狛の村の異常性を表しているわけだが、それはここでは置いておくとしよう。
「レインさんはデーモンロード、一人で倒したことがあるんですよね?」
「ああ、2回な」
「……」
レインは18歳になってすぐだ。2回倒したと言うことは、1回目は7~12歳の間に倒しているということ。1匹のオーガに殺されかけたのが5歳。あれ?常識的に考えたら計算合わなくない?ただのデーモンすらオーガ100匹より上、それすらサニィの両親合わせても倒せない。狛の村の一般人か、勇者の中でもそこそこ優秀な者がようやく倒せるレベル。ロードは昨日のドラゴンと同等。
5歳でオーガ1匹に負けたレインが7歳であれに勝てるのはあり得ない。うん。きっと倒したのは12歳と17歳なんだ。
サニィはそんな風に強引に納得する。聞かなければサニィの中ではそれが事実だ。
これ以上は追求してはいけない。
そこで、話題の転換を図ることにした。
「いやーそれにしても、エリーちゃんの勇気は凄かったですね」
強引な転換である。
レインはそれにやや呆れた顔をするが、確かにエリーのその行動には驚いたのが事実だった。いくら精神論を説いた所で、それは簡単に伝わるものではないし、ましてや実行に移せるわけもない。
しかしエリーは母親の前に立って守ろうとしていた。
たった5歳の子どもだ。普通であれば母親にすがりついて泣き叫んでもおかしくはない。
しかし彼女は涙をぼろぼろと流しながら、ぶるぶると震えながら、彼女は母親を守ろうとしたのだ。
「正に勇者だな」
「師匠の様な大物になりそうですね」
「言っておくが、お前だってもう十分な人外だと言えるからな」
「え?」
「お前、自分で気づいてないかもしれないが、ドラゴンの怒気を前に身震いの一つもしてないからな」
「え、めちゃくちゃ怖かったんですけど……」
「俺に慣れたせいかもしれんな。まあ、お前は無尽蔵のマナを持つ魔法使いだ。多少図太いほうが良い。出来ると思ったことならなんでもできるだろう」
「は、はあ」
サニィはレインの言葉にいまいち納得はしていないようだ。余波を防ぐのは楽勝だと思ったのは確かだが、まともにやりあえるとは思ってはいない。
しかし、サニィはまだ気づいていない。ドラゴンを実際に目の前にして、強さがよく分からなかったなどという感想を持つこと自体が本来であれば有り得ないことだ。
ドラゴンに立ち向かうほぼ全ての者は、騎士団の団員は、常にそれに立ち向かうために死を覚悟している。人によっては毎日遺書の代わりともなる日記をつけている者も多い。そして実際に目の前にすると、やはり確実にここで死ぬのだと実感するのだ。
生き残ったものはたまたま運良く生き残っただけ。死んだ者たちの勇敢さのおおかげでドラゴンの撃退や討伐ができたのだと涙ながらに喜ぶのが、ドラゴンを相手にする人間の本来の姿だった。
本当であれば、死の感覚が麻痺したものから死んでいく。しかし、サニィやレインの罹っている病は死への恐怖が増幅する病。死の感覚が麻痺することはない。
そんな状況で尚、ドラゴンを目の前にしてその強さが逆に曖昧になるなど、人の能力を超えていなければあり得なかった。
そして、その感覚は魔法使いであるサニィにとってはとても重要なこと。
死を恐れないことではなく、ドラゴンが意外と強くないのではと感じてしまったことだ。
流石に今更自分との差が分からないサニィではない。
現時点では、ドラゴンはサニィよりも圧倒的に強かった。それを理解していた。
しかし、そのうち倒せるような気がした。そんな軽い気持ちも持っていた。
それはサニィの潜在的なポテンシャルが、明確にドラゴンを上回っているからにほかならなかった。
「ま、今は修行の日々だ。ようやくお前はドラゴンの足元くらいに差し掛かり始めている」
「なんかよく分からない表現ですね……」
「デーモン7匹分だ」
「デーモンの強さが分かりません……」
「オーガで言えば800匹分だ」
「……」
それはそれで規模が多すぎて分からない。
そんなことを思うものの、以前100匹分と言われた時よりは確かに大幅に強くなっている自覚はある。
それにしても、オーガに壊滅させられた町のことを思うと、今自分の一番近くにいる人は、ドラゴンよりも遥かに強い。そう考えると世界は狭いようでとても広い。
そんな感想も生まれてくるのだった。
「あのドラゴンって実際の所、どの位の強さだったんですか?」
実物を見て初めて感じたこともあった。思っていたよりも遥かに大きな威圧感。そして思っていたよりも耐えられるブレス。
あのドラゴンの強さは、サニィの中で実物を見たことによって逆に曖昧なものとなっていた。
「あれはデーモンロードって所だな」
「死の山に5年に一回出るって奴ですか?」
デーモンロード。
死の山に5年に一度現れるそれは、毎回狛の村と言う人外の村を滅ぼそうとするが如く猛威を奮う。それは通常のデーモンとは比べ物にならない強さを持ち、襲うのが必ず狛の村であるから良いものの山を降りて別の町を狙おうものなら幾つ壊滅するか分からないとまで言われている化け物だ。
その時期には流石に狛の村の村人総出で対処するのが通例となっており、人外の村からも死者が出ることも珍しくない程だと言う。
ただ、5年に一度のデーモンロードの出現は狛の村では悪魔祭とか言う祭となっているのが、また狛の村の異常性を表しているわけだが、それはここでは置いておくとしよう。
「レインさんはデーモンロード、一人で倒したことがあるんですよね?」
「ああ、2回な」
「……」
レインは18歳になってすぐだ。2回倒したと言うことは、1回目は7~12歳の間に倒しているということ。1匹のオーガに殺されかけたのが5歳。あれ?常識的に考えたら計算合わなくない?ただのデーモンすらオーガ100匹より上、それすらサニィの両親合わせても倒せない。狛の村の一般人か、勇者の中でもそこそこ優秀な者がようやく倒せるレベル。ロードは昨日のドラゴンと同等。
5歳でオーガ1匹に負けたレインが7歳であれに勝てるのはあり得ない。うん。きっと倒したのは12歳と17歳なんだ。
サニィはそんな風に強引に納得する。聞かなければサニィの中ではそれが事実だ。
これ以上は追求してはいけない。
そこで、話題の転換を図ることにした。
「いやーそれにしても、エリーちゃんの勇気は凄かったですね」
強引な転換である。
レインはそれにやや呆れた顔をするが、確かにエリーのその行動には驚いたのが事実だった。いくら精神論を説いた所で、それは簡単に伝わるものではないし、ましてや実行に移せるわけもない。
しかしエリーは母親の前に立って守ろうとしていた。
たった5歳の子どもだ。普通であれば母親にすがりついて泣き叫んでもおかしくはない。
しかし彼女は涙をぼろぼろと流しながら、ぶるぶると震えながら、彼女は母親を守ろうとしたのだ。
「正に勇者だな」
「師匠の様な大物になりそうですね」
「言っておくが、お前だってもう十分な人外だと言えるからな」
「え?」
「お前、自分で気づいてないかもしれないが、ドラゴンの怒気を前に身震いの一つもしてないからな」
「え、めちゃくちゃ怖かったんですけど……」
「俺に慣れたせいかもしれんな。まあ、お前は無尽蔵のマナを持つ魔法使いだ。多少図太いほうが良い。出来ると思ったことならなんでもできるだろう」
「は、はあ」
サニィはレインの言葉にいまいち納得はしていないようだ。余波を防ぐのは楽勝だと思ったのは確かだが、まともにやりあえるとは思ってはいない。
しかし、サニィはまだ気づいていない。ドラゴンを実際に目の前にして、強さがよく分からなかったなどという感想を持つこと自体が本来であれば有り得ないことだ。
ドラゴンに立ち向かうほぼ全ての者は、騎士団の団員は、常にそれに立ち向かうために死を覚悟している。人によっては毎日遺書の代わりともなる日記をつけている者も多い。そして実際に目の前にすると、やはり確実にここで死ぬのだと実感するのだ。
生き残ったものはたまたま運良く生き残っただけ。死んだ者たちの勇敢さのおおかげでドラゴンの撃退や討伐ができたのだと涙ながらに喜ぶのが、ドラゴンを相手にする人間の本来の姿だった。
本当であれば、死の感覚が麻痺したものから死んでいく。しかし、サニィやレインの罹っている病は死への恐怖が増幅する病。死の感覚が麻痺することはない。
そんな状況で尚、ドラゴンを目の前にしてその強さが逆に曖昧になるなど、人の能力を超えていなければあり得なかった。
そして、その感覚は魔法使いであるサニィにとってはとても重要なこと。
死を恐れないことではなく、ドラゴンが意外と強くないのではと感じてしまったことだ。
流石に今更自分との差が分からないサニィではない。
現時点では、ドラゴンはサニィよりも圧倒的に強かった。それを理解していた。
しかし、そのうち倒せるような気がした。そんな軽い気持ちも持っていた。
それはサニィの潜在的なポテンシャルが、明確にドラゴンを上回っているからにほかならなかった。
「ま、今は修行の日々だ。ようやくお前はドラゴンの足元くらいに差し掛かり始めている」
「なんかよく分からない表現ですね……」
「デーモン7匹分だ」
「デーモンの強さが分かりません……」
「オーガで言えば800匹分だ」
「……」
それはそれで規模が多すぎて分からない。
そんなことを思うものの、以前100匹分と言われた時よりは確かに大幅に強くなっている自覚はある。
それにしても、オーガに壊滅させられた町のことを思うと、今自分の一番近くにいる人は、ドラゴンよりも遥かに強い。そう考えると世界は狭いようでとても広い。
そんな感想も生まれてくるのだった。
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